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傍観者の正義

答えを求める者の前には、新たな謎が現れる。


一つの手掛かりを追えば、また別の疑問が生まれ、

真実は少しずつ、その姿を変えていく。


広大なエンディミオンには、

長い歴史だけではなく、誰にも語られていない秘密も眠っている。


その静寂の裏側で、

今夜もまた、何かが動き始めようとしていた。

会議室は古い紙とぬるくなったコーヒーの匂いがした。


窓のそばで腕を組みながら、上司が机の上で報告書を並べ広げるのをじっくり聞いていた。夕暮れの灰色の光が窓ガラスを通して差し込み、木の床に細長い影を描いていた。静かな部屋。でも静かすぎる、そういう静けさだ――何かが始まる直前の、息を詰めたような沈黙。


「異例の案件だ」と上司が切り出した。白髪交じりの頭、左眉を横切る古傷。その顔にはいつも通りの無表情が貼りついていた。


「アッシュフォード一族の少年だ。アキラ・アッシュフォード。黄金の鉄則を破った」


胸の奥で何かが動いた。


驚きじゃない。もっと深いところからくる、何か別のものだ。交響楽の中で一音だけ外れた音――俺たちワイルドソウルが命をかけて守り続けてきた秩序の、狂いだ。黄金の鉄則。最も古く、最も神聖なあの掟。魔術師たちがこの影の中で生き続けられるよう、先人たちが血を流して刻みこんだものだ。それを、一人の若造が磁器の壺でも叩き落とすみたいに砕きやがった。


「案件の詳細は?」と聞いた。声はいつもの調子を崩さなかった――穏やかだが、芯のある声。


「少年が民間人に素性を明かした。記憶消去プロトコルも起動しなかった。情報はアッシュフォード一族の並行調査から俺たちのところに届いた。ダミラ・アッシュフォードという名の捜査官からだ」


……ダミラ。


その名前には聞き覚えがあった。内部探偵だ。数ヶ月前、一族間の調整会議で一度会ったことがある。若かった。だがあの目は、見すぎた人間の目だった——感情を削ぎ落とした、刃のような冷たさ。あまり喋らない。でも喋るときは、その言葉が皮膚を切る。


「少年は?」


「明朝、身柄を拘束する。作戦はその瞬間から始動している。50人の魔術師が少年の学校に向かった――誰にも記憶を残さないようにするためだ。それから少年が来るのを待って、確保する」


「マーカスさん、お前は強い。だがこの作戦では傍観に徹してほしい」


「理由を聞いてもいいですか、長」


「このケースはお前に主任を任せることになりそうだ。だから今お前が動いたら後々面倒になる。正式に命令が下るまでは観察者でいてくれ。わかったか?」


「はい、長!」


――その翌朝、俺は遠くから全てを見ていた。


アキラ・アッシュフォード。圧倒的な不利な状況の中で、基礎クラスの魔術師でありながら、それでも50人の包囲を割って前へ進んでいた。その動きには鉄のような意志があった。何かに向かっていた――いや、誰かに。あの少年が記憶を消さなかった相手、あの友人のところへ辿り着こうとしていたに違いない。


……正直に言うと、同情した。


この子は魔術師の掟をよく理解していないんだ。プロトコルを起動して彼女を「伴侶候補」として申請すれば、それだけで済んだ話だ。一族は外部の人間と結びつくことに柔軟な姿勢をとっている。でも彼はそれを知らない。知ろうともしなかったのか――まるで最初から、その手の規則には興味がなかったかのように。


少年が自分の教室に辿り着いたとき、クラスメートたちの記憶が次々と消されていくのを目にした。その瞬間に、彼の中で何かが折れた。抵抗する気力が消えた。そのまま捕らえられ、アッシュフォード一族の頭首の前に連れて行かれて、七賢者の審判を受けることになった。


判決――アカデミー・エンディミオンでの再教育。両親は本家の使用人へ降格。


……ゆるい。


俺はゆっくりとうなずきながら、胸の中でそう思っていた。こんな重大な違反に対して、これが判決か。俺が知る過去の事例では、地位を剥奪され、追放され、一族の記録から名前ごと抹消されたケースもある。なのにこれは――何かが臭う。まるで七賢者が、俺たちハンターには見えていない何かを知っているような。誰かを守っているか、何かを待っているか。


