金魚鉢の外の空気
長い眠りから、
少女は目を覚ます。
失われた記憶。
閉ざされていた時間。
そして、
初めて見る世界。
彼女を待っていたのは、
恐怖ではなく――
ヴィクターの優しさだった。
オゾン、合成油、冷たい金属の匂いが、敷居を跨いだ瞬間に迎えてくれた。
戻ってきた。
ぐるりと見回すだけで、肩が二センチほど下がるのがわかった――純粋な安堵で。蓮次郎の地下ラボは、記憶の中とまったく同じだった。薄暗く、ケーブルで埋め尽くされ、絶え間ない低いうなり声に包まれている。深く息を吐く。
……くそ、まだ息してるのが奇跡みたいなもんだ。奇跡ってやつは、案外ネジとボルトでできてるのかもしれないな。
アザエルと、あの魔法使い連中を相手に立ち回ったあの地獄を生き延びて、今ここに五体満足で立って、心臓がちゃんと脈打ってる――それがほとんど運命の罠みたいに思えた。でも、違う。生き残った。あの狂気を生き抜いたのは、たった一つの理由のためだ。自分自身に誓った約束を、果たすために。今日こそ、海をあのクリスタルの呪縛から解放してみせる。
踵を返し、中央のテーブルに向き直る。
そこに、俺の作品があった。傷だらけで、眠れない夜を何十も重ねながら、ザックたちの不可欠な助けを借りて、あらゆる知恵の欠片をかき集めながら仕上げた機械。
試運転すら一度もしてない。でも、迷ってる猶予はない。シャシーの中心には、アキラに頼んで分けてもらった石のかけらが収まっていた。小さい。でも、輝いている。あれは完全な謎だ――エネルギー的な意味で。戦場で実際に目にした限り、あのエネルギーは静的じゃない。適応性があって、流動的で、周波数次第で吸収体にも送信体にもなる。
俺の計算理論が正しければ……石は「電池」と安定フィルターの両方として機能するはずだ。海の身体が飽和状態なら石が余剰を吸収する。凝集性が足りないなら、エネルギーを注いで浄化する。要するに、この岩のかけら一つが、彼女に外の空気を取り戻させる薬になる。
壊れるかもしれない。爆発するかもしれない。……でも、それでもいい。失敗しても、立ち止まらない。
彼女は装置じゃない。人間だ。だから俺は、技術で人間を救うって証明してやる。
カプセルに近づく。
内部の緑色の液体が、薄い光を反射してゆらめいている。手は揺れない。素早くケーブルを引き、キャリブレーターを調整し、機械の導管をタンクの接続口に連結していく。
「……ヴィクター……?」
海の声が、直接頭の中に響いた。柔らかく、ためらいがちな声。
「……何を、してるの……?」
目は上げず、スパナでナットを締めながら、自信ある笑みを浮かべた。
「ずっと前にするべきだったことをしてるんだよ、海さん。もう少しで出してやれる。ちょっと待ってろ、結果は自分で確認できる」
しばらく沈黙が降りた。続いて、疑念の振動が伝わってきた。
「ヴィクター、……やめて」
精神的な声は小さく、諦めで擦り減ったような響きだった。
「気持ちはわかる……でも私の身体の状態は、まったく異常なの。ただの暴走した魔力じゃない、生物学的なレベルで何かが壊れてる。それを機械で直せるものじゃない。うまくいかない……力を無駄にするだけよ」
俺はちょっと手を止め、拳で軽くカプセルのガラスをノックする。
「聞けよ……計算は嘘をつかない。それに俺は、エンジニアの白衣を着たときに当てずっぽうで動く趣味はない。式は何千回も見直した。ゴールラインの目の前で、今更諦めるな」
「……希望がないってことじゃないの。現実の話をしてるの……」
彼女はつぶやいた。
「蓮次郎お兄ちゃんは、何百もの手を試した。天才だったのに、あの人でさえ私を安定させられなかった。それなのに、なぜ……」
「蓮次郎はお前の力を支配しようとしてた。俺はただ、その力に流れ道を作ってやりたいだけだ。お前の内側から壊さないように」
メインターミナルに最初のコマンドを打ち込みながら、きっぱりと答えた。
「俺は蓮次郎じゃない、海さん。俺はヴィクターだ。今日、お前をその金魚鉢から出してみせる」
この瞬間のために、生き延びた。全部の夜、全部の後悔、全部の計算は、この一手に集約されている。
「怖い、ヴィクター……もし機械が失敗したら、フローが制御不能になったら……あなたまで壊したくない」
壊れるなら壊れろ。俺はまた組み直す。エンジニアの仕事は、それだけだ。
「それだけじゃ俺を厄介払いするには全然足りない。信じろ、いいな?」
信じるかどうかは自由だ。でも俺の機械は、信じない奴ほど驚かせるようにできてる。
同期を開始する。
鋭い唸り声が部屋を走った。作り上げた機械が青白い電気の輝きを放ち始め、カプセルが蛍光に近い緑の光で応じ、石壁を染め上げた。内部の液体がぶくぶくと泡立ち始める。ラボの古いモニターたちに、コードの行列と真っ赤な警告シンボルが点滅し始めた。
