大いなる進化
「ちょっと待つポン……さっき聞いたって言ったポン?」
そうなのだ。
沙也加は、最近の車のことを知ったでもなく、見たでもなく、聞いたと答えた。
さらには、何かを隠しているかのような態度である。
そこから導き出される答えは――。
(もう、予約しているポンね……これは)
旅行を提案してきた時点で、レンタカーも旅館も、きっと全部予約済みに違いない。
「――あは、あはは〜! やっぱりたぬきちのご飯は美味しいな〜!」
それを証明するように、笑って誤魔化しては麺を啜る始末である。
(下手くそポン……)
誤魔化すなら、もっと方法があっただろうに。
そんな言葉を掛けようとしたが、
「ポン……」
ゴミ屋敷生成型の自堕落なOLだった沙也加が、会社以外のことで、自分から外に出たいと願う。
それだけでも、大いなる進化。
だというのに、旅行まで計画し、全ての手配を済ませている。
それは控えめに言って――。
「クキュ♪ いいことポンね」
尻尾が揺れ、思わず笑みがこぼれるほどに。
だが、目の前の沙也加には、どうやらたぬきちの気持ちは、通じていないようで、
「あの、その……先に言えば良かったんだけどね。もう予約してるの! ごめん! たぬきちっ!」
モジモジしてからの、バッと立ち上がって頭を勢いよく下げた。
(ご主人ってば、本当に困った人ポン)
進化しても、どれだけ時を重ねても、真っ直ぐでどこか抜けている。
だからこそ、
「クキュ♪ ま・さ・か……隠せると思ってたポンか? まだまだポンね♪」
まだまだ――まだまだ一緒に歩いていきたいと思う。
「えっ?! なになに?! もしかして全部バレていたの……?」
「当たり前ポン♪ そもそも隠すなら、話す言葉を選ばないとダメポン! 特に聞いた、見たみたいな五感に関わる話は危ないポン! 鋭い人にはバレてしまうポンからね!」
さりげなく自分を鋭い人カテゴリー分類するたぬきちである。
そこは"人"ではなく、"たぬき"なのだが。
「た、確かに……」
けれど、たぬきちの教えに沙也加は感心するように頷いた。
(これじゃ、どっちがご主人かわかんないポンね)
「クキュ♪」
どれだけ経っても変わらない関係に小さく鳴き声を漏らすたぬきちであった。




