灰の山と正義の境界
真実は、いつも表から見えるとは限らない。
誰かが戦っているその裏側では、
また別の誰かが静かに足跡を追い続けている。
積み重ねられた経験。
決して癒えることのない過去。
そして、誰にも見せることのない覚悟。
一つの事件は、多くの者たちの運命を交差させながら、
少しずつその全貌を現し始める。
灰色の夜明けが道路の上に広がっていた。昼にも夜にもなれない中途半端な空の下、車は深海を滑る魚みたいに、誰もいない道を走り続けていた。
ハンドルを握る手に力を込めて、地平線を睨みつけながら、地図に印をつけた四つの屋敷のうち、最初の一軒を探していた。
隣ではダミラが集中していた。その集中具合はほとんど執念に近かった。細い指が魔力探知の術式を準備しながら、自分の杖を撫で続けていた。まるでそれに触れることで何か秘密を引き出せるとでも思ってるみたいに。
「車の中でやれ。降りる方が危険だ」
視線は道路から外さなかった。ダミラは頷いた。彼女は杖を構えた――細い木目が美しい、銀の装飾が入ったエレガントな一本だ――目を閉じて、聞こえるか聞こえないかくらいの声で囁き始めた。すると杖の先端に小さな光が灯った。ミニチュアのランタンみたいな光だ。
「――開け、探せ、感知せよ」
光が一度瞬き、それから安定した。淡い青みを帯びた輝きが車内をうっすら照らしていた。
「準備できましたわ」
ダミラが目を開けながら言った。
「このまじないで、半径百メートル以内の異常な魔力の集中を検知できますのよ」
「よし。最初の屋敷へ行くぞ」
最初の屋敷は石とガラスでできた幽霊みたいに現れた。金が紙幣ではなく土地の広さで計られていた時代を、通りがかりの人間に思い知らせようとするような、威圧的な建物だった。
適当な距離に車を止めて、ダミラの杖の光が瞬き、探し、待つのを見ていた……そして何も見つけることなく消えた。
「何もありませんわ」
ダミラが言った。安堵と失望が混ざり合ったような声だった。
「ここには魔力の痕跡がまったく」
頷いて、アクセルを踏んだ。何も言わなかった。言う必要もなかった。
二軒目の屋敷も最初と同じだった。杖の光が点灯して、建物の隅々まで距離を超えて探り、それから猟犬が偽の痕跡を諦めるときと同じ無関心さで消えた。ダミラが溜め息をついた。その肩が少し強張るのが分かった。
「残り二軒だ。まだ望みはある」
「貴方はいつもそんなに楽観的なのですか?」
ダミラがこちらを見ずに訊いた。
「そうかどうか分からねえ。でも確かに、まだ何も終わっちゃいねえ」
「……やっぱり楽観的ですわね」
三軒目の屋敷は、最初の瞬間から違った。大きさでも建築様式でも、そういう理由じゃない。違ったのは、禁じられた王国の番人みたいに正門を守る、黒いスーツの男たちの存在だ。耳にイヤホンを付けて、軍人のような訓練を受けた動きで、一定の間隔で周囲に視線を走らせていた。
注意を引かない程度に離れた場所に車を止めたが、杖の光が仕事できるくらいの距離は保った。
「警備が多すぎますわ」
ダミラが緊張した声で囁いた。
「もし見られたら――」
「見られねえ。信頼しろ」
だが、警備員の一人が、最も背が高く、最も鋭い目つきをした男が、こちらに向かって歩き始めた。歩みは確固として揺るぎなかった。隣でダミラが強張るのを感じた。彼女の杖を持つ手が震えているのが見えた。唇が何かまじないを囁く準備をしていた。
「やめろ」
ダミラの手の上に自分の手を乗せた。
「任せろ」
わざとゆっくりと窓を下げた。警備員が車内を覗き込んだとき、俺は大きく、気さくな笑みを浮かべた。何も隠すことのない人間の笑みだ。隠すものがないから、だが本当は一番の嘘は真実で語られるものだと知っているから、その笑みを保った。
「いやあ、びっくりしましたよ!」
謝罪と親しみを混ぜたような声で言った。
「実はですね、この辺りに親戚を訪ねてたんですが、GPSが狂いまして。ここに迷い込んじまって。幹線道路に出る道を教えてもらえますか?」