「……くそっ」
画面を睨みながらぼやく。
「蓮次郎のシステムの警告の半分が何を意味してるのか、まったく見当もつかない。あいつのインターフェースは先史時代のゴミだ」
二分が経つ。五分が経つ。機械は振動し、液体は泡立っているが、バイタルサインのグラフには有意な変動が一切出ていない。
「海さん、具合はどう?」
ガラスに近づきながら聞く。
馬鹿げるほど長い間があった。
「……同じ」
ようやく言葉が来た。
「何も変化を感じない。身体は相変わらず重くて、自分の内側に向かって崩れていく感じ。言ったでしょ、ヴィクター……魔力の流れを調整しても意味がない。液体だけが私を支えてくれてるの」
奥歯を噛む。
わかった。プランA――石をスポンジとして飽和を吸収させる――は効果が出ていない。でも優秀なエンジニアは、選択肢を一つしか持たない間抜けじゃない。
失敗か。……まあ、エンジニアの辞書に『一発成功』なんて単語はない。
「よし、プランBに移る」
プライマリコンソールのスイッチを切り替えながら告げる。
「プランBって、ヴィクター、何をするつもり……?」
危険なのはわかってる。けど、危険を避けてたら何も変わらない。俺はもう、立ち止まる気はない。
「余剰をドレインできないなら、石のかけらのエネルギーを直接お前の中に注入して、人工的な安定核として機能させる。石のフローをお前の体内に誘導する」
「待って、止めて!」
頭の中で声がパニックを帯びた。
「あの石の純粋なエネルギーを注入するなんて自殺行為よ!何で出来てるかさえ正確にわからないのに。リスクが高すぎる、カプセルが爆発するわよ!」
「何をしてるかは完璧にわかってる」
嘘をついた、自分でも信じるほど確固たる口調で。
「……まあ、九十パーセントは。残りの十パーセントは信仰だ。信じてくれ、海さん。頼む。最後にもう一回だけ」
これは実験じゃない。彼女の人生を取り戻すための試みだ。だから、やめられない。
精神的な返答はなかった。張り詰めた沈黙だけ。
暗黙の許可として受け取る。
石の収納室からタンクの流入バルブに向けて、強化チューブを直接接続した。小さな石が、目を引くような青の強度で輝いている――完全な異常だ。アザエルが持っていた元の石はオーラを失っていたのに、アキラが寄越したこのかけらは、あの巨大な負荷をまだ保持している。
「行くぞ」
とつぶやく。
スタートキーを押した。
閉鎖空間でディーゼルエンジンが起動するような重い轟音が床を揺らした。青いエネルギーが液体の光の糸のように透明なチューブを流れ始め、緑のタンクへと注入されていく。
これが爆発の引き金になるかもしれない。けど、止める理由はない。止めたら、彼女は一生ここに閉じ込められる。
アイデアは単純だった――緑の液体は彼女が呼吸し生きるための媒体だ。そこに青いエネルギーを導入すれば、流体が乗り物として機能する。池に染料を落とせば、その中を泳ぐ魚が鰓と皮膚から吸収するのは、そこが生息環境だからだ。海が魚で、液体がその水だ。
数秒で、タンクの中が混乱に陥った。
カプセル内部で液体が激しく渦を巻き始め、泡の小さな竜巻を内側に生み出した。緑から、炭酸水のように青く沸き立つ色に変わっていく。
そして、海が動いた。
繊細な動きじゃなかった。全身に激しい痙攣が走った。
「海さん!」
ガラスに貼りつきながら叫ぶ。
溺れているのか内側からガラスを割ろうとしているのか、腕と足を必死に動かしながら、流体の中で全身を激しく揺らし始めた。本物の身体的反応があった。効いてる!
恐怖よりも先に、希望が走った。彼女が動いた。それだけで、この狂気の実験に意味が生まれた。
突然、甲高い警報音が画面に響き渡った。赤いランプが点滅し、ラボを赤く染めた。コンソールに飛びついて大文字のテキストを読む。
【警告:接続源、危機的状態。制御機構、断絶】
「この野郎、蓮次郎!お前の暗号めいた警告なんて一つもわかるか!」
天才の残した遺産がこれかよ。暗号と警告音の山。……笑わせる。
いら立ちで怒鳴り、絶望的な勢いでキーボードを叩き「全キャンセル」を押した。
後戻りはない。キャンセルも、実際には始まりのスイッチだ。
それが引き金になった。
天井を横切りカプセルを取り囲んでいたパイプ類が、耳をつんざく音とともに高圧の蒸気を一斉に噴き出し始めた。三秒もしないうちにラボは耐えがたい蒸し風呂と化した。額に汗が伝い落ちるが、視線は外さない。空気圧ロックが解放される金属音が聞こえた。蓮次郎の緊急システムが自動的に青い炭酸液のドレインを開始した。
その瞬間、理解した――あの警告は破壊的な失敗の通知じゃなかった。液体が生物学的に適合しなくなったときに流体を排出するための、パージプロトコルだ!
