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影を手放した日、魂の灯

人は、


何度でも間違える。


だけど、


間違えたままで終わるかどうかは、


自分で決められる。


その一歩が、


未来を変えていく。

セシリアの数歩後ろを歩きながら、そのリズムを追いかけていた。黒ずんだ木製の杖に体重を預け、片足の硬直を抱えながらも、彼女が予想外の速さで前進していることに気づいた。だが、しばらくすると注意はその動きから離れ、周囲の奇妙な矛盾へと引きずられていった。


まず、エンディミオンの結界をまるで存在しないかのように通り抜けてきたこと。門限も、理事長が布いた外出禁止令も、彼女には一切適用されていないらしく――どこから来たのかわからない許可証一枚で、全ての検問をすり抜けてきた。今はもう、アカデミーの壁のはるか外側にいた。都市の周縁部へと足を踏み入れながら、頭の中で問いが滞留し始めた。


エンバーストロム一族にある彼女が、僕みたいな爪弾き者を助けるためにわざわざ動く理由は何だ?

本当に僕に何を求めているんだ?

このゲームの盤上で、セシリアはどのコマなんだ?

……圧迫感が限界を超えた。


「何故、助けようとするんだ?」


沈黙を氷のような声で割った。いつも通りの、感情の熱を外に出さない声で。


「方法論的な説明を要求する。アカデミーで人が指を動かす時、必ずそこには目的がある。お前が僕から得るものは何だ?」


セシリアはほんの少しだけ杖を止め、片目だけで僕を振り返った。本物の目で。


「もう庭で伝えたでしょう、龍牙。あなたの内側には何か特別なものがある。それがあなた自身を傷つける前に、道案内をしたいだけよ」


「その論理が理解できないね」


思わず、ポケットの中で拳を固めた。


「僕に近づいてくる人間は全員、そういう抽象的なことを言う。春花も、グレインも、今度はお前まで……。自分の能力が、監査できない謎として扱われることが腹立たしいんだ。具体的に説明しろ」


「今のあなたの発達段階で詳細な理論的説明を構造化しようとしたら、頭の中で回線がショートするだけよ」


セシリアは驚くほど穏やかにそう答えながら、また歩き始めた。


「今は本質だけを処理すれば十分」


「全部知りたいんだ!」


自分の無知に対する軽蔑が血を沸かせた。


「子供みたいに情報を少しずつ与えられる必要はない。もし僕の内側に何かがあるなら、そのメカニズムを理解する権利が僕にはある」


「時には……全てを知る必要はないのよ、龍牙」


セシリアが割り込んだ。その声は柔らかかったが、少しも揺らがなかった。


「システムが自重で崩壊しないためには、本質を受け入れるだけで十分なこともある」


舌打ちをした。その秘密主義に苛立ちながら、もう一度食い下がろうとした時、僕たちはすでに都市中心部の住宅街と商業地区に到達していることに気がついた。オフィスビルや地元の商店が、街灯の虫の息のような光の下に並んでいた。


「一体どこに連れていくんだ?」


都市の区画を目で測りながら問った。


「もうすぐよ。目的地は次の通りにあるから」


目を細めた。数メートル先、石畳の歩道の真ん中に、男の人影が立っていた。ゆっくりとした、ほとんど儀式的とも言える動きで、見えない何かを空中で操っているようだったが、この距離ではその行為の目的を解読できなかった。しかし、距離が縮まるにつれて、その顔の輪郭が鮮明になっていった。


――喉の奥が、凍りついた。


粗末な衣服をまとった老人だった。深い眼差しを持つ、あの老人。数か月前、初めてアカデミーに入学しようとしていた日に声をかけてきたのと、同じ老人だった。あの時に覚えた不快感と、説明のつかない困惑が、連鎖的に脳を打ちつけた。


足が止まった。踵を地面に叩きつけるようにして、動けなくなった。


セシリアが動きの途絶えに気づいた。杖の上で振り返り、じっと値踏みするように見てきた。


「どうしたの、龍牙?何故止まるの?」


黙っていた。


……プライドが、本当のことを白状させなかった。あの老人の存在が、論理的に分類できない理不尽な恐怖を引き起こしているとは言えなかった。認めれば、彼女の前で格を落とすことになる。しかし、このまま石像みたいに突っ立っていれば、動揺しているのは一目瞭然だ。


返事を寄越さず、姿勢を固めたまま動かない僕を見て、セシリアは距離を詰めてきた。唇に、意地の悪い笑みが浮かんだ。


「まさか……ね、路上のお爺さんが怖いとか、言わないわよね?」


――完全に、暴かれた。


恥と屈辱の熱が、顔全体を一瞬で焼いた。激しく視線を逸らし、防衛として舌打ちを鳴らした。


「馬鹿なことを言うな、隻眼。周辺を分析していただけだ」


嘘は、我ながら稚拙だった。セシリアはくすりと小さく笑った。軽い旋律みたいな笑い声が、僕の敵意をひっそりと解体した。


「心配しなくていいのよ、龍牙。全部コントロール下にあるから」


老人へ向けて、さりげなく手を上げた。老人は動きを止め、こちらへ向かってゆっくり歩き始めた。近づいてくるのを見て、全身が緊張した。逃げろという本能が、鞭のように全身を走った。アカデミーの自室へ引き返せと。だが、プライドが足を縫いつけた。視線を逸らすことを許さなかった。