その後、俺は長の執務室に呼ばれた。アキラのケースが正式に俺に割り当てられた。今この瞬間から、アキラ・アッシュフォードに関わるあらゆることを調査するのが俺の仕事だ。


「続きがある」と長はぶ厚い封筒を机の上で滑らせた。


「情報漏洩だ。アッシュフォード一族とグリムストーン一族のメンバーが、まだ全容が掴めていない何かに関与している。少年の父親――カズキ・アッシュフォードが主要な容疑者だ。証拠はダミラさんが入手した」


封筒を受け取って開けた。中の書類は密度が高かった。日付、暗号化された名前、不審な取引の記録。俺の専門外だが、パターンは見えた。水面下で何かが動いている。ワイルドソウルがまだ解きほぐせていない、何かが。


「俺の任務は?」


「調査だ。アカデミー・エンディミオンを監視しろ。あそこで何かが起きている。夜明けに魔力が空になって目を覚ます学生がいる。夜中に奇妙な物音がする。そしてあの少年——アキラ-さんは重要な駒だ。被害者なのか問題の一部なのか、まだわかっていない。今は、ただ観察しろ」


……七賢者はやはり何かを知っているんだ。だからあんなにゆるい判決にした。そう確信した。


書類を上着の内ポケットに収めて、うなずいた。そして自然と、言葉が出てきた。


「わかりました……!必ずや、この件の真後ろにいる奴に正義の鉄槌を下してみせる——ワイルドソウルの名と、正義の名にかけてな!!」


長は何も言わずにうなずいただけだった。そのままパソコンの画面に目を向け、じっとそこを見つめていた。


――アカデミー・エンディミオンは、対照的な場所だ。


昼間は学生の喧騒、授業、活気に満ちた廊下。だが夜になると、空気が変わる。厚みを増す静けさ――何かを隠した、重い静けさ。何週間もかけて調査を続けた。教師たちに話を聞き、記録を洗い、痕跡を追った。


そしてある日、廊下でそいつを見かけた。


アキラ・アッシュフォードは、頭を垂れ、肩を落として歩いていた。誰とも目を合わせない。誰にも挨拶しない。まるでこの世界に存在することを申し訳なく思いながら、ただ引きずるように歩いている影だった。


胸がちくりとした。


あの目、知っている。昔――全てが崩れ落ちた頃、鏡の中で見たことがある。


足を止めた。少年も止まった。道を塞ぐ誰かに気づいて。目が合った。アキラの目に映っていたのは恐怖、不信、そしてもう一つ――よく知っている何か。希望を失った者の、虚ろだ。


「何も失われちゃいねぇぞ」


気づいたら口から出ていた。声が自然に温かくなった、抱きしめるみたいに。


「まだ息してる。朝に起き上がれる力がある。それがある限り、希望はある。俺も同じ場所にいたことがあったからな。俺が出られたなら、お前も出られる」


少年は理解できない顔で見上げてきた。当然だ。俺たちは知らない間柄だ。でも俺は理解してもらう必要はなかった。ただこの言葉が、あいつの心のどこかに種として残ってくれればそれでいい――いつか芽吹く日のために。


返事は待たなかった。必要なかった。歩き続けながら、虚ろなあの目を胸に持ち帰った。


……あの子は、心が壊れている。でも壊れた心だって、治ることがある。


歩きながら、意識が遡っていった。別の時代、別の人間のところへ。


黒木くん。


俺たちは同志だった。友だった。二人とも正義を信じていた。魔術師を守ること、秩序を保つこと――同じ炎を胸に宿していた。でも黒木の中でそれが変わった。あの炎は破壊的になった。全てを焼き尽くした。ワイルドソウルを裏切った。正義を裏切った。俺たちが立っていたもの全てを。


……まだ俺のことを友だと思ってるか、黒木くん。


答えは出ない。何年も出ていない。でも俺は諦めない。諦めることができない。正義とは復讐じゃない。守ることだ——道を踏み外した者ですら。


――数日後、魔力窃盗が公式に報告され始めた。


夜中に何トンもの重さを運んだように、体が重く、消耗しきって目を覚ます学生たち。エンディミオンの医師たちは疲労だ、ストレスだ、栄養不足だと言った。だが俺には真実が見えていた。痕跡を見た。部屋に残った魔術の残滓を見た。使われた術式のパターンを見た。