蓮次郎が築いた牢獄を、俺は解いた。天才の残した檻を、凡人の執念で壊した。
タンクが数秒で空になった。
「今しかない!」
ターミナルで手動解放機能を狂ったように探し始めた。混乱したコマンドを数十読み飛ばして、ボタンを見つけた。上方から警告音が鳴り響き、カプセルの巨大な蓋が天井へとゆっくりと持ち上がり始め、最後の蒸気の残滓を逃がした。
海がいた。
胎児のような姿勢で、眠るようにカプセルの金属製の底に横たわっていた。
そのとき、指が動くのが見えた。次いで、肩が。
機械にちらっと目をやる。容器の中の石のかけらはもう輝いていなかった。ただの不透明な、灰色で死んだ岩だ。
一瞬、心臓が止まった気がした。石がエネルギーを最後の一滴まで海に渡したのか――それとも彼女を完全に殺したのか。もしこれが彼女の終わりなら、俺の人生も同時に終わる。
パニックになる前に、海がさらに動いた。カプセルの底に両手をつき、上体を起こし始めた。
そばにあった椅子から上着を掴み、走り寄って膝をつき、冷気から守るように彼女の肩に羽織らせた。
「……海さん?聞こえるか?」
声が、アドレナリンで震えている。
「……立てるか?」
ゆっくりと、彼女が起き上がった。ひどくめまいがしているようで、まるで世界が回っているかのようにあちこちにふらふらと揺れていた。目を開けるのもやっとの状態で、何年も使っていなかったバランス感覚を手探りで取り戻そうとしていた。
その姿を見て……あの忌まわしいクリスタルの牢獄の外で、本物の空気を吸いながら……もう少しで泣きそうになった。
これは数式じゃない。これは奇跡だ。数センチ先で目撃した奇跡だった。
泣くのは後だ。今はエンジニアらしく、結果を確認する。
海が何度かまばたきして、苦労しながら焦点を合わせた。俺を見上げた。
「……ヴィクター……?」
かすかで、でも人間らしい、掠れた声でつぶやいた。
「……ああ、俺だ」
それ以上堪えられなかった。強く抱きしめた。身体の温もりを感じながら、純粋な喜びの涙を二、三粒こぼれるままにした。
やっと。やっと、できた。
夢みたいだ。何度も失敗して、何度も諦めかけたのに……今、彼女は俺の腕の中にいる。
でも、エンジニアの頭は簡単には黙らない。
素早く少し離れ、正気を保った。
「……まだ早い」
なるべく真剣に聞こえるよう努めながら言ったが、顔が耳まで笑っていた。
「検証することがまだいくつかある。お前の身体が周囲の空気にどう反応するか観察しないといけない」
泣いて終わりにするのは簡単だ。でも俺はエンジニアだ。奇跡を確認して、次の段階に進めなきゃならない。
海が黙ってうなずいた。手を差し伸べる。
「立ってみろ。ゆっくりでいい」
俺の手を取った。脚がゼリーのようで、自分の体重を支えようとした瞬間に激しく震えた。
「腕に寄りかかれ。ゆっくり」
馬鹿げるほど遅いペースで、一歩一歩、ラボの外へと誘導した。この科学の地下牢の上には蓮次郎の屋敷がある。少なくともそこには、まともな部屋があるはずだ。
階段を上りながら、海が周囲を見回す様子に気づいた。
壁を眺める目が、家に帰ってきた者の安堵じゃなかった。分析的で、ほとんど幼児のような好奇心だった――埃の質感、ドアの框、照明を観察している。あれは海の見方じゃない。モルガナの視線だ。
解放は半分だけだ。海は自由になった。でも、モルガナはまだ檻の中じゃない。俺の仕事は終わっていない。
あの二つの意識がどういう仕組みで一つの身体を共有しているのか、まったく想像もつかない。純粋な精霊というものの存在も、まだ頭の整理がつかないくらい謎だ。でも事実として、海は自由になった。ただ、モルガナは依然として彼女の内側に宿り続けている。
客室の一室へと連れていく。ベッドの端に座らせた。
「今は休め。動きたいなら、部屋の中にいろ。今の状態で外に出るのは厄介事を引き寄せるだけだ」
俺の人生、厄介事の磁石みたいなもんだが……今はせめて休ませてやる。
海は自分の手を見つめた。物思いに沈んでいて、一言も話さない。
じっと観察した。重要な詳細事項として――蓮次郎のノートが描写していた、あの毒性のある緑の物質を汗として出していない。崩壊が続いているなら、もうとっくに出始めているはずだ。安定している。今のところ、完全に安定している。
