心臓と機械と緑の夢
真実は、人を救うとは限らない。
知りたいと願った答えが、
時には心を深く傷つけることもある。
それでも人は、
目を背けることなく、
真実と向き合わなければならない。
その先に待つものが、
希望であれ、絶望であれ。
蓮次郎の屋敷は、まるで折れた肋骨みたいに空へ突き出ていた。半分崩れて、半分立ったまま、時間にも世界にも忘れ去られた、そういう場所だ。マーカスの車が進入路でスピードを落とした時、助手席からその輪郭を眺めて……胃が縮んだ。気の利いた感想は特にない。ただ縮んだ。
一度も来たことがなかった。蓮次郎は一度も、招待しなかった。
何年か前に、遠くからこのシルエットを見かけたことはある。その時でさえ、何か変だと思った。俺が知っている蓮次郎には、こんな大げさな場所は似合わなかった。制服をくしゃくしゃにして、頬にインクの染みをつけて、先生の机の下に潜り込んでも平気なやつだった。
――あいつは、そういうやつだった。死んだ蓮次郎は……別人だ。
車から降りた。急ぐ理由が特にないから、ゆっくりと。何も期待していないけれど、それでも見なければならない。
屋敷の正面は何か所もひび割れていた。窓はいくつか割れて、風が運んできたゴミと枯れ葉が入り口の階段に積もっていた。聖域じゃない。墓だ。
マーカスが隣を歩いていた。無言で。こっちを見てこない。でも、その存在感が重石みたいに感じられた――やれやれ、あいつも何かを失ったんだろう。ここで。詳細は話したがらなかったけど、別にいい。みんな幽霊くらい抱えてる。俺のは蓮次郎の顔をしている。あいつのは……あいつ自身、気づいてないかもしれない。
壁に大きな穴が開いていたが、正面のドアから入った。特に理由はない。
中は廃墟だった。壊れた家具、数ヶ月前の戦闘で生まれたガレキ、すべての上に埃が二枚目の皮膚みたいに積もっていた。俺はその残骸の中を、不安を隠すような歩き方で動いた。引き出しを漁った――倒れたチェストの引き出し、壁に寄りかかった机、生き残った棚。
紙切れがいくつか見つかった。
走り書きの買い物リスト。「清掃サービスを手配すること」と書いたメモ。回路図の裏に走り書きされた料理のレシピ。
……普通のものだ。
一枚一枚を見ながら、そう思った。普通の人間が書くものだ。蓮次郎も買い物リストを書いた。蓮次郎も、誰かに散らかしたものを片付けてもらう必要があった。蓮次郎も……
――考えるのをやめた。やめておいた方がいい。
尖った筆跡をすぐに認識した。蓮次郎のだ。喉の奥に乾いた塊が浮かんだ。肩をすくめて、紙を机に無造作に放り返した。
……これをどうしろっていうんだ。
世間は蓮次郎を情け容赦のない悪魔として描いている。狂った機械のために人命を犠牲にした、不幸の設計者。でも悪魔は牛乳を買い忘れない。怪物は水漏れした配管を直すためのメモを残さない。
レシピの紙を見つめた。
蓮次郎……馬鹿。塩の分量くらい、ちゃんと測れよ……
痛くなるから、これ以上は考えたくなかった。思考を消した。流すだけにした。傷をえぐらない――その方が楽だ。
これが、この捜索行の最大の皮肉だった。「あいつの汚名を雌雪ぐ何か」を見つけるために来た。親友が単なる悪役じゃなかったという、反論の余地のない証拠を。なのに、こういう人間的な残片を見るたびに、事態が悪化する。これでは、喪失が現実のものになる。怪物に、見覚えのある顔が与えられる。
最初から蓮次郎がサディスティックな狂人だったなら、もっと楽だった。欠陥変数として分類して、壊れた歯車として破棄する――それで終わりにできた。でも買い物リストは証明してしまう。あいつは同じ人間だった。夢を共有したあの不器用な理想家と、同じ人物が、どこかで取り返しのつかない決断をした。
――いつ、買い物リストを書くのをやめて、名前のリストを書き始めた? あと何杯コーヒーを一緒に飲めば、内側を蝕んでいたものを話してくれた?