老人がセシリアの隣に止まった。彼女は片手を差し伸べ、引き合わせを始めた。


「龍牙、ナヤリを紹介するわ。彼はシャーマンよ」


その単語を耳にした瞬間、恐怖が憤慨に取って代わられた。眉間に皺を寄せながら、セシリアへ振り返った。知性が冒涜されているような感覚があった。


「……シャーマン?」


声には、酸のような軽蔑が染み込んでいた。


「都市の中心部までわざわざ連れてきて、エンディミオンのセキュリティを掻い潜って――それで僕に大衆文化の占い師を紹介しようと?完全な時間の無駄だ。からかってるのか、セシリア」


「また、データを収集する前に結論に飛びついているわよ、龍牙」


彼女は、僕の癇癪に微塵も揺れなかった。


「ナヤリの手法のおかげで、私はあなたを見つけることができた観察の技術を培ったの。本物のシャーマンが持つ力は、エンディミオンの通常の概要書には載っていない。でもその効果は、顕著よ」


思考が矛盾に絡まった。エンバーストロムの血を引く人間が、これほど原始的な人間の習慣を受け入れているとは。理解が追いつかなかった。


「あなたに近づいたのは、アカデミーでしばらくあなたの動きを観察していたから」


セシリアは、分析的な口調に切り替えた。


「始まりは純粋な偶然よ。ある日、寮の廊下を歩いているあなたを見て、気づいた。背中のすぐ後ろに、巨大で濃密な塊を抱えていることに」


反射的に、肩越しに振り返った。


背後にあるのは、夜の虚空だけだった。グレインは、もういなかった。腐った繋がりは、あの時に断ち切れていた。今自分の状況を笑い者にされているような気がして、胃の底が熱くなった。


「何もないだろ、背中には」


声が、苛立ちで微かに震えた。


「からかうのは止めろ」


「もちろん今は見えないわ、龍牙。あの塊は、あなたが知覚できない霊的な周波数に索引付けられているから。魂の視力を磨いた私たちだけが、肉体の次元で動く『異常』を感知できる。だからこそあなたには見えなかった――それを養っていたのが自分自身だとしても、ね」


「『異常』……?」


その言葉が、頭の中で空洞に響いた。


「何の話をしているんだ?あの塊とは何だったんだ。用語を明確にしろ」


セシリアはため息をついた。深い、哀れみと理解が混じり合った眼差しで。


「今のあなたの状況の複雑さを超える理論的枠組みに引き込みたくないの、龍牙。自分自身の世界の問題に、すでに十分打ちのめされているように見えるから、これ以上変数を重ねたくない。お願いだから……一度だけ、分析するのをやめて、私の言葉をそのまま受け取って」


拒否したかった。全身のあらゆる部分が、理解し、分類し、現実を解剖することを要求していた。無知ではないと証明するために。


だが、セシリアの丸い顔を見た。柔らかな輪郭を。一つしかない本物の目の、揺るぎない固定を。


……彼女の言葉には、一分の正しさがあった。


魔術師たちへの裏切り。春花への攻撃。グレインを失ったこと。その重さだけで、残り少ない正気のケーブルが悲鳴を上げていた。これ以上複雑なものを追加すれば、接続が全部焼き切れる。


異様に感じるような、奇妙な服従をもって、僕は傾聴することを選んだ。


「生きとし生けるものは、大地の上を歩く時に痕跡を残す」


セシリアが、ほとんど詩的なリズムで語り始めた。


「木は根を残して土壌を変え、川は川床を残す……人もまた、環境に感情の痕跡を残す。負の感情の荷を長い時間抱えたまま、休息も論理的な解決も見つけられずにいると、エネルギーは腐り始める。その魂の腐敗は、私たちが『異常』と呼ぶものを引き寄せる灯台になる。あなたが運んでいたあの塊は、あなたを殺すために生まれたのではない、龍牙。あなたの魂が、傷つけるものを手放す方法を忘れたから生まれ、しがみついたの。あなたの罪悪感と、憤りと、孤独が、あの寄生虫にとって理想の生息環境を作り出した」


セシリアが不意にナヤリを振り返った。


「……合ってた、ナヤリ?」


「ふむ……10点満点の8点をやろうかな」


「やったー!」


……抽象の真空の中に、浮いていた。


セシリアの語ることに論理的な行列を見つけようとする努力を、一時停止することにした。彼女が描写するのは、抽象的な哲学、根拠のない構造のように聞こえた。だが不思議なことに、自分の不調のピースが、彼女の物語の中でかちりとはまっていった。深追いはしなかった。知性が、混乱の中で疲弊しきっていた。