「腹は減ってるか?」と聞く。
海が機械的に腹部を触った。
「……わからない」
無理矢理食べさせることも考えたが、逆効果になる。身体を自然に目覚めさせないといけない。
「いいか、俺が戻るまで、この部屋から絶対に出るな。わかったか?」
彼女がうなずいた。
台所へと急いだ。フライパンを探し、シンクの蛇口をひねると……何も出ない。建物の水道が止まっている。くそ。ここで調理できないなら、外で何か買ってくるしかない。
屋敷を出た。杖を取り出し、足の下に風のスペルを唱え、勢いよく空に舞い上がった。屋根の上を飛びながら、開いているコンビニを探す。見つけた瞬間、目立たないよう路地に降りて、走って入った。
でたらめに手に取る――ファストフード、お菓子、温め可能な弁当、インスタントラーメン、寿司のパック。終わりの見えないレジの列に神経が磨り減りながら会計を済ませ、袋を抱えて空を飛んで屋敷に戻った。
命を救った直後に、レジで小銭を数えてる。人生ってのは、こういう皮肉を好むらしい。
三段飛ばしで階段を駆け上がり、一気に扉を蹴り開けた。
ベッドの上で海が飛び上がった。
「食いもの持ってきた!下のダイニングに行くぞ」
驚いたことに、手を貸そうと近づいたら、彼女が自分で立ち上がった。体力が目を見張るほどの速さで戻りつつある。脚がほとんど震えていない。自力でしっかり一歩踏み出した。
その一歩は、俺の数千時間の計算よりも雄弁だった。生きてる。確かに生きてる。
「寄りかかりたければ」と声をかけた。
うなずき、二人並んでダイニングへ向かった。大きなテーブルに座らせながら、袋の山を開けていく。無理に食べさせるつもりはない。匂いに仕事をさせたかった。
科学も魔術も関係ない。腹を動かすのは匂いだ。結局、人間は単純な仕組みでできてる。
杖でガスコンロの火をつけ――ガス管はまだ通っていた、幸い――寿司と米の容器を温め始めた。蒸気が上り、醤油と魚の香りが漂う。さりげなく振り返って反応を窺い、腹が鳴るかどうか耳を澄ませてみた。
……何もない。
次の選択肢へ。豚骨インスタントラーメンだ。熱湯を注いだ。数分で、濃厚でうまそうな香りが部屋に充満した。
ぐぐぐ〜〜……!
ダイニングに腸鳴りが響いた。
固まった。振り返るまでもなかった――その音は海じゃなく、俺自身の腹から出ていた。
……このバカ者め、と内心で自分を罵倒した。彼女の食欲を刺激しないといけないのに、自分が先にそうなってどうする。英雄気取りで帰ってきたのに、腹の方が先に裏切るとはな。
何食わぬ顔でラーメンを彼女の近くのテーブルに置き、何も言わずに最後の選択肢へ。三種チーズの冷凍ピザだ。電気オーブンに入れた。チーズが溶けて焦げ目がつき始めると、焼いたパンと溶けたチーズの香りが耐えがたいほどに広がった。
テーブルの中央にピザを置いた。
海が、じっと見つめた。
ゆっくりと手が動き、一瞬躊躇してから、熱いスライスを一枚取った。かじった。
目が見開かれ、本物の生の輝きが顔に灯った。
「んんっ!おいしい!」
口を半分いっぱいにしながら声を上げた。
そこからは怒濤だった。ピザを平らげ、ラーメンをすすり、寿司の半分を止まることなく食べていった。
医療レポートも診断書もいらない。ピザとラーメンを平らげる奴は、確実に生きてる。
向かいに腕を組んで座り、ただ彼女を眺めた。大きな満足感とともに。基本的な生物機能を取り戻しつつある。人間に戻りつつある。
ある瞬間、海がパンの一切れを手に持ったまま動きを止め、真っ赤になった。
「……ど、どうしてずっと見てるの?」
緊張した様子で聞いた。
「観察しないといけない」
平静に答えた。
「担当医兼エンジニアとして、お前の身体状態を監視する義務がある」
立ち上がり、近づいて彼女の額に手を当てた。
「……体温、正常だ」と言った。
医者の真似事だな。けど、正常って言葉を口にできるだけで、ここまで来た価値がある。
海が素早くその手を払いのけた。頬まで真っ赤に染め、苛立ちと羞恥で震える目で俺を睨んだ。
「なんで服を持ってきてくれなかったの!?」
声が裏返るほど強く叫んだ。
「わたし、あなたの上着一枚しかないじゃない!下は何も着てないの!全部丸見えで……恥ずかしいじゃない!」
一瞬、言葉を失って瞬きをした。
