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星明かりと追跡の始まり

疑いから始まる出会いもあれば、

信頼という答えに辿り着く出会いもある。


それぞれが集めてきた真実は、

少しずつ重なり合い、一つの大きな謎へと繋がっていく。


だが、真実へ近づく者ほど、

過去と向き合う瞬間は避けられない。


運命は静かに動き出し、

止まっていた時間が再び流れ始める。

夜の車中、星明かりと追跡の始まり


魔力探知機の針がダッシュボードの上で細かく震えていた。西を指している。西――アキラが以前住んでいたあの街区。知りすぎるほど知っている場所だ。ハンドルを片手で握りながら、もう一方の手でデバイスの固定具合を確認した。針のブレは誤差じゃない。これは正確だ。


「本当にこれ、ちゃんと機能してるの?」


ダミラが探知機を見つめながら言った。その視線には信頼がなかった。


「外れるわけがないぞ。アキラはまだ囚人だ、たとえ今は外にいてもな。ワイルドソウル一族の管理下を通ったヤツには全員、本人も知らないうちに追跡術式が埋め込まれてる。標準の安全措置だ」


「見つけたらどうするの?すぐ捕まえる?」


首を振った。目は道路から離さない。


「まず観察する。なぜ逃げたのか知りたい。もし陰謀の一部なら介入する。でもただ追い詰められた子供なら……別の方法があるかもしれない」


ダミラが理論を並べ始めた。指がシートの縁をいじっている。あいつが緊張している時の癖だ。


「知ってはいけないものを発見したのかも。もしくはお父様から助けを求める連絡が来たのかも。ただ恐怖から国外逃亡を試みているだけという可能性もありますわ」


「あるいはアイツは俺たちが知らない何かを知ってる。だからこそそんなリスクを冒した」


木立に挟まれた通りへ車が滑り込んだ瞬間、その家が目に入った。二階建ての質素な造り、小さな前庭。かつては手入れされていたはずのその庭は今、放置の気配を滲ませていた。居間の窓のカーテン越しに、弱い光がちらついている。


「中にいるわ」


ダミラが顎で示した。


エンジンを切り、ヘッドライトを消した。しばらく、沈黙と二人分のゆったりした呼吸だけが車内を満たした。それから聴取の術式を発動しようとした――壁の向こうの声を拾う、シンプルな術だ。だが詠唱しようとした瞬間、家の中からエネルギーの波動が放たれた。弱い、ほとんど感知できないほど微かな波。でも鍛え上げた感覚には充分すぎるほど明確だった。


術式パターンを即座に識別した。低レベルの護衛結界だ。


「結界を張ってある」

思わず口の端が少し上がった。

「近づくのは止められない、だが中の会話を聞くことは防げる。乗り越えようとすれば向こうに気づかれる」


「じゃあどうするの?」


ダミラが答えを待ちながらこちらを見た。


すぐには答えなかった。選択肢を頭の中で巡らせた。ドアをぶち破って捕まえ、尋問することもできる。でも全本能が違和感を告げていた。この二人は犯罪者の動き方をしていない。追い詰められ、怯え、自力で答えを探している人間の動き方だ。


「ドアをノックする」


「……はい?」


「ドアを叩いて話し合う。陰謀の積極的な実行者じゃないと思う。俺たちと同じで、真実を探してるのかもしれない」


ダミラは眉をひそめたが、反論はしなかった。車を降りた。後に続く。護衛結界が皮膚をなでるのを感じた。温かい微風のようなものが体を撫でたが、前進は止まらなかった。玄関に着いて手を上げた。


ドン……ドン


二回。もう二回。


内側から急ぎ足の音が聞こえた。紙が投げられる音、家具が引きずられる音。開けないつもりだ。わかりきってる。


溜息をついて銃を抜いた。護衛結界のエネルギーが最も薄い点――ドア枠の一箇所――を計算して狙いを定め、引き金を引いた。


バン!!


