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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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三年前とは別人

 一方、その頃たぬきちは――。


「――はぐっ♪」


 出店で買った、限定シャキシャキレタスとプリプリ海老がたまらないクラブサンド片手に、沙也加たちの様子を伺っていた。


 まるで張り込みをする刑事の如くである。


 けれど、もうその張り込みも終えようとしていた。


(お弁当もちゃんと渡せて、シゴデキ課長ともなんだかいい雰囲気ポン! これは、もしかすると、もしかしちゃうかも……ポンね!)


 もしかすると、意訳―ー玉の輿一直線である。


 とにかく、たぬきち的には、弁当を渡すといった当初の目的は無事達成できたし、動物園も満喫できた。


 さらには―ー。


(というか、綾人くん鋭すぎるポン……でも、まさか正体がバレてしまうとはポン……)


 相手は、感覚の鋭い子供で、初めて会った時からかなり察しの部類だった。

 全部が全部、誤魔化せはしないとは思っていた。


 だが、大人は上手く誤魔化せていた。

 だから、油断していたというのもあったのだろう。


(シゴデキたぬきとして、脇が甘かったと言わざるを得ないポン……案外、子供の方がよく見ているポンね)


 想像もしていなかった結果に尻尾を下げてしょんぼりモード。


 けれど、起こってしまったものは仕方ない。


 むちゃむちゃはむはむ――クラブサンドを頬張りながら、思考を切り替えつつ、視線の先で無邪気にはしゃぐ綾人を見つめて感心するたぬきち。


 語弊がないようにいうと、もちろん、大人もよく見ている。


 ――だが、子供ほどではないのだ。


 大人は子供と違い、長く生きてきた分、どうしても固定観念や先入観があるのである。

 

 動物園→二足歩行の動物→着ぐるみといった感じに。

 実際、彼らはたぬきちを着ぐるみと接していた。


 けれど、子供はそうはならなかった。


 動物園→二足歩行の動物→不思議な生き物→なんか凄いたぬきとなったのだ。


 それは、どうやら動物でも同じらしい。

 たぬきち自身、推しを前に理性を失って正体が漏れたのだから。


 まぁ、たぬきちが大人なのか、たぬきの成長速度に当てはめていいのかは、わからないが。


 ただ、生きてきた年月が長いと思い込みが増えるのは事実で、さらには、それを証明するように曇りなき眼で、キラキラとした瞳で「たぬきさん」や「たぬき」と話し掛けてきた。


(もしかして、年齢と察しは相関関係に……ポン?)


 そう考えたら、なんとなく辻褄が合う。


 けれど、ふとたぬきちは大好きなご主人――アラサー沙也加を見る。


(……例外もあるポン)


 彼女の場合は、察しというか、とても個性的というか、色々と違う気がしないでもないが――。


(いや、そうなるとポン……管理人さんは、幸恵さんはどうなるポン……)


 マンションの管理人である田中幸恵を挟むことで、その仮説は一度頓挫して、察しの良さにも個人差があるのだろうか? そんな疑問がたぬきちの頭にふと浮かんだ。


 ただ、それでも、色んなパターンを考慮しても、たぬきちは上手く立ち回った。

 大人の反応を利用して、あくまでも着ぐるみとして、不思議な生き物として流暢な日本語も使ってだ。


 だが、それも長くは続かなかった。


(確か……七菜ちゃんだったポンよね? レッサー君のぬいぐるみを持っているとかずるいポン!)

 

 レッサーパンダを見ている時に、チラッと目に入った“推し”のぬいぐるみに――。


 思わず、全力で反応してしまったのだ。


(あれは完全に……やっちゃったポンね)


 急な体の向き変更。

 推しを目にした高揚感。

 少しでも、いい写真を撮れるようにスマホの持つ位置を変えていた。


 この三本の矢ならぬ、この三つの偶然が重なったことで、また予想外のことが起きたのである。

 

(まさか、このボクがスマホを落とすなんてポン……)


 落とすというよりは、軽く投げるような形になって、その先にいたのが、七菜であった。


 彼女はスマホを拾うとクンクン、キョロキョロ、ペタペタ――地面を自慢の嗅覚と丸い瞳、五本の指に加え、尻尾を器用に使って、スマホを探していたたぬきちに手渡した。

 

 そして――その時、待ち受け画面を見られてしまったのである。


 ご丁寧に三年前と、今を組み合わせた沙也加とツーショットのお気に入りの待ち受け画面をだ。


 こうなってしまっては、相手は想像力豊かで察しのいい多感な時期の子供。


『たぬきさん……もしかして、さやかおねーさんとかぞくなの?』


 一応、気遣いだろう。

 目を丸くしたたぬきちに対して、七菜はコソッとそう耳打ちしてきた。

 

 けれど、たぬきという事実すら、飛び越えていきなり核心に迫ったのである。


 そこからは、察しのいい子供二人の質問攻めが、たぬきちを襲った。


 結果、雪崩のように全てを明かすことになった。


 (……あれは、どうやっても隠し通せないポン)


 であれば、気にしても仕方ない。

 それに――。


「クキュ♪」


(ご主人、凄く楽しそうポン! 大きな一歩を踏み出せて良かったポンね!)


 弁当を一人で作ることはできなかった。

 準備も直前になって大慌てだった。


 けれど、三年前と比べたら別人である。


 そのささやかでも大きな成長を前に、胸の辺りに温かなものを感じて、


(今日はお祝いポンね!)

 

 たぬきちはキュッと小さな拳を握り締め、残りのクラブサンドを勢いよく口に運ぶと、


「ご馳走様でしたポン!」


 手を合わせ、食した命と作り手に感謝しつつ、何か企みを胸に秘めた顔で、動物園を去るのだった。

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