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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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避けられない事実に打ちひしがれて。


 郵便物放置事件から、一週間後の土曜日。

 

 良き理解者である幸恵と、愛すべきご主人である沙也加に諭され詰められた結果。


 たぬきちは、沙也加と一緒に病院へ行くことになっていた。


 ちなみに、ネットで確認した病院の空き状況的には、話し合った次の日――日曜日でも、行くことはできたのだが、そこは月曜日に向けて精神統一する日。


 沙也加が首を縦に振ることはなかった。


 なんともブレないOLである。 


「クキュ……」


 住んでいるマンションのエレベーターの中、たぬきちは声を漏らした。


 色々と思うことはある。

 けれど、こうなってしまってはもうあとに戻ることはできない。

 武士が出陣するかの如し。

 終わったあとの祝杯を想像するだけ。


 だが――。


(やっぱり、この扱いにだけは物を申したいポン!)


 ひんやり冷たいメッシュ生地のクッションに顎を乗せながら、鼻息を鳴らすたぬきち。


 それは黄緑色をしたベビーカーならぬ、ペットカートの上であった。

 

 直射日光を防ぐ為に伸び縮み式の屋根が、犬や猫が脱水症状に陥らないように、500ミリリットルのペットボトルが嵌められる給水フォルダーまでついている、なんとも高機能な物である。


 確かにものは良い。

 それに目的地は動物園やスーパー、そして住まい周辺と違って、動物病院だ。

 

 行くのは、その飼い主と動物、または病院の関係者だけ――そんな場所に歩いて向かうなんてリスクしかない。


 全て理解している。


 しかし、何も服まで着させる必要はあったのかとご不満を申し上げていたのだ。


 その服装とは――。


 フリフリのフリルが付いたスカーフ、黄色に黄緑色のクローバーが刺繍された中型犬用の服であった。


「んふふ♪ たぬきち似合っているね♪ ものすごーく可愛い!」


 ご不満だらけのたぬきちに対して、なんだかとても満足げな沙也加である。


「ギャギャッ!」

「ふふっ♪ 鳴き声だけで会話とかなんだか、出逢った頃みたいだね! って、毎年、この時期がきたらしているんだけど」

「……ギャッ」


 遺憾の意を込めた、ひと鳴きで訴えかけるたぬきち。


 これならいっそのこと、着ぐるみとして、堂々と二足歩行した方がいいような気もする。


 しかし、そうなると病院でワクチンを接種することができなくなる。


(接種しなくていいなら、したくないポン……でも――)


 そうはいかないのが、哺乳綱食肉目イヌ科タヌキ属、学術名、ニュクテレウテス・プロキオニデスイヌ科――たぬきち。


 いくら喋ることができても、いくら炊事洗濯家事、日曜大工に裁縫ができたとしても、たとえ二足歩行でなに不自由なく過ごすことができたとしても、彼はたぬきなのである。


「クキュ……」


 避けられない事実に打ちひしがれるたぬきちであった。

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