そして、内心でひっそりと笑った。
その文句……その羞恥心……それは一つのことを意味している。認知状態が百パーセントに戻りつつある。彼女自身に戻りつつある。あるいは、彼女とモルガナが同調した状態で。
「新しい服を買ってきてほしい!」
俺の腕を軽く叩きながら要求してきた。
「前に住んでた家の服なんて絶対に嫌!もっとちゃんとした服が欲しいの!」
眉を上げた。……相当に甘やかされているか、モルガナの好みが非常に要求水準が高いかのどちらかだ。
「わかった、わかった。行ってくる」
また飛んで商業地区へ向かった。女の子に何を買えばいいか皆目見当もつかないので、デパートに入り、まともに見えた五種類のコーディネートを適当に選んで会計し、屋敷に戻った。
女の服を選ぶなんて、俺の専門外だ。ネジとボルトなら自信あるんだがな。
部屋に袋を置いた。海が満面の笑みで全部引っ掴み、俺の顔の前で扉を閉めた。
廊下で待っていると、扉が開いた。
海が歩いていた――待て、完璧に歩いている?弱さの痕跡がもう一切ない。膝まで届く水色のワンピースを着て、自分の軸の上でくるりと回り、スカートをふわりと浮かせながら輝くような笑顔を向けた。
数時間前まで液体の中に閉じ込められてた人間が、今はワンピースで回って笑ってる。科学の説明を超えてる。
……でも、俺はそれを受け入れる。
「どう?似合う?」
「ああ、いいな」素直に言った。
「もっと気持ちを込めて言ってよ!」
腕を組みながらむくれた。
「本当に言ってる、海さん。すごくいい」
じっくり見ながら繰り返した。
適応の早さが驚異的だ。身体がすべてを猛烈な速さで処理している。
海はリビングに歩いていき、革張りのソファにどさりと座った。辺りを見回し探索するような目で視線を巡らせ、やがてその目が、メインウォールにぽっかり空いた巨大な破壊の穴に止まった。
「……あそこ、どうしたの?」
がれきを指さしながら聞いた。
「俺が知る限り……蓮次郎と黒木の最終決戦の結果だ」
空気が重くなった。海は目を下げ、床のひび割れを見つめた。
「……じゃあ、お兄ちゃんは、やっぱり……悪い人だったんだね……」
答えるまで少し間を置いた。
「ああ。取り返しのつかない残虐なことをした。でも……お前に対しては、そのねじれた方法なりに、お前を守ろうとした人間でもあった」
海がソファから立ち上がり、近づいてきて、何の前触れもなく両腕で胴を抱きしめ、顔を胸に埋めた。
「……海さん?どうした?」
「怖い、ヴィクター……」
震えた声でつぶやいた。
「これからどうなるのか、わからない。帰る場所なんてない。蓮次郎お兄ちゃんは、世界で唯一残った家族だったから。……ひとりぼっち」
考える必要なんてなかった。その答えは、彼女を救うと決めた瞬間から、もう出ていた。
そっと肩を掴んで少し離し、目の高さに合わせてひざまずいた。
「聞け。もし、君が望むなら……俺が養子縁組する」
これは設計図じゃない。人生そのものの設計だ。俺にとって一番重い約束だ。
海の目が大きく見開かれた。
「自分の家がある。アカデミーに入学できるよう手続きもできる。そこで、研究と勉強を重ねながら、お前自身の意識とモルガナの意識の共存をどう扱うか、方法を探せるかもしれない。ひとりじゃない」
まあ、俺も孤独には飽きてたところだ。二人なら、少しはマシだろ。
海が泣き始めた。でも今度は、安堵の涙だった。首にしがみついてくる。
「うん!ヴィクターと一緒にいたい!一緒に行く!」
笑い、その責任の重みをすべて受け止めながら抱きしめた。これで、俺が面倒を見る番だ。
昔は逃げてばかりだった。けど今は違う。背負うことが、俺の生きる理由になった。
突然、海が強く押し返してきた。
「もう抱きしめるのはおしまい!」
鼻にしわを寄せた。
「臭いし、汗びっしょりじゃない!」
笑い声が出た。科学的検証よりも、女の子の文句の方がずっと説得力があるらしい。
でも海の顔を見て、ある事実に気づいた。彼女の額にも汗の粒が浮かんでいる。
反射的に顔に手を当てた。
「あっ!何するの!?」
彼女が飛び上がった。
汗を指で確かめた。透明だ。無臭だ。完全に正常な人間の汗だ。
この一滴が、何百時間の計算よりも雄弁だった。勝ったんだ。
――機能した!本当に機能した!
