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隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される  作者: 永久保セツナ


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裏話・第10話

 宴会の最中、電話に着信があり、わたくしは一旦会場を出ました。

 廊下で電話に出ると、取引先の社長でした。彼にも『マジック&サマナーズ』を教えたらまんまとドハマリし、ゴルフにも行かなくなったと聞いております。

 通話を終えて電話の電源を切った時、人の気配を感じました。

 女――女子社員がひとり、立っていました。


「――社長、お話があります」


 あの歌を聴いて、このうえまだつきまとうツワモノがいようとは。

 わたくしは逆に感心してしまいました。


「能登原こずえさんとの噂、本当なんですか」


「本当だと言ったら?」


「私にチャンスはありませんか」


 ――……一応念のため、用意しておいてよかった。


「残念ながら、わたくしはもうこずえさんしか愛せません」


 わたくしは左手にはめた指輪を見せました。

 別に婚約指輪ではありません。家にあった指輪を適当に持ってきただけです。

 それでも相手は勝手に勘違いしました。息を呑むのが聞こえてくるようです。


「他の女子社員の方にも、お伝え下さい。わたくしはもうこずえさんのものだと」


「……」


「それと……こずえさんに手荒な真似をしたらわたくしが許さない、とも」


「……失礼します」


 わたくしはやはり、王子様でもないですし素敵な男性でもありません。女を平気で泣かせますし、平気で騙します。

 それでも、こずえさんがどうしても欲しかった。


「しゃ、社長……?」


「ああ、こずえさん。そこにいらしてたんですか」


 こずえさんがいたことには本当に気づきませんでした。言ってくださればいいのに、と笑いましたが、まあ言えませんよね、あんな状況で。そのくらいはわたくしにもわかります。


「その指輪はいったい……?」


「ああ、これですか? 家にあった指輪を適当につけてきました」


 こずえさんを混乱させたことはまことに申し訳ない、と思いました。


「えっ、――騙したんですか!?」


「? 騙してませんよ。わたくしは左手を見せただけで、向こうが勝手に勘違いしたのです」


 いえ、どう考えても騙してますよね。自覚はあります。


「……社長は悪い男ですね……」


「こずえさんにそう思われるのは心外です」


 こずえさんは呆れた顔をしていましたが、見捨てるような表情ではありませんでした。

 わたくしはまたあのしょんぼり上目遣いをしましたが、やはり耐性がついているようでした。


「まあ、いずれ婚約指輪を作りに行きましょうか。――受け取ってくださいますよね?」


 わたくしはこずえさんの左手を取り、薬指の付け根を撫でました。

 いずれはここに、わたくしの用意した指輪が入る。そう思うと、笑みが止まりませんでした。

 こずえさんは赤面していました。本当に、……可愛らしいお方だ。


***


 宴会は終了し、帰りのバスの中。

 わたくしはバスに乗り込む時、気づけば無意識にこずえさんの手を握ってしまっておりました。

 驚くこずえさんを無視して、そのまま半ば強引に隣の席に座らせました。

 秘書は「あらあら~」といった感じでニヨニヨと微笑んでおりましたがそれも無視しました。

 女子社員はもうわたくしの隣に座りたいとは誰も申し出ませんでしたし、近寄る気配もございませんでした。


「楽しかったですね、社員旅行」


 わたくしはもう上機嫌でしたが、こずえさんはみぞおちのあたりを押さえて「私は胃が痛いです……」とボヤきました。


「おや、鯛のお刺身にでもあたったんですかね」


 わたくしはわざと素知らぬふりをして、こずえさんの耳元に口を寄せ、


「――もう邪魔者も消えたんですから、大丈夫ですよ」とささやきました。おそらくは誰にも聞こえていなかったと思います。


「なんか今日の社長、いろいろ怖いですね……」とこずえさんは怯えた様子でつぶやきました。怖がらせるつもりはなかったのですが。反省反省。

 バスが走り出してから、わたくしとこずえさんは小声で会話をはじめました。バスのエンジン音で周りにはほとんど聞こえない音量です。


「社員旅行の次の日は休みですよね? また私の家に来ませんか?」


「いいですけど……もう百年もすごろくはやりませんよ」


『浦島太郎鉄道』の百年モードはわたくしも流石に疲れましたので、しばらくはお腹いっぱいです。


「そうですね、あれはもうこりごりです。何して遊ぼうかな……」


 こずえさんとゲームの話をするのは楽しくて、少年の頃に戻った気持ちです。あの頃にこずえさんと出会っていたら、今頃はどうなっていたのでしょう。そう考えただけでも胸がいっぱいになります。


「なんでしたら、指輪を作りに外に出かけるのもいいですね」


「……あ、あれ本気だったんですね……」


「もちろんです」


 冗談だと思われていたのでしょうか。心外です。


「婚約どころかこのまま結婚してしまいたいくらいです」


「……っ」


 このときのわたくしはきっとものすごい笑顔だったのだと思います。こずえさんの反応があまりに違いましたから。


「……ああ、すみません。バスの中でプロポーズはちょっとシチュエーションが良くないですね。後日改めてプロポーズするので忘れてください」


 わたくしはそう言って、プロポーズのプランを立てることにしました。

 どこで、どんなタイミングでプロポーズしようか。式はどこで挙げようか。ウェディングドレスも素敵でしょうが白無垢も捨てがたい。二回ほど結婚式を挙げないと足りない。いや、むしろ一度の結婚式の中でお色直しということで衣装を替えればいいのでは? 入籍の日はいつにしようか。ああそうそう、新婚旅行の場所も考えないといけませんね。ヨーロッパか、わたくしの行き慣れているハワイなら道案内も出来る。でもこずえさんがパスポートを取得する時間を考えると国内かな。国内なら北海道もいいですね。

 わたくしはテンションの高まりから、すでに脳内でそこまで話が飛躍していました。

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