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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第288話 変化

 すでに人ではないのだと知っている。

 しかし今、コンラッドを見て改めて思った。

 やはり、人ではなかったのだと。

 コンラッドは腹に穴が開いても膝をつくどころか、一滴の血液さえも出ていない。

 開いた穴から覗くのも影のようなものだけだ。



「おのれ――」


 両腕を横に伸ばしコンラッドは上空を見上げた。

 コンラッドの外套が揺れて風が吹いているのだと感じる。だが、それは間違いであると気付いた。

 揺れているのはコンラッドの外套やその周囲のみであり、こちらには一筋の風も吹いていない。



「一体……何を」

 無意識に呟いたイザークの声は掠れていた。

 いつものイザークは口数が少ない。そんなイザークが思わず呟いてしまう程、重苦しい気配に包まれていた。


 その原因は、どこからともなく現れた黒い霧。


 本来であれば今はまだ陽の光がある時間。しかし、太陽は闇に覆われてすでに王都は闇夜の様であった。

 街頭の光が唯一の光、その光は現れた黒い霧によってその存在を一瞬で消してしまった。



「な、なんだこれは!?」

「前が見えないぞ!」

「敵はどっちだ?」

 聖騎士達に焦りと不安の声があがる。

 視界の悪い霧の中では無闇矢鱈と攻撃することもできず、いつ襲われるかも知れないと恐怖も感じていた。



「アイリーネ様、ご無事ですか?」

「はい、イザーク様」

「もっと近くに……」

 イザークは完全に視界が閉ざされる前にアイリーネの隣を確保した。確かに黒い霧は視界を奪ったのだが、触れるぐらいに隣にいれば相手が誰だかは辛うじて分かる。イザークは一息もらすと今後の策を頭の中で巡らせていた。


 最優先はアイリーネの身の安全である。

 それはすでに保証された。隣にいるアイリーネをまじまじと見つめる。身体に異常はないようだ、何よりだとイザークは頷いてみせた。

 そして、次に考えたのがコンラッドの動向。

 突然見舞われた視界を遮る黒い霧、一体この霧にどのような意図があるのかと考えてもイザークには想像もつかなかった。



「イ、イザーク様!あれを!あれを見てください!」

 アイリーネの慌てた声にハッとして、その指差す方へ目を向けた。


 黒い霧が渦を巻き何かに吸い込まれていく。

 一瞬、何にと考えたがその答えは直ぐにでた。

 黒い霧は渦を巻き、コンラッドに吸い込まれていた。

 黒い霧を吸い込むコンラッドはその身体を徐々に大きくさせている。止めどなく吸い込み膨らんでいく身体はみるみる内に建物の二階よりも大きくなっていく。

 それでも大きくなるにも限界があるのか、あるいは黒い霧が無くなったためか勢いは止まった。



「な、何だ……化け物」

「大きい……嘘だろう」

「あんなモノとどうやって戦えばいいんだ?」

 聖騎士達はコンラッドを呆然と眺めている。

 その表情は抜け落ちて剣を下げ戦闘意欲は著しく低下しているように見える。

 

 

 大きくなったコンラッドの身体は建物の三階から四階相当の大きさとなり、今までのコンラッドとは姿も違っていた。今までのコンラッドは、四肢に指は付いていないものの辛うじて人の姿であった。ところが今のコンラッドは頭と胴体部分は分かるものの、人の姿とは到底思えはしない。先程聖騎士が放った「化け物」という言葉が一番近いだろう。コンラッドは影の化け物となっていた。



「ハハハッ!!」


 アイリーネ達が呆然と見上げているとコンラッドの笑い声が聞こえてきた。

 姿は異なっていても声は同じである。



「間抜けな面だな!驚いたか?」

 コンラッドは会話も出来るようで、思考能力も今までと同様にあった。

「お前達が到底及ばない所まで来たのだ。お前達はここで終わる!この忌々しき国も今日で終わりだ!」

 早口でそう言い終えると再び笑い声をあげている。



「イザーク様……」

 どうすれば良いだろうかと、アイリーネはイザークを見上げる。

「そうですね……あれ程の巨体では普通の武器は通用しないかも知れませんね……。そうなると、あとは光の魔力でしょうか」 


「光の魔力……」

 光の魔力と聞いて心当たりは二人。ローレンスとダグラスである。ただし、二人とも近くにいない。


「あとは……」

 あの新しい力。

 実際、先程の攻撃でコンラッドの腹部には穴が空いた。効果はある、だが何度も攻撃できるものではない。

 神聖力の消費は激しく一度の攻撃で神聖力のおよそ三分の一が消費されてしまった。



「アイリーネ様、あれを。上をご覧下さい」


「えっ?」

 イザークの声に反応して勢いよく上空へ視線を向けた。




 太陽が隠されて今だ夜闇のような空に白く羽ばたくものが見える。向こうもこちらに気付いたのか、一目散に距離をつめて来た。



「アイリーネ!イザーク!」


「シリル!」

「シリル様」


 白い物体はシリルの鳩だった。


 イザークが腕を曲げると鳩は自分の場所だといわんばかりにスムーズにその腕に留まった。

 紙で出来た鳩なのにイザークの腕で首を傾げている姿は本物の鳩だと言われても不思議ではない。


「びっくりしたよー」

 鳩は首を傾げたまま話し出した。





読んでいただきありがとうございました。

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