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観測者の耳に届く断片

真実は、


一つとは限らない。


見えているもの。


隠されているもの。


そして、


誰かが隠そうとしているもの。


そのすべてが、


少しずつ繋がっていく。

壁に亀裂が走る轟音に、思わず教室の隅へと身を縮めた。すべてが、あまりにも早く起きすぎた。さっきまでノートを見返していたのに、次の瞬間には地面が揺れ、まるで大地そのものがアカデミーを飲み込もうとしているみたいで。


ひっくり返った机の脚元に体を押し付けたまま、窓の外をかろうじて覗いこんだ。そこに見えた人影が、この惨状を引き起こした張本人だった。普通の魔術師じゃない――直感がそう告げた。背の高い男で、その存在感が圧迫感そのもので、まとっている服は今まで見たことがないくらい異質で古めかしかった。


最初に頭に浮かんだのは、アリズのことだ。見つけに行かないと、無事かどうか確かめないと。でも今この瞬間に廊下に出ることは、自殺行為に等しかった。空気が重く、中庭から響いてくる衝撃音のたびに体が床に吸い付いて、心臓が喉の奥で暴れていた。


突然、その音が止んだ。


唐突で重苦しい静寂が、あたりに降りた。爆発音よりも、このしじまの方がずっと怖かった。あの奇妙な男が立ち去ったかもしれないと思い、窓の縁からゆっくりと顔を上げた。中庭は瓦礫と砂埃に覆われた廃墟と化していた。でも一番困惑したのは、まわりに魔術師が一人も見当たらないことだった。誰も攻撃態勢を取っていない。どういうわけか、アカデミーの防衛隊が完全に引き揚げ、境界線は誰一人いない無人地帯になっていた。視線をあちこちに向けながら理由を探していると――古い装束の男が、ゆっくりと中庭の中心へ降り立つのが見えた。その視線は建物の特定の一点に固定されていて、まるで誰かを待っているように見えた。


好奇心と生存本能が、体を動かした。


足音を消しながら教室を出て、外廊下を滑るように進み、分厚い石柱の陰に身を隠して、視界を確保した。そこで、見た。一人の男の子が、一人で歩いている。あの巨大な攻撃者へ向かって、まっすぐに。手には杖を持っていたが、その姿勢は戦いを求める者のそれではなかった。攻撃性はなく、ただ深く重い緊張だけが、その体に宿っているように見えた。目を凝らしてハンターの部隊が後ろから現れないか待ったが、誰も来なかった。中庭は、二人だけのための、空虚な舞台だった。


……わからない。あの子は誰だ? あんな化け物相手に、なんで一人で立ち向かっているんだ?


男の子は古装束の男から数メートル手前で足を止めた。中庭の静寂が完全で、二人の声が――抑えられていても――はっきりと隠れ場所まで届いた。


「なぜこんなことをする?」


男の子の声は、わずかに震えていた。でも恐怖ではなく、怒りと痛みが入り混じった種類の震えだった。


「お前に自由を与えたのは、それが正しいことだと思ったからだ……レオに与するために、こうして何もかもを壊し回るためじゃない。答えてくれ、グレイン……!」


グレイン――。その名前が、脳に刻まれた。あの攻撃者の名前か? そしてあの子は、あの男を知っているのか?


古装束の男は、高みから男の子を見下ろした。その表情は冷たく、ほとんど石のようだった。その声は低く、中庭の空虚に満ちて響いた。


「自由とは、道を選ぶことを意味する、龍牙よ。我はすでに己の道を選んだ。その杖で、我の前に立ちはだかるというのかね」


龍牙――男がそう呼んだ。男の子は歯を食いしばり、杖を持つ手をわずかに下げ、それを苦い軽蔑の目で見つめてから、再び顔を上げた。


「……これを使って何かを変える方法は、まだわからない。まだ。間違いを犯しすぎた、自分のプライドに目が眩んで、周りの信頼を裏切った。でも、自分の考え方が間違っていたって気づいた。引き起こした惨状をやり直すなら、お前を止めるところから始めないといけない。お前が誰かのための武器であり続けることは、見過ごせない」


攻撃者はしばらく無言で、男の子を射抜くような目で見つめていた。怒っているわけではなかった。龍牙の言葉の一つ一つを量りにかけているように見えた――その真意の重さを確かめるように。血が凍る思いがした。


「言葉は、現実の重みを支えられないものよ、少年よ」


男の声は判決のように言い放った。


「本当に変わったというのなら、行動で証明してみせるがよい」


男の子が言葉を返す前に、古装束の男は杖を振り上げ、重い一振りで虚空を引き裂いた。暗く歪んだ次元の扉が、中庭のただ中に開いた。男は悠然と、その門へ向かって歩き始めた。


「逃げるつもりかっ……!!」


龍牙が一歩踏み出しながら叫んだ、その声には絶望がにじんでいた。男は亀裂の縁でぴたりと止まり、背を向けたままだった。


「逃げてはおらぬよ」


凍りついた厳粛さで、男は答えた。


「この場に目的があった。それはもう、果たした」


それ以上は何も言わず、男はポータルを潜った。歪みは瞬時に閉じ、まるで最初から存在しなかったかのように消えた。中庭には再び静寂が落ち、龍牙はその空虚な場所をただ見つめて、その場に立ち尽くした。


