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割れた石、磁器の翼

力とは、

誰かを打ち倒すためだけにあるものではない。


本当に大切なものは、

失いそうになったその瞬間に初めて気づく。


守りたいという願い。


信じたいという想い。


その一つ一つが、

小さな奇跡を生み出していく。

車が止まった。


ブレーキの音が耳に刺さる――まるで調律を外れたオーケストラの前奏みたいに、不協和で、嫌な予感を孕んだ音。アシュフォードの研究所の入り口を目の前にして、リリウムをもう一度だけ強く胸に抱き寄せた。冷たい磁器の感触が指先に染みる。その冷たさが、現実を確かめさせてくれる気がした。


「……行くわよ」


小さく呟いて、透明化の術式を詠唱する。温かな振動がリリウムの体を包んだと思ったら、次の瞬間には――いなくなった。目には見えない。でも、腕の中に感じる重さは消えていない。小さな手が服の裾をしっかりと掴んでいる。見えないのに、確かに、そこにいる。


「ここで一旦別れるわ」


誰もいない廊下で立ち止まる。影が水たまりみたいに床に溜まって、ひっそりとした暗がりを作っていた。


「石が置かれている間は奥にあるのよ。道、覚えてる?」


「覚えているわ」


何もない空間から、リリウムの声がした。澄んでいて、揺れ一つない声。


「よく覚えておりますわ」


口元に笑みが浮かぶ。見えないのに、笑いかけてしまう。


「頑張ってね、リリウム。気をつけて」


重さが離れていく。小さな足音が廊下の奥へ奥へと消えていく――消えかけた残響みたいに、少しずつ、確実に。


そして、ひとりになった。


……いいえ、完全には、ひとりじゃない。


足を踏み出して、ロビーの中心へ向かう。意識的に背筋を伸ばしながら、もう少し歩く。確認しなければならないのは、全員の視線を引きつけること。研究者たちが画面に向かって議論している。グラフが並んでいる。何を示しているのかはわからないし、理解する必要もない。必要なのは――みんながこちらを見ていること。どこか影の中を歩いている誰かのことを、忘れること。


「エレノア様」


中年の男性が声をかけてくる。額に拡大鏡を乗せた、いかにも研究者という風貌の人。


「お越しいただけて光栄でございます。ザイル様より、プロジェクトにご関心をお持ちとお聞きしておりましたので」


微笑む。この笑顔はずっと前から持っている仮面で、何度もつけてきた仮面で、もうほとんど自分の顔みたいに馴染んでしまった仮面。


「霊的魔術には、まだまだ謎が多いものでしょう? あなた方の石は……今まで見た中で、最も興味深い謎のひとつですわ」


質問に答えながら、心は二つに割れていく。


ひとつは、リリウムの後を追っている。廊下を進んで、視線をかわして、石が安置された部屋へ近づいていく姿を想像している。もうひとつは、ずっとこういう時間の中で繰り返してきた思考に、静かに沈んでいく。


――天才。


研究者が異国産の鉱物の導電性について説明している。そのBGMのような声を聞きながら、自分の手を見つめる。リリウムがまだ言葉を持たない人形だった頃から、ずっとそばにいた手。魔術陣を描きながら、何を求めているのかも分からないまま描き続けた手。


天才、って言われるのよ。でも、それは本当に何を意味するの? 他の人にはできないことができる、それだけで、人より何か上のものになれるの?


わからない。どうやってあの子に魔力を宿したのかも、自分の魔術がなぜああいう形を取るのかも。ただ感じて、動いて、うまくいくことがある。それが天才? それとも、ただ運がいいだけ?


……リリウムの方が、ずっと賢いかもしれない。あの子は学ぶのが速い。もしかしたら、本当の天才は彼女で、私はただ隣にいた人間なのかもしれない。そう思うと、自嘲気味な笑みが口の端に浮かんだ。


アザエルの言葉が頭をよぎる。超越者のこと。自分の力の中に沈んで、世界から消えていった天才たちのこと。


あんな風にはなりたくない。あの人が語った怪物たちみたいに、誰にも届かない場所で生きていくなんて、嫌よ。ただ――助けたいのよ。春花を。アキラとアリズを。助けを必要としている人を。でも、そのためには、まず自分が信じなきゃ。自分がそれを、できると。


音がした。


大きくはない。きしむような、ささやくような音。機械の低い唸りの中に紛れて、ほとんど消えかけていた。でも、うなじの産毛が逆立つ感覚は消えなかった。本能というものは、言葉より先に動く。


「今の音……聞こえました?」


廊下の入り口の方を向く。研究者たちが不思議そうな顔でこちらを見ている。


「何の音でしょう、エレノア様?」


答える間もなかった。


ドォォン――!!


爆発が空気を揺るがす。大きくはないけれど、照明がちらつき、画面のグラフが乱れるには十分だった。研究者たちが顔を見合わせる。


「何が……?」


「試験室の事故では……?」


もう聞いていない。体が動いていた。頭が追いつくより先に、足がリリウムの消えた廊下へ向かっていた。


ドォォォン――!!


