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推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第一部 

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21話:ウッドマンと精霊契約

「なんで、釣りに出かけた奴が人間連れてきてんだ? ァア……!!」

 馬車の荷台で寝ていた男は体を起こすと髪をぐしゃぐしゃとかきむしった。ボサボサの髪から覗かせた鋭い目で吾輩たちを睨み付けられたのである。こっ、ここここ……恐いのであるッ!!

 その目はひと睨みで魔物すら殺せる眼力だと感じ、思わず体がガクガクと震えた。先程の金髪くんは静かに恐ろしかったが、この男は見た目から恐い。

 そんな明らかに不機嫌な彼を気にせず、銀髪くんが普通に話しかけた。

「別に港までなら、馬車なら半日もかかんないじゃないっすか? 一人増えても問題ないっすよね?」

「だったら歩いてもそんなに変わんないだろ。歩かせりゃ良いんだよ、歩かせりゃ。ただでさえ、嬢ちゃんが増えて馬車が狭いつーのに……」

「一日くらいなら前に乗りますよ、オレ?」

「そういう問題じゃねぇよ、……だいたいアンタ金はあんのか? こっちだってタダで運んでやるほどお人好しじゃねぇーんだよ」


 全く持って正論である。

 確かに港までなら、頑張れば歩ける気はするのであるが……。

 もし、噂が本当ならそんな港に一人で行くのは恐いのである。

 しかし、ほとんど手ぶらに近い状態で島流しにあったためお金はない。持っていた精霊石も先程の実験で使ったアレしかなかったのである。

 あと持っているのは先程の魔法陣くらい。


 ……おや?

 そういえば、魔法陣……浜辺に忘れたのである。


「おーい……おーい」

 どこからか聞き覚えのない少女の声が聞こえてきた。


「ギンの兄貴ぃ〜! この子忘れてってるよ〜」

 おもわず、自分の目を疑った。

 そこには精霊らしき生き物が、吾輩の魔法陣が描かれた布に何かを包んで運んできてるじゃないか。


「アルカナ! ダメだろ? オレ達以外の前に出てきたら危ないっすよ!」

「ヒメルに聞いたら『あのおじさんなら大丈夫じゃない?』って言われたよ?」

 おじ……さ!

 まぁ、あれくらい幼ければ、吾輩もおじさんなのであるかな……。

 子供の純粋な言葉に地味に傷ついた。

 そんなことよりも気になるのは……。

「そ、それは、精霊なのであるか? しかも言葉が話せるなんて……ま、まさか大精霊であるか!?」

 恐る恐る手を伸ばしたら銀髪くんに手を払われ、精霊は銀髪くんの背に隠れてしまった。

「勝手に触ったらダメっすからね」

「それより、その精霊はなんである!? 今まで見たどの資料にもいないタイプである!! ハッ! もしや今だに生態確認がされていない光の精霊とかであるか!!!?」

 そう聞くと、精霊本人が頬を大きく膨らませて答えた。

「違う! 違うもん! アルカナは人工精霊だもん!!」

「人工精霊であるか!? それは研究はされてるけど今だに成功例がないものである! まさか、光の国の王立研究所より進んだ研究をしてる者がいたであるか! もしかして、君たちが造ったであるか!? その際の研究データとか拝見することはできるであるか!!!?」

 思わず銀髪くんの肩を思いっきり掴みに詰め寄った。じっくり精霊を見たいあまり、どんどん顔が近づいていく。

「うっぜぇええええ〜〜〜〜っすね!!」

 あまりに鬱陶しかったのか両手で押されてしまった。

 いや確かに興奮しすぎて近かったであるな。

「だいたい、アルカナについてはなんも知らないっすね! 知りたかったらヒメルに聞くっすね! あと、危ないからアンタはアルカナに近づかないで欲しいっすね!!  アルカナも近づいたらダメっすからね!」

「りょーかい♪」

「……はい、なのである」

 しょんぼりなのである。

 仕方ないので後で妹さん、いえ、ヒメル殿にいろいろ聞くのである。

「で、ちっこいのは何しにきたんだ?」

「そうだった、そうだった! この子が浜辺でギンの兄貴を待ってたから連れてきたの♪」

 広げた布の中には、先程の水の精霊が正座してちょこんと座っていた。

「そんなバカなである」

 驚きを隠せなかった。

 今まで何度かあの魔法陣を用いて、精霊を見たことがある。

 しかし、どの精霊も少しの間姿を見せるもすぐに魔法陣から出てしまう。

 なのに、あの精霊は銀髪くんをわざわざ待っていたらしい。

 とても珍しい個体だ。

「なんだ、その水まんじゅうは?」

 布の上に鎮座する水の精霊を隊長殿が指で突いている。

 突かれた部分がぷるんと揺れる。

「お前、さっきの水の精霊じゃないっすか! わざわざオレを待ってたんっすか?」

 水の精霊がそっと手を伸ばす。

 それを見た銀髪くんが指を差し出し、二つが触れ合った瞬間だった。

 一瞬二人が光り輝いた。

「なんだ!?」

「これは、契約の儀である!!」


 精霊と契約者に魔力のパスが通った時、つまり契約が契約したときにこう言った反応が見られる。しかし、精霊と契約をするためには、専用の祝詞や供物。それに場所、時間、など決まり事が色々あるとされている。長い準備と決まり事の上で契約がなされるのであるが……。

