22話:姫琉と海賊
「ううぅ……まだ手に内臓の感覚が残ってる」
昨日の夕食で、キン兄が取ってきた海鳥を捌くことになったんだが“ぐちゃ、ぐにょ”といった内臓の感覚が、一日たった今でも生々しく残っている。普段、肉なんてスーパーで売られている状態でしか使わなかったので、かなりショックな出来事だった。
私たちはヨーデルカリブ港に向けて移動中の馬車の中だ。昨日、私が必死で釣りをしている間に色々あったそうだ。
ウッドマンさんが一緒に港に来ることになった事にも驚いたが、何故かギン兄が“あの実験”の水の精霊と契約をし、精霊術師になったのだ!
一応、成り行きは隊長に聞いたが全く理解できなかった。
「羨ましいな~」
目の前で魔法陣に乗せた精霊と戯れているギン兄を見て言わずにはいられなかった。
もちろん精霊術師という職業がゲームファンとして羨ましいというのもあるけどなにより。
私がそっと水の精霊に手を伸ばすと何故かダッシュで魔法陣の上から逃げられてしまうのだ。
「何故……?」切なさに涙が出る。
「なんかわかんないすけど、嫌われてるっすね」
「そういう問題ではないと思うのである。君らがちょっと特殊なのである」
「いいなぁー。そのプルプルに触りたいのにぃ〜」
「ヒメルには、この人工精霊アルカナがいるよ! ほらっ♪ あたしもほっぺならプルプルするよ!」
そう言って、ほっぺを差し出すアルカナのほっぺは“プルプル“というよりは“ぷにぷに”していた。コレはコレでとても良い。
「そこの二人もなかなかおかしいのである」
ウッドマンさんが呆れ顔でこちらを見てぼやいた。
「そういえば、ウッドマンさんは光の国から流されてきたんですよね? 途中で幽霊船って見ました?」
素朴な疑問を投げかけると、ウッドマンさんの顔が上から下へとみるみる青くなった。
「みッ……みみみ見てないのである!! それに流された時の精神的衝撃でそれどころではなかったのである。たとえ見ても気づかないのである!!」
「なーんだ」
光の国から流されたなら同じ海域を通ったはずなのに。じゃあ、幽霊船騒動はやっぱり噂なのかな?
「あっ、そうだった」
すっかり忘れていた。
ウッドマンさんに光の国の話を聞くのを忘れていたのだ。
私が知りたいのは、ヒロインであるエメラルド・ユートピアについてだ。
このゲームの始まりは、“ルーメン教の光の神子”としてヒロインが行う“鎮守祭”。精霊をなだめる為、光の精霊に祈りを捧げる儀式がルーメン教大聖堂で行われた。
しかし、その儀式の最中“精霊暴走”が起こる。
城下に突然現れた魔物が街を襲う。この時主人公は、騎士見習いとして大聖堂の見回りをしていた。街の騒ぎに気づいた彼は、魔物に襲われそうになっているヒロインに遭遇する。ここでチュートリアルの戦闘が入るんだよね〜。
その後、事態を収束した主人公一行が城へ行くと各地で同じ状態が起こったと王に告げられる。
そこから冒険に出るのだが……。
「ウッドマンさんは、鎮守祭をご存知ですか?」
「鎮守祭であるか? 確か二ヶ月後くらいにやると研究所に案内が来ていた覚えがあるが……鎮守祭に興味があるのであるか?」
「いや、興味というか、あとどのくらい猶予があるかなって」
「猶予、であるか……?」
不思議そうな顔をしていたが、彼に全てを説明する必要はないと思い、適当にごまかした。
そうこうしていると馬車は港がある港町に到着したのだった。
【ヨーデルカリブ港】
光の国との貿易をメインに行っている港街。
現在は、沖に幽霊船が出ると噂になり貿易を中止している。
貿易が行われていた時には、ルーメン教の品々などの貿易品の売り買いがされていた。
◆◇◆◇◆
街に入ってすぐのところに、宿屋やアイテムショップの建物があったがどちらも営業していないようだ。まだ、朝だというのに薄ら霧が出ていて、薄暗く不気味な雰囲気を醸し出していた。
──まるでゴーストタウン……。
「本当に誰もいないみたいっすね」
「これじゃ船もないかもしれねぇな」
「一応、波止場と商業ギルドの方に行ってきますぜ」
そういうとキン兄は海の方に走って行った。
「本当に誰もいないのであるか……? せめて近くの街までの寄り合いの馬車とか出てないであるか」
「この様子じゃ無理じゃないっすかね?」
ギン兄があっけらかんとした返事を返す。
「見渡した感じ誰もいないみたいだね?」
霧で視界は、はっきりとしないが見渡した感じ私の目には誰もいないように見えたのだが、隊長は辺りをぐるりと見ると片方の口元を上げニヤリと不敵に笑った。
「オイ、それで隠れてるつもりか?」
誰もいない建物に向かって声を投げかけた。
「え、一体何が……?」
すると次の瞬間、建物の物陰から剣やナイフを持った男がゾロゾロと私たちを取り囲んだ。