しかしその静けさは、ひと呼吸しか続かなかった。


瞬く間に、その場は清潔な制服を身に着けた魔術師とハンターの数十人に囲まれた。横の通路から次々と現れ、中にはあの大魔導師のストロンの姿まであった――圧倒的な厳しさで、その場を見渡している。全員が例外なく、杖を男の子へと向けていた。


龍牙は抵抗しなかった。奇妙な諦念を帯びた緩慢さで、杖を手放し、石畳の上に落とし、両手を降伏の印に上げた。一人のハンターが素早く前に出て、呪式を発動し、エネルギーの拘束が光のひらめきとともに彼の手首を縛った。


「反逆の疑いにより、身柄を拘束する」


ハンターは毅然と宣告した。即座に、男の子はアカデミーの地下牢獄へと護送されはじめ、残りの魔術師たちが後に続いた。


……動けなかった。


石柱の陰に隠れたまま、見てしまったことの重さを受け止められずにいた。完全な虚脱感だった。あの龍牙という男の子は、攻撃者をグレインと呼んで、明らかに個人的に知っていた。二人の間にどんな関係があったんだ? 語られた裏切りとは、何のことだ? 疑問が頭の中で積み重なっていくのに、答えは一つも出てこなかった――自分はあの秘密と陰謀の世界の内側にいる人間じゃない。


でも一つだけ、確かなことがあった。魔術師の当局が本格的な調査に乗り出したとき、さっきあの中庭で聞いたことは、重要な証言になる。アドレナリンで抑えられていた恐怖が、一気に押し寄せた。膝の力が完全に抜け、震えが止まらなかった。壁に背中を預けたまま、ずるずると廊下の床に崩れ落ちた。全身が冷や汗でびしょ濡れで、息が乱れていた。


動かないといけない。アリズを探して、見聞きしたことを全部話さないといけない。彼女なら何をすればいいか分かるか、少なくとも自分たちが置かれた危険を理解する助けになってくれるはずだ。まだ震えている体を石柱に押し付けて、それだけの理由を頼りに立ち上がり始めた。


* * *


あの恐ろしいグレインのアカデミー襲撃から、三日が経っていた。


太陽がようやく窓を染め始める時刻に、廊下を歩いていた。授業には早すぎる時間だったけど、部屋でじっとしている方法が見つからなかった。頭の中では、中庭で目撃したすべてをアリズに話したとき、彼女がくれた言葉が繰り返されていた。


『今は何もしないで、アキラ』


理性的な声だった。


『あの子、龍牙について公式な発表が出るのを待った方がいいわよ』


その通りにすると決めた。監視下に置かれながら、これほど危険なことに首を突っ込むのは賢明じゃない。自分の両肩にはもう十分すぎる重荷がある、そこにもう一つの変数を加える必要はなかった。


自分の考えに没頭しすぎていたのか、まわりへの注意がすっかり抜けていた。図書館の扉のそばを通り過ぎようとしたとき、中から誰かがいきなり出てきた。衝突は避けられなかった。正面からぶつかった。


「本当にすみません。前を見ていなくて」


すぐに頭を下げて、床に視線を落とした――不機嫌な生徒の怒鳴り声を、心の準備をしながら待った。


返事がなかった。


沈黙があまりにも続くので、ゆっくりと顔を上げるしかなかった。


目の前に、一人の女の子がいた。最初に気づいたのは、正規の制服を着ていないことだった。体をほぼ覆い尽くすような奇妙なマントを羽織っていた。でも本当に動けなくなったのは、その顔を見た瞬間だった。表情が、まったくなかった。驚きも、不満も、ぶつかったことへの痛みも、何もない。冷たいとか、攻撃的とか、そういう感じではない――文字通り、蝋人形を見ているような感覚だった。とても奇妙な存在感だった。


「大丈夫ですか? ケガはさせませんでしたか?」


あの硬直した空気に居心地が悪くなりながら言った。


「歩いてて気が散っていた、僕のせいです」


彼女はゆっくりと首を横に振った。その動きがほとんど機械的に見えた。


「……表面的……内部的な損傷は検出されていません。問題ありません」


声はほとんど囁きのようで、口調は完全に中立だった。問題を起こさないための礼儀だけで答えているような印象を受けた。


「それでも、何か埋め合わせをさせてください。食堂に行って何か飲みましょうか、せめて本当に大丈夫か確認できるように」


もう一度、首を横に振った。


「……この時間帯の食事摂取は、現在の優先事項に含まれていません。不要です」


顔は一ミリも動かなかった。


……怒ってるのか? 嫌いなのか? 心の中で呪いでもかけてるのか? 読めない。それが、どうにも変なプレッシャーになっていた。


「もし少し時間があれば、一緒に来てもらえますか」


首の後ろを掻きながら、少し圧倒されながら続けた。


「このまま行かせたら、本当に気まずいので。不注意の落とし前をつけさせてください」


女の子は、まじまじと見つめてきた。五秒。十秒。まばたき一つない、眉一つ動かない。額に冷や汗が流れ始める感覚があった。……内心で笑ってるのか? 呪式の実験体として解剖してる最中なのか? 全然わからない。


ようやく、小さく一歩踏み出した。


それを「はい」と受け取り、食堂へ向かって歩き始めた。彼女は数歩後ろをついてきた――正確で一定の距離を保ちながら、まるで影のように。


よかった。少なくとも食べることは、まともな謝罪になるはずだ。


この時間帯はほとんど無人の食堂に入り、テーブルを探した。


「ここで待ってください。何か持ってきます」


椅子を一つ指差して言った。彼女は一言も発さずに腰を下ろした。


カウンターに向かいながら、完全に途方に暮れていた。脈拍がなさそうな人間の好みなんて見当もつかなかったので、特製の朝食セットにした――バラエティがあって外れがないと思われるもの。