緑の物質は消えた。身体が治った。
感情が溢れた。腰をしっかり掴み、空中に持ち上げ、笑い転げながらリビング中を回り始めた。
「ちょっとっ!!降ろして!!そんなに回したらめまいがする、バカ!!」
バカで結構だ。笑って回れるなら、それが答えだ。
彼女は叫び、俺の肩にしがみつきながら大騒ぎだった。
やり遂げた。
蓮次郎は結局のところ、ずっと妹を救いたかった。そして一度もできなかった。俺はその最後の願いを、果たした。
天才が届かなかった場所に、凡人の執念が届いた。皮肉だが、それでいい。
海は普通の人生を送れる。
* * *
数週間が、あっという間に過ぎた。
嵐の後の静けさだ。だが、静けさはいつも次の嵐の前触れでもある。
当然のことながら、犯罪者の妹を蘇らせたことを長く秘密にはできなかった。アカデミーの当局に詳細な説明をし、大魔導師のストロンとの非公開の聴衆に臨んだ。すべてを洗いざらい話した。
幸い、ストロンは亡き七賢人よりもはるかに寛大で現実的な人物だった。俺の報告を聞き、海の状態を見極めてから、ただ一息ついた後こう言った。「……状況は状況だった。被害者を兄の罪で罰するわけにはいかない」
判決はなかった。ただし、パニックや報復を避けるため、海の真の身元は厳重な守秘義務の下に封印された。
秘密は盾にもなるが、刃にもなる。いつか、この封印が破られる日が来る。
アカデミーの他の生徒たちにとって、海は単に、俺が後見人として引き取った遠縁の姪に過ぎない。ストロンと数名の上位魔術師以外には、一つの器に二つの心が宿っているという事実を知る者はいない。
生活は、奇妙だが心地よいルーティンに落ち着いた。
機械の音じゃなく、笑い声で満たされる日常。俺がずっと欲しかったものだ。
海は寮に入ることを望まなかった。俺に過度に依存していて、一緒に住む方がよかったらしい。授業の合間に廊下で出くわし、中庭のベンチで昼食を共にし、一日が終わると常に一緒に帰った。夜は宿題を手伝った。彼女が自分の夢を育てていく様子は驚異的だった――自分もいつか魔導工学師になりたいと話してくれた。それがどんな形であれ、モルガナの存在と共存しながらも、自分自身の未来を構築しつつある。
弟子を持つなんて柄じゃないと思ってた。けど、もし彼女が俺を超えるなら、それ以上の誇りはない。
その一ヶ月後、アカデミーでの何でもない昼下がりのことだ……。
二階の廊下を、大図書館の近くを歩いていると、海が両開きの扉から入ってくるのが見えた。
でも、独りじゃなかった。見知らぬ女の子が一緒にいる。
すぐに目を引いたのは、アカデミーの制服を着ていないことだ。完全に体を包む長い外套のようなものを纏っていて、ほとんど超自然的な静けさで動いている。好奇心が完全に俺を乗っ取った。
……あの子は誰で、制服もなしに何のために来てるんだ?
ただの来訪者じゃない。空気が違う。俺の好奇心は、警戒心と同じくらい強い。
図書館の入口に忍び足で近づいた。扉の框に体を張り付けて、中を覗く。二人は奥の古代史のコーナー、書棚の間のテーブルに座っていた。海が楽しげに身振り手振りで話しているのに対し、もう一人は完全に硬直して、最小限の身ぶりさえなく聞いている。まるで海が磁器の人形に向かって話しかけているようだ。
何を話しているのか聞きたくなった。
何も考えずに床に伏せ、まるで爬虫類のようにテーブルと椅子の影を這いずり始めた。一ミリずつ、音を立てないよう前進する。巨大なテーブルの脚の後ろに十分近い距離まで到達し、身を潜めた。
「……だからそのワンピース、絶対似合うと思うよ」
海が嬉しそうに言っていた。
瞬きした。
……この戦術的潜入の全行程が、服の話を盗み聞きするためだったのか。
馬鹿げてる。けど、馬鹿げた行動の裏で、何か重大なものを嗅ぎ取ってる気がする。
謎の子は答えなかった。海が続けた。
「いつか一緒に時計塔の頂上で星を見たいな……あ、でも、ヴィクターと過ごす時間も大切にしたいから、あんまり長くはいられないかな。彼はいつも時間を作ってくれるから、その時間はすごく大事なの」
潜伏場所のテーブルの下で、ひっそりと笑みが浮かんだ。……ちゃんと俺のことを覚えてくれてるらしい。
海が明るく話題を変えたが、もう一人は一言も、筋肉の一つも動かさない。
……本当に生きた人間なのか、それとも魔術をかけられたマネキンなのか。
もし人形なら、誰が操ってる?もし人間なら、なぜここに?答えはどちらでも厄介だ。
疑念に食い尽くされ、テーブルの縁から頭を持ち上げてよく見ようとした。
致命的な判断ミスだった。