警備員はじっと見てきた。車内のすべての細部を、俺の一挙一動を、ダミラの動きを、目が追っていた。だが俺は瞬きしなかった。視線を逸らさなかった。笑みは春の日差しのように温かく、揺るぎなく保ち続けた。
「この区域は駐停車禁止だ。すぐ立ち去れ」
男の声は信頼の余地を残さなかった。
「もちろん、もちろんですよ!」
また笑った。警告が自分には関係ないとでも言うように。
「方向を教えてくれたら、すぐ消えますから」
男は明らかに不機嫌そうに溜め息をついたが、顎をしゃくって北を指した。
「ずっと直進したら交差点がある。そこに標識がある」
「ありがとうございます、お兄さん!」
気楽に手を振って挨拶して、窓を閉めながらアクセルを踏んだ。屋敷が後ろに遠ざかっていき、警備員たちがバックミラーの中で小さくなっていったとき、ダミラがずっと堪えていた息を吐き出した。
「ど……どうやってやったんですか? あんなに自然に嘘を……」
言いかけたのを遮って、柔らかく笑い飛ばした。
「嘘じゃねえよ。コントロールだ。何でも魔術頼みってわけにはいかない、ダミラ。ときには正しく使われた言葉が最高のまじないになる」
ダミラは答えなかった。ただこちらを見ていた。どう解釈すればいいか分からない表情だった。
「最後の一軒に行くぞ」
話を変えた。
「ここで何も見つからなければ、戦略を練り直すしかない」
四軒目の屋敷は世界から隔絶されていた。入口に警備員はいない。窓に灯りはない。ただ石とガラスの塊が、年月の重みの下で眠っているかのようで、時の流れにまったく無頓着だった。
車を止めて、ダミラの杖の光が点灯して、探して、探り続けるのを眺めていた……そのとき、一瞬、光が揺らめいた。
「何かありますわ」
ダミラがほとんど囁くように言った。
「弱い、とても弱いけれど……あそこに。魔力。それも自然なものじゃない」
血が加速するのを感じた。
ここだ。蓮次郎の拠点だ。見つけた。
「中に誰かいるか?」
そう言いながら拳銃を取り出して、窓から外に向けた。
発砲した。弾丸じゃない、追跡のまじないだ。空っぽの谷間に響く鐘の残響みたいに広がっていくエネルギーの波だ。待った。心臓の鼓動を数えた。
だがまじないは建物内に人の気配を検知しなかった。
「空っぽだ」
眉を寄せて言った。
「少なくとも、生きている者はいない。でも油断はできねえ。魔力の罠はそのまじないじゃ探知できない」
「わたくしが対処できますわ」
ダミラが目を閉じながら言った。
無効化のまじないを囁き始めた。魔力を打ち消しのパターンに織り込む、複雑な術式だ。その魔力が杖から屋敷へと流れていくのを、壁の中に浸透していくのを、探して、見つけて、そこを守っていた一つ一つの魔術の封印を無効化していくのを見守った。
「完了しましたわ」
ダミラが目を開けた。
「罠がありました。たくさん。でも、もう機能しませんのよ」
「蓮次郎が封印を解除されたことに気づくのが怖くないのか?」
「気づかせますわ」
ダミラが完全に友好的とは言えない笑みを浮かべた。
「そうすれば、彼のことを追っていると分かる。恐怖が失敗を呼ぶ。そしてその失敗が来たとき、捕まえますわ」
車を降りて、魔術のかかった首飾りの呪術を起動した。顔が別人のものに変わっていった。認識できない顔だ。魔術が皮膚の上を駆け抜けるときの奇妙なくすぐったさを感じた。一瞬、自分が見知らぬ他人になったような感覚だった。
「風のまじないで塀を越えますわ」
ダミラが腕を広げながら言った。
気流が俺たちをゆっくりと持ち上げて、鉄の柵を越えて、二階の半開きの窓まで運んでいった。物音を立てないよう、裸足で静かに入った。屋敷の内部は埃と湿気の匂いがした。何年も人が住んでいないような匂いだ。入り込んだ部屋は小さく、家具は白い布で覆われていて、隅に床置きランプがあった。
廊下を覗いた。左右にまっすぐ伸びていて、一定の間隔でドアが並んでいた。
「手分けしよう。十分間でできる限り調べて、入口で落ち合う」
