08.オーダー(1)
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――ここまでは望んでいなかったが、ラッキーだったな。
ヴィンスは開いた《ゲート》を見て、安堵の溜息を吐き出した。
《ゲート》の使用1回に掛かる魔力は25ポイント。ヴィンス自身が使用しても保有魔力の半分弱を持って行かれるレベルの高コスト魔法だ。代わりに最も便利な魔法でもあるが。
それを惜しげもなく使用してくれた学生には頭が下がる思いである。若いと魔力の回復も早いのだろうか、よく分からないが。
――しかしこの子……。
《ゲート》が目的地に通じているか点検している少女、守田小鳥に視線を移す。
魔法、実に手慣れている。淀みない動きで即座に魔法を起動するのは、よく使って手に馴染んでいるからに他ならない。
そして恐らく、本日会う予定の鳥守関係者なのも間違いない。
鳥守神社という勢力、或いは陣営とでもいうのだろうか。彼等は極東人のみで構成される団体だ。また、名前にある種の法則性がある。
小鳥と言う名も鳥に類すると言えるし、間違いなく鳥守神社の構成員だ。しっかりハイエスト魔法学園にも通っており、将来有望な神主候補などかもしれない。
それにあっさり魔力25ポイントを使用するくらいには魔力量も豊富と見た。魔力量は両親から遺伝し、それに強く依存する。父母共に高い魔力を持っていると推察できる。
本人も自分を良い所のお嬢様、と認識しているあたり神社の要人の娘という線が強いと考えられるだろう。
「さあ、どうぞ。通ってください」
「どうもどうも、じゃあお邪魔しますよっと」
空間に空いた穴を通り抜ける。
すぐさま景色が移り変わり、そこには桜街にのみ存在する特有の光景が広がった。
目の前に鎮座する赤いアーチ――鳥居。ただし鳥居の先に見えるのは海だけだ、断崖絶壁に建っている為である。しかし、それでも便宜上ここを鳥守神社として『合って』いるのだ。
自分も《ゲート》を通り抜けた小鳥が、最後に設置したそれを閉ざす。
「さあ、着きましたよ。……ああそうだ、神社に用事があると言っていましたよね? 実は私も用事があったんです」
そう呟いた少女の、若干何かを期待したような眼差し。何を求められているのかさっぱり分からないので、リアクションで乗り切ろうとヴィンスは口を開いた。
「ええ!? まさか、君が待ち合わせの人物ってこと!?」
「はい」
ふふん、とちょっとドヤ顔している小鳥嬢を見てどうやらこれが正しかったと思い至る。異常に冷静だったから忘れていたが、歳の頃なら16、17歳くらいか。であれば歳相応のリアクションである。
「いやあ、まさか同じアノマリーに閉じ込められるとはね。ていうか、鳥守さんも寄越した人間が学園にいるなら言ってくれればよかったのに」
「それは確かにそう」
そうしたらこんな大冒険にはならなかっただろう。学生と聞いていれば学園まで迎えに行って、安全なルートで神社に向かっていた。何せ、地元の方が一緒なら神社まで迷わず行けるだろうから。
「さて、遅くなってきたし仕事の話をしようか。君に話を聞いたらいいのかな、僕は」
「はい」
――今回、オーダーを呼びつけたのは鳥守神社の方だ。つまりそれは要求があるという事に他ならない。
そもそも鳥守神社とは何なのか。
この都市には今ここにある『都市』以外に拡張都市と呼ばれる場所がある。これらは先程の空間アノマリーのように異次元空間に位置しており、現状では全部で5つ存在している。
莫大な魔力と財力を注ぎ込んで創られた人工の楽園。拡張都市。
都市の運営を左右するような権力者たちが住まう、幻の土地だ。大抵の人間はその土地に足を踏み入れる事すら叶わない。
その拡張都市のひとつが鳥守神社なのである。
ここには鳥居しかない訳だが、話によると拡張都市全体が神社となっており、それはそれは立派な社が存在しているという。ここはつまり、拡張都市へ入る為の入り口なのだ。
尤も、カギが無ければ鳥守神社には入れないので入り口に突っ立っていても仕方がない訳だが。
――カギか。守田小鳥、彼女はそのカギを持っているのだろうか?
見た目だけでは判断できない。オーダーとのパイプ役を命じられているので、恐らく中には入れて貰えるのだろう。自由に出入りできるかは不明だが。
オーダーとしても、個人的にも鳥守神社とは『仲良く』していきたい所存だ。
今回の呼び出しに飛びついたのも、友好的な繋がりを得る為という下心しかない上層部の判断である。
このチャンスは逃せない。小鳥嬢にはいい格好を見せ、オーダーとも末永くよろしくやって行こうと思わせなければ。
「もしかして、僕も神社に招いてもらえるのかい?」
「ヴィンスさんは中に入れる許可をもらっていないので、無理ですね」
「バッサリ行くじゃん……」
――でも、ふーん。この子はやっぱりカギも持っている? 言い包めワンチャンあるな。
カギさえ本人が持っているのならば、上手く転がせば中に入れるかもしれない。
とはいえ最終手段か。
「神社からの用件でしたね。あれを見てください」
少女が細い指で海の上を指す。既に日は落ち、ほぼ何も見えないが何かあるというのだろうか。
「え? ごめんね、何も見えないけど……?」
「手を。そして視線は海を見てください」
「どういうこと……? え、これ君の手を取ったら通報されたりする?」
「はい? いいから早く。そもそもあなたもオーダーですよね。どこに通報……あ、いや。教えて欲しいです、ヴィンスさんの上司」
「ごめんって! チクろうとしないでよ!!」
恐ろしい程に温度の低い少女の手を取る。
途端、それは見えた。指さす先の海上にとぐろを巻いた巨大な蛇が見える。この距離ではっきりとそれだと分かる蛇――相当な大きさだ。
見続ける事で目が慣れて来た。とぐろを巻いた蛇、と言ったがそれは間違いだ。この巨大な蛇はそれを凌駕する大きさの樹木に巻き付いていたのだ。
あんなところに島は無い。ではこの見えている光景は何なのか。
「巨大な木については、神社の中央に生えているご神木です」
「ふむ。アノマリーは蛇の方のみという訳か。それは分かったが……海の上かあ。厳しいな、討伐を望むのならば」
半異界、つまりあの辺りに拡張都市・鳥守神社がスペースを持っているという訳だ。物理的に船を使ってあの場所まで行ったところで、拡張都市に入れる訳ではないが。
小鳥はやはりカギは持っているらしく、カギを持つ者だけがこのアノマリーを視認できる――今分かっているのはこれくらいか。
「鳥守神社からの要求は、あの蛇アノマリーの討伐です」
「ちょ……っと、今すぐには厳しいな。まず場所。これ物理的に海を進んであそこまで行っても意味が無さそうだな。神社のご神木は無事なのかい? 蛇はここからしか観測できない感じ?」
「はい。蛇はここからしか見えません。あのご神木、実態は鳥守神社にありますが本体は別と言うか……ああ。説明が難しいな」
「しかもあの蛇、大きすぎないか? 刃物で突いたくらいで駆除できそうにない。方法を考える必要がある。あと……何か被害出てる? そこにいるだけなら、放っておけないかな」
ヴィンスの問いに対し、小鳥が口を閉ざした。
その視線は考えるように斜め下を見ている。