溜息をついた。自分自身の罪悪感の重さを感じながら。
俺が卒業プロジェクトで勝った。俺は前に進んだ、蓮次郎が資金難の惨めさに溺れていく間に。あの技術的な勝利――みんなに祝福されたあの勝利は、今でも親友への死刑宣告みたいに感じられる。
レシピを台に置いた。分析したくなかった。蓮次郎の野心が犠牲を正当化するかどうか問いたくなかったし、あいつの道徳的な転落の深さを測る気もなかった。技術者としての頭は、予測可能なものに集中したかった。具体的なデータを探すことに。スイッチと特許に。
そういう紙切れを無視して、先へ進んだ。
考えない方がいい。見つかるものは何であれ、感情じゃなく道具で解決できると思っておいた方がいい。
階段を上った。空の部屋を確認した。服のないクローゼット、タイルの割れたバスルーム。何もなかった。
――階段の脇の扉に辿り着くまでは。
マーカスが最後の段で、ぴたりと止まった。気づいた――呼吸のリズムが変わり、肩が固くなった。問わなかった。扉を押した。
臭いが先に来た。プロトタイプが失敗したラボで嗅いだことのある臭い。魔力素子が過熱して融解する時の臭い。焦げた匂い、薬品の匂い、あるべきでないものの匂い。
部屋の奥に、もう一枚扉。開けた。
半壊した実験室だった。明かりはほとんどない。
「ここには来たことがある」
と、マーカスが室内を見渡しながら言った。
「ここで蓮次郎と会った」
観察した。爆発させたような跡――たぶん、逮捕しに来たマーカスから逃げるための、意図的な破壊だ。
目が暗さに慣れてきた頃、何かが目に入った。
部屋の奥から、緑の光。濃く、鋭く、脈動するように、反対の壁を満たしていた。
ゆっくりと歩き出した。用心深く。断ち切れたケーブルを避けながら、床の染みは確認しないようにしながら。マーカスは後ろに留まっていた。拳銃に手を添えて、でも何も言わなかった。
見たものに、息が止まった。
カプセルだった。
巨大だった。他の実験器具より古く見える金属でできていた。中には鮮やかな緑色の液体が縁いっぱいまで満たされていて、その中に――浮かんでいた。女性が。永遠の夢に浮かんでいるように。
服を着ていなかった。肌は青白く、緑の光の下でほぼ透き通って見えた。長くて黒い髪が、海藻みたいに周囲へ広がっていた。目を閉じて、唇をわずかに開いて、その表情は……深く穏やかで、それがひどく不穏に感じた。
一歩後退った。足の下の地面が消えていくような感覚がした。
盾として丹念に育ててきた無関心が、砕け散った。肺の中の空気が凍った。
……ホムンクルス……
それが最初の、機械的な考えだった。技術者の脳が恐怖を既知の変数に当てはめようとする、自動反応。蓮次郎は神を演じていた。人工生命を創ろうとしていた。
でも、カプセルの台座に繋がれたアナログパネルと計器の読みを目で追った瞬間、真実の針が外科メスみたいな冷酷さで貫いた。
Vuメーターが測っているのは、標準的なバイタルサインじゃない。密度だ。導電率だ。そして……魔力だ。
ガタガタと震える手、止まらなかった。
隣の制御台に近づいて、そこに置かれていた革張りのノートを開いた。目が蓮次郎のメモを貪るように追った。エネルギーフローの図解を読み込んだ。
ホムンクルスじゃない。式が示していたのは、抽出だ。残留ドレナージだ。神秘的な核の安定化だ。
「近づくな」
と、マーカスが扉から言った。張り詰めた声だった。
「この光は前回来た時にも見た。調べる時間がなかったが、本能的に危ないと感じる」
無視した。
多くの書類とノートの中に、表紙に「プロジェクト・ハートクライ」と書かれた特別な一冊を見つけた。その朝の捜索で初めて見せた切迫感で、ページをめくり始めた。
「これは……プロジェクト・ハートクライだ」
読みながらつぶやいた。
「蓮次郎がこれを全部書いた。最後のプロジェクト。あいつの……遺産」
マーカスが距離を保ちながら近づいてきた。
「何が書いてある? あの女は何だ?」