盆を持って戻ってきたとき、凍りついた。


完全に固まっている。一切動いていない。まわりを見渡してもいない、手をいじってもいない。視線はテーブルの木の表面にまっすぐに固定されていて、まるで店先のマネキンみたいだった。あまりにも深刻な光景だったのに、どこか滑稽だった。

……エネルギーが切れたのかな。


盆をそっと彼女の前に置いた。


「どうぞ。気に入ってもらえたらいいんですけど」


顔の筋肉は一ミリも動かなかった。ただ目だけが皿へ向き、危険な物体を観察するようにしばらく見つめた。


「食べてください、どうぞ」


向かいに腰を下ろして付け加えた。


音も立てずに、彼女はカトラリーを手に取り、完璧に均一なリズムで食べ始めた。金属が磁器に触れる微かな音だけが、絶対的な沈黙を破った。横目で観察しながら、食事が気に入っているのかそうでないのか必死に読もうとしたが、その顔は底なしの謎のままだった。


不意に、彼女はカトラリーを置き、目をまっすぐ向けてきた。


「……この行為の根本的な動機が理解できません」


とうとう、あの感情の起伏ゼロの声で口を開いた。


「……なぜ、食事を提供しているのですか? 私は野良動物ではありません」


自分の唾を飲みそうになった。胃がひっくり返る感覚がした。思わず傷つけてしまったかと思った。


「いや、そういうわけじゃないです! 本当にすみません、そう聞こえたなら」


慌てて謝りながら、頬に熱がのぼった。


「ただ……さっきぶつかったとき怒ってるかと思って誘ったんです。なんか怒ってそうだなって。いや、実際どう感じてたか分からないんですけど、顔が……」


自分が墓穴を掘っていると気づいた時点で言葉を切った。何か反応を探すように彼女を見た。


何もなかった。完璧で揺るぎない白紙。その顔に感情を読もうとすることは、文字のない本を読もうとするのと同じだった。


この気まずさを一気に乗り越えようと、正式に自己紹介することにした。


「僕、アキラといいます。ここの生徒で。君は?」


彼女は少し頭を傾けた。まるで言葉を処理しているかのように。


「……私のことを、怒っていると思っていたのですか」


問いかけた。声は中立だったが、その概念にわずかな関心が灯ったような気がした。


「そういうわけじゃないんですけど」


自分の言葉にどんどん絡まっていく感覚があった。


「ただ……なんか、すごく真剣な顔してたので」


しばらく沈黙が続き、それから彼女は意図的なゆっくりさで言った。


「……怒っていません。ただ……そのように見られているとは、知らなかっただけです」


一瞬、まばたきをした。


その答えを予想していなかった。彼女の言葉の中に、言い方の中に――自分とはまったく違う人生を生きてきた人間の何かが、確かに感じられた。


「で、名前は?」


「……名前はありません」


鋭い痛みが胃を突き抜けた。何かが頭の中で、音を立ててはまった。何ヶ月も前にダミラが言っていた言葉が、緊迫した反響として記憶の中で鳴り響いた。


「名前がないって、どういう意味ですか?」


前のめりになりながら、恥ずかしさを完全に忘れて尋ねた。


彼女は一瞬沈黙してから答えた。


「かなり前に……自分の名前を捨てることにしました。今は、持っていません」


「じゃあ……どう呼べばいいですか?」


彼女はまっすぐに見つめてから答えた。


「コードネームがあります。私と関わる者は、その略称で呼びます。A.S.と呼んでかまいません」


A.S.――。


静止して、情報を整理しようとした。本名を持たず、コードネームだけで存在している女の子……ダミラから言われたことと、寸分違わず一致した。でも疑念が驚きの上にすぐ浮かんだ。彼女が探していた人間で本当にいいのか? ダミラは学者の類い、ある種の案内役になってくれる知識を持つ人物の話をしていた。でも目の前の子は、図書館の賢者でもアカデミーの師でもなさそうで――。


そこで改めて、細部に目を向けた。マントがわずかに動いたとき、布が滑った。露わになった腕、首の両脇に伸び、右頬に細い一筋まで届いている――それは複雑なルーンの刻青タトゥーだった。


「それは……」


頭でフィルターをかける前に、言葉が口から出ていた。


「なんでマジクスの古語のルーンを体中に刻んでいるんですか?」


A.S.は自分の腕へ視線を落とし、それから目を戻した。表情は一ミリも変わらなかった。


「……これは、かなり以前に実施された実験的な処置の結果です。私自身がその施術への同意を示しました。機密プロトコルにより、詳細を開示することはできません」


「そうですか……」


驚きながら、つぶやいた。


「じゃあ、魔術師についての秘密とか、アカデミーの仕組みに関することを知っていますか?」


A.S.は頭を数センチ傾け、視線を外さなかった。そのしぐさが、また深い居心地の悪さを引き起こした――分析されているのか、馬鹿だと思われているのか、退屈されているのかが判然としないのが、じわじわ来る拷問だった。