アッシュフォード一族のものだ。


数晩の張り込みで確信した。魔力の紋様、魔力の署名――全てが同じ方向を指していた。だが侵入者たちは巧みだった。隠密魔術の使い手で、罠を張る前に必ず逃げ切った。こういう相手と戦うのは初めてじゃない。でも今回は何かが違う。動き方、術式の精度――ただ魔力を盗む泥棒じゃない。目的がある。そしてその目的が何であれ、良いものであるはずがない。


罠を仕掛けた。探知の封印、封じ込めの障壁、少しでも触れれば起動するエネルギーの網。過去に侵入者が使った出口、暗がり、角――全ての要所に設置した。そして待った。


攻撃の夜、俺は本棟の屋上に陣取り、呪術をかけた双眼鏡で寮を監視していた。影が動いた。三つの頭巾姿の人影が亡霊のように滑り込み、建物の中に消えた。


……今夜は逃がさないぞ。


だがその瞬間、想定外の事態が起きた。近くに二人の若者が現れたのだ。すぐにわかった。一人はアキラ・アッシュフォード。もう一人は赤毛の少女——その態度から緊張と気魄が等しく滲み出ていた。


……なんでここにいるんだ、あいつら。


だが介入する時間はなかった。侵入者たちはもう中にいる、見失うわけにはいかない。影に紛れて後を追った。一室に入り、眠る学生から魔力を抜き取るのを見た。装置が誤作動した瞬間、エネルギーが腐敗した形で解放され、少女が人間ではない何かへと変容し始めた。


そのとき、叫び声が聞こえた。


アキラだった。恐怖の、思わず漏れた叫び声。静寂の夜を、落下するガラスのように切り裂いた。侵入者たちが振り向いた。


舌打ちが口から出た。


もう隠密でいる意味はない。動くしかなかった。屋上から飛び降り、マジクス・ゾンビへと変容しかけている学生の後ろに着地し、首の後ろに一撃を入れて意識を刈り取った。魔術は使わなかった。必要なかった。時に、純粋な力の方が効率がいい。


侵入者たちは隠蔽魔術を発動させて消えた。でも焦らなかった。罠はもう起動している。時間の問題だ。


二人の若者の方を向いた。アキラは青ざめて震えていた。隣の少女は今にも倒れそうだった。何か言いかけたが、その時、遠くで爆発音が響いた。罠が機能した。走り出した。少女の問いに名前だけ答えながら、二人の背後を後にした。


爆発の現場に着いた頃には息が上がっていたが、全神経は研ぎ澄まされていた。三人の侵入者が地面に倒れていた。傷ついてはいるが、まだ意識がある。頭巾が外れ、疲弊と絶望に刻まれた顔が露わになっていた。


触媒を抜いた。


杖じゃない。拳銃だ。グリムストーン一族の職人が特別に改造した一丁――光の魔術を、伝統的な杖には不可能な効率で出力するように設計されている。黒いその金属が月明かりの下で鈍く輝き、銃身に刻まれた紋章が抑制されたエネルギーで光った。


「止まれ!!」


三人に銃口を向けながら叫んだ。


「魔術師社会への不法行為により、お前たちを拘束する。杖を捨てろ!!」


だが降伏しなかった。杖を構え、属性魔術の弾幕を放ってきた。炎、氷、雷。三つが一斉に、破壊の奔流となって俺を狙った。


退かなかった。撃った。


拳銃から放たれる光の弾丸は銃弾じゃない――接触と同時に爆発する純粋なエネルギーの凝縮体で、敵の魔術を火花の滝となって瓦解させた。激しい交戦が始まり、地面が揺れた。相手は巧みだ。動きが速く、正確で、連携が取れている。でも俺もそうだ。


魔術の応酬が続いた。何分も、何時間のように感じながら。空気が煙と静電気で満たされた。一人の肩を撃ち抜いたが、別の一人が放った雷撃が頬を掠めた。


……これは熱くなってきたなぁ!!こんな手応えのある相手、久しぶりだぜ!!