すぐには答えなかった。貪欲に読んだ。ページをまたいで、頭の中でパズルを組み立てながら。蓮次郎の個人的なメモからは、傷ついたプライドが滲み出ていた。追い詰められた男の、最後の野望。
《黒木はいずれ俺を裏切る》と、最初の数ページに蓮次郎は書いていた。
卒業プロジェクトの惨憺たる失敗、魔術師たちを救う機械を作れなかったあの失敗の後、完全な秘密の中にこもったのだ。世界を修復したかった。特に、マジクス・テラを。純粋な血統と違い、テラは人間の混じった遺伝学の生物学的な欠陥を抱えていた。蓮次郎はその血の半分を憎んでいた。欠陥として、遺伝的疾患として、魔術科学が消し去る義務のあるものとして見ていた。
そしてノートは、夢想的な転換を迎えた。
悲惨な日々の中で、人生が微笑みかけた。純粋な自然の精霊が、街の境界で瀕死の状態で横たわっているのを見つけた。わずか二十センチほどの、神秘的な「存在」――実在を疑われるほど抽象的で、伝説の中にしか生きていないようなものだった。蓮次郎はその小さな顔を見て、実際的な人生で初めて、同情に似た何かを感じた。技術的な知識と治癒の魔術を使って安定させた。目が覚めると、その生き物は意思を伝え始めた。最初は唇を動かさず、理解不能な言語でテレパシーを送ってきたが、やがて人間の言葉を使いこなした。モルガナと名乗った。命を救われた感謝として、その善意に報いると申し出た。
蓮次郎は、純粋な親切への報酬を受け取ることに戸惑い、何かを求める余裕もなかった。その瞬間を、病院からの電話が破壊した。妹が重篤だった。
……妹?
一秒、読む手が止まった。
胸に、突然の寒さが走った。
エンディミオンで共有したすべての年月で、蓮次郎は家族の話を一度もしなかった。
病院を訪ねると、医師が最悪の知らせを告げた。妹の海は、呼吸を困難にする希少かつ進行性の肺疾患を患っていた。その夜を越えられないだろうと言われた。
絶望の中で蓮次郎は日記に呪いを書いた。マジクス・テラの血を汚染する人間の遺伝子を。純粋だったなら、彼女はこんなに脆くなかった。
その夜明け前の絶望の中で、すべてを沈黙の中で見ていたモルガナが、取引を提案した。海を「生かし続ける」ことができると言った。でも、その結果として生まれる状態は、本当の意味で生きているとは言えないと、厳しく警告した。
蓮次郎は、痛みに盲目になって、承諾した。
医師たちが海の公式な死亡を宣告してから数時間後、少女は病院の驚嘆の中で再び呼吸し始めた――医学的な奇跡として記録された。でも蓮次郎は真実を知っていた。海は純粋な精霊の本質によって変えられた。
しかし、事態は改善しなかった。やがて海の体から、奇妙で濃い、緑色に輝く液体が分泌され始めた。人間の中には置けないと判断した蓮次郎は、この地下実験室に彼女を隠し、永遠に目覚めることのない眠りの状態でカプセルに封じた。
ノートには同じ強迫的な問いが繰り返されていた。
《これを、生き続けていると本当に呼べるのか?》
モルガナは警告していた。でも、聞かなかった。
やがてモルガナの精霊は視界から消えた。蓮次郎は理論を立てた――モルガナは海の体と完全に融合したのだ。海が体を破裂させないよう常に排出し続ける緑の液体は、実際には絶対純度の液状化した魔力だと。
蓮次郎の中に、新しい狂った希望が生まれた。
モルガナのような抽象的な存在が実在するなら、古い人間の信仰は正しかった。地球は独自の「神経系」を持っている。霊的な静脈が隠れた網を成している。海を究極の触媒として使おう。カプセルのチューブを地面に直接繋いで、この純粋な魔力を惑星の静脈に注入する。世界の魔法の流れを「再充電」して、魔術師の絶滅を廃止し、人間と共存できるようにする――もう隠れることなく。黒木のために構築していた機械は、海がもたらすものと比べたら、不完全なおもちゃに過ぎなかった。
ノートから視線を外した。
完全に呆然としていた。
巨大なガラスの筒を見た。エメラルドの液体の中に浮かぶあの女性は、海だ。親友の妹だ。コンクリートの床に埋まっていくケーブルは、蓮次郎が地殻を貫こうとした絶望的な試みだ。テラへの憎しみの根源は、この実験室から来ていた。