ちょうど海がこちらに視線を向けた瞬間だった。飛び上がるように立ち上がり、指差して、全力で叫んだ。
「ヴィクター!?床に何寝転がってるの!?」
「あっ」
驚きで素早く立ち上がろうとした瞬間、巨大な木製テーブルの裏側に頭を激突させた。
潜入失敗。俺の人生、いつもこうだ。
「図書館では静粛に!!」
司書の怒声がカウンターから響き渡った。
「すみません!」海と俺は同時に頭を下げた。
頭のたんこぶを擦りながら立ち上がり、彼女たちに近づいた。海が腕を組み、目を細めて見ている。
「人のプライバシーを覗き見するなんて……ストーカーみたいなことして、いったい何してたの」
小声でたしなめた。
「覗いてたわけじゃない……ただ、この子をアカデミーで一度も見たことがなくて、気になっただけだ」
と言いながら、連れの子の方へ視線を移した。
間近で初めて細部がはっきり見えた。短い髪。息を呑むほど鮮やかな琥珀色の瞳で、完全に冷たい。最も衝撃的なのは肌に刻まれた刺青だ――古代マジクス言語のルーンと紋様が右頬に刻まれ、首全体に広がり、服の下の腕へと消えていく。表情は中立の仮面だ。笑みもなく、苛立ちもなく、驚きもなく。人間的な感情の欠片もない。
「……海さん、この子は誰だ?」
眉をひそめながら聞いた。
海が誇らしげな笑顔で紹介した。
「A.S.さんだよ」
二、三度瞬きした。
「……何て言った?」
「A.S.」と繰り返す。
「今の若い子の変な略語はわからない。本名を言ってくれ」
海が笑い出した。
「本名がA.S.なの!他に名前はないの」
海とその子を交互に見た。微動だにしない。まばたきもしない。石から彫り出した像みたいだ。
……こいつ、正直ちょっと怖くなってきた。
この子はただの転入生じゃない。背後にもっと大きな組織がある匂いがする。
気を取り直し、直接、ルーンの刺青を持つ女の子に向かって切り出した。
「じゃあ聞くが……"A.S."って何の略だ?」
ついに口が開いた。声は平坦で、単調で、感情的な抑揚が一切ない。
「A.S.は名前ではない。コードネームだ」
コードネーム……軍隊、秘密部隊、あるいはもっと深い闇。アカデミーの外の世界が、ここに入り込んできた。
「……わかった。そのコードネームは何を意味する?」
「上官によって付与された公式の意味は"アサルト・ストライク"だ」
何も揺れない瞳で答えた。
「ただし、ユニットの複数の同僚は、私がチームの"エース"であることを意味すると主張していた」
エース。つまり、戦場で誰よりも突出した存在。……この出会いは、俺たちの物語の外に続いていく予兆かもしれない。
顎に手を当て、情報を処理する。
「……アカデミーの生徒か?」
「そうだ。ただし、主要な職務の性質上、自由な往来と欠席の許可を有している」
「職務というのは?」
「M.H.コーポレーションにおける業務だ」
固まった。
……M.H.?
この名前を聞いた瞬間、空気が変わった。俺の一族の退屈な政治が、急に現実の脅威に変わった。
人間社会の企業情報が頭の中で処理され始めた。いくつかの巨大複合企業が主要産業を支配している。5iコーポレーションはデジタル技術を。ナポレオン・コーポレーションは国際的な金融と投資の怪物だ。そしてミュトス・ハウンズ・コーポレーション――通称M.H.――は製薬と医療研究の巨人だ。
……それから、ある一族会議での細部が蘇った。グリムストーン一族、俺の一族は、M.H.との秘密同盟と科学的共同研究プロジェクトを維持している。家族の政治事情が死ぬほど退屈だったから一度も気にしたことがなかったが、M.H.のオペレーターがアカデミーを自由に闊歩しているのは、巨大な異常事態だ。
これは偶然じゃない。アカデミーにまで手を伸ばすのは、何かを探している証拠だ。
「ミュトス・ハウンズの人間がここで何をしている?」
直球で問い詰めた。
「目的は何だ?」
「学ぶためだ」
同じロボットのような声で答えた。
「自分の能力を習得し、制御する命令を受けた」
一歩近づき、隣の椅子に腰かけた。
「どんな能力だ?」
A.S.が外套の袖を少し持ち上げ、腕を晒した。古代のルーンによる刺青が、皮膚の隅々まで覆い尽くし、一般人には感知できない微かな魔力の脈動で揺らめいている。
「皮膚に刻まれたこれが、私の生体触媒だ」
この技術は伝説の中だけのものだと思っていた。目の前にあるということは、世界の境界線が崩れ始めている。
古代のルーンを人体の組織に直接刻む技術は、古代の禁忌中の禁忌で、耐えがたい苦痛を伴う。
「なぜ古代の魔法のルーンを全身に彫らせた?」
