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第22話 異世界のお城と今日のデイリーガチャ

 国王と王太子にベロンベロンになるまで酒を飲まされた俺は、その後トイレで吐いてちょっと楽になる。それでも完全に酔いが覚めたわけでもなく、フラフラしながらも、ようやく寝室へと帰り着いた。

 もう今度こそダメだ。眠い。

 俺はベッドに飛び込み、布団の上に大の字になる。


 ベッドの上で眠りに落ちそうになった時、ふとエリス王女の事を思う。

 エリス王女はまだ病気が完治しておらず、なのに俺たちがこんなにはしゃいでいることがひどく不謹慎に思えて来た。

 せめてもう一本スポーツドリンクを持ってくればよかった。

 というか、これからもう一本スポーツドリンクを持ってくることはできないだろうか?

 自販機もないだろうし、通販もない。他に俺以外に都合よくスポーツドリンクを持ってこの世界に来てる人間もいないだろう。

 もう一度日本に帰るか?一度帰ってもう一度ここに戻ってくれば?

 しかしどうやって帰ればいいんだろう?とりあえず最初にクロエとあった場所から、歩いてきた方向に向かって行けば、どこか道が繋がってるんじゃないかなあ?帰ったら改めて龍神山へ行ってみよう。

 考えがまとまったと思い、そのまま眠ろうとした。

が、何か忘れてる気がして寝付けない……。


「そうだ!そう言えばまだ今日のデイリーガチャをしていない!」


 思い出した俺は、ベッドから飛び起きた。

 デイリーガチャでスポーツドリンクがでるかもしれない!それが一番手っ取り早いぞ!

 俺はすぐに財布の中から100円玉を取り出すと、スキルを発動する。

 目の前に現れたデイリーガチャに100円玉を入れ、ハンドルを回した。


 前回と同じように、ガラガラと音を立ててカプセルを排出する。

出て来たカプセルは、今回は青色だ。

 俺はカプセルを手に取り、両手で捻るように開けると、その中から出てきたのは……。


「これは……、イヤホン?」


 普通のイヤホンだった。

いや、買えば2000円くらいするだろうから、お得と言えばお得なのだが、今必要かと聞かれれば返答に困る。


「これは……ハズレか……」


 俺はがっくりと肩を落とす。

 最初に考えた通り、村に帰ったら一度日本に帰る道を探そう。そして上手く行き来できたら、スポーツドリンクを持ってもう一度戻ってこよう。

 そうして手に持ったイヤホンはどうしようかと考えていたその時、俺はある名案が閃いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 コンコン!


「はい」


 扉をノックすると、いつも通り王女付きのメイドがドアを開けてくれる。


「すいません、夜遅くに。ちょっとエリス様をお話ししたいのですが、よろしいでしょうか?」


「お待ちください」


 メイドは病床の王女のところで確認を取りに行ってくれて、そして王女の許可が取れると俺を部屋の中へと通してくれた。


「本来ならば突然お会いしたいと言われてもお通しする事などはできませんが、カイ様ということで特別ですよ」


 王女の許可が取れてなお、それを強調する。突然やってきてしまって本当申し訳ないです。


「エリス様、こんばんは。夜分遅く申し訳ありません」


 部屋の中は壁のキャンドルが薄明るく照らされていた。

 姫も状態が良いらしく、まだ起きていたようだった。


「カイ様、こんばんは。いえ、いつも一人で暇ですので、こうして来ていただけるのは嬉しいです。ところで何か御用があったのですか?」


「ええ。今日ちょっとお話ししたことで。ここ座ってもいいですか?」


「はい。どうぞ」


 エリス王女は笑顔で頷く。

 許可を取ってベッドの横の椅子に座ると、俺はポケットからスマートフォンを取り出した。


「カイ様、それは?」


「これはですね、俺の国から持ってきたものの一つなのですが、これ一つでいろいろな事ができる魔法の道具なのです」


「まあ!すごい」


 何ができるかも聞かずに、すごいと驚く王女。


「今日音楽の話をしたじゃないですか?俺が好きな音楽なんですけど、この道具を使えば聞くことができるんです。良かったら聞いてもらえませんか?」


「ええ?楽器も何もないのに?すごいです。ぜひ聞いてみたいです!」


 ふふふ、どれだけすごいか分かってないな。もっと驚かせてやろう。

 俺はデイリーガチャで出たイヤホンをスマホに刺すと、王女に手渡す。


「これを耳に入れてもらえますか?音が出る装置です」


「まあ?不思議。耳栓みたいですね」


 王女は素直に従う。


「上手く入りましたか?奥まで入れなくても、耳の入り口にフィットさせれるだけでいいですよ」


 そう言って王女の両耳を確認する。

 その時、思わず至近距離で王女と目が合ってしまう。王女は恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。


「あっ、すいません」


 近づき過ぎてしまった。思わず謝ると、王女から返事。


「いえ、大丈夫です。カイさん、お酒の臭いが……」


「あっ、すいません酒臭くて」


「飲ませたのは父と兄ですよね?すいません、あの人たちお酒癖が悪くて」


「エリス様が少し元気になられた事が嬉しかったみたいですよ。平民の俺に対しても、素になって一緒に喜んでいましたから」


 王女はそんな家族からの愛情に、とても嬉しそうな顔をする。

 人形のように整ったその美しい顔に、夕食時に国王と王太子にからかわれたことを思い出し、俺も思わず恥ずかしくなる。


「そ、そうだ、音楽の話です!それじゃですね、俺の好きな曲をかけますね」


 そう言って俺はスマホの音楽プレーヤーを起動する。


「ちょっと騒がしい音ですが、驚かないでくださいね」


 スマホの画面に表示された、王女に聞かせるために俺の選んだ曲名はストーンクリーチャーズの「Not Enough Rock'n Roll」。

 俺がプレイボタンを押すと、王女は突然イヤホンから聞こえて来たギターサウンドに目を丸くする。そして続くロックンロールが足りないんだぜと叫ぶケヴィンの歌声、繰り返されるシンプルなビート。王女はとても興味深そうな笑顔で、両手を合わせながら指先でリズムを刻む。

 およそ3分の短いロックンロールを聞き終わると、王女は目を輝かせて俺に言った。


「すごいです!」


 その笑顔は、ロックンロールの魔法に魅了されていた。


「こんな音楽を聴くのは生まれて初めてです。なんだか胸がどきどきしてきました!」


「これが俺が好きな音楽です!夏フェスはこんな音楽を、野外で爆音でみんなで聞いて騒ぐんです」


「すごいです。早く元気になってカイさんと夏フェスに行きたいです。この道具は、他の曲も聞けるんですか?」


「いろいろ入ってますよ。次は何にしましょう」


 調子に乗った俺は結局、メイドに「そろそろ王女様も寝る時間ですので」と注意されるまで王女に音楽を聞かせ続けていた。

 時間に気付き、「遅くまですいませんでした」と言って去る俺を見送る王女の笑顔はとても輝いていて、なんだかどんどん元気を取り戻しているような気がした。

 



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