「誰の命令だ!!何のために魔力を盗む!!」偏向させた火球を一発で撃ち落としながら叫んだ。


答えはない。ただひたすらに、絶望的なほどの激しさで攻撃してくる。俺が優勢になりかけたとき、耳をつんざく轟音が意識を乱した。流れ弾が中庭の柱に直撃し、瓦礫が降り始めた。飛び退いてぎりぎりかわしたが、その隙に敵が態勢を立て直した。まずい流れになってきた。


そのとき、足音が聞こえた。


何十もの足音。侵入者じゃない――エンディミオンの教師たちと学生たちだった。特別クラス、Aランク、エリートの顔ぶれが、杖を構えて集まってきた。


そして空中に、一つの人影が浮かんでいた。


風の台座の上に立つ、威圧感のある老人。大魔導師のストロン。彼自身の身長を超える杖が、太古の光を放っていた。白い髭が自らの魔法の風にたなびき、深い青の瞳が侵入者たちを見下ろしていた――虫けらを踏み潰す前に一瞥するような、揺るぎない無関心の目で。


侵入者たちが止まった。杖を持つ手が震えた。


「降参しろ」

大魔導師のストロンが言った。叫び声ではなかったが、その声は四方八方に雷鳴のように響いた。

「逃げ場はない」


杖が手から離れた。金属が地面に当たる音が、死刑宣告のように響いた。


近づいて身元を確認した。アッシュフォード一族の者だ。記録上は使用人の身分。だがあの戦いぶりは――使用人の意志じゃなかった。


「誰の命令だ。誰がこれを指示した」


リーダーらしき一人が顔を上げた。血に汚れた顔だったが、その目が病的な光を宿して輝いていた。そして――笑った。


最初は喉の奥の微振動だった。だがそれが広がり、制御を失った哄笑になった。血を凍らせるような笑い声だ。


「馬鹿め」

嗄れた声で言った。

「介入するなら……消えてもらうしかない」


三人の皮膚が灰色へと変じ始めた。目が濁り、筋肉が緊張し、喉から獣の唸り声が漏れ出した。


飛び退いた。教師たちも学生たちも後退した。


「マジクス・ゾンビだ!!変異してるぞ!!」誰かが叫んだ。


だが三人が攻撃に転じる前に、純粋な光の奔流が降り注いだ。普通の術式じゃない。高位魔術だ。真の力――魔法だ。


大魔導師のストロンの杖がまだ煙を吐いていた。三人がいた場所には、焦げた穴と炭化した布切れだけが残っていた。老人は静かに降下し、その穴を無表情に眺め、それから踵を返した。一言も言わずに去っていった。教師たちも学生たちも視線で追ったが、誰も呼び止めなかった。


焦げた穴を見つめながら、拳を固く握った。


尋問の機会を失った。でも……大魔導師のストロンは正しい判断をした。三体のマジクス・ゾンビなんて、抑え込めるものじゃない。それはわかってる。でも苛立ちが内側を燃やした。使用人身分でありながら戦士のように戦った男たち。あれほど早い変異。繋がらないピースが多すぎる。


同夜、ワイルドソウルの拠点に戻った。作成した報告書は冷静で、正確で、感情を排したものだった。でも一人で部屋にいて、月明かりが窓から差し込む中、ある問いが頭を離れなかった。


……アキラは、あの場で何をしていたんだ?


* * *


数日後、ダミラと会うことにした。街中にある普通のレストラン――どこにでもある、誰も客を二度見しない類のやつだ。先に着いて、コーヒーを注文して待った。二十分後、彼女が現れた。


民間人の服装だった。目立たない。暗い長いスカート、革のジャケット、髪を下ろして。エンディミオンの服じゃなくダミラを見ると、ただの学生みたいに見えた。そういう姿で見るのに慣れていなかったから、少し面食らったが、それは顔に出さなかった。


窓際の隅のテーブルに向かい合って座った。周りの会話の騒音とカップの音が、完璧な隠れ蓑になった。


「報告があります」


ダミラは前置きなしに切り出した。ポケットから小さな装置を取り出した――呪術をかけた録音機だ。ボタンを押した。


声が流れ出した。重く、疲れていて、諦めの色が滲んでいた。聞いた瞬間にわかった。


ヴィクター・グリムストーンだ。


『――もうこれ以上続けたくない』録音の中でヴィクターが言った。『もう十分だろ……。行き過ぎた。俺たちは行き過ぎちまった』


『今は止まれない』別の、より権威的な声が答えた。『もう引き返せないところにいる。実験は続けなければならない』


『……実験?これは実験じゃない。狂気だ。神の真似事をして、いいことなんて一度もなかった』


『ヴィクター、集中しろ。お前の才能が必要だ。お前なしじゃ変容を完成できない』


録音が途切れた。ダミラが装置をしまった。


「これが入手できたものです。ヴィクター・グリムストーンは大きな何かに関与しています――マジクス・テラの種族進化に関わること。魔力をエネルギー源として使い、強制的な変容を引き起こそうとしている」