「では……その『異常』とは、精霊に相当するのか?」


馴染みのある参照軸を求めながら、自分の一部が問いを口にした。


今度はナヤリが一歩前に出て、沈黙を破った。その声は、しゃがれていたが、奇妙な権威を帯びていた。


「いいや、お前よ。違うぞ。精霊は自律した存在だ、人間が地上に現れる前から数えられる記録を持つ。『異常』は別物だ。人間の廃棄物から直接生まれる構造だ。お前自身の、歪んだ鏡だ」


説明の何一つ、理解できなかった。しかし本質的な変数は掴んだ。僕には、自分の構造に貼り付いた見えない寄生虫がいた。そしてそれは、自分の腐敗が生み出したものだった、ということ。


ナヤリが真正面に立ち、曇った目で僕の胸を値踏みした。


「魂の浄化をしてやろう、若者よ」


小さな陶製の器を持ち上げながら、老人は宣言した。


抵抗するエネルギーも、手続きを監査する気力もなかった。だから、そのまま老人の動作の惰性に身を任せた。


ナヤリは器から一掴みの水を取り、僕の顔と胸元に向けてそっと振りかけた。液体は、野の花の強烈で自然な香りを放ち、こめかみの圧力をすっと和らげた。次に、分類できない植物の枝束を取り出し、僕の腕と脚に沿って、しっかりとしたリズムのある動きで通し始めた。知らない方言で、単調な呟きを唱えながら。


葉が静かに衣服を叩く中で、漠然とした記憶が脳裏をよぎった。人間の歴史の古い記録には、死すべき者たちがこうした浄化の儀式に頼って、精神を安定させていたという記述があった。


驚くべきだったのは、即座の効果だった。


このプロセスは……深く、深く安らぐものだった。


絶対的な平和の感覚が、父さんが死んで以来一度も感じていなかった熱の軽さとともに、全身に広がり始め、胃を締め付けていた窒息しそうな結び目を溶かしていった。数週間ぶりに、僕の思考が完全な沈黙に入った。


ナヤリは動きを止め、枝を下ろして深く息を吐いた。まっすぐに見てきた。


「終わったぞ」


老人が告げた。


「お前を養っていた『異常』は、除去した」


両手と胴体を確かめた。完全な異質感があった。信じられないほど軽かった。重力の定数が、自分の体に働く係数を減らしたかのようだった。精神的な痛みと疲労の変数が、ゼロに減っていた。


「じゃあ……本当にそういうものが貼り付いていて、それが枝ごときで祓われたというのか?」


眉を一本上げながら、眉唾で問いかけた。メカニズムの裏に仕掛けを探しながら。


ナヤリは神秘的に微笑みながら、首を振った。


「わしは何も祓わんぞ、若者よ。ただ……呼吸の仕方を忘れた心に、思い出させるだけだ」


そんな論理の欠片もない言葉に、返す言葉が見つからなかった。アカデミーの安全な境界線に戻る時機だと判断した。


セシリアが隣に来て、荒廃した商業地区の沈黙の中、二人で帰路についた。杖の音だけが歩道に響いた。


胸の軽さは続いていた。しかし自分自身の決断の虚無が、再び浮かび上がり始めた。


沈黙を破ったのはセシリアだった。その声が、注意を引かずにはおかない真剣さを帯びていた。


「今、軽いでしょう、龍牙?」


道から目を離さずに問いかけた。


「でもナヤリの浄化は、一時的な緩和剤に過ぎない。行動の行列を変えなければ、意味はないわ」


「変えるべきことは何もない」


反射的に、いつもの硬さを取り戻した。


「自分を拒絶するシステムの中で生き残るために必要なことをしているだけだ。決断は自足の論理に基づいている」


セシリアは短いため息をついた。街灯のちらつく光の下で完全にこちらを向き、両手を杖の把手に重ねた。


「自足?あなたが実行しているその方法論的な惨事を、そう呼ぶの?」


本物の目で射抜かれた。魂まで剥ぎ取られるような固定だった。


「見てよ、龍牙。自分を、一族の価値を証明するために魔術師の召喚魔術を書き換えようとしている学究肌の天才だと思い込んでいる……でも、その構造全体が哀れな矛盾よ」


「……なぜそれを知っている?」


「あなたを観察していたから。授業でのあなたの振る舞いを見ていたの。だから分かる」


セシリアは一瞬、体重を健康な足に移して息をついた。横目で、いつものあの嘲笑を消した、すっきりした笑みを浮かべた。


「顔つきが変わったわね。世界が次の瞬間崩れ落ちそうな、あの感じはもうない」


「ただ疲れているだけだ」


視線を逸らしながら、腕を組んだ。


「あれがどういうインチキだったかは、まだ分からない。でも言い争う気力もない」


「インチキじゃないわよ、龍牙。でも問題を治す魔術でもない」


セシリアはため息をついて、今度は歩調を合わせながらゆっくり歩き始めた。


「ナヤリがやったのは、あなたが自分で種まきしていた災害の後片付けよ。ずっとあなたをアカデミーで見ていたわ。いつも一人で、全員を憎んでいるような顔で、廊下を歩くのが毎日の戦争みたいで」


