第287話 決戦④
黒煙が上がり視界が遮断された。
イザークは視界の悪い中アイリーネの元に急いだ。
衝撃音は何かが爆発したような大きな音であり、イザークは血の気が引いた病人のような顔色をしている。
――アイリーネ様!そんなはずはない、あなたが失われるなど、そんな事あるはずない。どうかご無事で!
アイリーネを失うなど考えたくはない。しかし、イザークには記憶がある、前世と一度目の記憶。
もしここで失ってしまったら、イザークはもう正気ではいられないだろう。
イザークは表情には出さないが不安で仕方がなかった、胸が押しつぶされそうな程に。
そんなイザークの前で徐々に鎮まる黒煙の中に人影が見えた。
イザークはハッとすると期待を込めてその名を呼ぶ。
「アイリーネ様!?」
「けほっ……」
イザークの前に咳き込むアイリーネの姿があった。
「アイリーネ様!」
「イザーク様?あっ、怪我はありませんか?」
「……それはこちらのセリフです」
イザークはひとまず安堵した。
見たところアイリーネに大きな怪我はない。
本来なら苦言を呈しなくてはいけないだろう、しかしそれよりもイザークはアイリーネの身を案じた。
「どこか痛い所はないですか?」
アイリーネの肩に手を掛けて、頭の天辺から足先までを一通り眺め異常がないと判断するとイザークはようやく小さな息を吐いた。
「愛し子様!ご無事でしたか!」
「ああ、妖精王に感謝を……」
聖騎士のいる場所からもアイリーネの無事な姿か確認出来て歓喜の声が上がる。
「大丈夫です………それよりも――」
アイリーネはイザークにも聖騎士にも視線を合わせていない。
イザークはアイリーネの視線の先を見つめた。
「おのれ――」
アイリーネの視線の先にはコンラッドがいた。
コンラッドは全身をワナワナと震え怒りをあらわにしている。
「何故だ!何故お前が闇の力を保有している。それも我が闇の魔力と相殺出来る程の魔力だと?あり得ない――、こんな事はあり得ない!」
「闇の魔力……?あっ――」
『力を授けた。これから先の戦いに役立つだろう。一度だけ……たった一度だけだが闇の魔力を防ぐ。どのような攻撃でも防ぐ。使い時を見極めるのだよ』
アイリーネの脳裏にカルバンティエの言葉が浮かんだ。
「アイリーネ様?」
「カルバンティエ様、カルバンティエ様です!」
アイリーネは不思議そうに様子を覗うイザークの腕を掴み笑顔をみせた。
「実はカルバンティエ様が一度だけ闇の魔力を防ぐ力を授けると言われて――今のがそうだったのだと思います!」
「ア、アイリーネ様落ち着いて―――」
自分が今無傷でいるのがカルバンティエによるものだと気付きアイリーネは興奮していた。
先程の攻撃は当たっていれば無事ではいられないとアイリーネにも分かっている。代償もなく与えられた力にアイリーネは感謝していた。だから、イザークに伝えなくてはとアイリーネは周りが見えていなかった。
「黙れ!!」
コンラッドの怒鳴り声にアイリーネとイザーク、それから聖騎士も反応した。
コンラッドの声は地に這うように低く鋭い。
「お前が!お前などが!」
元のように指であったならアイリーネに向けて指差しているのだろう、実際には腕から伸びた影がゆらゆらと揺らめいている。
「お前などがあの方を語るな!何故お前なのだ、何故――何故!?」
本来、闇の魔力を持つ者にとってカルバンティエは特別だ、闇の魔力は妖精王には属さない。だから、他の属性を持つ者が妖精王を慕うようにカルバンティエを崇めている。
それは、コンラッドも同様であった。
人の道から外れたコンラッドであったが、それでもカルバンティエへの想いは特別だった。
そのカルバンティエがアイリーネに闇の魔力を授けたその事実だけで腸が煮えくり返る程の怒りを覚えた。
「おのれーーーっ!!」
――来る!
コンラッドの叫びと共に攻撃がやって来た。
アイリーネの予想した通りコンラッドの腕は一直線に伸びると鋭い先端で攻撃してくる。
だけど、アイリーネには届かない。
アイリーネの前にはイザークがいる。
イザークはコンラッドの攻撃を涼しい顔で受け止めると弾いた。コンラッドの四肢の総てを用いて攻撃を仕掛けても、その攻撃がアイリーネに届くことはない。
イザークが防御し、聖騎士が攻撃する。
だけど決定打にはならない、そんな攻防が続いている。
「今よね………」
あの力を使うなら、今だ。そう何度も使える力ではない。使い時を見誤ってはいけない。
アイリーネは手を組み祈る。
攻撃するなら、今だ。
意識を集中させ指先に力を込める。
全身から力が巡り掌に集まって来る。
掌を掲げる光の珠が出来、みるみる内に光の珠は大きくなり、アイリーネの両手を広げたよりも大きくなるとそれを一気に放った。
「うっ――ぎゃあーーーっ!!」
光の珠はコンラッドに命中し悲鳴が聞こえる。
眩しくて目を細めなくてはならない程光の珠は輝いていて、衝撃による風が周囲にまで届き更に視界を悪くした。
そうして光が落ち着きを取り戻した時、映った光景に皆は息を飲んだ。
コンラッドの右の側腹部には穴があき、後ろの景色が見えていた。
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