「えぇぇえええええッ!! 何っ! 何なの!?」
「かっ、かっ海賊である!?」
「こんだけ人気がなければ、無法者どもには格好の隠れ家だろ?」
突然現れた海賊に慌てふためく私とウッドマンさんとは、打って変わり冷静な隊長とギン兄は少し慣れた様子だ。海賊の一人が手を小さく振り合図を出すと一斉に私たちに襲いかかってきた。
「二人とも、危ないから下がってくださいっすね!」
「俺はお前ら守らねぇからな! 自分の身くらい自分で守れ!!」
二人は互いに背を向け隊長は銃を、ギン兄は両手にナイフを持って目の前の海賊を蹴散らしていく。
「ヒメル? あたしも手伝ったほうがいい?」
「多分、大丈夫……」
鞄に隠れてたあるアルカナが鞄から顔を出して聞いてきた。いくらアルカナの精霊術を使っても人間、しかも武器を持ってる海賊と戦う度胸はない。ここは二人が海賊を倒すまで、隅で大人しく隠れてる方がいいだろう。
「テメェ等、そいつらはいいッ! そこの弱そうな女と学者からやれ!!」
海賊の中で、一際大きな剣を持った男が、しゃがれた声で叫ぶと、まだ倒されてなかった海賊が一斉にこちらに向かって襲いかかって来た。
「アルカナやっぱりお願い!! 体に風を纏わせるやつ!!」
「りょーかいっ♪」
アルカナが作った風が渦を巻き体に纏わりつく。
「てりゃぁあああー!!」
風の力を利用して、襲い掛かる海賊を蹴り飛ばした。今日はこの前買ったハーフパンツなので、パンツが見える心配もない。
完璧にキマッた!
「この女、精霊術師だぞ!?」
警戒した海賊がじりじりっと距離を取っていく。
お願いだからこのまま引き上げて!! 咄嗟の事で蹴ったが、武装した男相手に戦うとかやっぱり怖すぎるからっ!
作り笑顔で余裕な様子を出してるが、正直心臓バクバクで手足に力がうまく入らない。
「チッ……一旦引くぞ!!」
大きな剣を持った男が叫ぶと残っていた海賊は、怪我した仲間を連れ散り散りに逃げて行った。
「追わなくていいんっすかね?」
「追ったところで詰所も機能してなさそうだしな」
銃を収めた手の甲でコツンと私の頭を叩いてきた。
「やればできるじゃねぇか」
──これは隊長なりに褒めてるのか?
隊長の私に対する扱いはぞんざいだ。
正直、さっきこの状態で『自分の身は自分で守れ』と言われて、相当嫌われてんなぁと思ったんだが……違うのかな? ちょっと……よくわかんない。
私にとって、自分以外は“大切な人”と“それ以外”しかない。
大切な人は、自分の何を犠牲にしても大事にしなければならないもの。
それ以外は、利用するか踏み台にするか、興味がないのいずれかだった。
この世界に来て私の“大切な人”は、セレナイト様とアルカナだけだ。
カルサイト達とは、一緒にいるが、エルフの国に連れって行ってもらう為の“足”程度にしか考えていない。それなのに、そんな風に言われると、どうしていいか分からなくなる。
「アルカナがいたからね……」
思わず素っ気なく返してしまう。
「そういえば、金髪くんは一人で先に行ってしまったであるが大丈夫なのであるか?」
腰を抜かしていたウッドマンさんがヨロヨロ……と起き上がり心配そうに尋ねる。
その質問に隊長とギン兄は目を点にして、お互いを見合った後大きな声で笑った。
「心配いらないっすね! 兄貴はめちゃめちゃ強いっすからね」
「むしろ、襲いに行った海賊に同情するな」
すると後ろから、こちらを呼ぶキン兄の声が聞こえた。
振り返ってみるとそこには、平然とした顔で返り血に塗れたキン兄がこっちに向かってかけてくる。
私もウッドマンさんも思わずちいさく悲鳴が洩れた。
──いやいやいや、何のホラーだよっ!!
「あぁ、無事でよかったですぜ。途中で賊に襲われて、襲ってきた連中がこっちにも仲間がいるって言ってたんで、慌てて戻ってきたんですぜ」
「海賊は逃がしちまったが、どうって事なかったぜ」
「それは何よりですぜ。ところで、この港どうやら海賊だらけみたいですぜ? 商業ギルドも無人で機能してないみたいですし、港には海賊船しか止まってなかったですぜ」
完璧なる無法地帯。
どうやら幽霊船騒動で人がいなくなった事をいい事に、海賊の拠点になっているらしい。
ん〜船がないとすると。さて、どうしたもんかと途方に暮れていると目の前にいたカルサイトが何でも無いかのように言う。
「じゃあ船は、奪えばいいんじゃねぇか?」
「やっぱり……すね」
「他の街でギルドに借りるより安く済みそうでよかったですぜ!」
こいつが海賊なんじゃないかと思うほうど恐ろしい提案だった。
戦闘が入ると一気にゲームっぽい感じが出る気がする。
もっと戦闘させたい。
20.11.3加筆修正
21.1.16 段落修正 加筆あり
24.4.14加筆修正
21.7.14加筆修正
21.9.19加筆修正