 彼は、そんな事を無視して今まさにこの精霊と契約を交わしたのである。

 その証拠に。

「銀髪くん、自分の手を見るのである」

「うお! コレなんっす!?」

 彼の掌には水の紋様が刻まれていた。

「それが、精霊との契約の証である。君とその精霊で魔力のパスが繋がったのである。命令すれば精霊に精霊術を使わせることができるのである」

「へぇ~……っていうかオレもしかして精霊術師になったんっすか!? わー……実感ないっすね、っていうかなんでオレ?」

 嬉しさと疑問とが入り混じって落ち着かない様子の彼を見て、人工精霊がその疑問に答える。

「その子がねぇ〜ギンの兄貴のこと気に入ったから一緒にいたいんだって」

「アルカナ、言ってることわかるんすか!?」

「うん♪ あたしも一応精霊だからニュアンスでなんとなくわかるんだよ♪」

「ニュアンスかよ!!」

 思わす隊長殿からツッコミが入る。

「そそそそ……そ、それでもすごいである、精霊は気まぐれで手順通りに儀式をしても成功率はすごく低いのである! 精霊術師が少ない理由はそれなのであるが、こんな契約の前例は聞いたことがないのである!!」

「オレってもしかしてすごい事したっすかね! いやー自分の溢れる才能が怖いっすね!!」

 照れ臭そうに頭を掻いて少し困ったように笑う彼を正直羨ましく思う。

 本当にそれだけ凄い事をしたのである。

「コレ、契約ってしたら精霊が見えるようになったりするんすかね?」

「いや、あくまでその魔法陣に乗ってる間だけである。本来、精霊を見えない状態で契約をし、紋章が現れれば精霊に認められたという事で精霊術が使えるようになるのである。今回が特殊すぎるのである……」

 その話をすると彼の表情は一気に渋い顔をして言ったのだ。

「なんか、精霊術師っていやな職業なんっすね?」

 まさかの発言である。

 精霊術師は、圧倒的に数の少ない貴重な職業だ。

 偉大な事を成した人間にはこの職業のものが多くいる。

 いわば、皆が憧れる職業なのだ!

 それをまさか“嫌な職業”というなんて……思わず聞いてしまったのである。


「皆が憧れる職業であるのに嫌、なのであるか?」

「そりゃ、精霊術が使えるなんてカッコいいとは思うっすよ!でも、精霊からしてみれば姿も見えないのに、言われたことだけやれってなかなかひどいと思うっすよね。もし、隊長から突然こっちを見もしないで『そこの荷物運べ』とか言われたら絶対やりたくないっすもんね!」

「あたしも! あたしも命令されるのキラーイ」

「目が合ってもやらないだろ、お前たち」

 鋭いツッコミが入る。

「それはそれってことっすね♪」

「本来、精霊とは意志の疎通は取れないとされているのである。精霊術師は精霊と契約し使役し、命令する。コレが普通である」


「でも、オレはコイツと分かり合って契約したからそんなことはしたくないっすね。だから、ウッドマンさんに提案があるんすけど、もちろん聞いてくれるっすよね?」

「提案であるか?」

「ヨーデルカリブ港に連れて行く代わりに、この魔法陣を譲ってもらえないっすかね?」

「おいギンっ! 何勝手に話進めてんだぁ!?」

 部下の突然の発言に思わず片耳を思いっきり引っ張った隊長殿であるが、銀髪くんはへこたれなかった。むしろ更に提案を出した。

「オレがウッドマンさんからこの魔法陣を買い取って、そのお金で隊長が馬車で運べばなんの問題もないじゃないっすかね!! いてて……」

 隊長殿が銀髪くんの耳を上へ引っ張った。

「本っっっ当に普段は働かない頭が、こう言う時ばっか働きやがって!!」

 諦めた、と言わんばかりに大きなため息を吐くとこちらを睨みつけた。

「で、アンタはどうするんだ?コイツにその魔法陣を売ってヨーデルカリブまで一緒に行くのか、それとも一人で行くのか?」

 魔法陣の構図は全て覚えているので、渡したところでまた作ればいい。

 そう考え、吾輩は魔法陣を銀髪くんに譲り、そのお代で港まで一緒に連れていってもらうことにした。彼らは今日はここで一晩休み、明日の朝に港に向かうらしいので一晩ご厄介になる事になった。

 その後は、銀髪くんに精霊術について説明をしたり、人工精霊のアルカナ殿に少し話を聞いたりして気がつけば、夕方だった。

 橙色のまあるい夕日が海へと帰って行く。

 夕日の色が世界を優しく染め上げる。

 そんな美しい海を背に、バケツに魚をたくさん入れた疲れ切った少女と……。

 両手に首のない、海鳥を携えた男が笑顔で帰ってきた。

「魚もヒメル嬢が釣ってくれたんですが、隊長が食べれないと思って……ほら、海鳥もたくさん準備してますぜ! コレで豪華に夕飯にしますぜ!!」




釣った魚と狩った海鳥は、罰としてヒメルが教わりながら捌きました。

次回いよいよ港です。


そういえばPVがトータルで1000を超えました♪

いつも読んでくれてる皆様本当にありがとうございます。

出来たら、評価・感想などお待ちしていま〜す。


20.12.27 誤字修正

21.1.16 段落修正

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