表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/5

第2話:うだるひだまり亭と、天才開発者のこだわり

街への移動中、ミリーにずっとお姫様抱っこ(狐だけど)されていました。


おっとりしていて、お日様みたいに温かくて、最高の女の子に拾われたなぁ……なんて天国気分に浸っていたんです。


ええ、彼女が「良かれと思って」あの行動に出るまでは。


外はうだるような真夏日。一歩間違えれば干からびそうな僕が、お店で目撃した光景とは――。

「さあさあ、子狐ちゃん。私の大切なお店、『ひだまり亭』に到着ですわ〜」


ミリーの温かい両腕に抱っこされたまま森を抜けると、そこにはルミナス王国の辺境にある城下町が広がっていた。


太陽が容赦なく照りつける、うだるような真夏。全身が最高級のフカフカな毛皮で覆われている僕にとって、この暑さは完全に致命傷だった。


ぐったりしながら、ガラガラと立て付けの悪い扉をくぐって店に入る。


店内には誰の姿もなく、風も通らない空間は外と同じくらい熱気がこもっていた。


お世辞にも繁盛しているとは言えない、ひっそりとした雰囲気だ。


「あらあら、ルクスちゃん、暑さでバテてしまっていますわねぇ。今、涼しくしてあげますわよ」


ミリーはおっとりと微笑むと、僕をそっとカウンターの椅子に降ろした。


そして、さっき魔獣を倒した例の大きな木製のおぼんを両手で構えると――。


ビュオォォォォォッ!!!


「はい、涼しくなぁれ〜」


なんと、おっとりした動作のまま、おぼんを凄まじい速度でブンブンと振り回して暴風を巻き起こしたのだ。


(涼しいっていうか風圧で吹き飛ぶわ大気圏突入するかと思ったわ!! やっぱりこの子、フィジカルが規格外すぎる……!)


僕が風圧で毛並みをボサボサにしながら呆然と固まっていると、ミリーがふふっと優しく笑って、僕の頭をそっと撫でてくれた。


「そういえば、まだお名前を決めていませんでしたわね。……そうですわ! あなたのその綺麗な白い毛並み、まるでキラキラ輝く光みたいです。……【ルクス】というのはどうかしら? 私たちの街の言葉で『光』という意味なんですのよぅ」


「きゅぅ……!」


ルクス。


前世ではただの型番や仕様書ばかりを見ていた僕に、こんなに温かくて素敵な名前をくれた。

嬉しくてミリーの手に頭を擦り付けると、彼女は嬉しそうに目を細めた。


「気に入ってくれたみたいでよかったですわ、ルクスちゃん。では、お名前もお祝いして、今、お料理を運んできますわね」


ミリーはパタパタと奥の厨房へ向かい、すぐに料理を運んできてくれた。


「お待たせいたしました。さっきの森で捕れた猪のお肉を使った特製スープと、少し硬いですけれど麦のパンですわ。たくさん食べて、元気を出してくださいね」


「きゅぅ!」


お腹がペコペコだった僕は、さっそくスープをペロリと舐めてみた。


(……美味しい。味付けのセンスは本当に抜群だ。だけど……)


スープは中途半端にぬるく、中に入っているお肉からは、ほんの少しだけ酸っぱい匂いがしていた。

ミリーの腕が悪いわけじゃない。

これは明らかに「食材の保存状態」の問題だ。


不思議に思った僕は、椅子の背もたれを駆け上がり、カウンター越しに厨房の様子を覗き込んだ。


そこにあったのは、食材を入れるための大きな木箱。


中を覗くと、この夏の暑さのせいで、肉や野菜が今にも傷んで腐りそうになっていた。


「お料理、お口に合いませんでしたかしら……? ごめんなさいねぇ。夏場はすぐに食材が痛んでしまうのです。毎日氷を買いに行くお金もありませんし、この国の夏は、お野菜やお肉を長持ちさせるのがとっても難しいんですの」


ミリーが困ったように眉を下げて、傷みかけた食材を悲しそうに見つめる。


(ん?待てよ…?なるほど……この世界には『人工的に空間を冷やす』という概念がないんだ……!)


元・天才家電開発者としての僕の血が、一瞬で沸騰した。


食材を腐らせない適切な温度で管理する。地球では当たり前の『冷蔵庫』が、この世界には存在しないのだ。


そのせいで、ミリーは毎日苦労して、せっかくの美味しい食材を台無しにされていた。


(許せん……こんな不便な世界、絶対に僕が変えてやる!)


前世で冷え切った部屋で孤独に死んでいった僕を、あの温かい手で救ってくれたミリー。


彼女の困り顔を笑顔に変えるためなら、僕の知識なんていくらでも使ってやる。


幸い、この世界には『魔力』という、地球の『電気』に代わる素晴らしいエネルギーがあるらしい。

だったら話は簡単だ。


僕の頭の中にある地球の冷蔵庫の仕組み(インバーター制御や断熱構造)と、この世界の魔力を組み合わせれば――。


(食材をいつでもキンキンに冷やして新鮮なまま保存できる、世界初の『魔力式冷蔵庫』を作ってみせる!)


ルクスは、ぬるいスープを前に、心の中で熱くエンジニアの炎を燃え上がらせるのだった。


第2話をお読みいただきありがとうございました!


ミリーのおっとり(?)ダイナミックな扇風機代わりの怪力と、夏の深刻な食材問題が発覚しました。


次回、ちっちゃな子狐が初めての家電『魔力式冷蔵庫』の開発に挑みます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