白い光の爆発が結界を一瞬で粉砕した。同時にダミラが開錠の術式を囁き、扉が勢いよく開いた。


走り込んだ。ダミラが背後につく。家の中は埃と閉じ込められた空気の匂いがした。古い本と、突然止まってしまった生活の匂い。廊下の奥が居間だ。


そこにいた。


印刷された紙の束、ノート、床に広げられた地図――混乱の渦の中心に、アキラとアリズが立っていた。アキラは蒼白で目の下に深いクマを作り、両手で紙の束を持っていたが、俺を見た瞬間、それがはらはらと床に落ちた。口が開いたが、声が出なかった。アリズはジャケットのポケットに手を入れたまま――中に杖があるはずだ――だが指が震えすぎて、まともに掴めるとは思えなかった。


「……め、降参します」


アキラが囁くように言った。紙を落として頭を下げた。


「殺さないで……ください……」


その言葉が、槍みたいに胸を貫いた。


『殺さないで』


十六歳のガキだ。人生を滅茶苦茶にされ、両親を使用人に落とされ、親友には記憶すら残されなかった。それで今、ワイルドソウルのハンターが居間でコイツを処刑すると思っている。


「殺しやしない、坊主」


銃を下げた。声が思ったより柔らかくなった。


「落ち着け。話しに来た」


アリズがこちらを疑わしそうに見た。ポケットの指がまだ動いていた。


「話?なに話すっての?もっと厳重な独房に入れる話?」


「――マーカスが貴方たちを捕らえたければ、とっくにそうしてますわ。こんな会話は成立していませんの」


ダミラが後ろから前に出た瞬間、アキラとアリズの視線がそちらに向いた。二人とも驚いた顔になって、まるで気まずそうにすぐ目をそらした。


沈黙が伸びた。アキラが顔を上げた。目が赤かった。泣いていたのだ。


「……じゃあ、なにが目的ですか?」


ゆっくりしゃがんで目線を合わせた。これ以上威圧するつもりはなかった。


「なぜ逃げたか教えてくれ。本当のことを」


アキラとアリズが視線を交わした。緊張の一瞬、相互不信の一瞬。それから少年が話し始めた。最初は言葉が一つひとつ、まるで物理的な力が要るように出てきた。でも話が進むにつれ、滑らかになり、切迫感を帯びてきた。


全部話した。アリズと、カイト先生の助けを借りて、アッシュフォードとグリムストーン一族による秘密実験のネットワークを発見したこと。容疑者を捕らえたこと――カイト先生がどういう方法で情報を引き出したかはアキラも知らなかったし、知ろうともしなかった様子だった――そしてその尋問から、生きとし生ける者ならば人間でもマジクス・テラでも区別なく魔力を生成して注入できる機械の存在が浮かび上がったこと。


「その技術を開発しているのは、ヴィクター・グリムストーンと蓮次郎・アッシュフォードです」


アキラの声が震えていた。


「でも彼らは首謀者じゃない。もっと上にいる誰かが糸を引いてる」


「その誰かは?」


ダミラが腕を組んで言った。


「わかりません。カイト先生も容疑者からそれ以上は引き出せなかった。でもそのあと、エンディミオンで噂が流れ始めたんです。三つの一族の同盟について。アッシュフォード、ナイトシェイド、ウィンターフォール。何かを準備しているって。戦争、というか……それに近い何かを。でも魔術師はずっと人間社会から隠れてきたのに、一体何と戦うつもりなのか、僕にはわからなくて……」


頭の中で歯車が噛み合い始めるのを感じた。一族の同盟。蓮次郎の実験。魔力の窃盗。そして今、誰にでも魔力を注入できる機械。単なる秘密計画じゃない。大規模な謀略だ。


「でもそれだけじゃないんです」


アキラの声がさらに低くなった。


「数日前、自室の窓から何かを見たんです。青い光が空にあって……魔術じゃなかった、普通の魔法でもなかった。別の何かで。誰かがアカデミーの外から何かのエネルギーを流していた。アリズと調べたんです。エンディミオンで一番高い時計塔に登って……そこに奇妙な人影がいた。儀式みたいなことをしてた。でも僕たちとは違う使い方で……なんか、違った」


「その人影は?どんな様子だった?」


思わず身を乗り出した。


「顔は見えなかった。古い服を着ていた……他の国のものみたいな。でも重要なのは、その存在がその青い光のエネルギーの元凶だってことで。捕まえて、全部の騒動と関係があるんじゃないかと思って尋問しようとしたんですが、近づく前に逃げられた。だからエンディミオンを出たんです。自分たちで調べるために」


