その10 冬、再び
(10)
寒い冬は自転車乗りには酷だ。それは誰でもかもしれない。何せ、ハンドルを握る指先が寒さで痛くなるからだ。唯、夜の街は少しずつ色めき始めている。それはクリスマスが近いからだろう。街には色めくようなネオンが煌めき、また十三の卍楼も夏の頃の盛り場とは違うような、雰囲気になっている。その卍楼傍の電柱へロダンはランドナーを錠で括りつけると、背を丸めるようにして歩み出す。
ロダンは久々に卍楼へ遣って来た。
そう、夏のあの事件以来かもしれない。
とはいえ、その事件は全く自分が抱えている本件とは別件であり、いや別件どころか、全くついでに関りを持った程度なのだが、何を云々かんぬん言うよりも、とりあえずロダンはそれ以来に卍楼にやって来た。
足が止まる。それは卍楼へ入る細い路地の入口。夏、自分は此処で『百眼』こと事件の依頼主の西願寺亮介の代わりとして、此処に易者として座っていた。
そして、そこに現れたのが…
ロダンはふとそこにあの時の夏の影が残っていないか感じたが、軽く首を振ると、背を向けた。戻れない時間がそこにはある。それだけが分かれば…、と思った時だった。向けた背に夏が声を掛けてきた。それも巣分変わらぬ、艶めいた声で。
「何や、随分ご無沙汰遣ったな…ロダン」
ロダンは大きく息を吐くと振り返った。そこには夏の頃と変わらぬ卍楼の案内人――通称『閻魔』が立っていた。
ロダンはマリモの様に伸びた縮れ毛をポリポリと掻くと、にこりと微笑んで言った。
「燕さんも、その後お変わりなく。また一層艶めきましたねぇ。また戻ってきました、四天王寺ロダン。今度こそ、依頼された件を解決するために」




