18話:姫琉とウッドマン
キン兄の凍てつく様な笑顔で阿鼻叫喚だった状態から一転。
三人はテントから出され、少し熱い砂浜で正座をして小さくなっている。
ちなみに、知らない人がいるのでアルカナは念の為テントで隠れてもらってる。
「で、この不審者は誰なんですか?」
片手に釣竿を持ったまま腕を組み、仁王立ちしたキン兄が顎少し動かして、今なお濡れた服を着っぱなしの男をさした。
「不、審者で……あるか、その」
言い淀む彼をキン兄の眼光がギラリと輝く。
そんな兄の姿を見たギン兄の顔が上から下に青くなった。何か言いたげだった漂流者を全力で止める。
「言われたことだけ答えとっくすね! 敬語になってる時の兄貴はガチでヤバイっすからね! せっかく助かったのに死にたくないっすよね!!!」
後ろを向きで小声ではあるが全力で説得している。
そういう私は、とりあえず目を合わさない様に下を向いて耐える。
一言でも余計なことを発したら殺される! あの目に! ガク、ブル。
咳払いをひとつ“ゴッホン“とし、改めて話しはじめた。
「吾輩は、チュール・ヴァーダイト・ウッドマンと言うものである。
光の国エリュシオンの“王都ユートピア“にある“王立研究所“で精霊学を研究していた研究員である。」
おぉー、大正解だった! ってことは主人公はわからなくても、ルーメン教の神子であるヒロインちゃんの現状くらいは聞けるかもしれないぞ! これで少しはゲームの開始までの時間が分かるかもしれない!!
とか考えて、ちょっと浮かれた気分が出ていたのかもしれない。次の瞬間背筋がゾクッと寒気が走る。……上をチラッと見てみると、冷ややかな目でこちらを睨むキン兄が……。
ってなんかキン兄、妙に機嫌悪くない!?
キン兄がひとつ大きなため息をつく。
「そんなことはどうでもいいんですよ」
「えッ聞いといたのにであるか!? ひぃっ!!」
ウッドマンの首元に釣竿が突きつけられる。
「アナタに纏わりついていた、海鳥共がオレの釣った魚を奪って行ったんですよ。許しがたいと思いませんか? 思いますよね?」
「はい! そう思います!!!」
ヤバイ、機嫌悪いの私のせいだわ!
餌という名のウッドマンさんを奪われた腹いせに、反対側で釣りをしてたキン兄の魚を奪ったんだ。
それで機嫌が悪いのかぁー……。納得……。
キン兄、釣り好きみたいだったし。せっかく釣った魚を取られ、浜辺でうるさくしてたから
怒りの琴線に触れちゃったのかな。
とりあえず、全力で肯定して怒りの矛先をそらして……私の被害を減らしたい!!
「まぁ、一番悪いのは考えなしに海鳥を追いやったヒメル嬢ですけど」
あ、これダメだわ……。すでに逃げ場はないと悟り早々に諦めた。
「あんなところで、行き倒れてたんで?」
「……黙秘するである」
「ウッドマンさん? ……撒き餌ってご存知ですか?」
「島流しにされたのである!!」
もはや食い気味に答えたウッドマン。最初から、素直に答えとけばよかったのに。
「島流しって、舵のきかない船に括り付けて海に流す処刑でしたっけ?」
素朴な疑問をギン兄に聞いてみるとあっさり答えてくれた。
「そうっすね、随分古典的な処刑方法ですけどね」
「仕方ないんで、もう一回流しますか?」
さらっとキン兄がとんでもない事を言った気がしたけど誰も突っ込まなかった。だって、冗談に聞こえなかったからねっ!!
「まぁ、こんな事で怒っても仕方ないんで、オレは釣りでも仕直しますぜ。ウッドマンさんも“邪魔“にならない様に、どこへでも行っていいですぜ」
そう言い残すと釣りをしに戻って行った。
キン兄の姿が遠くなると、緊張の糸がとけて、三人で身体中の空気が抜けるんじゃないかというくらい、息をはく。
「いやー、久々に怒った兄貴をみたっすね。オレ、心臓止まるかと思ったすね」
「本当に、キン兄怖かったぁ……」
「でも、まだいい方っすよ。刃物が飛ばなかっただけ」
「……」
もう二度とキン兄を怒らせない! 心に誓った。
「あの〜……」
「えーと、ウッドマンさん、でしたっけ? とりあえず無事みたいでよかったです」
「どうやら、漂流して海鳥に襲われていた所を頂いたようで、感謝である」
そういうとウッドマンさんが深々と頭を下げて御礼を言った。
「いえいえ、そんな当然のことをしただけで」
なんて、些細な会話をしていると間に割り込むようにギン兄が入ってきた。私を背に隠す形でウッドマンを睨みつけた。
おや……なんか、かばわれて、る?