「……君が「秘密」と分類するものが何かは、把握していません」


単調に言った。


「……私のデータベースは、アカデミーの図書館の資料から独学で習得した知識に限られています。自分の魔力の仕組みは理解していますが、君の定義する機密情報は解しません。ただ、一つ私の中に疑問が生じているのは……君が古語のルーンを識別できることです」


少し胸の圧力が和らぐ感覚があった。


「空き時間のほとんどを図書館で過ごしているので」


声を落として説明した。


「ここではできることが限られていて、自分で調べているものがあって」


「調べている……」


A.S.がその言葉を反復した。感情は乗っていなかったが、概念が彼女の中で何かをわずかに動かした気がした。


少し迷った。エンディミオン内で調査の内容を他人に明かすなという警告は、骨の髄まで刷り込まれている。でもダミラは、絶対の信頼を置ける人間だけには話していいとも言っていた。


「話す前に、一つだけ大事なことを聞かせてください」


できる限りの真剣さを顔に込めて言った。


「ダミラ・アッシュフォードという女の子を、知っていますか?」


沈黙が戻った。A.S.はいつも通り完全に静止していた。答えがないその時間が、全身の神経に張り付いてきた。あの凍った顔では意図が読めないと分かっていても、それが余計に焦りになった。


「……記憶にあります」


ようやく、彼女は口を開いた。


「過去に、彼女と何度か言葉を交わしました。数ヶ月前に亡くなったという記録も持っています。彼女の死は残念です――私とよく似た視点で物事を捉えていた人物でしたから」


それを聞いた瞬間、確信が生まれた。もう疑う余地はなかった。


「僕もダミラと知り合いでした」


胸の奥で懐かしさと決意が混ざり合うのを感じながら明かした。


「亡くなる前に、彼女から使命を頼まれました。どうやって果たせばいいか分からなくて、ずっと進めなかった。でも今、君がここにいる。だから、できると思う。その使命は、"名前のない人"を見つけることでした。それが、君のことだった」


その言葉を聞いて、A.S.はしばらく机の表面を見下ろし、それから顔を上げた。頭の中でデータを処理しているように見えた。


「……ダミラがその情報を一般生徒に渡したことは、論理的な異常です」


いつもの平坦な声で言った。


「……状況を評価するために、さらなる情報が必要です。知っていることを話してください」


包み隠さず、全部話した。黄金の鉄則を破ったことによる制裁でこのアカデミーに送られたこと。陰陽師との戦争に巻き込まれ、カイト先生とエレノア・ウィンターフォールを手伝うことになった経緯。そして何より、祖父が探索の中で見つけたという、あの不思議な石のことを。


A.S.は最後まで一度も口を挟まず、あの感情のない視線を保ったまま聞いていた。本当に聞いているのか心配になりかけたが、その姿勢が、一言一句を吸収している証明だった。


「その石は、常にかばんに入れて持ち歩いています。どこにも置いておけなくて」


慎重にチャックを開きながら言った。


ゆっくりと石を取り出し、二人の中央に置いた。あの微かで、しかし絶えることなく光り続ける青い輝きが、石から滲み出ていた。


A.S.はわずかに身を乗り出し、その構造を視覚的にスキャンするように観察した。


「……以前話していたように――この物体に物理的に接触すると、人体に有害な反応が生じる可能性はあるか」


分析的に確認した。


「触れる人によってかなり変わります。何なのか、見当はありますか?」


何も答えず、彼女は落ち着いた様子で手を伸ばし、指先を石の滑らかな表面にそっと触れさせた。


何も起きなかった。閃光も、振動も、光量の変化もなかった。


「この物体の物質的組成に一致する記録は、私の記憶には存在しません」


手を引きながら宣告した。


「ただし、内部に極めて高密度のエネルギー放射が検出されます。相当な力が、ここに封じ込められています」


諦めのため息が口から漏れた。肘をテーブルに落として。


「あの石を調べた人は、みんな同じ結論に至るんです。それが何なのか、誰にも分からない」


「……その場合、エネルギーの存在がすでに確認された事実であるならば、物体の別の変数に分析の焦点を絞ることを提案します」


圧倒的な論理だった。何も言い返せなかった。


……これで終わりか。ダミラが辿り着くよう送り出してくれた相手が、石について答えを持っていなかった。この道のりは、何だったんだ? ダミラは何のためにこの人を探せと言ったんだ? そもそも彼女が具体的に何を言っていたか……思い出せない。自分はなんて馬鹿なんだろう。


「助けてほしいんです、A.S.さん。一人じゃ解決できない。手伝ってもらえませんか?」


声に、焦燥がにじみ出た。


「現在の機能は飽和状態です」


即座に返ってきた。希望が粉砕される感覚があった。


「……ご覧の通り、私は生徒の一員ではありません。三日前の暴力的な事件以後、警備と内部安全の任務に配置されています。外部の調査に関与できる時間は、現在のスケジュールにはありません」


それが、限界だった。


積み重なっていたすべてのものが、一気に崩れた。答えもない、案内役もいない、何もない。命がけで隠しているこの秘密の重さが、ずっと侵食してきていた。


「じゃあ、どうすればいいんですか」


声に抑えきれない無力感がにじんだ。


「川に投げ捨てて、最初からなかったことにする? ここで叩き割って中を確かめる? それともいっそ大魔導師のストロンのところに直行して、これを盗んだ共犯者だって白状する……!!」