アリズが頷いた。


「色々な記録を調べてたんだけど、あんたたちが来る前まで。でも全然見つからなくて。まるで同じようなものの記録が存在しないみたいに」


立ち上がった。頭が沸騰しそうだった。アキラの話は、俺とダミラが掴んでいた情報の大半と一致していた。魔力の窃盗、干上がった遺体、蓮次郎の実験、魔力注入機械……全部つながっている。でもその青い光、あの儀式、あの人影――それだけがどこにも収まらない。そしてそれが他の何よりも気になった。


「話す」


好奇心でダミラを見た。


「お前たちに、俺が知ってることを」


ダミラが腕を掴んだ。


「正気なの?機密情報を受刑者に話すわけにはいかないですわ」


「受刑者じゃない。証人だ。そしておそらく、何が起きているかを理解するための最善の手がかりだ」


ソファの端に座り、膝に手を置いた。それから話した。蓮次郎の屋敷、干上がった遺体、三一族の同盟、ヴィクター・グリムストーンとの関連性。何も省かなかった。


話し終えた時、部屋の沈黙は重かった。アキラの目が輝いていた。涙じゃない。烈しい何かだった。


「……一人じゃなかったんだ。これは思っていたよりずっと大きい」


「ずっと大きいぞ。だから取引を提案する。エンディミオンに戻れ。お前たちの脱走は実際には誘拐で、俺たちが救出したという報告書を作る。身の安全は保障する。代わりに内部から調査を続けてくれ。新しいことがわかれば俺に連絡を。どうだ?」


アキラが信じられないという顔で見てきた。


「なぜそんなことを……?なぜ助けてくれるんですか?」


黙った。一瞬、心が別の時へ飛んだ。別の暗闇へ。あの頃の絶望へ。全部終わったと思ったあの瞬間へ。地の底から引き上げてくれた手へ。希望を取り戻させてくれた言葉へ。


「お前を見ていると、底まで落ちた誰かが見える。でも一番深い闇の中にも、必ず光がある。ちゃんと目を開けて探せば、見つかる」


アキラは答えなかった。ただ口を引き結んで、頷いた。


* * *


翌夜の待ち伏せ。静寂の中の怪異


アキラが言った場所に張った。エンディミオンの外れ、古木に囲まれた空き地。沈黙が石のように重かった。空は晴れていて、満月が地面を銀色に染めていた。現実感のない光だった。


待った。十分。二十分。三十分。


情報が正しいか疑い始めた頃、空き地の端に人影が現れた。


浮いているみたいだった。ほとんど。超自然的な優雅さで地面を滑るように進んでいた。本で見ただけの服を着ていた。狩衣、袴、烏帽子――その烏帽子が顔に長い影を落としていた。両手には四角い何かを持っていた。折り畳まれた紙で、青白い光をぼんやりと放っていた。


背筋に悪寒が走った。


その気配。あの服装。あの紙。魔術じゃない。エンディミオンで過ごした年月、ほとんど誰も読まない古い歴史書の中で勉強したやつだ。


御札。それは呪符だ。こいつは陰陽師だ。


「そこで止まれ」

銃を上げた。

「ここで何をしている?」


男が止まった。恐れを見せなかった。驚きも見せなかった。帽子の陰から目がこちらを見た。その落ち着きは、安心感と恐ろしさを同時に纏っていた。


「貴殿は……稀有なものでございますな」


陰陽師が言った。声は深く、遠いところから来るようだった。


「貴殿も、その御方も。この世の異分子。除するべき存在でございます」


「除する?なに様のつもりだ!?」


ダミラが杖を手に一歩前へ出た。


「私は陰陽師。浄化を担う者。貴殿たちは消し去られるべき不浄でございます」


待たなかった。引き金を引いた。光の弾が超音速で空を切った。だが陰陽師はただ手を上げた。御札の一枚が宙に浮き、広がり、衝撃を飲み込んだ。ほとんど動じなかった。


「俺たちの何も知らないくせに」

装填しながら言った。

「陰陽師は何世紀も前に絶えたはずだ。なぜまだ存在している?」


「絶えた、と?」


陰陽師の口の端が帽子の陰から微かに動いた。


「陰陽師の道は続いております。数は少のうございますが、確かに存在します。ある御方が影の中で守ってくださった故に。そして今、その御方が命じられました。貴殿がたのような異分子を、この世から浄化せよ、と」