眉間にしわが寄った。胃が不快にひっくり返った。進化は強制できるものじゃない。時間と、世代を超えた努力と、より良くなろうとする者たちの血と汗によって訪れるものだ。それを強制するのは冒涜だ。神の真似事だ。


「首謀者は?」


「それが朗報です」


ダミラはポケットから数枚の写真を取り出して滑らせた。


「蓮次郎・アッシュフォード。ヴィクターの技術的な対になる人物です。ヴィクターがグリムストーンの天才なら、蓮次郎はアッシュフォードの天才です。そして――秘密の拠点を突き止めました。市外の屋敷です。そこに潜んでいます。ただ正確にどの屋敷なのかは、まだわかっていませんが」


写真を見た。中年の男、眼鏡、白衣、建物から出てくるところ。顔に見覚えはなかった。だがその目に、誰のことも敬っていない人間の冷たさがあった。


「どうやって近づく気だ?」


「これで」


ダミラはビロードの小袋から首飾りを取り出した。中央に嵌まった石が、催眠的な光で静かに輝いていた。


「ナイトシェイド一族の呪物です。これをつけている間は、私たちの正体が隠されます。誰にも認識されない」


首飾りを受け取って観察した。軽い――ほとんど実体がないようなほど。ダミラに返した。


「計画は?」


「蓮次郎を尾行する。屋敷の場所を突き止める。それからハンターたちに連絡して作戦を組む」


うなずいた。いい計画だ。単純で、直接的で、効率的だ。


「素晴らしい作戦だ、ダミラ!!正確で、無駄がなくて、見事としか言いようがないぞ!!」


ダミラが視線を落とした。指がナプキンの端を弄び始めた。頬が――赤くなった。唐突に。まるでランプの熱が突然届いたかのように。俺はそのまま続けた。功績は称えられるべきだという信念に従って。


「あの精度があれば、相手に気づかれることなく尾行できる。その機転は見事だ!!」


ダミラが椅子の上で体を動かした。呼吸が少し早くなって、視線がテーブルクロスの一点に固定された。俺はそれを任務中の細かな変化と同じ注意で捉えた――姿勢の変化、緊張した身振り、声のかすかな震え。謙虚な人間が慣れない賞賛を受けたときの、単純な反応だと解釈した。笑顔で、もっと聞かせてやるべきだという確信を持って続けた。


「その才能を隠すな、ダミラ。任務にとって貴重な戦力だ!!」


だが彼女はむしろ、言葉を重ねるほど落ち着かなそうにしていた。まるでその言葉が、俺が思う以上の重さを持っているかのように。俺には内気に見えた、それだけだった。でも何かが引っかかった。特定できない何かが。


* * *


――数日待って、ダミラの観察によれば蓮次郎は二週間に一度の水曜日だけ一人で出かける習慣があるとわかった。当日、俺の車で後を追った。蓮次郎はしばらく走ったが、郊外に向かわず、ショッピングモールの方へ舵を切った。


「何をしてるんですか……」ダミラが眉をひそめて呟いた。


蓮次郎は駐車して、降りて、店と店の間を歩き始めた。降車した。首飾りの呪術はすでに有効で、俺たちの顔は全く別の顔に変わっていた。ショーウィンドウの反射に映る自分を見て、奇妙な感覚がした。俺じゃない、でも他人でもない。


「自然に行動しないと」

ダミラが緊張した声で言った。

「うろついてるのを見られたら怪しまれます」


「どうする?」


「……二人連れのふりをするしかないかと……」


見た。なぜそんなに緊張するのかわからなかったが、うなずいた。


「わかった。行くぞ」


手をつないで歩いた。ダミラの指は固く、ほとんど冷たかった。脈が速くなっているのが伝わった。任務のプレッシャーのせいだろうと思って、深く考えなかった。


何軒もの店をついて回りながら蓮次郎を追った。服を試着し、サングラスをかけ、ショーウィンドウ越しに犬と遊び、ゲームセンターでは格闘ゲームの前に腰を下ろして、目も当てられないほど下手な腕前を披露した。ダミラと目を見合わせた。二人とも困惑していた。


