03.無人スーパーの探索(1)
情報を整理しよう。
小鳥は大きく深呼吸し、このスーパーに関する基本的なデータを思い出す。
このスーパーは主に中層下方に住む人々が使用している。常にそれなりの賑わいであり、閉店まで人が全くいない状況はあり得ない。何か事件が起きて客も店員も退避した、くらいの理由がなければ。
そしてこの2階について。雑多に物が置いてあるフロアだ。1階の食品売り場には及ばないが、2階にしかない日用品もありやはり2階に人間がいないことの理由付けとしては弱い。
「空間アノマリーに招かれた?」
アノマリー。異常現象の事だ。
ありとあらゆる通常ではあり得ない状況や生物、事象を雑にひっくるめて便宜上そう呼ばれている。都市では実はよくある事だ。
今回はあり得ない空間に人を閉じ込めるアノマリーに当たってしまった可能性がある。というか、その可能性がかなり高いと言える。
――どうにかしてここから出なければ。
空間アノマリーに取り込まれた際は、一も二もなく早急に出口を探す事が生存に繋がる。足を止めている場合でもないので、早速探索を開始しなければ。
自然と口角が釣り上がるのを感じる。
面白い事は好きだ。あんなチンピラ如きに絡まれるような欠伸の出る展開ではなく、アノマリーという人間の力では太刀打ちできないようなトラブルに巻き込まれる事。心躍らない訳がない。
人っ子一人いないスーパーなぞ、そうそう体験できるものではない。
1階はどうなっているのだろうか。同じように誰もいなくなっている? それとも、通常の営業を続けている? 迷い込んだのは自分だけだろうか――
「楽し……ベアも連れて来ればよかったかな」
彼女のキレ芸が拝めたかもしれない。
しかしいないものは仕方がない。まずは2階の探索である。
2階にはフライパンや鍋、包丁等のキッチン用品。ゲームセンターに玩具売り場、文房具売り場、催事場など色々と物が売られている。
今であれば夏季が近づいてきているからか、子供用水着や浮き輪なども売られている様子だ。スーパーの2階売り場としておかしな点はない。ないが、どこか違和感を拭えないのも事実だ。
こちらも良い家のお嬢様なのでスーパーにはあまり馴染みがないのだが何か――そう、おかしい。
適当に散策していると、安っぽい音が響き渡るゲームセンターに引き寄せられていたようだ。
ゲームセンターは学園に入学してすぐ、ベアと共に冷やかしで遊びに行った。あれは良い思い出である。ただもう、別に二度と行かなくていいかなとも思うけれど。
客寄せの為か耳に刺さるような音を奏でる機体の一つに歩み寄る。
古い。ガビガビの画面に『コインを入れてね!』と表示されているが――コインとは何を指すのだろうか。硬貨の事を言っているのか。試しに財布から1枚硬貨を入れてみるがお気に召さなかったようだ。排出口から一瞬の精査もなく吐き出された。
「……何このゲーム……。画質悪いなあ」
よく耳を澄ませばゲームセンター内は更にゲームセンター専用のBGMが喧しく鳴り響いているようだった。聞いた事はない音楽だが、不思議と耳に残るような歌詞である。
不意にガタン、と背後で音がした為振り返る。
クレーンゲームのコーナーだ。アームが勝手に動いたらしい。釣られてクレーンゲームを観察する。
見た事のないぬいぐるみが景品だ。小鳥が知る如何なるキャラクターとも合致しないだろう。人を不安にさせるような表情のぬいぐるみばかりだ。裁縫に失敗したとしか思えない出来である。
ただしクレーンゲームを見ていて気付いた事がある。
このスーパー、全体的に古くなっていないだろうか。年代が巻き戻ったかのようだ、と言えばそれが近い。
小鳥の親世代が楽しんでいたようなゲーム、キャラクター、全体的にどこかで見た事はあるけれど最近は見掛けない。既視感の塊のような。少なくとも現代のスーパーにこのような既視感のある物体は置いていなかったはずだ。
――売り物の製造年月日が分かれば、この謎が解けるかもしれない。
こういったものの記載があるのは食品だろうか。玩具売り場に併設されている、キャラクターを取り扱った店へ足を向ける。記憶が正しければこういったキャラクターグッズの店には、菓子類が置いてあったはずだ。
そんな小鳥の予想は大当たりだった。
キャラクターグッズと共に可愛らしいお菓子が付随したアイテム。年代を確認すると――やはり親世代が子供だった頃くらいの年である。
自分の推理が当たった事に充足感を得ながらも、頭の冷静な部分が呟く。それで、どやってここから外に出るのか、と。
であれば次の目的地は、何事も無ければそこを通って外に出ていた出入口だろうか。スーパー内部は過去に戻っているか構造自体は変わっていない事を祈る。
***
2階にある出入口3つを回ったが、いずれも閉ざされていた。
力づくで開けようとしたが、そこは空間アノマリー。対策済というかドアはびくともしないし破壊も不可能だった。無駄な魔力を支払ってしまい、損した気分だ。
――では1階に下りよう。何なら地下もまだ見ていないし。
そこで目を向けたのはエスカレーターだ。
「……ん!?」
そのエスカレーターだが、下の階から白い塊のようなものがエスカレーターに乗って運ばれて来た。
見た事がある、というか先程のクレーゲームで入手可能なぬいぐるみをそのまま大きくしたかのような着ぐるみだ。何を考えているか分からない、漆黒の双眸が小鳥を捉える――
瞬間。その巨体に見合わない俊敏さで、着ぐるみが猛ダッシュ。明らかにこちらへ向かって駆けてきているのを見て、堪らず踵を返した。
こんなのが一緒に迷い込んだ一般人とは思えない。明らかな敵性存在。捕まったら何をされるか分かったものではない。
獲物を捕らえる獣のような動きではあるが、幸いな事に着ぐるみ自身の足はそう速くはない。女子学生の脚力よりも少しばかり遅いくらいだ。
――このまま着ぐるみを巻いて、1階へ下りよう。
運動はそう得意ではない。心臓が早鐘を打ち、息が切れ始めるがそれでも楽しさが勝る。何と愉快な非日常、苦労でさえ愛おしい。
着ぐるみが小鳥を見失ったのを視認し、エスカレーターで1階へ。
まだまだ探索は終わりそうにない。