「その御方って誰だ?」


ダミラが緊張した声で言った。


陰陽師は答えなかった。代わりに袖の中からさらに御札を取り出し、宙に放った。紙が青く輝き、その中から炎の蛇が飛び出してこちらへ向かってきた。


撃ちまくった。御札の炎を迎撃しようとした。ダミラが横でエネルギーの盾を作り、炎を左右に弾き飛ばした。でも陰陽師は速かった。御札は尽きる気配もなく、新しい攻撃は前より激しかった。


「このままじゃ無理ですわ」


ダミラが息を切らして言った。


「彼の力は私たちのとは違う。ダメージを与えられていない」


「でもアイツも俺たちにダメージを与えられていないぞ」


わかっていた。陰陽師については若い頃に勉強した。その力は魔力から来るものじゃない。違う源だ。魔術師には完全には理解できない何か。通常の魔術でブロックしても意味がない。突破口が必要だった。


見つけた。ダミラへの攻撃に集中しすぎた陰陽師が、一瞬だけ右脇を開けた。狙いを定めた。引き金を引いた。


だが弾が届く前に、エネルギーの壁が割り込んできた。御札じゃなかった。魔術だった。魔術師が使うやつと同じパターンだ。


一瞬で識別した。心臓が止まった。


「陰陽師が魔術を!?あり得ない!!」


「それは私ではございません」


男が言った。口の端が今度ははっきりと曲がっていた。


足音が聞こえた。夜の沈黙の中に。遅く、重く、確信に満ちた足音。影の中から人影が近づいてきた、道路の明かりに照らされながら。


顔が見える前に気づいた。歩き方。背の高さ。肩の張り方。


……黒木。


友人だ。かつての相棒だ。全てを壊した男だ。


「黒木……」


脚が言うことを聞かなくなった。


「なぜ……ここに……?」


黒木が数メートル先で止まった。月明かりに照らされた顔は、昔と同じだった。同じ精悍な輪郭、同じ鋭い目。でも目の奥が違った。空洞だった。何かが欠けていた。


「久しぶりですね、マーカス」


「全部お前の仕業か!?実験、魔力の窃盗、あの干上がった遺体……全部!?」


黒木は首を振った。


「知りませんよ、そのことは。それはあなたたちの世界の話でしょう、魔術師という名の屑どもが跋扈するあの世界の。私はただ、陰陽師たちが使命を果たすのを確実にするために来ている」


「その使命ってなんだ!?」


「魔術師を全員排除する。エンディミオンから始め、各一族、世界中に散らばった者たち、そして最後にあなた、そして……私自身も」


血が凍った。


「頭おかしくなったのか!?陰陽師が俺たちを皆殺しにして、お前自身も含めてだと!?自分が何を言ってるかわかってるのか、黒木!!」


黒木は笑った。


「この世界から魔術師を消し去るためのその代償なら、喜んで払います」


観察していた陰陽師が小さく溜息をついた。


「感傷は終わりましたでしょうか。他に用件もございますゆえ、失礼いたします」


「勝手にしろ」


黒木はこちらから視線を外さなかった。


陰陽師が来た方向へ消えていった。追おうとした。でも脚が動かなかった。黒木しか目に入らなかった。かつて兄弟のようだったあの男が。どこで全部が狂ったのかと自問しながら。


「またいずれ会いましょう、マーカス」


黒木が背を向けた。


「これが終わった時、なぜこうしたか、わかってくれるかもしれない」


「待て!!」


銃を上げた。だが手が震えすぎて狙えなかった。


「答えろ!!なぜ裏切った!!なぜだ!!」


黒木は答えなかった。闇の中へ消えていった。数秒後、影さえ残っていなかった。


追いかけようとした。撃とうとした。叫ぼうとした。でも脚が答えなかった。両腕がだらりと垂れた。黒木の輪郭が夜に溶けていくのを、ただ見ていた。求めてやまなかった答えを全部持って行きながら。