「一体何なんだ、あいつは……」


「わかりません。でも何かがおかしい」


その瞬間、蓮次郎が前触れなくこちらに振り向いた。一瞬、気づかれたと思った。手が自然に触媒を探しかけた。だがダミラの方が早かった。俺に抱きついて、俺の胸に顔を埋めた。俺はすぐに意図を読み取り、両腕で彼女を包んだ。


恋人同士のふりで、数秒間そのままでいた。


その数秒間、ダミラの心拍が伝わってきた。……すごく緊張してる。この任務は最初に思ったより複雑だ。


顔を上げると、蓮次郎はもういなかった。


「に、逃げられました……」ダミラの声が震えていた。


駐車場に戻った。蓮次郎の車は消えていた。


「見つかったか、嗅ぎつかれたか。どっちかだな」


「私たちじゃないと思います」


ダミラが確信のある口調で答えた。それが俺を少し驚かせた。


「別の誰かも尾行していたんじゃないでしょうか。別の人物が同じことをしていた」


「別の誰かって、誰だ?」


「わかりません。でもそうなら――私たちだけじゃないということになります。そしてそれは、事態を複雑にする」


うなずいた。ダミラが正しいという確信があった。蓮次郎を追うのではなく、奴が向かう場所を探す方が正解だ、という声が長年培った直感から届いた。


「郊外の屋敷だ。拠点の場所さえわかれば、独自に調査できる」


「でもあの辺りには屋敷が何十軒もあります。正解を探すのは干し草の中から針を見つけるようなものです」


「任せろ」


その夜、部屋に閉じこもって地図、不動産記録、ワイルドソウルの不動産関係の連絡先のリストと向き合った。論理を使った。蓮次郎が目立ちたくないなら、市街地の中心ではなく、奇妙な音も中の出来事も近所に聞かれも見られもしない、十分な敷地のある離れた場所を選ぶはずだ。北側のエリアで条件を満たす屋敷は四軒だけだった。場所をマップに印をつけてダミラにメッセージを送った。


翌朝、同じレストランで落ち合った。ダミラは顔を輝かせながら現れた――感嘆と、もう一つ俺には読み取れない何かが混ざった表情で。


「どうやったんですか?」

ほとんど息を飲みながら聞いた。

「一晩で……」


「コネと論理だ」

肩をすくめて答えた。

「魔術じゃない。隠れたい魔術師の考え方で考えただけだ」


ダミラが強い眼差しで俺を見た。俺には解読できない強さだった。その一瞬、指が――テーブルの上に乗っていた俺の手の上に、そっと置かれた。俺はその接触を感じた。でも意味がわからなかった。頭の中はもう次のステップにあった。


「四軒それぞれに近づいて、魔力探知の術式を使う。どれかが反応したら、そこが拠点だ」


「わかりました」とダミラが言った。手を引いた。そのしぐさを、失望と諦めのどちらに分類すべきか俺にはわからなかった。


立ち上がって店を出た。俺の車が駐車場で待っていた。朝の太陽が強く輝いていて、紆余曲折はあったが――正義は味方してくれていると感じた。


「行くぞ!!」

笑いながら言った。

「まだまだやることがある!!」


ダミラがうなずいた。そして俺が初めて見る種類の笑みを浮かべた——無理に作った笑顔じゃなく、本物の笑みだった。この一連のことを俺と共に歩んでいることを、心から望んでいるかのような。


エンジンがかかった。北側の四つの屋敷が、次の目的地になった。何が待ち構えているかはわからない。でも真実に、今まで以上に近づいているという確信があった。


そしてその確信が――太陽の温かさみたいに、前へ進む力をくれた。

――闇を追う者は、光だけを信じてはいない。


事件の裏側を知る一人の魔術師。

積み重ねられた経験。

そして、決して消えることのない過去の傷。


点と点だった出来事は、やがて一本の線となり始める。


その先に待つのは、真実か。

あるいは、さらなる陰謀か。


次回――


追跡者。


静かに進められていた調査は、新たな局面を迎える。

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