「あそこでは誰の同情も必要としない。全員が、魔力の水準か苗字にしか目を向けない馬鹿ばかりだ」


「だからノートに閉じこもるの?」


セシリアが不意に立ち止まり、こちらを向くことを強いた。


「召喚の授業でのあなたを見てきた、龍牙。教本を丸暗記して、声を潜めて教師を訂正して、他の学生を見下ろして。でも本当は、怯えているのよ」


その言葉が、プライドを刺した。血が頭に上がるのを感じながら、一歩踏み出した。


「――お前には何も分からない。何を経験してきたか、真剣に受け止めてもらうためにどれほど積み重ねが必要か……」


「庭で見たことなら分かるわ」


セシリアが割り込んだ。有無を言わさない声で。本物の目が、深くに刺さった。


「あの男があなたを宙に吊っていたのを見た。あなたが詐欺師だと怒鳴るのを聞いた。そして、あなたの目に映った完全な敗北の表情を見た。でも一番衝撃を受けたのは――あなたが、自分を強くしていた唯一のものを壊す方を選んだことよ。折れることも、助けを求めることもするよりも先に」


声が消えた。


グレインが離れていった感触と、胸の中の引き裂かれるような感覚が、苦い残響として戻ってきた。


「有り得ないほど正しいことに執着しているわ、龍牙」


今度のセシリアの声には、優越感は微塵もなかった。本当に心配している声だった。ほとんど悲しそうな。


「自分を見せたら世界が踏み潰すと思っている。だから全員を見下し、孤立して、誰もが理解できない天才のふりをする。でもそのプライドは鎧じゃない――牢獄よ。自分の苦さの中で、一人で溺れている。誰かが必要だということを、全ての式や完全な理論で解決できないことを認められなくて。ナヤリはあなたから呪いを取ったんじゃない。あなた自身の頑固さの重みを取ったのよ。でも、アカデミーに戻って、自分に近づく人を誰でも遠ざける傲慢で孤独な子として振る舞い続けたら……その苦さの塊は戻ってくる。次の時は、あなたを虚空に落下するところから救える杖も、シャーマンもいない」


授業での嘲笑でも、他の学生たちの揶揄でもなかった。剥き出しの真実だった。冷淡さと軽蔑の層の下に、ずっと隠し続けてきたもの。


石畳の道の真ん中に、身動きできないまま立っていた。下を見ていた。


……口が動かなかった。反論する論理が、どこにも見つからなかった。それが正しいことを、深いところで分かっていたから。


父さんが死んでから、力と完全なコントロールの幻想だけを追いかけてきた。誰にも「みじめな魔術師」と見なされないために。人を遠ざけ、危険な道に踏み込んで、あの忌々しいプライドのために全てをやってきた。


自分の手を見た。まだ少し震えていた。


散々積み上げてきた優越性の足場が、今は無意味な瓦礫の山みたいに感じた。間違えていた。自分の人生の全てが、根本から間違った方向を向いていた。


……召喚魔術も。全部が無駄だと知っていた……他者への眼差しも。少なくとも、心配してくれる人間がいることは知っていた……自分自身も……自分こそが、誤りだった。自分こそが、問題だった。


「……どうすればいいんだ?」


声が出た。ひびが入って、冷淡さの欠片もなく。迷子の子どものようだった。


「別のやり方を知らない、セシリア。これしか知らないんだ」


セシリアは姿勢を緩めた。肩から張り詰めていたものが消えた。柔らかさを帯びた目で、見てきた。


「一夜にして変わることを、誰も求めていないわよ、龍牙。ただ……幽霊と戦うのを止めて。人を本当に見始めて――書類上の変数としてじゃなく、ね。行きましょう」


小さな頭の仕草で、また歩き始めた。


* * *


あの夜以降、エンディミオンの日課に戻ることは、緩やかで静かなプロセスだった。


一夜にして社交的な人間に生まれ変わったわけではない。でも根本的な何かが、行動の核心から変わっていた。言葉を、もう攻撃の武器として使わなくなった。距離は保ち続けていたが、教室や廊下で誰かが近づいても、あの攻撃的な鋭さで反応しなくなった。初めて、クラスメートを恐怖のフィルターなしで見ようとしていた。会話を試みる者が、屈辱を与えるか傷つけるかの意図しか持たないという、常に張り詰めていた偏執的な警戒を脱ごうとしていた。


日が経つにつれて、思考は目に見えて軽くなり始めた。あの感覚の密度から解放されていった。


しかし安堵は完全ではなかった。内側に留まり続ける残滓があった。どんな霊的な浄化も溶かせない重さが。自分の決断が現実に与えた衝撃だ。


レオと陰陽師のための手駒として動いたことへの後悔が、夜ごと胸を食い荒らした。何度も、自分の行為への責任を取り、理事長室に踏み込んで、魔術機関に全ての裏切りを自白しようとした。しかし恐慌が胃を凍りつかせた。エンディミオンが裏切り者をどう処罰するか、よく分かっていた。地下牢か処刑か、どちらも十分にあり得る変数だった。全てを失う恐怖が、法的な贖罪への道を阻み続けた。