ダミラが頷いて左に滑り込んでいくのを見送った。その後、右の廊下に踏み込んで、扉を次々と開けながら部屋から部屋へと調べていった。来客を待ちながら一度も現れなかったかのような、巨大なベッドのある部屋たち。魔術的な価値のまったくない、普通の本でいっぱいの図書室――経済学の論文集、政治の解説本、隠れた魔術師の世界とは何の関係もないもの。ビリヤード台があって、音の外れたピアノのある娯楽室。まるで誰かが家を作ろうとして途中で諦めたみたいだ。
でも何もない。蓮次郎がここで何をしているのかを示すものが何ひとつない。
廊下の真ん中で足を止めた。こうはいかない。扉から扉へ、部屋から部屋へ。もっと効率的な方法が要る。自分で歩き回らなくても、この場所を監視できる方法が。
上着の内ポケットから紙切れを取り出した。特殊な紙だ。魔力に反応するよう錬金術の溶液で処理してある。丁寧に折り畳んで、小さな四角にした。そして天井の角に向けて拳銃で打ち込んだ。
「――監視せよ、記録せよ、残像を捉えよ」
術式が起動した。紙が吸盤のように表面に貼り付いた。これで、確立した魔力のつながりを通じて、この場所で起きることが全部見られるようになった。アシュフォードの洗練された技術とは違う。エレガントでもない。でも十分だ。
もう行く頃合いだ。ダミラを呼んだ。
「ダミラ。終わりだ。もう――」
「――いやああああっ!!!」
叫び声が空気を裂いた。
走り出した。足が床をほとんど撫でるだけで。手はもう拳銃に。二段飛ばしで階段を駆け下りた。家具を躱して、角を曲がって、そこに、左に開いた廊下に、ダミラがいた。
立ち尽くしていた。開いた扉の前で。片手が口を覆っていた。目が大きく見開かれていた。顔が蝋のように白かった。
近づいた。視線が敷居を越えた瞬間、世界の動きが止まった気がした。
部屋の中は広かった。高い天井。年月で罅割れた床タイル。でも建物の様式なんて目に入らなかった。
死体があった。
魔術師たちだ。少なくとも、そこに残っているもの。何人かの服装が分かる。皮膚は灰色で乾き果てて、まるで古びた鎧に張り付いた薄い紙のようだった。人が投げ捨てるようにゴミを捨てるみたいに、秩序も何もなく折り重なって積み上げられていた。空洞の目が天井を見上げていた。恐怖の表情じゃなかった。それよりずっとひどいものだった。安らいだような表情。力ずくで奪い取られた休息。
胃がひっくり返るような感覚があった。目に映る光景じゃなくて、頭に浮かんでくるもののせいで。
あの魔術師たちはかつて人間だった。名前があった。家族があった。夢があった。誰かが彼らを愛していた。誰かが帰りを待っていた。それが今では干からびた肉の山になって、地下室に積み上げられて、塵に覆われるのを待っている。
「な、なんて恐ろしい……」
ダミラが震える声で言った。隠しきれていなかった。
「魔力の盗難と繋がっているはずだ」
ほとんど空気のような声で囁いた。
「ドレインされた。完全に。魔力が一粒も残っていない」
ダミラが頷いた。
「報告しないといけませんわ」
ダミラがついに口を開いて、扉から離れた。
「一族たちは何が起きているか知るべきです。これは……これは残虐行為ですのよ」
「知らせる」
俺は声を取り戻しながら言った。
「でも今じゃない。今証拠もなく報告したら、責任者を逃がすだけだ。待つんだ。蓮次郎を見つけなければならない。現行犯で捕まえなければ」
ダミラがこちらを見た。一瞬、彼女の目に何か見えた気がした。読み取れないものが。恐怖か? 尊敬か? それとも別の何かか?
「鋼鉄の人ですわね、マーカス」
「違う」
出口の方に向き直った。
「公平な人間だ。そして正義はときに厳しい」
帰りの道は沈黙の中だった。ダミラは窓の外の闇を見つめたまま、指でシートの端を弄り続けていた。運転に集中しているふりをしていたが、頭はまだあの部屋にあった。あの死体たちに。ずっと頭の中でぐるぐると繰り返す問いに。
――誰だ? 一体誰があんなことができる?
