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第21話 異世界のお城で王と王太子と俺と酒

 エリス王女の病気がかなり回復して来たため、その日出してもらった遅い昼飯は、感謝の気持ちからか、今まで見た事もないような豪華な食事を出してもらった。前菜だけでも満足できるようなものだったのに、その後に出て来たメインディッシュの豚の丸焼きを見た瞬間、三人とも開いた口が塞がりませんでした。というか俺、実物の豚の丸焼きを見たのは生まれて初めてです。もう食べれない。晩飯いらないくらいだ。さらにデザートまで出て、お昼から本当にすごいフルコースを出されてしまいました。


「こんなすごいお食事をごちそうしていただけるなんて、カイさんのおかげですね!」


 満面の笑顔でクロエが呟く。クロエは身体が小さい割に俺と同じくらい食べていたような気がする。


「そんな事ないよ。みんなの力だ」


 正直俺は食べ過ぎて喋るのもしんどい。なぜクロエはこんなに元気なのだろう?胃腸が強いのか?そう言えば日本人は胃腸が弱いと聞いた事がある。消化能力に違いがあるのだろう。

 昼寝をさせてもらいたいところだが、エリス王女の容態の確認のためファランさんの午後の診察にも付き添わなければならないため、我慢した。

 そして夕方になり、午後の診察が行われる。再びファランさんの薬を処方される。王女の数値はエリクサーを半分飲んだ状態から変化はナシ。

 これでファランさんの診療はひと段落となり、明日俺たちはまたファランさんの村へと帰り、その後は再びミハエルさんに診てもらうこととなった。


 ファランさんの午後の診察が終わって少しすると、エリス王女の病気がかなり回復して来たという連絡を受けた国王と王妃が、本当は忙しいはずの公務を放り出して王女の館へと戻って来た。

 二人がエリス王女との面会を終えると、俺たちは呼び出され、あふれるばかりの感謝の言葉をもらった。王妃についてはあふれる涙を止められず、何度も国王に慰めてもらっていた。

 俺としては完治させることができたはずなのにという後悔しかないが、これからもミハエルさんたちが頑張ってくれるそうなので安心している。


 その日の夕食は、なんと国王一家と同じ食卓に招いてもらった。

 お昼もすごかったのだが、夕食は食べ物と思えないほどの装飾が施された料理で、もはや芸術だった。


 前菜として出されたお皿には、花束かと思えばそれは細工の野菜サラダだったり、パンを焼いてパルテノン神殿のような置物に見えるそれが出て来たかと思えば、ナイフとフォークでそれを割ると中から蒸した魚料理が出てきたリ、とにかく一つ一つびっくりさせるような料理ばかりだった。

 俺は驚愕して言葉を失っていたが、クロエとファランさんはとても嬉しそうにはしゃいでいた。いつも元気なクロエがはしゃぐのは分かるが、いつも落ち着いているファランさんの楽しそうな顔は意外だった。


「ホッホッホッ!宮廷料理人に、最高の技術でもてなしをせよと申しておきましたので」


 国王は、そんな二人のリアクションにとても満足げだった。


 その技術もすごいのに、食材も国中から選りすぐりのものらしく、料理が運ばれる度に詳しく説明してくれたのだが、もはやその情報量に俺の脳みそは付いて行けずショートしていた。

 最後に出されたデザートは、フルーツの乗ったケーキで、食べる前にシェフが火をつけると一瞬ケーキから大きな火が立ち上ってすぐに消えた。これは聞いた事がある。アルコールを飛ばすやつだ。

 味もすごい美味しいが、こういうエンターテイメントに富んだ料理でもてなされ、異世界の料理に舌を打った。


「カイ。私は本当に感謝しているんだ!」


 そう言ってロデリック王太子が俺のグラスに酒を注ぐ。グラスに溢れそうになると、早く飲めと急かしてくる。


「私からも酌をさせてくれ!カイ君、本当にありがとう!このシャンパンはね、国内最高のシャンパンでね……」


「まあまあ父上、お酒の金額の話を聞いたらカイが引いてしまいますよ!」


「そうだな。何も気にせず味わってくれ!」


 そんな会話を聞きながら俺は恐る恐るグラスのシャンパンを飲む。確かに口上りがよくて、いくらでも飲めそうで、これは高級なお酒なんだろうなあということだけは分かる。

 デザートが終わって、なぜか俺の両隣には王太子と国王が座っていて、あまりお酒を飲めないらしいファランさんとクロエの代わりに、俺が何度もお酒を飲まされた。


「そういえばロデリック。ヴェゼル王子との婚約を勝手に解消したそうだな」


 国王が突然思い出したように王太子を睨む。


「はっ、そういえば勢いで。父上の確認も取らずに申し訳ありません」


「ガハハ!よくやった。エリスが病気になって、コーネリウス王国から医療協力する代わりにあの男との婚約を持ち掛けられてな。国内の医者には手が負えないことが分かり婚約を受け入れたがいいが、あの小僧あの性格だろう?なんどぶん殴ってやろうかと思ったことか!ゴライアス医師がいなかったらお前より先にワシが殴ってやったわ!ワハハハハ!」


 この人たち似た物親子だ……。怒らせないように気を付けよう。何気に国王も体格良いし、絶対ケンカ強え。

 結構お酒の入った国王は、俺の肩を組んで酒をまた注いでくる。


「まあそう言うわけだカイ君。これでウチのエリスはフリーになったんで、狙ってもらってもいいんだぞ」


「ブー!!!」


 国王陛下の恐れ多いジョークに、思わず高級シャンパンを盛大に噴き出す。


「それはいい!カイは今、恋人はいないのか?」


「ロ、ロデリックさんも何言ってるんですか?俺は平民ですし、生まれが違いすぎますって!」


「何を言っておる?王妃だって平民出身だぞ。我が国はそんな古臭いしきたりに縛られてはおらん」


「えっ?そうなんですか?」


 思わず王妃の方を見ると、こちらの方を見ながらほほ笑んでいた。

 平民出身とは思えないほどの気品に溢れている。


「まあ嫁いできてもらうにあたって、王族のマナーとかいろいろと苦労はかけたがな。エリスがおまえに嫁入りするなら、おまえが平民としての生活の仕方を教えてやらなければならないんだぞ!」


「いやだからなんで話が進むんですか?そういうのはご家族よりも、本人同士の気持ちが大事でしょう!エリス様のようにお美しい方に、俺なんかじゃ釣り合いが取れませんって!」


「確かにそうだな」


「まあ飲め」


 だめだこの人たち。ただの酔っ払いだ。

 シャンパンが無くなると、今度は葡萄酒を持って来させた。

 この後俺は前後不覚になるまで酒を飲まされた。

 毎年フェスで飲むビールは好きだが、こんな高級なお酒をべろんべろんになるまで飲まされたのは生まれて初めてだし、今後もないだろう。

 もう当分の間、お酒はいらないです……。



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