それなら、内側から変えればいい。


自白する勇気がないなら、せめて自分の立場を利用して現状を変えよう。もうレオに従う必要はない。陰陽師の道具でいる必要もない。両方の陣営を使う側になる。影から構造を破壊する。


その計画を実行するために、外との繋がりを回復する必要があった。


セシリアを訪ねた。残りわずかなプライドを飲み込みながら。研究目的という名目で、アカデミーの外に出るための特別な通行許可を依頼した。彼女はしばらく無言で観察し、かつての傲慢さの痕跡を探していた。真剣さを確認すると、面倒な問いかけをせずに承諾した。


外に出ると、陰陽師のネットワークとの接触を再開した。戦略は以前と同じ見かけをしていた。違うのは、向きだけだった。偽情報を、精巧に改竄したデータを提供し、その動きを誘導し、計画を妨害し、別の方向へ勢力を崩壊させる。レオへも同様に。


そうして数週間が、張り詰めた静けさの中で過ぎていった。毎日が、精密な暗算の練習だった。


――そこで、全てが変わった。


召喚魔術の理論授業のノートを静かに見直していると、建物の基礎を激しい轟音が揺らした。衝撃は、本棚の本を落とし、窓を鋭く震わせるほどだった。


即座に立ち上がって窓に駆け寄り、アカデミーの中央庭に目を固定させた。


見えたものが、エンディミオンのセキュリティプロトコルを全て否定していた。


庭の真ん中に、瓦礫と炎に囲まれて、一人の女がいた。その衣装と制御を失った魔力の奔流が、学生でも普通の教師でもないことを示していた。そのオーラの密度が、一目で魔法使いだと教えていた。魔法そのものの使い手だ。


狂ったような、錯乱した笑い声を上げながら、行く手を塞ぐ防衛担当の魔術師たちを一片の情けもなく片付けていた。しかし最も恐ろしかったのは、その残虐さではなく、その後に行うことだった。


振付のような動作で、女は死体の胸から輝く物質を引き出していた。死んだ魔術師たちの魂か魔力の純粋な顕現を、机上の水晶瓶に丁寧に収めていた。


恐怖が、足の裏を床に貼りつかせた。逃げるべきか、下層階に向かうべきか、分からなかった。苦悶の叫びが壁の隙間から忍び込み、魔法の爆発による揺れが床に伝わり続けた。


それでも、目が戦場から離れなかった。


空を仰いだ瞬間、困惑が恐怖を凌駕した。


アカデミーの最上位部門に所属する高ランクの魔術師たちが、空中に浮かんで集まっていた。浮遊魔法陣の上で、その中に、威圧的で冷徹な様相の大魔導師のストロンがいた。


数学的な冷淡さで、眼下の光景を観察していた。


誰も介入しない。誰も虐殺を止めに降りてこない。


上層部が無為に傍観している意味が、全く理解できなかった。


しかし視覚的な答えが、次の瞬間に来た。


炎と庭を飲み込む破壊の中、新たな女性の人影が、閃光の中から実体化した。窓からの距離と爆発の騒音では声が聞こえなかったが、立ち居振る舞いから、言語的に魔法使いと対峙していることは明らかだった。


数秒のやり取りの後、衝突は一気にエスカレートした。


新たに現れた魔術師が両腕を上げ、半透明な氷の槍の連射を放った。空気を裂く鋭い音とともに迸る槍を、魔法使いは超人的な速度で回避した。亡霊のように熱い石の間を縫いながら。


続けて、狂った攻撃者が手を伸ばし、複雑で暗色の巨大な魔法陣を背後に展開した。その魔力の流れを即座に識別した――召喚術式だ。


魔法陣から、おぞましい外見の人形が無数に湧き始めた。魔法使いは時を置かず水晶瓶を空中に投げた。死んだ魔術師たちから回収した小さな輝きが解放され、操り人形と融合していった。


目の前で、人形が変異し始めた。寸法を拡張しながら、吸収された魂が持っていた魔術師たちと寸分違わぬ身体的形態をとっていった。


氷の魔術師は退かなかった。複製体たちに猛烈に突進した。しかし数的優位と組み込まれた魂の力が、すぐに追い越した。数分で防御の結界が亀裂を入れ、石畳の上に膝をついた。変異した人形の致命打を受ける瀬戸際まで。


まさに終幕が避けられないと思えた瞬間、庭の上空が異様な色に染まった。


輝く花びらの雨が降り始め、炎が起こした気流に逆らいながら舞い落ちた。


現象の震源地へ視線を上げると、ほとんど天使のような解放感で降下し、倒れた魔術師の傍に着地する小柄な人影を見つけた。


その背丈にもかかわらず、人影は大規模な植物制御の呪文を執行した。巨大な根と棘を持った蔓が無から出現し、舗装を砕いてマリオネットたちを容赦なく絡め取った。有機的な触媒を何ら事前に要さないこの生物学的顕現は、魔法レベルの使い手にしか不可能だった。