突然、腕に重さを感じた。視線を落とした。ダミラが手をそっと乗せていた。怖々と。ほとんど遠慮するように。
「なぜこうしているのか自分でも分からないんですけれど」
彼女はこちらを見なかった。
「でも……助かります。一人じゃないと感じられることが」
運転に集中しないといけない、今はそのときじゃない、そう言いかけた。でも言葉が出てこなかった。代わりに、ただ頷いて、道路に視線を戻した。
数秒後、ダミラが手を引いた。小さく唇を尖らせた。ほとんど子供みたいに。それからまた窓の外を向いた。
沈黙が戻ってきた。さっきよりずっと重かった。それをどう解釈すればいいか、分からなかった。
* * *
翌日、いつものレストランで落ち合った。ダミラは少し休んだ顔で来たが、まだ青白かった。コーヒーカップの縁越しに彼女を見ていた。
「少し楽になったか?」
「いいえ」
驚くほど率直な答えだった。
「でも楽になれる余裕がないと分かっています」
しばらく見つめた。それから言った。
「何か話したいことがあれば……何かあれば……ここにいるぞ」
ダミラが目に届かない笑みを浮かべた。
「ご心配なく、冗談でしたのよ」
軽い口調で言おうとしていた。
「もう大丈夫ですわ。見たものはショックでしたけれど、恐怖で止まっていられませんもの。このケースを引き受けたとき、何に向き合うか分かっていましたから」
「そんな冗談を言うな」
普段は見せない重さで言った。
「感じていること、必要としていること、それを言葉にするのはゲームじゃない。はっきり言わなければ、誰も助けられない」
ダミラがこちらを見た。一瞬、目に光が宿った。解読できない光が。
「試みましたわ」
ほとんど独り言のように呟いた。
「でもサインをどれだけ見せても、理解しない人がいますのよ」
眉を寄せた。何が言いたいのか、聞こうとした。しかしダミラが話題を変えた。
「デートしたいですわ」
「……デート?」
「そう。デート。貴方とわたくし。二人で。助けてあげると言ったのでしょう? これが助けになりますわ。それとも、口と行動が一致しない方かしら?」
頭の中で要求を処理して、分析して、分類した。出した結論は論理的に思えた――ダミラは気分転換が必要だ。あの光景を忘れたい。少しの間、普通を感じたい。デートはその手段になる。
「いいぞ。デートしよう。いつにする?」
ダミラはこちらを見た。表情が読めなかった。喜びでもあり、失望でもあり、どちらでもないようなものが混ざっていた。
「また話しましょう」
視線を逸らしながら言った。
「今はケースに集中しましょうか。見つけたことをどうするか決めないといけません」
「報告するのが正しいのは確かだ。でも今したら、俺たちが露出する。蓮次郎を指差すに十分な証拠がまだない」
「もう少し待ちましょうか? 屋敷に監視のまじないを仕掛けましたし。動きを観察して、証拠を集める。全部そろったとき、動けばいい」
「死体は?」
重く、切迫した声で訊いた。
「あの魔術師たちには、きちんとした弔いが必要だ」
「分かっています。でも今出したら、蓮次郎は発覚を知って消える。捕まえる機会を失いますわ」
溜め息が出た。簡単な答えのない倫理的なジレンマだ。
「あの場所で起きたことを分析できる人間が要る。本当に何があったのかを説明できる誰かが」
「心当たりがありますわ」
ダミラが小さな勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「エレノア・ウィンターフォール。霊的魔術の専門家ですのよ。あの屋敷で何が起きたかを理解できるとすれば、彼女しかいませんわ」
「ウィンターフォールか?」
眉を寄せた。
「彼女の専門は魂、内的なものだ。俺たちが見たのは……物理的なものだった。生物学的なものだ。役に立てるか分からない」
「試して失うものはありませんわ」
迷ったが、最終的に頷いた。ダミラの言う通りだ。他に大した選択肢もない。
* * *
エレノア・ウィンターフォールとの面会は、ウィンターフォール一族の邸宅の図書室内の個室で行われた。余計な目が届かない場所だ。エレノアは淡い銀色の髪の女性で、その瞳は人の外見を貫通して、心の奥にまで届くように見えた。服装は簡素だったが、その動作に自然な品があって、血筋を感じさせた。
「始める前に言っておく。ここで話されることはすべて機密だ。情報が漏れれば、ワイルドソウル一族に拘束される」重く言った。
エレノアは動じなかった。俺、ダミラ、の順に目を向けて、静かに頷いた。
「分かったわ。話して」
俺とダミラは要点を伝えた。魔力の盗難、侵入者、屋敷、死体たち。エレノアは黙って聞いた。遮ることもせず、何も明かさない表情で。しかし無関心にも見えなかった。
「説明だけでは結論は出せないわ」
エレノアが言った。