でも、コンソールの隣にある図面が、さらに常軌を逸したものを明かしていた。
地面より数メートル下に、蓮次郎は真のプロジェクトの外殻の建設を始めていた。巨大な、比類のない規模のロボット。地球の次元的な障壁を破り、深い神秘的な静脈に到達し、海の魔力を強制的に注入するために設計された、圧倒的な金属の巨人。
「これは完全な狂気だ」
マーカスの掠れた声が俺の集中を破り、肩越しに図面を確認しながら言った。
「蓮次郎はただの狂った腐れ野郎で、正気を失っていた。周りで何が起きているか冷静に分析できなかった。妄想に流された」
「……違う、マーカス」
声が、突然の疲れで詰まった。自動的に肩をすくめようとした。技術的な論理の裏に必死で隠れようとした。
「あいつは追い詰められていた。我々の種族の遺伝的な欠陥のせいで妹を奪われた。誰もがその苦しみを味わわなくて済むよう、解決策を探しただけだ……」
「その解決策とやらが、自分の血の繋がった妹を機械の部品に変えることだったのか!!」
マーカスの現実の一撃は乾いていて、容赦なかった。
「見ろよ、ヴィクター。これは理想主義的な逸脱じゃない。自分の家族の肉体を妄想の燃料にするまで腐りきった。正当化しようとするな」
黙った。
ポケットの中で拳を握りしめた。マーカスに何を返せばいいか、分からなかった。プロジェクト・ハートクライの図面を見つめながら、言葉が喉で詰まった。
すべては狂人の台本に見えた。でも、数メートル先の緑の液体の中でゆっくりと呼吸する少女が、蓮次郎が何らかのねじれた形で成功したことの物理的な、反論不可能な証拠だった。
「これを終わらせなければならない」
と、マーカスが冷たく宣告し、コンソールのメインスイッチに近づきながら言った。
「この構造物を持ち出せないし、この実験をアクティブのまま放置するつもりもない。全部切断する。ハンターを呼んで女の遺体を処理させる」
「待て! 単純に切断できない」
マーカスとコントロールパネルの間に割り込んだ。
「神秘的なサポートを切ったら死ぬ。生きるチャンスを与えるべきだ」
「生きる?」
マーカスが苦い笑いを漏らしてエメラルドの筒を指差した。
「あれが生きているとでも? ヴィクター、見ろ。呼吸している死体だ。人工的な中間状態に捕らわれている。切断することが、できる最も人道的なことだ」
マーカスの主張に追い詰められ、再びノートに印刷された蓮次郎の記録へ目を向けた。技術的な変数を、縋れる緩みを探して。
そこで目が、蓮次郎の最後の秘儀的な理論を読んだ。既存の仮説を独自の天才によって洗練させた、考えの混合体だった。
《魔力は体の回路を流れるだけではない。感情に、記憶に、アイデンティティに、意志に、魂に直接反応する。だからこそ遺体は決してエネルギーを生み出せず、人工的なクローンには魔力の流れが存在せず、普通の機械では本物の魔力を決して生み出せない。絶対的な源を実現するには、神秘の流れと適合した意識が必要だ》
赤いインクで書かれた結論を読んだ瞬間、すべてが理解できた。
海は「魔力転換存在」に変容していた。モルガナの生物学的本質と融合した体は、細胞レベルで再設計されていた。ある意味途方もない規模で魔力を吸収し、精製し、変換し、増幅するために。生きた巨大な人工の心臓として機能するために。海の生物学的構造が人間的に保たれるほど、生成されるエネルギーが効率的になり、システムが生む汚染が少なくなる。
自律的に純粋な魔力を生み出せる。基礎物理学を無視した量を蓄積できる。巨大なアーティファクトを稼働させられる。壊滅的な規模の術式を安定させられる。完全な結界を維持できる。あるいは、一人で小さな人工世界を持続させることすら。
ノートを下ろした。
首筋を冷たい汗の一滴が流れ落ちた。緑の光の下で。
蓮次郎はここで人工生命を作ろうとしていたんじゃない。いつものように――永遠に破壊的なエンジニアへの執着で――無限の魔力源を製造しようとしていた。そして、その発明の代償は、妹の眠った魂だった。