しかし小柄な人影は、直接戦闘に入る必要さえなかった。


瞬きの間に、素早い影が庭を端から端へ横切った。動きが速すぎて、目がぼやけた残像を辛うじて捉えるだけだった。人影が無から出現し、魔法使いの真後ろに立ったかと思うと、首の後ろに的確で素早い打撃を叩き込んだ。


狂人の笑いが、瞬時に沈黙した。その体が崩れ落ち、召喚された人形が即座に霧散した。


衝突を終結させた人影は、完全に白い制服を着ていた。魔術師の社会構造についての以前の読書が、即座に答えをくれた――ハンター、ワイルドソウル一族の武装実働部門。魔法の法律が侵された時、内部秩序の維持と執行を担う者たちだ。


全ての騒動が、驚くべき速さで収束した。混沌が一撃で封じられ、庭に死のような静寂が戻った。残火のぱちぱちという音と、岩の瓦礫が落下するくぐもった反響だけが残った。


空から魔術師たちが降り始め、現場を封鎖し始めた。いつも通りの完璧な秘密主義を保ちながら。


部屋のドアに、強い拳の音がした。


アカデミーの教師が、権威ある声で即時退出を命じた。事前措置と損傷管理として、この棟の全学生は北区の別の安全な建物に一時移送されるという。


急いでノートを掻き集めながら、思考が疑問の竜巻に沈んだ。


今目撃したものに、何一つ意味を成すものがなかった。錯乱した女。魂の収集。ストロンの受動。そして突然のワイルドソウルの介入……。陰陽師との戦争について理解していると思っていた全てに、それは当てはまらなかった。


何かが他にある。レオの届かない外側で動く、隠れた危険な力が。その問題の規模は、自分が知っていると思っていた全てを超えていた。


* * *


何週間もかけて構造化した計画が、一羽の翼ばたきで崩れ落ちた。


使い魔が音もなく窓の敷居に降り立ち、封緘された手紙を落としていった。蝋を割り、走り書きされた行を読んだ瞬間、足元の地面が開くような感覚がした。


戦争は終わろうとしていた。しかし、自分の描いた条件の下ではない。


同盟の策士、リディアが陰陽師の主要基地を特定した。強襲が切迫していた。数日以内に起こる。突撃の核は、ヴィクター・グリムストーンの厳格な指導下で訓練された人狼の一団だということだった。


舌打ちをしながら、紙を拳の中でぐしゃりと丸めた。


陰陽師たちを使ってレオに対抗しようとした、念入りに演じてきた茶番が、もう何の意味もなかった。黒木は大して心配していなかった。秘密の訪問でほとんど顔を合わせていなかったから。本当の危険はレオだった。大きな力を持つ石について曖昧な噂を耳にしていたが、自分の計算に囚われて、必要な注意を払わなかった。


即座に動かなければならなかった。


セシリアを訪ねた。エンディミオンを出るための通行証を頼み込むことが、もう不快な習慣になっていた。急いでアカデミーの境界線を越えた。ただ一つの目標を持って――源次を見つけること。


陰陽師側で対話できる唯一のコマ。逆転戦略を実行するために必要な橋。


しかし拠点に到着すると、運が背を向けた。残った数人の陰陽師が、厳しい表情で告げた。源次は不在だと。黒木に緊急の任務を命じられ、地区外に出ており、数日は戻らないと。


完全に行き詰まった。


人狼の強襲を警告することも考えた。しかしそれは、魔術師としての素性を晒し、彼らの前での脆弱な立場を壊すことを意味した。レオを操って事態を遅らせることも?不可能だった。レオは、自分が予測できない狂気の次元で動いていた。


再び、冷酷な現実が胸を打った。自分には何もなかった。ただの取るに足りない魔術師に過ぎず、盤上が自分では一つの変数も変えられないまま動くのを眺める、無力な観客だ。


日々は素早く消え、運命の瞬間が来た。


陰陽師の神社を囲む茂みと木々の間に身を潜めた。空気は重く、オゾンと血の匂いが胃を逆さまにした。


同盟は、人間性のかけらも見せなかった。完全な虐殺だった。


人狼が防衛を引き裂き、陰陽師たちを構造物の外へ引きずり出すのを見た。言葉を交わしたことのある顔が、次々と地に落ちていった。


恐怖が限界を超えた。喉元まで激しい吐き気が込み上げた。もう耐えられなかった。踵を返し、茂みの中の迂回路を足をもつれさせながら離れた。悲鳴のこだまから逃げた。


しかし運命には、もう一つの待ち伏せが用意されていた。


太い幹の間の曲がり角を曲がったところで、正面から彼に出くわした。


レオが、道の真ん中に立っていた。腕を組んで、あの狂気的な笑みを顔に貼り付けたまま。歪んでいて、おかしな声が森の呟きを切り裂いた。


「これはこれはぁ……とぉうとぉうその時が来たねぇ、龍牙。くろ木とぉ、その古い世界にぃ、別れを告げる時間だよぉ。ぜぇんぶが、計画通りにぃ整ってきたぁ」


純粋な恐怖の一撃が、胃を貫いた。恐怖が息を奪った。しかし自分の中に、どこから来るのか分からない尊厳の残骸があった。歯を食いしばり、知らない勇気をかき集めて、視線を受け止めた。


