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箱庭都市でのアノマリー事件簿  作者: ねんねこ
1話:無人のスーパー
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05.無人スーパーの探索(3)

「よし、そうと決まればまずはこっちだ」


 言うが早いか、ヴィンスは明確な目的があるかのような足取りで食品売り場の角――今し方、小鳥が追い詰められかけていた隅へと足を向けた。


「どこへ向かっているのですか?」

「うん? ああ、このスーパー、食品売り場の端に出入口があるんだよね。そこをまず確かめようかと」

「2階からは出られませんでしたよ。私達が使うような出入口は封鎖されているのでは?」

「そうかもしれないね。だが、結局1つずつ精査するしかないな。このアノマリーは一般的に出入口と定義される場所のどこかを開けてある」

「詳しいですね」


 ここでオーダー職員は少し疲れたような笑みを浮かべた。


「最近、この空間アノマリーが猛威を振るっていてね。もう今月に入って3回は救出に出向いたかな。全く、勘弁してほしいものさ」

「……へえ。そういえば、私達以外には巻き込まれた方はいないのでしょうか」

「いないとは断言できない。が、僕の予想ではいないな。君がいたのも実は予想外だったんだ」


 ――このアノマリーに巻き込まれる条件があるのだろうか。

 疑問を汲み取ったのか、ヴィンスは肩を竦めて頭を振った。


「このアノマリー、どうも魔力量30ポイント以上を保有している人間を空間に取り込むようになったみたいだ。だから君の制服を見て合点がいった。魔法学園の生徒なら、そのくらいの魔力を保有していてもおかしくはないな、って。

 それにここは中層の中でも下に位置する。下層に魔力持ちが一人たりともいないように、下りれば下りる程魔力を持つ人間は少なくなり――そしてゼロになるからね」


 魔力を持っているのと持っていないのでは、都市での暮らし、都市のどの部分に住めるのかが変わってくる。魔力は絶対的な力だ。

 小鳥のようなか弱い女子学生であっても、魔力さえあれば屈強な男を捻じ伏せられる。好きな道を選択し、障害物を取り除く事も可能。

 繰り返すが、魔力は絶対的な力なのである。

 都市人口の3割のみが持ちえるエネルギーであり、遺伝に強く依存する。

 持つ者は更に与えられ、持たざる者は更に奪われるのが都市なのだ。


 同時にしれっと自白したが、オーダーのこの男も魔力を30ポイント以上保有する超優良物件というやつだ。まずそもそも、《ゲート》発動に必要な25ポイントを持ち得なければハイエスト魔法学園の入学切符すら手に入らない。

 魔力がなければオーダーには就職できない。財産があったとて、魔力が1ポイントもなければ上層の人間には取り合われない。容姿がいかに美しかろうと、それでも魔力はありませんよねで門前払い。

 けれど逆に魔力さえ持っていれば全てが覆る。

 どれだけ醜悪な外見でも、巨額の借金を抱えていようとも魔力さえあれば上層のご令嬢とだって婚約できるかもしれないし、一発逆転などといって魔法を使った事業で成功できるかもしれない。


 話を戻すが、アノマリーの指定条件が非常に厳しい。魔力30ポイントはかなり高いボーダーだ。大抵の人類はその下を潜る事となる。

 3割の中でも大抵の魔力保有量は10ポイント前後。

 ハイエスト魔法学園に入学できる程の魔力を有しているのであれば、中層でなど生活しない。上層の方が安全で色々な店があり、何より人間の質もいいからだ。層を落とす事に意味はない。

 だからヴィンスは自分以外に巻き込まれた人間はいないだろうな、と最初にそう判断したという訳だ。


「――さて、1カ所目の出入り口だが。ここは……開いていないな。外れみたいだ」

「そうですか」

「じゃ、次に行こう。確かこっちにも出入口があったような」


 彼は非常にフレンドリーだ。気を使われているのが分かる。


「ヴィンスさん。そういえば、私が2階を探索している時に着ぐるみのような物を着込んだ生き物と遭遇しました。人間ではない……かもしれません」

「えっ!? 奴に会ったのか!?」

「はい」

「よく無事だったね、君!? あいつに捕まったら終わりだから、絶対に近付かないでくれよ。しかも多分、複数体いるんだよな……」

「終わり、とは?」


 ここでヴィンスは少しばかり悩まし気な顔をした。分かりやすく数秒思案し、恐る恐る逆に訊ね返してくる。


「えーと、君は……グロい系とか恐い系はダメなタイプの子?」

「大丈夫ですよ」

「あー……じゃあ話すけど、奴に捕まるとアノマリー内部にあるスタッフルームに連れて行かれる。そうしてスタッフルームで『教育』後には新しい着ぐるみが増えるってワケ。僕の説明上手すぎるだろ? グロい部分はスキップできちゃったよ」

「捕まった時点では対象はまだ生きているんですよね? 何故、逃げないのですか」

「深掘りするじゃん……。捕まった本人も勿論抵抗するけどびくともしないし、今回みたいにオーダー職員が一緒で横から魔法を使ったりしたけど効果はなかった。あの着ぐるみは人間を捕まえた状態だと無敵判定みたいだ」


 オーダー内部でアノマリーの情報を共有するのは当然として。こういった情報を持っているという事はアノマリーに取り込まれて帰らぬ人となった者が既にいるという訳だ。気を付ける必要があるらしい。

 ところで、とヴィンスが何かを探るような目を小鳥へと向ける。


「君はこの状況で全然怯えたり慌てたりせず、落ち着いているな」

「……ああ。金持ちのお嬢様なんてやっていると、トラブルなんて日常茶飯事ですから」

「上層に住んでいるのに? まあいいや、暴れられたりするよりはずっとマシだからな」

「ていうかまあ、性格? じゃないですかね。普通に」

「最近の子ってみんな君みたいな感じなの? 冷めてる子、多くなったよね」

「おじいちゃんみたい……」


 思わず口をついて出た言葉だが、ヴィンスは衝撃を受けている様子だった。いけない、このちょっと変わった人間を前にすると要らない事を口走ってしまう。


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