体勢が、まるでヒロインを庇う勇者みたいになっている。
「アンタ島流しにされた、って言ってたっすけど、犯罪者ってことっすよね」
ギン兄が何を言ってるのか最初はわからなかったが、よくよく考えればなるほど、そうか! あんまりに、ウッドマンさんが間抜けすぎて危機感なんて持ってなかったけど、“島流し=犯罪者“なのかぁ……。でも、この人あんまり悪そうな人には見えないんだけどなぁ。
「ごっ、誤解である! ……確かに島流しになったであるが、吾輩何もしていないのである!! 話を聞いて欲しいのである!!」
それでも警戒心を解かないギン兄。
「吾輩、先程も言ったように、王立研究所で精霊学の研究をしていたのである」
一歩下がった砂浜に座りなおし、彼は事の経緯を語る。
「近年、精霊の魔物化による魔物が、世界中で増えている傾向にあるのである。
王立研究所では、原因は魔道具が増えたことによる世界の魔力不足を唱えたのである」
魔道具とは、精霊石を使った家電製品みたいなものだ。確かに、ゲームでも魔力不足の説明でそんな話があった。それ以外にも各国で秘密裏に製造されている、魔導兵器なんかも原因だったりしたけど……。
「しかし、吾輩はそれは違うと思うのである!
そもそも、魔力というのは流れがあるとされているのである。人から精霊へ、精霊から大地へ、大地から人へと流れているとされているのである。しかし、精霊石は大地の力。これに人が魔力を流すことによって、人間から精霊へ流れる筈の魔力が不足し、これにより精霊の魔力が不足した事から魔物化へと変質すると学会で発表されたのである!!」
ゲームの設定をおさらいしている気分で、話を右から左に聞き流す。
ギン兄は、言ってる事の半分も理解できてないようだった。
講義に熱が入ったのか、突然立ち上がるウッドマン。
勢いに乗った彼の話はまだ続く。
「しかしながら! 吾輩は、この説は間違いだと学会に異議申し立てをしたのである! そもそも、この魔力の流れについては昔から疑問を抱いていたのである。精霊への魔力が人からだけだったとしたら、多くの精霊は、人がいない様な秘境などの自然界に多く存在している事に、矛盾が生じるのである。ならば、精霊はあくまで人間と同じく大地からの魔力供給を行っていると考えるのが自然なのである! で、あるとするならば精霊の魔力不足は、大地に存在する魔力量の急激な減少が考えられるのである! だが、コレが原因とするには大地の魔力濃度は過去のデータを見ても」
「待った!! もうオレ、あんたが何言ってるか、訳分かんないっすね……」
限界だったようでギン兄がウッドマンさんの話を無理矢理止めた。
「しまったのである。つい熱が入りすぎたのである」
「で、つまりはアンタは犯罪者じゃないんすね?」
「ちっ違うのである!! ただ、自分の説を主張したら異端者として……海に、流されたのである……」そう言うとしなびた草みたいに元気をなくす。よっぽどショックだったんだろう。
どうやら、ウッドマンさんは学会の発表に納得がいかず反発したら島流しにされたと。
なんだか気の毒のような気もするが、あの熱量を見ると学会の人も色々あったんだろうとか思ってしまう。ただ、島流しにするのはやりすぎだとは思うけどね。
「どうでもいいっすね。そんな学者たちの小難しい話は、オレ達には関係ないっすね」
とりあえず警戒心を解いたギン兄が、さも興味が失せたと言わんばかりに砂で山を作り始めた。ただ、私には今のウッドマンさんの言葉で気になる事があった。
「精霊の魔物化の原因が魔力不足によるもじゃないと考えられるって事ですか?」
それが本当なら大事件だ!
だって、ゲームでは魔力不足による精霊の魔物化が原因で、主人公はヒロインの神子達と一緒に世界を元に戻すために旅に出るのだ。大精霊が祀られるダンジョンを廻り、祈りによって精霊への魔力を充す。
しかし、セレナイト様やエルフの妨害によってそれが困難になる。
色々あり結果、精霊の世界を切り離す事によって人が魔物の脅威から解放されるのだ。
でも
もし、もしも設定が間違っていたら?
魔力不足が原因じゃなかったら……
もしかして他の解決方法があるのでは?
そしたら、セレナイト様が殺されてしまうエンディングを回避できるのでは?
頭の中でその考えがぐるぐる回っている。
正直な話、エルフの国からセレナイト様を連れ出しても、解決にはならない。だって、ゲーム通りに進めば、最後は、エルフも精霊もこの世界から消えてしまうのだから。
本当にセレナイト様を助けたいのであれば、主人公一行を抹殺するか、人間を滅ぼすしかないのだ。
でも、それ以外の選択肢があるのであれば知りたい!
ーーー“それがたとえこの世界を壊す事になっても!!”
ウッドマンさん遂に出せました。
自分でキャラを作成してる段階からお気に入りのウッドマンさん!
ついでに一番名前をつけるのに悩んだウッドマンさん!!
次回も大活躍(?)のウッドマンさん!!!
どうぞよろしくお願いします。
彼が喋ると大体、長文です。
20.11.19 加筆修正
20.12.4サブタイトルを変えました
21.1.15 加筆修正




