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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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動物園を満喫するたぬき?!


(目の前に来たのはいいけど、これどうしよう……)


 家族連れや恋人たちの多い休日の動物園。

 そこに突如として、現れた日本語を話すたぬき。

 そんなものを放置するわけはなくて、すり抜けて辿り着いたというのに、ますます周囲に人だかりができていた。


(でも! たぬきちもおんなじ想いだよね!)


 沙也加の目を真っ直ぐ見つめて、一刻も早く弁当を渡したい。

 そんな願いにも似たものを飛ばしているように感じる。


 けれど、よーく見ると、


(って、あれ? もしかして……楽しんでる?)

 

 たぬきちは、それを訴えつつも、着ぐるみとして、動物園関係者として、時折「クキュ♪」というご機嫌モードをちらつかせながら、握手や写真に応じている。


(なんだろう……複雑だよ〜! いや、さすが、たぬきちって感じなんだけどさ)


 たぬきちらしい、ちゃっかりした立ち回り。

 だが胸の辺りがモヤモヤ――自分ではない、人間と仲良くする姿を目にするのは、少し嫌な感じがして、


(こんな色んな人に受け入れられたら、私、私――)


 悲しい気持ちになって、そして――。


(捨てられちゃう〜!)


 まさかの自分が捨てられてしまうという結論に至った。

 どこまでいっても、沙也加である。


 しかし、僅かだが成長はしている。


「って、そんな場合じゃなかった!」


 素早く思考を切り替えて、次の一手に出た。 


「ちょっとそこのたぬきさん! 少しいいですか? 一緒に写真を撮りたくて!」


 沙也加が打った次の一手は、周囲の人たちに馴染む作戦である。

 こうすれば、誰もたぬきちと沙也加の関係を怪しむ人も生まれない。


 せいぜい、熱狂的なファンが列を無視して駆けつけた――そう思われるくらいだろう。


(いや、それは色々とまずいような……)


 大人としてのモラルに、胸を痛めた沙也加であったが、

 駆けつけてくれたたぬきちの労力、そして弁当の為に、目を瞑ることにした。


「写真! お願いします!」


 全身全霊のお辞儀を披露して。



 ☆☆☆



「ほんと、なんでこうなっているんだろう……」


 たぬきちに手渡された風呂敷片手にボソリと呟く沙也加。


 彼女は、シゴデキ課長こと高橋恭介と、その姪っ子の七菜とともに、ペンギンエリアを抜け、気がつけばレッサーパンダのいるエリアに来ていた。


 しかも、先程の男の子と保護者である白髪交じりの女性も一緒にだ。


(って、たぬきちもいるし)


 そう、その上、たぬきちも――まるで他人のふりをするかのように、スタスタとついてきていたのである。


※なお、あくまで「関係のない動物園関係者」という体である。


 こうなってしまっては、静観するほかない。


 さらに、厄介なことに――。


「まさか、七菜と同級生だったとは――」

「……私もびっくりしました。綾人の話によく出てくる子が、こんなに可愛い娘さんだったなんて――」


 レッサーパンダに大はしゃぎしながら、一番よく見える場所を探している子供たちの後ろで、高橋課長と津田風子と名乗った白髪交じりの女性が保護者トークを繰り広げていた。


(あ、あれ? もしかして私だけ浮いている?)


 久しぶりの動物園&愛たぬきに遭遇して、気分が高まった沙也加がそう思うほどである。


 どうにもこうにも、居心地が悪い。


 けれど、レッサーパンダと言えば、たぬきちがハマっている【レッサーパンダ将軍、世渡り上手】の主人公である。

  

(やっぱり……たぬきちも楽しそうだし……)

 

 きっとたぬきちも見たかったのであろう。


 子供たちの少し後ろでは、人に囲まれつつも、モフモフの尻尾をフリフリ。

 

 その上、嬉しそうにピョンピョンと跳ねながら、レッサーパンダたちの様子を目に焼き付けようと奮起している。


(って、動物が動物を見に動物園に来るって……どういうこと?)


 沙也加以外、着ぐるみだと思っているからこその普通ではありえない光景である。


 というか――そもそも、たぬきちという存在が普通ではない。


 けれど、沙也加の日常に馴染み過ぎて、そんなことも忘れ去られていて、


「ま、まぁ……いっか♪ あはは……」


 そうポツリと呟いて、人波に身を任せた沙也加であった。

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