大切なのは楽しむこと
沙也加とたぬきちは、サービスエリア、その店内の食堂に来ていた。
生物なら、誰しも切っても切り離せない、生きること≒食べること。
三大欲求である、食欲に訴えかける作戦を決行していた。
とはいえ、他の人の目がある。
しかも、夏休み。
ごった返すほどではないが、人の目につかないように動くことは困難だった。
たぬきちの手を引きながらも、沙也加はそこに一抹の不安を抱いていた。
けれど、
「もの凄く……楽しんでる……」
目の前のシゴデキたぬきは、全く気にすることなく、沙也加とお揃いの黄色にクローバーが描かれたTシャツと短パン姿で、食券機を食い入るように見つめては、その後ろにあった名物の黒豆ソフトの看板に目を輝かせていた。
このたぬき、黒豆がとても大好きなのである。
黒豆といっても、推しであるレッサー君が食べていた黒豆大福が一番で、他は二番だったりする。
要は、かなりミーハーなのだ。
が、今はそんなことどうでもいい。
「あれ……?」
(周囲の人がたぬきちを目にしても騒いでいない?!)
そうなのである。
服を着たたぬきがサービスエリアをウロウロしているというのに、少し目を引くことはあっても、騒ぎになるほどではなかったのだ。
その理由は――。
――ピッ。
「レッサー君の存在は偉大ポンね」
スマホをかざし、QRコード決済を済ませたたぬきちが言うように、平民姿・甲冑姿・着物姿など、色々な格好をしたレッサー君の着ぐるみがあちこちにいたのだ。
もはや、洋服を着たたぬきが店内に一匹いたところで、誰も違和感に思わないほどに。
とんでもない幸運である。
(もしかして、前もってコラボとか知っていたとか……)
怪しむ沙也加の視線に気付いたようで、たぬきちはスッと振り返ると、含み笑いをした。
「ククク……クキュ♪」
「あ、その顔! 絶対、わかっていたでしょ! レッサー君とのコラボがあるって」
「当たり前ポン♪ 何事も下調べと準備が肝心ポン。それに――」
「それに?」
「推しのことポン! ちゃんと追うのが真のファンポン!」
たぬきちは、食券を持ってふんず! 鼻息を鳴らしながら胸を張った。
「いや……たぬきちさん。さすがに人間っぽ過ぎるというかなんというか……」
「しーっ! 余計なことは言っちゃダメポン! 人間っぽいとか言ったら、バレちゃうかも知れないポン!」
言ったのはいいが、人間っぽ過ぎるからこそ、バレないような気がして、
(この状況……絶対バレないよね……?)
本音を口にしかけた沙也加であったが、ほぼ完璧なのにどこか抜けているその姿が愛らしくなって、
「うんうん! そうかも知れないね! じゃあ、私たちは抜き足差し足忍び足で、周囲に気を配りながら、満喫しよ♪」
その場の雰囲気に全力で乗ることにした。
そして、レッサー君の真似をする周囲の子供たちに混ざって、両手を胸元に構え、こそこそと忍び足を始めた。
郷に入れば郷に従え――沙也加がたぬきちを見て、大切だと思った考えである。
大切なのは、その場にいる人たちと同じものを共有し、心から楽しむこと。
(だよね? たぬきち♪)
その想いが通じたのか、たぬきちは沙也加に近づいて、
「クキュ♪ もう少し腰を落とすポン!」
尻尾をゆらゆら揺らしながら、食券片手にレクチャーをし始めたのだった。