「でも理論立てることはできる。二つの可能性があるのよ。一つ目は、その魔術師たちがあまりにも激しい魔力ドレインの犠牲になって、体が崩壊したということ。アシュフォード一族がエネルギー抽出の道具を作ることは秘密じゃないし、グリムストーン一族にも似た技術があります。実験が失敗したのかもしれない」
「二つ目の可能性は?」
「それ以上の何かがあるということ。知られていないもの。魔術師たちがこれまで達成してきたことを超えた何か。でも確かめるには、自分の目で死体を見るしかないわ」
ダミラとの間で視線が交わった。
「それは……まだできない」
そう言って、理由が言葉にできないもどかしさを感じた。
「なら理論で我慢するしかないわね」
エレノアが肩をすくめた。
「でも他にも知っておくべきことがあります。直接関係ないかもしれないけれど、無視できないことが」
「言え」
「一族間の緊張が高まっています。アシュフォード、ウィンターフォール、ナイトシェイドが大規模な動きのために手を組んでいるという噂を聞きました。三人の若い女性魔術師が全体を指揮していると。アイリ・ウィンターフォール、予言の専門家。レイナ・アシュフォード、戦闘の専門家。そしてリディア・ナイトシェイド、一族長の後継者」
首の後ろの産毛が立つのを感じた。
「どんな動きだ?」
「分からないわ。でもそれが噂のままでいられる時間は長くないでしょう。気をつけて、マーカス・ワイルドソウル。嵐は沈黙から始まりますのよ」
* * *
その夜、俺のアパートでダミラと二人、持っている情報を何度も見直した。ピースはまだ完全に合わさっていなかったが、はるかに大きなパズルの輪郭が見えてきていた。
「蓮次郎が屋敷に戻るまで待つ」
地図上の一点を指差しながら言った。
「監視のまじないで、そこで何をするか分かる。十分な証拠が集まったら、ハンターを動かす。捕らえて、屋敷を封鎖して、あの魔術師たちの亡骸を連れ出す」
ダミラはしばらくこちらを見ていた。それから一言も言わず、隣に腰を下ろして、肩に頭をもたせかけた。
体重を感じた。肌の温度を感じた。一瞬、どうすればいいか分からなかった。
「眠いなら部屋に行け」
「行きたくありません。このままでいたいですわ。少しだけ」
なぜここにいたいのか、分からなかった。だが去れとは言わなかった。黙ったまま、ダミラの呼吸がゆっくりと深くなっていくのを感じた。
そして彼女が眠っている間、頭は別の場所へ旅をした。別の時代へ。別の人間へ。
黒木。
笑っていたのを覚えている、出会った日のことを。隣で戦っていたのを覚えている、俺の背中を守っていたことを。正義こそが世界で唯一価値があると言っていたのを覚えている。そして、すべてが変わったあの日を覚えている。
黒木が目的のためなら手段を選ばないと決意した日。少数の無実の者を犠牲にしても、使命を果たせるなら構わないと決めた日。止めようとした。失敗した。そしてそれ以来、正義は復讐ではないという確信を胸に抱き続けてきた。正義とは守ることだ。失ってしまった者でさえ。
黒木に説明を求めた日の、あの空虚な眼差しを思い出した。
『正義はただの言葉だ、マーカス。重要なのは勝つことだ』
気づかないうちに拳を握っていた。指の関節が白くなった。掌に爪が食い込む痛みで、ようやく現実に戻った。
スマホが鳴った。ダミラが驚いて起き上がった。電話に出た。
「上司?」
「マーカス、問題だ。アキラ・アッシュフォード。エンディミオンから脱走した。いとこのアリズ・アッシュフォードと一緒に。居場所は不明。すぐに対処してくれ」
血が凍る感覚があった。アキラが、外に。なぜ? 何のために?
「これは好機だ。調査している網に繋がっているとすれば……手遅れになる前に見つけないといけない――」
通話を切って立ち上がった。ダミラが心配そうな目でこちらを見ていた。
「何があったんですか?」
「アキラが脱走した。探しに行く」
「わたくしも行きますわ」
ダミラも立ち上がりながら言った。
迷った。危険だ。何に直面するか分からない。でもダミラの目の中の決意は揺るぎなかった。
しばらく見つめた。それから頷いた。
「行くぞ」
夜の冷たい空気の中に出た。心臓が速く打っていた。頭が問いで溢れていた。何かが動き始めていた。制御できないものが。そして数え切れないほどの戦いを生き延びてきた確信が、次に来る嵐は今まで直面してきたどの嵐よりも激しいものになると告げていた。
それでも止まらなかった。止まれなかった。
正義は待たない。
――信じることは、時として最も難しい選択となる。
敵だと思っていた者。
追われる者。
そして、それぞれが掴んだ新たな真実。
止まっていた歯車は、再び静かに動き出す。
しかし、その先で待ち受けていたのは、
過去と向き合わなければならない一人の魔術師だった。
次回――
再会。
忘れられなかった過去が、再びその姿を現す。




