↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
90/101

前途多難な旅の始まり

 沙也加の策略が明らかになった翌日。

 

 沙也加とたぬきちが住まうマンションから、徒歩二十分。

 駅前の商店街を抜けた先にあるレンタカーショップに、一人と一匹は来ていた。

  

「――江ノ上様が予約されたのは、4シーターのスポーツタイプのお車で間違いありませんか?」

「は、はい! そちらで間違いないです!」


 オウム返ししたが、沙也加は不思議に思っていた。


 スポーツタイプ? 車にスポーツタイプなんてあったっけ? 車は車であって、あとは乗車人数しか違いがない。 それなのに、スポーツタイプ……それは一体なんの話なのかと。


(……って今更聞けないし)


 聞いたところで、別に選択肢が変わるわけではない。

 2人乗りは、たぬきちのペットケージを入れただけで、いっぱいいっぱいになる。


 かと言って、5人乗り以上になると、スペースを持て余すし、車幅が大きく不安でしかない。

 

(う、うん! 問題なし!)


 カタログを見る限り、ハイブリッドとかいう燃費性能もいいエンジンらしい。


 けれど、


(なんか、凄く目が鋭いような……)


 目=ライトである。

 車に詳しくない――もとい、興味のない沙也加は、ライト部分のことを目と呼んでいた。


 それはそれとして、やはり知っている車とは、実家で見たような四角い車とは違う。


 風を切って走りそうなフォルムにも見える。


(もしかして、間違ったのかな……?)


 不安に思いながら、沙也加はふと隣のペットカートで伏せ状態のたぬきちに視線を向けた。


 だが、これは沙也加の内なる声。

 当然、たぬきちに届くはずもない。

 沙也加は、そう思っていた。


「ギャッ!」


 届いたのか、届いていないのか。

 たぬきちは一声鳴いただけだった。


 普段の沙也加であれば、三年という月日――偉大なるマンネリ化現象で、察することができたのだが、今に至っては違う。


 いわゆる初めてのおつかい状態なのだ。

 当然、冷静な判断などできるわけもなくて、


「うんうん! たぬきちも賛成だよね!」


 心なしか眉間にシワを寄せるたぬきちに微笑み返した。


「承知致しました! では、こちらで契約となりますので、印鑑と2箇所と免許証のコピーを頂きますね!」

「わかりました!」


 沙也加は無駄にハキハキとした口調でそう返すと、手続きを済ませたのであった。

 

 


 ☆☆☆

 



 レンタルカーショップの敷地内。

 沙也加は手続きを終わらせて、スポーツタイプの車に乗車していた。 


「あの〜……すみません」

「はい? どうかされましたか?」

「あ、いえ。その――」

「あー、なるほど! 高速道路に向かいたいのですね! 右手に出れば、国道に出ますので――」

「い、いえ……そうではなくてですね――」

 

 スポーツタイプの車に初めて乗った沙也加は、もう何が何かわからないでいた。


 ひと通り説明は受けた。

 保険の説明から、ペットは極力ケージから出さないこと。出す場合は後部座席でペット用シートベルトを使用すること。

 そしてエンジンのON/OFF、アクセルやブレーキ、シフトレバーの操作、さらには乗車時に便利な機能まで。


 もちろん道についても、事前にルートを確認済みであった。

 それでも不安だったので、乗車した時に念の為、ナビに入れた。


 だが、 


(な、なに……この車……)


 沙也加は改めて見て触れて思った。


 確かにこれも聞いた。

 色んなモードがあるので、楽しいと。

 しかし、シフトレバーの近くにはドライブモードとやらを選ぶスイッチ、さらには少しアクセルを踏むだけで鳴る低いエンジン音である。

 実家で乗った四角い4人乗りの車とは全く違って、沙也加は見たことも触れたこともない機能の数々に、パニックを引き起こしていたのだ。


(いや、待って――)


 よくよく考えたら、4人乗りだというのに、5人乗りとのレンタル金額とそこまで変わらなかったような……というか、先程たぬきちにお伺いを立てた時、少し機嫌の悪い鳴き声だった気もする。


 けれど、契約はもう済んでいるのだ。


(ここで変えたいって、さすがにね)


 取引先と契約する大変さを思い浮かべて、喉元まできた言葉をグッと飲み込む。


 そして、恐る恐る足を動かしたその瞬間――。


 ――キキッ!


「――グエッ」


 慣れないことに加え、考え事までしていたせいであろう、アクセルではなく、急ブレーキを踏み、さらにはカエルが潰れたような情けない声を漏らした。


 実にダメダメなご主人様である。


 これが道路であったら大惨事だ。

 だが、それを大惨事にしないのが、沙也加が沙也加である所以でもあるのかもしれない。

  

「あの、江ノ上様……そちらはブレーキです」

「えっ?! あ、はい! 大丈夫です! わかっていますから――」


 そう言うと沙也加は、右足をブレーキからアクセルに乗せた。


 ――ブロロロッ。


「ほ、ほら! だ、大丈夫でしょう?」

「は、はぁ……」

「と、とにかく、大丈夫ですので〜! では〜!」


 ――ブロロロッ。


 沙也加は、冷や汗をかきながら、制止しようとする店員を半ば振り切るように車を走らせた。


 だが、それがシゴデキたぬきの琴線に触れたのだろう、たぬきちは後部座席から異議を唱えた。

  

「ギャギャッ!」

「もう怒んないでよぉ〜! たぬきちぃ〜」


 こうして、前途多難な一人と一匹の旅々は始まったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。