A.S.は何も反応しなかった。ただそこに、陶器の人形のように座ったまま、あの変わらない静けさで見つめていた。


不思議なことに、その揺るぎない無反応さが、かえって落ち着かせてくれた。怒りの炎が彼女の氷の前で消えていった。でもその後に来たのは、もっと大きな憂鬱さだった。泣きたいと思った。何ヶ月も答えを求めてきて、行き着いた先が行き止まりだった。


「……私の及ぶ範囲で、支援できる行動を取ります」


A.S.が唐突に言った。


頭が勢いよく上がった。胸に、小さな火が灯った。


「本当に?」


「肯定します。あんたの部屋の正確な場所を教えてください。必要に応じて連絡するために。現時点では、私のアクセスを活用して、石の由来について情報を持つ可能性のある接触者に独自に問い合わせます。ただし、分析を最適化するためには、石を預かることが必須です」


「いいえ」


即答した。かばんに石をしまい直し、チャックをきっちり閉めた。


「渡せません。先生から預かったもので、目を離さないと約束した。手元に置いておかないといけないです」


A.S.はまっすぐ見つめてきた。その静止の中で、何か異議か問いを構成しようとしているように見えたが、あの凍った顔からは何も読み取れなかった。怒り? 理解? ただの無関心?


「……了解しました」


やがて、立ち上がりながら言った。


「物体を押収しません。ただし、その判断が調査プロセスの複雑さを増加させることは明記しておきます」


「ありがとうございます」


立ち上がりながら返した。部屋の情報を伝えると、彼女は短く頷き、何も付け加えず踵を返し、食堂の扉の向こうに消えた。均等な足取りで。


一人でテーブルに残り、彼女が残した空の皿を眺めた。あのダミラが言っていた"名前のない人"に、ついに出会えたことが、まだ実感できなかった。その部分だけは、達成できた。でもこの出会いの本当の意味は、廊下での偶然の衝突がいったい何を引き起こしたのかは、まだ謎のままだった。A.S.は大きな学者でも賢者でもなく、古語のルーンで覆われた一人の衛兵だった。なぜダミラはそれほどまでに、この人物を探すよう言ったんだろう。


それだけは、どうしても解けなかった。


これ以上時間を無駄にしてはいられない。かばんを肩にかけ、アリズを探しに向かった。A.S.と会ったこと、次の一手を、彼女に話さないといけない。


* * *


A.S.と食堂で会ってから、ちょうど二日が経っていた。


彼女からの連絡を待ちながら、部屋の扉をひっきりなしに見るようになっていた。控えめなノックか、暗号めいたメッセージか、石の正体について何かが判明した知らせを――。でも何もなかった。ただ焦っているだけかもしれない、自分の絶望感を時間に投影しているだけかもしれない、とは分かっていた。


この朝、クラスへ行くためにシャツのボタンを止めていると、ドアが勢いよく開き、壁に叩きつけた。


驚きもしなかった。今となっては、アリズがノックなしに入ってくることはもう習慣になっていた。


「あのA.S.とかいう子に頼るの、嫌なんだけど、アキラ」


アリズは一気にそう言いながら、腕を組んだ。


「ここ数日ずっと考えてたんだけど、試したいことがあって」


首の辺りで手を止めたまま、軽い予感を覚えながら彼女を見た。


「……何を思いついたの?」


「石を壊す」


その言葉は、血を凍らせた。困惑とパニックが胸を同時に打った。まじまじと見つめた。正気か、と思った。あれほど苦心してきたものを?


「アリズ、頭おかしくなったの?」


声を低く、でも固く保ちながら言った。


「なんでそういう結論になったの?」


「論理的に考えてよ、アキラ」


彼女は一歩踏み込み、手を動かしながら説明した。


「石は今、二つに割れてるわよね? 手元にある欠片を完全に砕いたら、中のエネルギーが強制的にもう半分を探しに動いて、その場所を知らせるかもしれない。もしくは……中に閉じ込められている何かが解放される。でも割れた状態だから、その半分だけが出てくる」


胃がひっくり返るような恐怖がきた。自分の脳が最悪のシナリオを処理し始めた瞬間、醜い光景が浮かんだ。あの石の中に意識を持つ何か、生き物か、力ある存在が封じられているとして……砕くということは、真っ二つに切断された死体を召喚することになる。残り半分は、ひたすら痛みの中で彷徨うか、怒りを抱えてこちらに向くか。そのビジョンが腸に来た。


「……何もバカなことを言わないで、アリズ」


目を逸らしながら、冷や汗を覚えて言った。


「そんな無茶はできない。何に向き合っているか分からないうちに。待つしかない」


アリズは深く肩を落として、重い息を吐いた。


「分かってないわよあんた。もっとちゃんと考えて、恐怖に考えさせるんじゃなくて」


それだけ言って腹立たしそうに背を向けた。出口に向かったが、扉の前でぴたりと止まった。


扉はまだ開いていて、廊下に一人の女の子が立っていた。見覚えがない。その言葉がすぐに浮かんだのは「品」という一字だった。髪の落ち方から一筋の皺もない制服まで、彼女から漂う全てに、ほとんど作り物のような気品があった。姿勢は完璧で、まるで稽古されたもののように見えた。


