14話:姫琉とお金
通貨の説明の話です。
明日の朝、ヨーデルカリブ港へと出発することが決まり各々準備をすることになった。
もちろん、私も長旅用に色々準備をするため買い出しに。
ちなみに、お金はないのでカルサイトに借りました!
そんなこんなで、キンとギンとでニャポリで一番大きな通りにやってきた。
ここの通りを“繊維通り”というらしい。入り口に大きなゲートがあり、左右には反物やアクセサリーを出した屋台がずらりと並んでいた。
それに、何処のお店も人がたくさんいてごった返していて、その様子はお祭りの縁日のようにも見えた。
「お祭りみたいでワクワクしますね!」
初めて見るゲームのような街並みにおもわず興奮してしまう。一見、西洋風の街並みだが見た事ない文字の看板、武器や防具が普通に店先に陳列されていて、ゲームならではのデザインをした服などが通りにたくさん並んでいる。コレは見てるだけでも楽しいのではとワクワクが止まらない。
「ワクワクするのは構いっすが、目的を見失わない様にくださいっすね!」
「ギン、それ自分にも言い聞かせるんですぜ……。ヒメル嬢、こいつは前回この街に来た時に仕入れすっぽかして、自分の買い物して散々怒られたんですぜ。それに」
「わーわー!! そんな昔の話しなくていいじゃないっすか!!」
ギンがまだ話を続けようとしたキンを慌てて止める。話の流れ的に、昔の失敗談を知られたくないのだろう。一応、兄貴分としてのプライドを保ちたいのだろうが、あまり興味はない。道端でギャアギャアと戯れる二人を気にも留めず、カルサイトから借りた、がま口の中を確認した。
「……ん?」
『とりあえず、この街ならこれだけあれば足りるだろ』と苦々しい顔で渡されたがま口の中を見て、思わず固まった。
「どうかしたっすか? 金でも落としたんすか?」
「ギン兄……」
兄貴と呼ぶのに若干の抵抗があるので兄と呼ぶことにした。だって、なんか舎弟っぽい感じがしない? 実際はそうなのかもしれないけどなんか嫌……気分的に。
ってなわけで、キン兄とギン兄と呼ぶことにした。
ついでだが、カルサイトをスモモちゃんと呼んだら『二度と金を貸さん』と言われてしまったので、カルサイトもしくは隊長と呼ぶことになった。
そんなどうでもいいことは置いといて、問題は……。
「このお金見たことない、です……」
がま口の中に入っていたのは、500円玉より少し大きくて分厚い銅の硬貨が数枚とそれより少し小さい銀のお金が数枚入っていた。
片面には、風の大精霊シルフが彫られていて、もう反対側には風の国イケシカの紋章が刻まれている。どこにも金額の表記がない。
「この世界のお金って、紙のお金で、光の精霊がデザインされた物じゃないんですか?」
ゲームで出てきたお金は、紙のお金だった……気がする……。
ぶっちゃけ、アイテム選べば勝手に支払われるので記憶は定かじゃないが…。
攻略本の後ろの方の設定で見たような……もっとしっかり読んでおけばよかった。
セレナイト様の設定以外パラパラっとしか読んで無かったからなぁ。
「あぁ、ヒメル嬢が知ってるのは、きっとルーメン教が発行してるルーメン紙幣ですぜ」
「逆にオレたちはあんまり使わないっすね」
「もしかして……国ごとで通貨が違うの?」
普通に考えれば当たり前かもしれないが、ゲームの中でいちいち両替なんかしてられない。ここがゲームの世界なら全部一緒だと思っていた。
「そんなことはないですぜ。ルーメン紙幣もちゃんと使えますぜ」
「あ、そうなんだ? ちなみにこの硬貨には金額が表記されてないんだけどこれっていくらなの?」
がま口に入っていた銅でできた硬貨を見せながら聞いた。
「大銅貨は一枚10テルですぜ。ちなみに小銀貨は一枚200テル」
「兄貴兄貴、これは最初から説明した方が良さそうっすね」
ちょっとわかんないって顔をしてたらギン兄が気をきかせてくれ、繊維通りを少し離れたところで講義が始まった。
はじめてのお金の使い方初級編と言ったとこだろうか。
「はじめにこの世界の通貨単位は世界共通でテルと言う通貨単位で統一してますぜ!
これは、ルーメン紙幣でも変わらないですぜ」
「で、ヒメルが初めて見る? この硬貨をシルフ硬貨というっす! ちなみに光の国とエルフの国以外はそれぞれの国で硬貨を発行してるっす。それぞれ表面が国の紋章。裏面がその国に祀られた大精霊が彫られてるっすね」
「硬貨の種類は現在全部で五種類。小銅貨、大銅貨、小銀貨、大銀貨、金貨の五種類ですぜ」
「小銅貨四枚で大銅貨一枚分、大銅貨二十枚で大体小銀貨一枚分、小銀貨二十枚で大銀貨一枚分、大銀貨が三十枚で金貨一枚分っすね」
すでについていけないって顔をしていたら「まだまだこんなもんじゃなですぜ」とキン兄が爽やかな笑顔で言ってきた。なぜだろう……彼からSっ気を感じる。
「ちなみにこの小銅貨は単品では使えないっすね。補助硬貨なんで通貨単位もつかないんすね」
「ギン、その話はまた今度にしますぜ、ヒメル嬢がついてこれてないですぜ」
理解力が乏しい自分が情けなく感じる。
そして改めて思う! 日本のお金ってすごいな! なんて現実逃避めいたことを考えていると次の講義が始まる。
ストーリーのスキップ機能か、簡単な初めてのお使いチュートリアルの機能が欲しいと切に願う。
(……そんな事言ってもどうにもならないんで、大人しく話を聞きますよ。理解できるかは別として……)
「それぞれの硬貨一枚あたりの値段が、大銅貨が10テル、小銀貨が200テル、大銀貨が4,000テル、金貨が120,000テルですぜ」
「親切なお店の値札には、テル表記の他に、硬貨の枚数が書いてある店もあるっすから、わからなければそれを見れば大丈夫っすよ!」
完璧考えることをやめていたヒメルに救いの手を差し伸べるギン兄。ギン兄の背に後光が見える。
「稀に、馬鹿な客から金をせしめようと違うことを書いてる店もありますから、しっかり覚えた方がいいですぜ」トドメを刺しにかかってくる。この双子、顔はそっくりなのに性格がまるで違う。
「しっかり……覚えます」
今、とっても日本が恋しくなってます。
ここについた時のワクワク感はとうに消え失せていた。
「まだ、買い物をしてないのに……」
20.11.18誤字修正、加筆修正
21.7.10 加筆修正
金額表記間違い訂正
金貨1枚12万テル→120,000テル




