第20話 異世界のお城でエリクサーにまつわるあれこれ
「ちょっと待ってください!中身がめっちゃ減ってるじゃないですか?!」
俺は確認のために持ち出されたスポーツドリンクことエリクサーが、著しく減っている事に抗議をした。
「すまない。実は……」
ミハエルさんから、俺が王女と夏フェスの説明で盛り上がっている間の、別室で行われていたスポーツドリンクの鑑定をした状況についての説明があった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その部屋にいたヴェゼル王子を除く全員が、医療に携わる人間であり、鑑定スキルを持っていた。
間違いがないように、全員が順番にスポーツドリンクを鑑定し、その確認を行う。
そしてその結果、全ての状態異常を完治させるエリクサーであると判明し、全員が言葉を失った。
「ま、間違いない!カイ殿の言う通り、これはエリクサーだ……」
「い、一体いくらするんだ?」
「バカ者!金で買えるものではない!カイ殿がどういう経緯でこれを入手したかは知らぬが、姫のためならこの貴重なエリクサーを提供してくれると言っているのだ!そういう下賤な発想はやめろ」
「す、すいません。つい……」
王家侍医ミハエルは、金額を推測しようとする部下を叱る。
だが自身もそれを想像すると手が震える。そもそも金額などつけようがない。欲しい人間がどれだけ出せるかだ。もしカイが意地汚い人間で、エリクサーを王女に与える代わりにこの国の領土の半分を寄越せと言ったとしたら、国王は迷わず領土を差し出しただろう。今自分たちの目の前にあるそれは、それほどの物なのだ。
「ファラン殿、本当にこのエリクサーを使わせてもらっても良いのですか?」
「ええ。カイさんがそう言っているのです。私が反対する理由がありません」
「ミハエル様、試飲はどうしますか?」
「試飲?」
王女に処方する新薬は、よほどのことがない限り、先に他の人間に処方し効果を確認している。
アロエについても、この場にいる全員で食し、問題がない事を確認してから王女に出した。
エリクサーについてはどうする?ミハエルは自問する。答えは決まっている。試飲は必要だ。
だがそのエリクサーの貴重性が、ミハエルを躊躇させていた。
そうは言っても他に方法はない。貴重な薬のため、ほんの少しずつの試飲にするべきであろう。
ミハエルは、部下に試飲用の小さなカップを用意させ、試飲を行う事にした。
まずはミハエルが試飲する。
ほんの少しだけカップに注ぎ、口の中に入れる。
「ふむ。思ったより甘く、口当たりがよいな。これなら姫様であってもこの量も飲み切れるかもしれん」
「そ、それでは私も!」
「私も!」
興味津々であったのだろう。部下たちが次々と試飲をする。
「うむ。甘い。とても飲みやすい」
「これは旨いな。とても薬とは思えん」
先に試食したアロエについては、口当たりがまろやかだと言っても、甘味はなく若干の苦みがあった。
だがこのエリクサーについては、いくらでも飲みたいと思わせる絶妙な味わいがあったんだ。
弟子たちが口々に絶賛するのを聞き、部屋の隅で見ていたヴェゼルも興味を持ち出した。
「お、俺にも一口試飲させてもらえるか?それが本当にエリクサーだというなら、国のために知っておきたい」
そう言ってヴェゼルもカップにエリクサーを注ぐ。一口飲んで感嘆する。
「これは旨い!何杯でも飲みたいくらいだ!」
そう言って二杯目を注ぐ。小さなカップいっぱいに注いだそれを、ヴェゼルは一気に飲み干す。
「皆さん、待ってください!」
ヴェゼルが三杯目を注ごうとした時、ファランが止める。全員の注目がファランに集まる。
「そんなに飲んでしまっては、王女様の分がなくなってしまいます!」
医師たちは、はっとしてペットボトルを見ると、中身は半分よりも少なくなってしまっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふざけんなよ!ヴェゼルー!!!」
最後調子に乗って関係のないヴェゼルがたくさん飲んだと聞き、俺がブチ切れるが、すでにやつの姿はなかった。
「ヴェゼル殿下はエリクサーだと認めると言い残して国に帰りました……」
ゴライアスが申し訳なさそうに告げる。逃げたのだ。
「あのやろう……」
怒りの収まらない俺に、ミハエルが代わって謝る。
「申し訳ありません、カイ殿。あなたの言葉が信じられず試飲をしていたら、その甘露な味に全員が我を失っていました」
ミハエルさんから謝られると、俺も怒る気が失せていた。
「分かりました。それよりもそれがエリクサーだと信じてもらえたなら、エリス様にも飲んでもらいましょう!」
鑑定結果で出たのは、おそらくペットボトル一本分の効能だろうから、もしかしたら効果は半減してしまうかもしれない。でもとにかく早く王女に飲んでもらいたい。俺はペットボトルからグラスに注ぐと、それをエリス王女に差し出した。
「エリス様、飲んでください」
「はい」
俺からスポーツドリンクの入ったグラスを受け取ると、王女はそれを飲みだした。
全員が注目する中、王女は一気にそれを飲み干す。
「ふぅ……。とってもおいしかったです!」
250㏄にも満たない量だったが、それでもどこまで効果があったか、急いでミハエルさんの差し出したステータスプレートに王女の手をかざしてもらった。
名前:エリス・グリセリア
年齢:18
性別:女
職業:王女 LV5/30
HP:15/15
MP:4/4
力:2
早:5
賢:20
スキル:なし
状態:病気
状態は病気のままだ。治ってない!
俺はより詳しい状態を確認するため、「病気」の部分を鑑定した。鑑定に必要な俺のMPは前もって塩飴で回復済みだ。
状態:病気
病名:癌(初期)
詳細:胃、肝臓、肺に癌細胞あり
軽くなっている!
末期から初期に代わった!それに余命何日という表記も消えている!
同時に≪診断≫をしている医師たちからも、どよめきが起こる。
鑑定のできないロデリック王子と王女とメイドは、状況が分からずそわそわしている。
三人に説明するようにミハエルさんが呟く。
「病状が著しく回復しました。末期癌だったものが、初期の良性の癌へと変異しました。この様子なら、今後の治療で完治させることも可能だと思われます」
驚きの表情のエリス王女。よく見ると目の下のクマは消え、ほほに赤みが戻っている。
「エリス様、顔色が良くなりましたね!」
「本当だ!」
俺の声にみんなが同意する。
「エリス!!!」
ロデリック王太子は、歓喜で思わず妹を抱きしめる。その目には涙が浮かんでいた。
エリス王女はビックリしながら、そんな王太子を慰めるように頭を撫で、そして俺の方を見て行った。
「カイさん……ありがとうございます」
その美しい瞳に見つめられ、なんだかひどく照れてしまい俺は視線をそらしてしまう。
俺はうつむきながら言った。
「すいません。1本全て飲めれば完全に治ったはずなんですが……」
「いえ、これでも十分です。これからもしっかりと病気と闘って、カイさんと約束した夏フェスを見れるようにがんばります」
そんな事言ってもらえると、俺も嬉しくなってくる。
するとこちらに向き直ったロデリック王太子が、今度は俺を抱きしめて来た。
「カイ!お前は恩人だ!本当にありがとう!」
「いえ!でもよかったです」
俺は心の中で、どちらかというと王女に抱きしめてもらいたいものだと思っていた。