「あんた、誰? 何の用?」


アリズは即座に警戒的で縄張りを守る態度をとった。


来訪者はアリズの敵意を繊細な手つきで受け流した。手紙を持っていた――分厚く上質な紙の封筒だった。


「こちらは、アキラ・アッシュフォードのお部屋でしょうか?」


柔らかく、精密に抑制された声で言った。


「そうですよ。僕がアキラです」


心拍数が上がりながら、一歩前に出た。


女の子は両手で封筒を差し出した。その優雅さは完璧だった。近づいたとき、封筒が深紅の蝋で封じられているのが見えた――完璧な刻印で押されている。その紙に触れたとき、指先がわずかに震えた。


「お届け物を果たしました。良い一日を」


彼女はそう言い、舞台女優のような作り物めいた微笑みを残して身を翻し、廊下を正確なリズムの足音で遠ざかっていった。


扉をゆっくり閉め、紙の重さを手の中で感じた。アリズがすぐ横に来て、封筒に目を固定した。


「なんで今さら手紙を物理的に届けにくるの? しかもあんな磨き上げられたような使いを寄越して……」


アリズがつぶやいた。眉を顰めながら。


「全然見当がつかない」


確かにそうだった。蝋印を破る勇気が出ないまま、ただ見つめていた。


アリズがしばらく黙った後、突然目を大きく見開き、悪戯っぽい笑みがその顔を横切った。飛躍した結論へ一気に駆け上がりながら言った。


「待って……もしかして、その子、あんたにラブレター届けにきたんじゃないの?」


心臓が一跳ねしたが、今度は恥の種類だった。頭に熱が上った。


「何言ってるの。ありえない。あの子のこと全然知らないし、一度も会ったことないよ」


「秘密のファンかもよ」


アリズが面白がりながら、再び腕を組んだ。


「陰から観察してた子。犯罪者っぽくて謎めいたあんたの雰囲気に惚れて、詩を書いてきた可能性あり。早く開けてよ、読みたい」


「絶対ない」


と言い返したが、アリズの視線の圧力のもとで開けるのは、余計なプレッシャーだった。でも選択肢はなかった。不格好な指先で蝋印を割り、紙を広げた。


完璧な筆跡。黒インク、澄んだ線。


でも読み進めるうちに、その場の僅かな笑いの空気は完全に蒸発した。


ラブレターではなかった。その対極にあるものだった。


これは、リディア・ナイトシェイドからの正式な招待状だった。目的は簡潔に記されていた――『あなたのこのアカデミーにおける現状に関わる事項について、お話したく存じます』。


足元が揺れた。室内の空気が薄くなった気がした。


アリズが手紙をひったくり、声に出して読み上げた。笑顔は一瞬で消えた。


「リディア・ナイトシェイド……」


アリズはかすれた声で言った。顔が蒼くなっていた。


「……なんであんたを呼び出すの?」


「見つかった……」


最初に浮かんだのは、そのひと言だった。首の後ろに刺すような冷気が走った。


「何かを知ってる。僕らのことを」


「A.S.が密告したんだわ」


アリズが追いつめられた様子で言いながら、部屋を行き来し始めた。


「言ったでしょ、アキラ。見ず知らずの人を信用して、すぐ上に通報されたの。あの子が自分の身を守るために」


「彼女じゃないと思う」


頭を冷静に保ちながら言った。


「A.S.は何も得をしない。それに彼女の論理は、そういう動き方をしない……」


アリズを落ち着かせようとし、その過程で自分も言い聞かせながら、深く息を吸って鞄を直した。


「選択肢がない。こういう人の呼び出しを無視したら、もっとまずいことになる。行って、何のためか探ってくる」


リディア・ナイトシェイドが誰かは、分かっていた。この世界で文字を読める者なら誰でもその名を知っていた。ナイトシェイドの一族長になる将来の長で、それ以上に、陰陽師との戦争の終結を成し遂げた軍略の天才として知られていた。そういう人間が、高みにある権力層を動かす人物が、自分と同じ現実に存在しているはずがなかった。自分は処罰中の生徒で、見つからないようにするだけで精一杯の、誰でもない人間だった。なぜ彼女のような戦略家が、この自分に茶を飲みたがるのか。意味がわからなかった。


それ以上に……小春のことを考えた。自分がここでこれほど勉強してきた本当の理由を。


後で、手紙に示された場所へ向かった。アカデミーの中でも、高水準の部活や貴族的な生徒の私的な集まりのみに許された、隔離された区画だった。絨毯を敷いた廊下を歩き、暗い木の扉にたどり着いた。小さな真鍮のプレートがあった――「茶会の間」。


息を飲んで、姿勢を正してから、二回ノックした。


「どうぞ」


穏やかで旋律的な声が内から聞こえた。


扉を押して入った。


部屋は小さかったが、深い温かみがあった。生き生きとした緑の異国植物が各所に置かれ、背後の大きな窓から午後の光が差し込んでいた。中央には丸く磨かれた木のテーブル。そこに、リディア・ナイトシェイドが座っていた。


でも彼女だけではなかった。


隣に、同じくらいの存在感を持つ二人の女魔術師がいた。その名声は彼女に引けを取らなかった――アカデミーの行く末を定めた、あの「同盟」の一員。レイナ・アッシュフォードと、アイリ・ウィンターフォール。