マーカスがパネルをタイプし始めた。でも頭の中は蓮次郎のことを読んで考え込んでいた。
モルガナ。純粋な精霊。アーサー王伝説では、アヴァロンの九人の妖精の姉妹の一人として言及される。でもこれは伝説じゃない。現実だ。モルガナは蓮次郎の妹、海を癒した。
カチリ、と頭の中で何かが噛み合った。
マーカスとパネルの間に割り込んだ。シャツの下に隠した人狼の首飾りに手が触れた。
「触るな。まだだ」
マーカスが抑えた怒りを目に宿して見てきた。
「脅すつもりか、ヴィクター? あれのために? 何であれ、あれが何であれ?」
答えられなかった。
海のために戦う気があるのか、それとも蓮次郎が完全には怪物じゃなかった可能性のために戦っているだけなのか、自分でも分からなかったから。
頭痛は警告なしに来た。最初は軽い、次に鋭い、こめかみを電流みたいに走る刺痛。片手を額に当てた。同時に、マーカスも眉をひそめているのが見えた。額を押さえていた。
「……この頭痛は何だ?」とマーカスが額を触りながら言い始めた。
そして、声が来た。
どこからでもなかった。方向もなかった、反響もなかった。ただそこにあった。頭の中に、まるで耳元で囁いているみたいに、はっきりと。
「お願い……喧嘩しないで」
凍りついた。マーカスを見た。あいつも黙っていた。
声は女性で、柔らかく、ずっとそこにあったような哀しみを帯びていた。
「私のせいで……これ以上誰かが傷つくのは嫌なの」
カプセルを振り向いた。マーカスも同じように。
海はさっきと同じように緑の液体の中に浮かんでいた。でも今、それが彼女だと分かっていた。あるいは彼女の中に宿る何かが、話していた。
マーカスが銃をカプセルに向けた。
「そこから出ろ。姿を見せろ」
「もう皆さんの前にいます。動けないの」
「……何?」
と二人揃ってカプセルを見つめた。何を言うべきか、何を考えるべきか、分からなくて。
「君は海か?」とカプセルに近づきながら聞いた。
「私は……自分が誰なのか、確かではないの」
世界が揺れた気がした。
「海だろ。蓮次郎の妹。違うか?」
「海……? それともモルガナ?」
声が混乱していた。まるで自分のアイデンティティの境界を、自ら区別できないみたいに。
「最初、彼は私をモルガナと呼んでいた。それから……海と呼ぶようになった。あるいは両方。もう分からない。私の心……彼女の心と混ざってしまった。それとも、ずっと同じだったのか。分からないの」
マーカスは銃を下げなかった。
「何者だ?」
「私は……彼が必要としたものよ」
アーサー王伝説を思い出した。モルガナ・ル・フェイ。妖精。魔女。癒し手。アヴァロンの九姉妹の一人――魔法が世界に凝縮された島。でもマジクスたちはもう一つの「アヴァロン」を知っている。マーリンが創ったマジクスの世界、楽園。
……モルガナが神話じゃなかったとしたら? 純粋な精霊たちが実在していて、ただ隠れて待っていたとしたら?
「考えるのが痛い」
と声が言い、頭の圧力が増すのを感じた。
「思い出すのが痛い。自分が誰か分からないのが痛い。海は生きたかった。海は助けたかった。蓮次郎お兄ちゃんは皆を救いたかった。今はただ……休みたい」
マーカスが銃を一センチ下げた。
「俺たちが助けられる。これを全部切断して……楽にしてやれる」
「それが望みなの? 私を死なせる?」
心が締め付けられた。
「いや。俺たちは……」
言い終えられなかった。頭の圧力が耐えられないものになった。痛みで視界が霞んだ。声がこだまになって、やがて消えていった。
意識を失う前に、マーカスがこっちを向くのが見えた。ハンターの手が伸びて支えようとするのが見えた。カプセルの緑の光が、鼓動のように明滅するのが見えた。
そして、すべてが闇になった。
――誰かを理解することと、
許すことは違う。
過去は変えられない。
犯した罪も、
失われた命も、
消えることはない。
それでも人は、
未来のために答えを選び続ける。
次回――
託された意志
憎しみの果てに残るものは、
復讐か、それとも希望か。




