第1話:おっとり看板娘は、おぼんと包丁で魔獣を狩る
はじめまして!
大手家電メーカーで新製品の開発をしていた僕ですが、過労で倒れたと思ったら、なんと異世界で「子狐の聖獣」に転生してしまいました。
第1話のスタートを前に、僕の初期スペックを開発メモ風にまとめておきます!
【ルクス魔導工房・初期ステータス&能力メモ】
・開発者:ルクス (元・地球の天才家電エンジニア
現・子狐の聖獣)
・ 脳内データベース:地球のあらゆる家電製品・生活インフラの設計図、及び技術仕様書。
・ 初期スキル:
『鑑定解析』:あらゆる物質の構造や魔力の流れを完全に把握する。
『魔力付与』:ガラクタに地球の概念(魔法) を定着させる。※女神様のやらかしにより、効果がなぜか
【通常の300倍】 に跳ね上がるバグ持ち。
・現在の目標:行き倒れた僕を拾ってくれた、辺境の定食屋『ひだまり亭」の優しすぎる母娘を助けること!
それでは、もふもふ子狐ルクスの異世界家電チートライフ、始まります!
「きゅ、きゅぅ……?」
情けない声が、静かな森に響く。
自分の視線が、やけに地面に近い。おかしいなと思って足元を見ると、そこにあったのは人間の手足ではなく、真っ白で小さな、肉球のついた四本足だった。
(本当に、子狐になっちゃったんだな……)
前世の記憶を抱えたまま、僕はよちよちと歩き出そうとする。
けれど、四本足の動かし方がさっぱりわからない。おまけに、後ろについている自分のフカフカで大きな尻尾にぐいっと引っ張られ、バランスを崩してそのまま草むらをゴロゴロと転がってしまった。
「きゅんっ!?」
目を回していると、ぐぅー、と小さなお腹の音が鳴る。
まずは人里を探して、何か食べないと……
そう思った、その時だった。
ガサッ、ガサガサ、と前方の茂みが大きく揺れた。
「ガルルルル……!」
地響きのような低い唸り声。
現れたのは、イノシシを数倍大きくしたような、真っ赤な目を持つ恐ろしい魔獣だった。その鋭い牙は、掌サイズの僕なんて一噛みで噛み砕いてしまいそうだ。
(嘘だろ……転生して三分で、もう人生二度目の終了のお知らせか!?)
すくんで動けない僕。魔獣が大きく口を開け、こちらへ飛びかかってくる――。
僕は覚悟を決めて、ぎゅっと目を瞑った。
「――あらあら、だめですよ。その可愛い子狐ちゃんに、意地悪をしてはいけませんわ」
その時、森の奥から、おっとりとした、けれどどこか凛とした女の子の声が響いた。
キィィィンッ!!
金属が激しくぶつかり合う、鋭い音が響き渡る。
恐ろせる恐る目を開けると、僕の前には一人の少女が立ちはだかっていた。
栗色のふわふわとした髪を揺らし、フリルのついたエプロンドレスを身にまとった少女。守ってあげたくなるような、おっとりとした箱入り娘の彼女の両手には――なぜか、大きな木製のおぼんと、ピカピカに研ぎ澄まされた出刃包丁が握られていた。
「はいっ、そこまでですわ〜っ」
少女はおっとりした動作からは想像もつかない見事な身のこなしで、魔獣の突進を盾のようにおぼんで『カンッ!』と弾き返すと、目にも留まらぬ速さで包丁を振るい、魔獣の牙を叩き折った。
「ギャンッ!?」
武器を失った魔獣は、少女の(主に包丁の)凄まじい技量に完全に怯え、一目散に森の奥へと逃げ帰っていった。
「ふぅ……あぶないところでしたわねぇ。お父様直伝の包丁捌き、なまっていなくてよかったですわ」
ほっと上品に息をつくと、少女は包丁とおぼんを器用に背後に隠し、足元で固まっている僕のほうを振り返った。
その瞬間、彼女の大きな瞳がパッと輝く。
「……まぁ! なんて可愛らしいのかしら……!」
少女はふわっとスカートを翻してしゃがみ込むと、僕をそっと両手で掬い上げた。
その手はとても温かくて、なんだか、お日様のような匂いがした。
「真っ白で、ふわふわ、もふもふ……ケガはありませんか? お腹が空いているのねぇ?」
彼女は僕を愛おしそうに胸にぎゅっと抱きしめる。
前世で冷え切った、陽の当たらない部屋で孤独に死んでいった僕の心に、彼女の温もりがじんわりと染み込んでいく。
(……決めた。僕、この優しい女の子に一生ついていく!)
こうして、僕とミリーの、不思議な共同生活が始まったのだった。
ミリーとおぼんと包丁、そして子狐の出会いのお話でした。
子狐「前世では最新の4Kテレビとか開発してたんですけどね。まさか次の人生での最初のミッションが『4本足での正しい歩行』になるとは思いませんでした。…肉球、滑る。」
次回からはいよいよミリーのお店へ移動。
ついにミリーの定食屋『ひだまり亭』に到着!
ですが、出されたご飯はカピカピ、スープは冷え冷え……?
不便すぎる異世界の食卓を前に、元・天才開発者の血が騒ぎます!
お楽しみに!