足が揺れた。密閉された空間に、エンディミオンで最も影響力があり、最も危険な三人と一緒にいる。完全に無防備で。自ら狼の巣に入り込んだ羊の心境だった。


「どうぞ、お座りください、アキラさん」


リディアは空いた椅子を優雅な手振りで示した。テーブルには精巧な磁器の茶器と、目を向ける勇気が湧かない精緻な菓子が並んでいた。


リディアがアイリへ静かな視線を向けた。アイリは柔らかく頷き、急須を手に取り、僕の椀に液体を注いだ。野草と薬草の強い香りが室内に満ちた。


「ありがとうございます」


受け取りながら、彼女は穏やかな微笑みを返した。でもそれは、体の緊張を少しも和らげなかった。


磁器を両手で包みながら、指の震えを隠すようにしながら、リディアの正面を向いた。


「……失礼ですが、なぜ呼んでいただいたのでしょうか?」


これ以上礼儀を保てなかった。


リディアは椀を取り上げ、表面にふうっと息を吹きかけ、ゆっくりと一口飲んだ。その落ち着きは、こちらを焦らすために設計されているように感じた。椀を皿にそっと戻してから、口を開いた。


「気づいていらっしゃらないのですか、アキラさん」


「……本当に、分からないんです」


頭を低く保ちながら答えた。内心では恐怖で頭が叫んでいるが、外には出したくなかった。


リディアはもう一口飲み、時間をかけ、反応を見極める目を向けていた。


「陰陽師との戦争が終結した今、わたくしたちアカデミーの当局は、この一連の事態がいかに起きたかを解体する作業に専念しておりましたわ」


静かな声で説明が始まった。


「紛争中に逮捕された陰陽師は、アカデミーの拘禁施設に収容されています。ですが彼らは普通の人間でもあり、長期間の外界不在は外交的・政治的に深刻な問題を引き起こす。そのため、数日前に全員を釈放せざるを得ませんでしたわ」


黙って聞き続けた。


「真に問いかけに答えられる唯一の人物は、その陣営の首魁――黒木・ワイルドソウルですわ」


リディアは茶碗を見つめながら続けた。


「ただし現在、そのケースを担当しているマーカス・ワイルドソウルは、あまり進捗を得られていません。マーカスには独自の尋問方法がございまして……この席では詳細を述べるのを控えますわ」


その「方法」を想像すると、背中に冷えが走った。


「加えて」


リディアは目を僕へ定めた。


「レオ・アッシュフォードが、すべての陰謀の真の頭脳であり、黒木の行動さえも利用していた可能性が高い、という強い証拠がございます」


沈黙した。処理しながら。なぜ自分にこれを話す? 自分は捜査官でも、判事でも、その階層の誰でもない。なぜここまで機密に触れる内容を?


リディアは自分の困惑を観察していた。もう一口飲んでから、頭をわずかに傾けた。


「この件で、あなたが一つ肝心なことを失念されていないかしら、アキラさん?」


頭の中はもう飽和状態だった。三日前の襲撃、A.S.との出会い、アリズの石を壊すという提案――全部が積み重なって、全体の輪郭が見えなくなっていた。自分の刑期をこなして、なんとか日々を送ることだけに必死で、大きな絵の意味が抜け落ちていた。


「申し訳ありません……」


茶碗に視線を落として白状した。


「頭の中に色々と溜まっていて。ここでの役目や日々のことに集中しようとしていたら……どこにたどり着こうとしているか、見えていないかもしれません」


リディアは数秒、まっすぐ見つめた。指を絡め、顎に当てた、純粋に分析的な姿勢。一筋の前髪が滑り落ち、その真剣な顔を縁取った。


「あなた自身のお父様が、この事件に直接関わっていることを、もうお忘れになって?」


言葉が、物理的な打撃のように来た。あの最初の日々に、逮捕の余波の中でどこかで耳に入ったことが、でも自分の精神的健康のために記憶の隅へ追いやっていた何かが、一気に引き戻されてきた。父。


「すべては調査員のダミラ・アッシュフォードが端を発しています」


リディアは目を離さずに続けた。


「彼女は元々、魔術師社会内の情報漏洩の謎を解くために任命されました。嫌疑はお父様の活動に向けられていた。ところが調査中、彼女は偶然にも、あなたが黄金の鉄則を破る瞬間を目撃した。ダミラが報告を行い、それがあなたのアカデミー送致という判決に繋がり、ご両親もアッシュフォード屋敷での監視下奉仕に配置されました」


飲み込んだ。喉が乾いていた。


「詳細をどなたも教えてくださらなかったようですが、アキラさん。お父様はかなり前に邸から移送されています。高警戒の施設に収監され、その後すべての関与を自白しました」


父が共犯者だった。魔術師の陰謀に、情報を横流しして資源を動かす組織に加担していた人間だった。それが、確定した事実として今、伝えられた。尊敬を持ち、距離を保ちながらも抱えてきた感情が、胸の中で何か恥とも無力感とも違う重さに変わった。


「彼は……どうなるんですか?」


言葉を絞り出した。


「現時点では、アカデミーの独房で相応の刑期を全うするにとどまりますわ」


リディアは冷静に答えた。


「お母様については、釈放の手続きが近く完了する見込みです。彼女が不正行為に一切関与していなかったことは、今や疑いようのない事実ですから。ただし、あなたの黄金の鉄則違反は依然として重大な問題であり、アカデミーでの在籍は変更されません」


思わず息が漏れた。母さんのこと。それだけは、重荷が一つ降りた感触だった。いつも割を食ってきた人間が、ようやく自由になれる。それだけで、今は十分だと思いかけた。


「しかし」


リディアの声が、注意を引き戻した。


「お父様の自白中に、わたくしの関心を強く引いたある発言がありましたわ」


「……何と言っていましたか?」


「お父様は、黒木・ワイルドソウルを知らなかった。レオ・アッシュフォードの存在さえ知らなかった。彼の任務は、低位の魔術師グループの中で、漏洩した情報を受け取り運搬することに限られていました」


