19話:姫琉と水の精霊
「そうなのである! 魔力不足による魔物化は考えにくいのである!」
「じゃあ!! ずばり何が原因なの!?」
知りたいのはそこだ!
専門用語が羅列する説明を聞いても自分が理解できないことなんて知ってる。手っ取り早く答えだけ教えて欲しい。しかし、質問を投げ掛けるとウッドマンさんの様子がおかしい。
「そ、それは…………。わかっているようで〜……わからないのである……」
さっきの勢いは何処へやら、返ってきた返答は歯切れの悪いモノだった。
っていうか目が泳いでるぞ! こっち見ろ、おい!
めちゃくちゃ物言いたげな目でウッドマンさんを凝視する。
ジーーーーーーーー……
「でででっであるが! 精霊の魔物化が魔力不足でないと証明はできるのである!! これを見て欲しいのである!」
そう言うと、腰に着けていた巾着から拳サイズの濃い青色の石と魔方陣が刺繍で描かれたスカーフを取り出した。
「これは水の精霊石と吾輩が考案した、精霊可視化魔方陣である」
魔法陣とは、そこに描かれている文様の組み合わせに魔力を流す事によって魔法が使える。アルカナの家にあった転移魔法陣とか、ゲームには結界の魔法陣や回復の魔法陣があった。
コレは精霊の力を借りずに使うことができる為、精霊術とはまた別物である。
「精霊の可視化って?」
「大精霊を除いて普通、精霊というのは特別存在。“精霊に愛された子”と呼ばれる人にしか可視できないのである」
これは知っている。
私の知る限りで“精霊に愛された子”は、ヒロインである“ルーメン教の光の神子”『エメラルド・ユートピア』
そして、私の最推しである“精霊の神子”『セレナイト・テオ』。
ゲームではこの二人しか存在しない。
アルカナを毎日見てるとこの設定を忘れそうになるけどね。
「であるが、この魔法陣の上に精霊が乗るとなんと! 我々にも見えるようになるのである!」
「それはすごいっ!!」
「そうなのである! すごいのである!」
褒められたことで、自信を取り戻したらしく溌剌とした声で答える。
テンションのアップダウンが激しい人だなぁ……。
すると、さっきからチラチラこちらを見ていたギン兄が、スッ……と隣に座ってきた。
三人で魔法陣を囲うように座っている形だ。
なんか、黒魔術でも始めるみたいなんだけど。
「では、見て欲しいである」
魔法陣の中央に水の精霊石を置いた。
「この、魔法陣と精霊石に同時に魔力を限界まで流すのである」
「そしたら水の精霊術が発動するんすよね?」
「そうである。水の精霊石に魔力を流すと水を生成したり、操ることができるである」
そう話すウッドマンが使っている水の精霊石からは水が湧き水のように溢れてきた。
「そして限界まで魔力を蓄えた精霊石はどうなると思うのである、そこの銀髪くん!」
ギン兄を指差す。
「あー……限界まで使った精霊石は霧散して消えるっすね。精霊石は消耗品なんで」
「正解なのである! 特に水の精霊石は限界点が低いのですぐに霧散するのである。この精霊石もそろそろ限界点である」
精霊石から水が出なくなり、すると……。
“ピキッーー”
真ん中に大きなヒビが入り砕けた所から煙のように次々と消えていった。
残ったのは大きな水溜りだけだった。
「あぁ〜……もったいないっすね。水の精霊石をこんな無駄にして……これで一体何がわかるっていうんすかね?」
「銀髪くん、よく魔法陣を見るのである」
「銀ぱ……まぁ、呼び方なんてなんでもいいっすけどね。よく見るって……」
魔法陣に顔を近づけるギン兄。すると水が勢い良く波打った。
「水が勝手に動いたっすね!!」
そして私は気づいた。無色透明の水が形をとっている事に。
「これは……水まんじゅう?」
つるっとしたフォルムはまさに和菓子の水まんじゅうにそっくりだ。
しかし、この水まんじゅうには下に透明の体が付いていた。
生き物っぽいが、目も口も見当たらない。
手足っぽいものがあるが、まさかこの水まんじゅうが……。
「そうこれが水の精霊の姿である! 精霊石に限界まで魔力を流すと精霊が現れるのである!!」
まさかの新事実!!!?
ってかこの水まんじゅうが水の精霊ぃいいいいいいい!!!?
「イメージが……」
「水の精霊ってもっと優雅な精霊をイメージしてたっすね、なんすかこの饅頭は」
「言いたいことはそこであるか?」
そうだ! 水の精霊の姿があまりに想像と違いすぎて肝心な事を忘れてた。
「じゃあ精霊石って精霊そのものって事ですか?」
精霊石は精霊が作る石とされてる。
でもソレが精霊そのものだったってことは…………?
プツプツと自分から湯気が出ている。情報量が多くてキャパオーバーしていた。
「世の中では、精霊石は精霊が作ったものだとされてるであるが、吾輩は精霊石は魔力不足の精霊が仮死もしくは冬眠した姿だと考えてるのである。だから、こうして魔力を一定値まで与えれば元に戻るのである」
「これは魔物ではないんっすね、水の精霊には見えないんっすけど」
そういうとギン兄は水まんじゅうを指で摘み上げた。
すると不思議な事にその姿は消えたのだ。
「魔法陣から離せば精霊は見えなくなるのである」
そっと魔法陣の上に戻すと水まんじゅうが再び現れた。摘まれた事に怒っているらしく、ギン兄に思いっきり水をかける。
「んっだテメェ!!」
「精霊の機嫌を損ねたのである、仲良くするのである」
ギン兄、大人気なさすぎる。
「それじゃあ、ウッドマンさんは魔力が少なくなった精霊は精霊石になるから、魔物化の原因は違うと思うって事……ですよね?」
「そうなのであるが、これとほとんど同じレクチャーを学会のお偉いさんたちの前でしたら異端者として次の日には海に流されたのである……」
がっくしと力なく項垂れるウッドマンさん。
でも、彼の言ってる事に思った程違和感はない。
そんな異端者として、島流しにされなきゃいけない理由が見つからない気がするけど。
「でも、魔力不足が魔物化の原因じゃないなら何が原因なんすかね?」
気がつけばギン兄が水の精霊と指で握手をしている。知らないうちに和解したらしい。
「それは……わからないのである……」
「なるほど、魔力不足ではないけど原因がわからない。この事実が広がって闇雲に人に不安を与えるより、なかった事にしようとしたんだ」
一人でブツブツと考えを口にして納得した。
「なんの話である?」
「ウッドマンさんが島流しにあった理由」
「あぁー……臭いものには蓋ってやつっすね。かわいそうにっすね」
私たちの考察を聞いてショックのあまりウッドマンさんは白目を向いて固まった。
ウッドマンさんの台詞は大事な台詞が多すぎて困る!
21.1.15 加筆修正
22.5.24加筆修正




