やはりたぬき≒たぬきちは凄い。
そんなこんなで、二時間ほど経過した頃。
たぬきちの介抱のおかげで、すっかり回復した沙也加は、そのたぬきちと膝をつけ合わせて、彼のお手製、練乳と小豆、抹茶をこれでもかと盛った特製宇治金時のかき氷を食べていた。
「んっまいーーーーー!!! 氷はフワフワで口溶け滑らか、小豆はほんのり塩が効いていて、しつこくない! そこにほろ苦い抹茶と濃厚な練乳……もうここで果てていいっ! 痛――っ」
時折、走るアイスクリーム頭痛に悶えながらも、子供のように、いやハムスターのように頬を膨らませて、食レポする沙也加。
食のことに(たぬきちお手製のものに限る)なると、いつにも増して、饒舌になるのだ。
一方、それを受けたたぬきちは、満更でもないようで、「クキュ♪」と喜びを噛み締めていた。
沙也加も単純だが、たぬきちも割と単純なのである。
ペットと飼い主に似てくるとはよく言ったものである。
(ちょっとしんどかったけど、たぬきち成分補給できたし、こうやってお手製のかき氷食べられたし、いい休日だな〜、ずっと続いてほしい……労働嫌だ)
天国から地獄――急に湧き出た現実に打ちひしがれていると、インターホンが鳴った。
☆☆☆
「は〜い」
一体、誰が尋ねてくるのかわからないこのご時世。
インターホン越しに返事をすればいいというのに、沙也加は特になにか確認することもなく、玄関先へと向かう。
だが、彼女には、たぬきちがついているのである。
(――っと! 出る前にたぬきちに確認っと♪)
ダイニングテーブルの横を通り過ぎたところで、そのことを思い出した沙也加はクルリと反転して、
「たぬきちさーん」
両手を口元に当て囁やきボイスを響かせた。
人間であれば拾えないほどの大きさ。
けれど、たぬきちは――たぬきなのである。
たぬきの聴力は非常に優れており、犬とほぼ同等のレベルの可聴域(約15Hz〜45,000Hz)を持っている。
そもそも野生では、昼も活動することはあれど夜行性。
普段から人間には聞き取れない高周波の音や、わずかな物音を感知できており、彼らにとって音というのは、匂いに次ぐ重要な情報源なのだ。
(本当……凄いよね。たぬきって――)
昔、調べたことを思い出して、感心する沙也加。
だが、彼女が思うたぬきはいつの間にか、たぬきち≒たぬきとなっていた。
もう世間の常識とは、完全にズレている。
そんなズレたご主人沙也加はともかく、たぬきちはその声に頷くと、ギラリとその瞳を光らせ、ぴょこんと耳を立て目を瞑る。
「クキュ!」
そしてカッと目を見開くと、スリッパを脱いで、それを小脇に抱えキッチンからダイニング、ダイニングから玄関先へと、軽やかにだが、音を立てることなく足を進め――沙也加の隣に降り立った。
その姿、まさに忍び。
(うん……たぬきってやっぱり凄い)
どうやっても、たぬき≒たぬきちから抜け出せない沙也加であった。