「それは……どういう意味なんですか?」


リディアは背もたれに体を預け、腕を組んだ。


「つまり、本当の黒幕を探す上で、わたくしが一つ、どうしても合致しないピースを抱えているということですわ。考えてみてください、アキラさん。情報の横流しをしていた低位の魔術師たちから始まり、大量の魔力ょく窃盗が蓮次郎に繋がり、蓮次郎が黒木、レオ、陰陽師の派閥へと連なっていた。一見すれば明確な構造――下の情報提供者が、上の幹部たちのための道を拓いていた」


一息おいた。言葉が空気の中に重く漂った。


「ですがわたくしの分析では、その低位の情報提供者たち――お父様が属していたグループ――は、魔力を受け取っていた蓮次郎の指揮下に完全に置かれていたわけではなかった。彼らは独自に動いていた部分があった。そしてここが核心です。ザイルの石の問題。あなたのお祖父様による謎の石の発見が、独立した出来事だとすれば、陰陽師はある時点でその存在を知り、強い関心を示した。ここに、わたくしが感じる歪みがあります」


手が、テーブルの下でかすかに振え始めていた。背中に、鞄の重さが意識に上がってくる。今この瞬間、背負っている鞄の中に、リディアが語っているその石の半分が入っている。一つの誤りで、一瞬の不注意で、生徒としての刑が終身の監禁か、あるいはそれ以上のものに変わるかもしれない。


「その石に関する情報が公的に発表された時点では、低位のグループはすでにわたくしたちの力によって完全に解体されていましたわ」


リディアは静かに、しかし確実に語り続けた。


「もう内部には誰も残っていなかった。では――陰陽師に、石の存在と力を伝えたのは誰? 内部の協力者が消えた後に、彼らはどうやってそれを知ったのかしら?」


思考が崩壊しそうだった。この一連の惨劇すべてが、どこかで必ず自分の家族から始まって自分の家族へと戻ってくる。父が諜報組織に加担し、祖父が謎の石を掘り当てた。リディアが理解できないその空白を、自分は埋めるための情報を偶然手元に持っている。それが、余計に怖かった。


「……これを、僕に話して、どういうことを懸念されているんですか?」


なんとか視線を逸らしながら尋ねた。


リディアは立ち上がり、ゆっくりと背後の大窓へ向かった。外の庭を眺め、ほぼ一分、動かなかった。静止した室内は凍りついた。


不意に、こめかみが鈍く痛み始めた。


彼女はゆっくりと振り返り、圧倒的な真剣さで見た。


「本当に懸念していることは、今なお、この一連の事態を動かした真の首謀者にわたくしたちが辿り着けていない、ということですわ」


冷たい震えが脊髄を伝った。


「黒木も陰陽師もレオも、そのような規模の陰謀をこれほど巧みに設計できるプロファイルに当てはまらない。むしろ、彼ら全員が誰かに利用された可能性が高い。完全にわたくしたちの視界の外にいる誰かが、いかなる角度からも察知できない位置で糸を引いている。それが懸念です」


限界だった。


石の秘密、鞄の重さ、父の自白、リディアの言葉――全部が一点で噴き出した。椅子から立ち上がった。茶器が微かに揺れた。


「……もう、これ以上は聞きたくないです」


目を逸らして言った。鼓動が耳の中で暴れていた。


「なぜこんなことを僕に話すのか分からない。刑期を全うしている生徒です。捜査にも、黒幕にも、関係がない」


リディアはその場を動かなかった。窓のそばで、あの揺るぎない目でこちらを見続けていた。


「真に隠れた首謀者を発見するために、黒木からも陰陽師からも効率的な答えは得られません。レオ・アッシュフォードを捕えたとしても、その人物が本当にどれほどの情報を持っているか、あるいは捨て駒の一つに過ぎないかも、確信が持てません。ですから、その隠れた真実に辿り着くために、特定のお願いがあります、アキラさん」


飲み込んだ。室内の空気が窒息するほど重くなっていた。


「あなただけが」


リディアはテーブルへ向かって一歩を踏み出した。


「この惨状の真の黒幕を見つけるために相応しい立場にいます」


僕が?


心が受け取りを拒絶した。なぜ自分なのか、なぜこれほどまでに主張されるのか、理解ができなかった。自分がやっていることの意味は、刑期を終えることだ。消えることだ。小春の顔が頭をよぎった。それが唯一の理由だった。


何より、今の自分が一番恐れていること――鞄に隠している石が、その話題の中心にあること。もしリディアがこの石のことを知っていれば、次の瞬間に全てが終わる。更生教育どころでは済まない。


これ以上の言葉も弁解も出てこなかった。立ち上がったまま力を失い、ゆっくりともう一度椅子へ崩れるように座った。磨かれた木のテーブル面に視線を落とした。頭の中に出口を探しながら、この複雑な罠から抜け出すのに十分な嘘か、答えか、を求めていた。


……どうすればいい。

――出会いは、


偶然では終わらない。


新しい仲間。


少しずつ広がる世界。


そして、


閉ざされていた扉が、


静かに開かれる。


次回――


禁書庫


アキラは、


さらなる真実へ近づいていく。

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