疑いの目
それからしばらくして、閉園時間が近づいてきたことで、沙也加たちも、帰る流れになり、駅に向かっていた。
のだが――。
「江ノ上君、どうかしたのか?」
シゴデキ課長こと、高橋恭介は、キョロキョロとなにかを探すように周囲を見渡す沙也加のことが気になっていた。
「えっ、あっ! だ、大丈夫です!」
沙也加はそう言うと、すぐさま前に向いて先頭を歩く子供たちの元へと足を進めた。
「……そうか」
(明らかにおかしいな。ペンギンエリアに着いてから、ずっと様子がおかしい気がするな……いや、あの着ぐるみが現れた時からか?)
いつも通り歯切れの悪い犬の話をしていたかと思えば、
突然現れたたぬきの着ぐるみに駆け寄っていった。
まだそれだけなら理解できる。
沙也加は犬を飼っていて、レッサーパンダ君が好き。
動物園でも、子供たちと同じように目を輝かせていたのだから。
けれど、
(なぜあんなに子供たちと仲がいいんだ?)
恭介の数歩前では、沙也加が左手に七菜、右手に綾人という両手に花状態で、手をブンブン振りながら、たぬきの着ぐるみの話で盛り上がっている。
レッサーパンダのレッサー君という共通事項だけでは、説明できないほどの打ち解けようである。
(また、たぬきか……そもそもあのたぬきの着ぐるみ……どこかで見たような顔をしていたんだがな――いや待て……)
直後、恭介の灰色の脳が煌めく。
犬めいたマズルに、見覚えのある雑種と似た小麦色の毛並み。
その瞳は、こちらを見透かしたかのように落ち着いた雰囲気があった。
(やはり、見覚えがある……)
「江ノ上君の犬に似ている……?」
恭介はそうポツリと呟いた。
すると、隣を歩く風子が声を掛けてきた。
「どうかしましたか? 高橋さん」
「あ、いえ。あのたぬきの着ぐるみに似た犬を思い出してですね……」
自分に親くらい年上の女性が醸し出す安心感に、考えていることを吐露しそうになって、
(俺は……何を言っているんだ)
ギリギリのところで踏みとどまった。
「あはは、すみません。私の気の所為だったようです」
(本当にどうかしている。そもそも、あれは着ぐるみだ。似ているからといって、あれが江ノ上君の犬かもしれないなど、あまりにも話が飛躍し過ぎているよな……)
常識的に考えて、妄想の域である。
「うふふっ、動物って不思議ですもんね。特にたぬきとなると、昔から化かし化かされなんていいますしね。あの着ぐるみさんも、もしかしたら、本当のたぬきさんなのかもしれませんね」
「ははは……ご冗談を」
「そうね。でも、それくらいあったっておかしくないくらい子供たちは楽しそうでしたから――」
「ええ……それは同感ですね」
(俺らしくない。七菜が楽しめたならいいじゃないか。慣れないことの連続だから、疲れたのかもな。今日は早めに寝るとするか)
そう一人でにクスリと笑みを零すと、恭介は、少し前でたぬき談義に華を咲かせる沙也加たちの元へ向かった。