「私の決断だ。ただし、その正確な理由を記憶するのは不可能だ。あまりにも時間が経ちすぎて、詳細は失われた」
眉が一つ上がった。俺の論理回路が崩壊しかけた。
「……何歳だ?」
A.S.が一瞬虚空を見つめた。まるで内部アーカイブを参照しているように。
「肉体の老化が停止した時点で、おおよそ十七から十八歳だった」
「……今まで生きてきた年数は合計でどのくらいだ?」
「生誕の日付から換算すると、おおよそ百年だ」
完全に絶句した。
百年……人間の尺度を超えている。俺が知っていた世界の常識が、音を立てて崩れていく。
目の前にいるのは、普通の生徒なんかじゃない。マジクス純粋と同等の長命を持つ存在だ。モルガナのような純粋な精霊の存在を知ったときと同等の衝撃だ。
ミュトス・ハウンズは一世紀の歴史を持つ生体実験を自分たちの傘下に置いているのか……俺の知らないところで、うちの一族はいったい何のプロジェクトに資金を出しているんだ。
これは研究じゃない。支配だ。人間の寿命すら、彼らの手の中にある。
一族の退屈な政治が、突然血の匂いを帯びた。俺はその渦中に立っている。
「A.S.さん」
目を据えて言う。
「ミュトス・ハウンズのために、正確に何をしている?」
底のない琥珀色の瞳が俺を見た。五秒の完全な沈黙。
「M.H.コーポレーションの内部情報を、非機密指定の人員に開示する権限を有していない……ただし、対象者がM.H.の選抜グループに所属するグリムストーン一族の上位構成員である場合を除く」
皮肉混じりに笑い、シャツの首元を整えた。
「……偶然にも、俺はヴィクター・グリムストーンという名前だ。現代で最も認知された魔導工学師だ」
A.S.が上から下まで俺を精査した。
「あなたの名前は、私のユニットの認可された所属者リストの記憶には存在しない」
「……はあ!?俺が入ってないだと!?」
思わず軽くテーブルを叩いてから、司書を思い出して声を抑えた。
「……馬鹿げてる。でも関係ない。今日中に長老と一族の長に話をつける。必ずそのチームに組み込まれてみせる」
A.S.がほんのわずかに、一ミリだけ頭を傾けた。
「それならば、正式な組み込みが完了した後、完全な報告を提供する」
口から息を吐いた。
俺の科学者エンジニアとしての好奇心が、たった今金鉱を見つけた。一族の厄介ごとからずっと距離を置いてきたが……これは。これはあまりにも見過ごせない。表情のないこの子が、俺の頭の中の導火線に火をつけた。
「はいはい、もう変な話と秘密は十分!」
海が突然二人の間に割り込んできて、腕を組んだ。
「エンジニア様が机の下から覗いてきた前は、普通の女の子トークをしてたんだから!」
俺の人生は、いつも科学と笑いの間を揺れているらしい。
A.S.が海を見て、一度瞬きした。
「正確だ。私たちは衣服の美的実用性について論じていた」
「そう!」
海がA.S.の横に座った。
「ヴィクター、A.S.さんにもっと笑うように言ってあげて。大理石の像みたいだから」
「笑顔に変える神経学的刺激を保有していない。その行為に機能的目的がない場合は」
A.S.が完全な真剣さで説明した。
片方は笑い方を知らず、片方は笑いすぎる。俺はその間に立っている。
「ほら!ロボットみたいな喋り方をするんだもの!」
海が不満を漏らした。
「……技術的には、その構文の組み立て方は非常に興味深い……」
つぶやいたら、海の殺気を含む視線が突き刺さった。
「あんた、味方しないで!」
三人でそこに残った。まあ正確には、海が三人分喋り、俺がA.S.に技術的な質問を浴びせ、彼女が冷たく空虚な専門用語で答え続け、A.S.はただそこに存在し、驚くほどの受動性でその環境を吸収していた。
何を昼食にするかで二人が言い合っているのを眺めながら、内心でひっそりと笑みが浮かんだ。
数週間前は、廃墟のラボで死の淵にいた。そして今は、二つの意識を持つ女の子と、笑い方を知らない百年物の企業実験が、アカデミーの図書館で俺の隣にいる。
未来は相変わらず、影と秘密だらけの完全な混沌だ。近いうちに解きほぐさなければならない謎で満ちている……。
けど、その混沌こそが俺の燃料だ。謎がある限り、俺は前に進める。
でも久しぶりに、その先の道が、信じられないほど面白そうに見えた。
戦いが終わり、
英雄は新たな地位を手に入れた。
けれど、
心に空いた穴は、
誰にも埋められない。
過去を背負い、
一人で歩き続けた男に、
一人の女性が手を差し伸べる。
次回――
孤独な狼
その男は初めて、
自分自身の幸せと向き合う。




