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箱庭都市でのアノマリー事件簿  作者: ねんねこ
1話:無人のスーパー
6/6

06.無人スーパーの探索(4)

 ***


「ここも開いていないか」

「もう全てのドアを見て回ったんじゃないですか?」


 いくつかの出入り口を確認したが、その全てが固く閉ざされていた。勿論、相変わらずドアの破壊は不可能だ。

 ただし着ぐるみの化け物にも見つかっていない。それだけは僥倖だったと言えるだろう。


「うーん、困ったな。2階は君が見た時にはどこにも出口がなかったんだっけ?」

「はい。ありません。ところで……1階には従業員出入口がありますね。そこも判定としては出口になりえるのではないでしょうか?」

「……。一理あるな……。よし、行ってみよう!」

「スタッフルームの入り口ならあっちにありましたよ」


 しかし、着ぐるみとスタッフルームの関係性を聞いてすぐ、自らの意志でスタッフルームへ向かう羽目になるとは。

 そう思っていたのはヴィンスも同じらしい。


「あー、その、お嬢さんはどこかに隠れておくかい? さっきスタッフルームの話をしちゃったからな。行きたくないだろ?」

「いいえ? 行きますよ。逆に気になるじゃないですか、スタッフルームの中がどうなっているのか。とっても楽しみです。何か、面白いモノがあるといいのですが」

「えぇ……? 肝が据わっているというか、気が狂って――ああいや、何でもない。じゃあ、いこっか……」


 スタッフルームの入り口は重い鉄製の扉となっている。鍵などは掛かっていないらしく、彼が思い切り扉を押せばあっさりと開いた。ただし、開く際に思ったより随分と大きな音がしてしまったが。


「開いたな。よし、こっちだ」

「はい」


 スタッフルーム、というかスタッフルームに続く従業員通路へ足を踏み入れる。

 途端、「ピンポンパンポン」という音と共に館内アナウンスが流れ始めた。女声の機械音のようであり、ノイズが酷い。古いマイクでも使って声を発しているかのようだ。


『お客様へお知らせがございます。大変危険ですので、従業員用出入口にはお手を触れぬようお願いいたします。繰り返します――』


「ふむ。僕達がここに入り込んだのはお見通しのようだ。急ぐぞ、小鳥嬢。恐らく着ぐるみがこちらへ向かって来る」

「もうこっちへ来る足音が聞こえますね。どすどすどす、みたいな」

「ギャー!! うしろうしろ! 君何でそんなに落ち着いてんの!?」


 叫ぶヴィンスを無視し、扉の重みで自動的に閉まった扉の、カギをかける。これで少しは時間稼ぎができるだろう。


「よし。あと、耳元であまり叫ばないでください」

「ご、ごめん……でももっと慌ててくれないか? 騒いでいる僕がおかしいみたいだろ……」

「職員さんはずっと可笑しいですよ、何だか」

「ま、マジか……いや、これ戦闘になりそうだな。準備しておくから、驚かないでくれよ」


 言いながらヴィンスは最初に出会った時からずっと背負っていた細長い物体をケースから取り出した。

 これは、オーダー名物の武器セットだと思われる。

 機械質な見た目のそれらは1本のメインウェポンをベースに、あらゆる収納や小さな刃物などが収容されている。まさに十徳ナイフの武器版と言ったところか。


「へえ、現物は初めて見ました」

「流石に何も無いのに都市内でこんなの取り出したりはしないからね。これ収納が便利でさあ、こことか見てよ。ほら、ポケットティッシュ」


 ――……この人は何故、武器収納にポケットティッシュを収納している? 服に付いてるポケットじゃないのだが。

 乾いた笑いを漏らしてしまったが、職員はあまり気にしていないようだった。


「準備は終わりました? では早速、例のスタッフルームとやらを見に行きましょう」

「目的変わってない? 出口を! 探すの!!」


 とはいえ好奇心を押さえられない。オーダーとしても何か理由がありそうなスタッフルームとやらの情報は収集しておくにこしたことはないだろうに。

 しかも何とも間が悪い事に、右手のドアがスタッフルームに続くドアだと気付いてしまった。


「ヴィンスさん、ヴィンスさん。ほら、すぐ横がスタッフルームですよ。中をチラ見だけしてみましょうよ」

「君凄いね。よくこの状況で寄り道とか提案できるね。ああもう、いいや。情報の持ち帰りもオーダーの仕事、ってね」


 ヴィンスがスタッフルームのドアを開け放つ。

 そこに広がっていたのは至って普通のスタッフルームだった。いくつかの長机にいくつかのパイプ椅子。長椅子も置いてあり、主に休憩室としても利用されているのが分かる。

 ホワイトボードも置いてあり、マグネットで近隣の地図が張り出されている。

 また、端にある机の上。これは客の落とし物だろうか。子供用の小さなリュック、女性物のバッグ、片方だけの靴――こんなもの落とす、或いは忘れるだろうか。


「これ……やっぱりスタッフルームが鬼門って事か」


 渋い顔をしたヴィンスの視線は子供用のリュックに釘付けだ。どうやら逃がし損ねた一般人の持ち物らしい。


「この地図、次のアノマリー発生場所を示しているのでは? 地図的に言えば、私達が今いるのはこのあたりですよね」

「確かに……丸印がいくつか。写メっとこ。何かに使える情報っぽいしな」


 ガァン、と不意に何か金属質の物が破壊される致命的な音が響いた。

 どうやら着ぐるみが入ってくるようだ。鍵が破壊されたとみて間違いないだろう。


「やべっ! 脱出するぞ、小鳥嬢」

「はい」

「従業員用出入口は、恐らくこの通路を突っ切った先だ。普通に走れば着ぐるみからは追い付かれない」


 ヴィンスに背中を押された。どうやら前を走れという事らしい。


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