「僕は……もうお前を助けない、レオ。終わりだ」


激昂を、胸に直接飛んでくる呪文を予想した。しかしレオは、まるで気にしていないようだった。乾いた笑いを漏らし、首を傾けた。


「本当に驚くと思うぅ?もぉう分かっていたさぁ、龍牙。最初からぁ、お前の行動がぁ本当の味方のものじゃないことは分かっていたぁ。報告書には一貫性がなくぅ、データは欠けていてぇ、召喚魔術のノートは不完全だった――ほぼ切り刻まれていたぁ。最初に渡した紙からぁ、お前がどんなゲームをしているかぁ、完全に把握していたよぉ」


全てを知っていると聞いて、完全に崩れ落ちた。


安心感のすべての骨組みが瓦解し、足が見てわかるほど震え始めた。パニックが思考を溢れさせた。殺される。ここで、この木々の中で。誰にも遺体を見られない場所で。存在が、痕跡を残さず消される。


ひとりで、死ぬ。


全身が、臆病の震えに揺れていた。レオはそんな状態の僕を見て、清らかな高笑いを上げた。屈辱を楽しみながら。


「見ろよぉ、みっともないなぁ。これ以降お前がどうなろうと関係ない、結局は便利な駒だっただけだぁ。盤上のゼロだぁ。でも……ひとつだけぇ礼を言わないとねぇ」


レオが、大げさな身振りで横に避けた。


その後ろから、木立の影を踏みしめる重く厳粛な足音とともに、見覚えのある長身の人影が現れた。


心臓が跳ね上がった。


「グレイン……?」


かすれた声が口から漏れた。


「……何故……ここにいる?」


グレインは応じなかった。視線を虚空に固定したまま、僕の存在を完全に無視した。レオは笑みを広げ続け、狂気的な歪みをさらに大きくした。


「直接、私のもとに来た、龍牙。同盟を望んでいた。そして私は、本当の力を持つ者には気前がいいんだよ」


「嘘だ!」


レオに叫んだ。必死で、目の前の光景を受け入れることを拒否しながら。


「グレインはお前と手を組むなんてしない!答えろ、グレイン!なぜお前の側にいる!?」


グレインは沈黙した。冷たい岩の彫像のように。レオが哄笑で僕の叫びを遮り、一歩踏み出した。


「知りたい?本人が話してくれたよ、龍牙。召喚者が諦めたと教えてくれた。お前が二人の間の絆を自分で断ち切ったと。自由を与えたんだろう?なら……彼はそれを使って、自分の好きなようにしているだけだ」


世界が、周りで凍りついた。


過去の自分の決断が、刃になって戻ってきた。


グレインを見た。不信と激情で、目が潤んでいった。


「僕は……こんなことのために自由を渡したんじゃない」


一歩踏み出しながら、拳を痛みが走るほど固く握りしめた。


「怪物と手を組むために、じゃない。頼む、話してくれ!答えてくれ!」


言葉も、一つの身振りも、顔に浮かぶ反応も、なかった。


「劇場は終わり、時間が迫っている」


レオが遮りながら、空を見上げた。


モニカが木の梢の間から降下し、音もなくレオの傍に着地した。二人は言葉を必要とせずに頷き合った。レオの体が浮かび上がり、彼女と並んで空へ昇っていった。災害の震源地へと向かいながら。瞬きの間に、消えた。


もう一度、グレインに近づこうとした。失った仲間を必死に探しながら。


「グレイン……頼む。これを止めなければならない」


グレインは見なかった。長い杖を持ち上げ、重いが奈落のような力を帯びた動作で、空中を打ち据えた。


現実そのものが引き裂かれた。暗いまたたきで周囲を歪ませる、奇妙な次元の扉が開いた。遠くで、陰陽師の神社を激しい爆発が揺らし、強烈な輝きが雲を染めた。最後の戦いが、頂点に達しつつあった。