ダミラが近づいてきた。そっと肩に手を置いた。


「マーカス……?」


答えられなかった。ただ銃を落として、膝から崩れ落ちた。ダミラは何をしていいかわからないまま、抱きしめてくれた。俺は藁をも掴む勢いでしがみついた。


* * *


翌朝。動けない夜明け


天井を見ていた。眠れなかった。目を閉じるたびに黒木の顔が見えた。あの言葉が聞こえた。


『この世界を魔術師から清める』


どうしてそうなった。正義を誓っていたあいつが、なぜこんな怪物になった。


黒木は生きていた。黒木は陰陽師と組んだ。黒木は魔術師を全員滅ぼそうとしている。


考えが蜂の群れみたいに頭の中で暴れ回り、何度も何度も意識を刺してきた。


ドアがノックされた。


「マーカス?いるの?」


ダミラだ。身を起こし、乱れた髪に手を通して、入れと言った。


ダミラが入ってきた。太ももまでしか届かないゆったりしたTシャツを着て、髪が寝起きのまま乱れていた。目がいった。眉をしかめた。


「……他に着るものないのか」


「今は服の話より大事なことがあるでしょう」


ダミラがベッドの端に腰かけた。完全に隠しきれていない心配が笑みの裏に滲んでいた。


「どんな気持ち?」


「持っていたつもりもなかったものを失った気分だ」


ダミラが首を傾けて、待っていた。溜息をついてヘッドボードに寄りかかった。


「説明する義務がある。黒木のことを」


「話したいなら聞くわ」


黙ってしばらく、記憶の中にいた。それから話し始めた。


エンディミオンでの出会い、共有していた正義への信念、ワイルドソウル一族での同じ歩み。何年も共に戦った。切り離せない存在だった。あの任務が来るまでは。


反乱した魔術師たちが民間人を人質に取り、銀行に立てこもっていた。盾に使いながら。マーカスと黒木は侵入作戦を立てた、被害を最小限に。でも一人の魔術師が追い詰められ、禁術の呪いを人質にかけた。さらには変成の魔術も使い、人質たちをマジクス・ゾンビに変え始めた。


「黒木が決断した」

声が掠れた。

「変成が完了する前に、全員を排除すると。止めようとしたが、間に合わなかった。そして全部が終わった時……アイツは逃げた。消えた。俺は誰も救えなかった罪悪感だけを抱えてその場に残された」


ダミラが静かに聞いていた。目がずっとこちらを見ていた。話し終えると、少し近づいてきた。


「貴方のせいじゃないわ、マーカス」


「わかってる。そう信じようとしてる。でも思い出すたびに、何か違う動きができたんじゃないかと考えちまう」


「制御できなかったことで自分を責めないで」


少し黙った後、話題が変わった。シーツの端をいじりながら。


「……デートのこと、覚えてる?」


混乱した。この流れで?


「ああ。それがどう……?」


「今週の土曜、まだ保留中よ」


「三日後だぞ……」


「そして貴方に伝えなきゃいけない大事なことがあるの」


「大事なこと?なんだ?」


ダミラは笑ったが、答えなかった。立ち上がって、さりげないふりをして伸びをした。


「その時を楽しみにしていてちょうだい。さあ、起きて。仕事があるわ」


抗議しようとした瞬間、スマホが振動した。上司だ。


「マーカスさん、動きがあった。ハンターたちが蓮次郎の動向を掴んだ。今まさにあの屋敷へ向かっているようだ。今がチャンスだ」


跳ねるように立ち上がった。ダミラとの会話も、黒木の記憶も、一瞬で後回しになった。今重要なのは一つだ。蓮次郎を現行犯で抑える。


「出る準備をしろ」

上着を掴みながら言った。

「終わらせに行くぞ」


ダミラが頷き、後に続いた。あいつの目には決意が光っていた。そしてもう一つ、何か別のものも。うまく言葉にできないものが。でも、それが全てを変える予感だけは確かに感じた。

――ついに、その場所へ辿り着く。


長く追い続けてきた影。

隠され続けてきた秘密。


真実は、誰かの理想によって生み出され、

同時に、多くの犠牲の上に築かれていた。


その扉の先で待ち受けるものとは――。


次回――


狂気の研究。


積み重ねられた執念が、ついにその姿を現す。

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