ポータルに一歩踏み込む直前、グレインが止まった。振り返らなかった。しかし、深く洞穴のような声が初めて森に響いた。どんな束縛も纏わないで。


「我はそう決めたゆえに動く。止まる気はない、龍牙よ」


無力感と痛みが、別の何かへと変容した。


腹の奥底で、何かが点火された。何か月もの間、恐怖と罪悪感が縛り付けていたものを焼き払う炎が。


これ以上ないほど強く、拳を握り締めた。指の関節が白くなるまで。


足を大地に、これまでになかった確かさで刻みつけた。


「なら……!」


叫んだ。初めて持つ揺るぎなさで、全身を大地に縫い止めながら。


「止めるのは僕だ、グレイン!お前にはこれ以上何も壊させない!」


グレインは、ポータルの縁越しにほんの少しだけ頭を回した。横目に僕を見た。そこに嘲笑はなかった。慈悲もなかった。


次元の裂け目を完全に越えると、視界から消える直前、最後の言葉が空中に浮かんだ。


「ならば試みるがよい、龍牙よ」


ポータルが、シューという音を立てて閉じた。湿った土の中央に、完全に一人残された。


足が崩れ、膝を地面についた。肺が苦しげに働いた。


これまで引き起こしてきた全ての重さが――傲慢さ、臆病さ、グレインを失ったこと――一度に肩に降り落ちた。


今回は、罪悪感に押し潰されなかった。


熱い力が全身を流れ、戦場へ頭を上げることを強いた。


この災害を生んだのは自分だった。そして、止めるのも自分だ。


* * *


陰陽師との戦争の終焉後、数日間は息苦しい静寂の中を漂っていた。


エンディミオンでは誰もが、主要な脅威が排除されたかのように振る舞っていた。しかし自分にとって、その安穏はすっかり嘘に感じられた。ほとんど蜃気楼みたいに。


思考に平和はなかった。ノートの前で何時間も過ごし、メンタルマップを描き続け、レオを止めてグレインを取り戻す次の動きを解読しようとしていた。その一対一の싸いで本当に頼れる支援は、セシリアだけだった。外との接続を繋ぎ止めていたのは、彼女のもとへ通う不便な習慣だけだ。慎重に動き、それぞれの一手を計算し、最良の機を窺っていた。


――そのある日まで。


自分の思考に沈んでいた時、棟を激しい爆発が揺り動かした。ガラスが震え、床が数センチ沈んだように感じた。


パニックが喉を締め、猛烈なデジャヴが胸を打った。あの時と同じだ。


心臓を乱打させながら窓に駆け寄った。あの狂ったような魔法使いが再び混乱を種まきしているのを見るつもりで。


しかしそこに見えたものが、まったく別の形で血を凍らせた。


魔法使いじゃなかった。


庭の真ん中に、計り知れない力で轟き、アカデミーの防衛を瓦礫に変えながら、グレインがいた。


盲目的な激怒でもって構造に突進していた。何十もの魔術師や高ランクの教師が包囲を試み、精霊系魔術の連射を叩き込んでいたが、その攻撃はほぼ彼の皮膚をくすぐる程度にしかならなかった。グレインには、一払いで盾を砕き、誰でも邪魔者を吹き飛ばすだけで十分だった。


数分間、静止したまま混沌が広がるのを見ていた。


恐怖がまた、麻痺の中に僕を引き戻そうとした。臆病者だったあの頃みたいに隠れようとした。しかし胸の中で誓った決意が、それより強く燃えた。


絆を断ち切ったのは僕だ。レオの腕の中へ彼を押し込んだのは、自分の傲慢さだ。止める責任を持つのは、僕以外にいない。


エンディミオンのこの呪われたアカデミーで、誰一人としてグレインが誰なのかを理解していない。


「行かなければ」


拳を握りながら、自分に言い聞かせた。


部屋を飛び出した。廊下を見回りながら学生たちに籠もるよう命じる教師たちの叫びを、完全に無視した。亀裂が入った壁の間を走り、塵と落下する天井の欠片を躱しながら。思考は、ただ一つの目標に固定されていた。


中央庭へと直接繋がる最後の廊下を抜けようとした時、人にぶつかった。


女の子だった。学生には見えなかった。髪を二つの束に括った、金色の髪。目の印から、エンバーストロムの一族の者だと分かった。庭の入り口から数メートルのところで立ちすくみ、足の先から頭の先まで震えていた。手の中で、杖が揺れていた。


その目が、絶対的な恐怖を映していた。しかし、純粋な絶望か狂気から、庭に出てグレインと正面から対峙しようとしているのが、その姿勢から滲み出ていた。


……時間がなかった。他人のトラウマに関わっている余裕など、欠片もなかった。


数言だけ言葉を交わした。それだけで、グレインへ向けて一直線に飛び込んだ。


後ろから叫ぶ声が追ってきた。


「待って!出ちゃダメ、頭おかしい!」


弱い掴みを荒い動作で振りほどき、廊下の薄暗がりに彼女を残して駆けた。


アカデミーがどうなろうと、もうどうでもよかった。倒れた魔術師たちも、生き残った者たちのパニックも。


この敷居を越えて、破壊された庭の石畳を踏むことは、グレインと自分だけの案件だった。


先送りにし続けてきた決算。


その瞬間が、ついに来た。

――止まっていた物語が、


再び動き出す。


繋がる過去。


交わる運命。


そして、


一通の手紙が、


新たな謎への扉を開く。


次回――


招待状


アキラは、


まだ知らない真実へと歩き始める。

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