二度目の爆発は近くて、悲鳴が混じっていた。


アキラとアリズじゃない。あの二人の魔術じゃ、こんな爆発は起きない――そう思う間にも、左の壁が砕け散る。


ガガアァン――!!


地面に伏せて、腕で頭を庇う。砂埃が降り注ぐ。視線を上げると、粉塵と煙の中から、人影が現れてくる。どの時代にも属さない装束を纏った、輝く護符を手に持った人影。


陰陽師。


パニックが来る。でも、飲み込む。今じゃない。ここじゃない。杖はもうポケットの中にあって、抜き出す動きは息をするのと同じくらい自然だった。氷の盾が展開される。炎の護符が鳥の群れみたいに鳴きながら飛んでくるのを、ぎりぎりで止める。


「陰陽師だ! 研究所を攻撃してるぞ!!」


誰かが叫びながら出口へ走っていく。返事をする余裕はない。もう戦闘は始まっていた。


氷のカーテンで護符を払う。風で弾道を逸らす。霜の壁を立て、崩れたら次を立てる。相手は数が多くて、研究者たちは戦士じゃなくて――倒れていく人の顔が視界の端をよぎって、灰色に染まっていく床が見えて、胸が締め付けられる。


リリウムはどこ。アキラとアリズは――。


答えは来なかった。代わりに、また爆発が来た。


ドゥゥゥン――!!


壁に吹き飛ばされる。立ち上がった時、煙の向こうに一つの影がある。他の陰陽師とは違う。背が高くて、佇まいが違う。その自信が、空間の温度を一段上げているみたいだった。真冬の暖気みたいな、嫌な熱。


土御門源次。


春花を襲った、あの陰陽師。


待たなかった。見られる前に、走る。


逃げなのか、と問われれば……そう、逃げよ。でも卑怯とは違う。今の私には、あの人に勝てない。リリウムがまだどこかにいる。彼女を見つけるのが先。それだけのこと。


廊下は無人で、扉は開きっぱなし、警備は倒れているか逃げているか。石のある間まで全力で走る。


入った瞬間、心臓が跳ね上がった。


クリスタルの保管ケースが割れている。チューブとケーブルが傷ついた動物の内臓みたいにぶら下がっている。そして、瓦礫の横で、リリウムが丸まっていた。腕で頭を抱えて、震えていた。


「リリウム!!」


膝をついて、思いきり抱きしめる。冷たい磁器が胸に当たる。その冷たさが、今は何より温かく感じた。


「大丈夫? 怪我はない?」


「……大丈夫ですわ」


か細い、でも揺れていない声。


「隠れておりましたの。皆、怖がって、誰もこちらには来なかったから」


「よかった」


それだけ言って、銀色の髪をそっと撫でる。


「もう大丈夫よ。ここにいるわ」


その静寂は、数秒しか続かなかった。


空気が変わった。背中が教えてくれる。振り返るより先に、声が来る。


「なんと感動的な光景でしょうか」


低くて、滑らかで、温度のない声。


「磁器の娘を抱く、母親。なんと美しき家族の情景なり」


ゆっくりと、リリウムを庇いながら立ち上がって振り返る。


土御門源次が、扉の枠に背を預けていた。腕を組んで、目は笑っていない。


「……土御門源次、ですよね」


声が思ったより落ち着いて出てきて、少し驚いた。


「ほう。貴殿は余の名を知っておられるのか」


源次が口の端を上げる。


「これはこれは……されど、果たして余も同等に存じ上げておりますれば」


扉から離れて、こちらへ歩いてくる。一歩一歩が、まるで儀式みたいに、ゆっくりとしていた。


「噂名高き、エレノア・ウィンターフォールどの。死者に命を与える魔術師、とのことなり。その腕に抱かれし……これは人ではございますまい?」


「この子は私の娘よ」


「娘……」


源次は少し間を置いた。


「なんと詩的な。されど、言葉は余の興を引かぬのでございます。余が参ったのは、石のためなり」


視線が割れた保管ケースに移る。石がない。


……石は、どこ。


「貴殿が先んじたようでございますね」


源次の声が、ほんの少しだけ低くなる。


「そのことは……誠に遺憾にございます」


動いた。


杖は既に手にあって、護符が飛んできた瞬間には横に転がっていた。リリウムを素早く隅に置いて、氷の盾を一枚展開する。「そこにいて」と短く言い残して、正面を向く。


戦いが始まった。


エンディミオンを魔術戦闘Aランクで卒業したことは、飾りじゃない。でも源次は速い――護符が次々と手から解き放たれる。炎、氷、雷、風。全部違う属性で、全部精緻で、全部躊躇がない。氷の盾で受けて、魔力障壁で逸らして、反撃を返す。ぎりぎり届かない。


「それが、ウィンターフォールの全てなりや?」


涼しい声が飛んでくる。


「名高き天才が、これほど精彩を欠いているとは……誠に、嘆かわしきことでございます」


「まだ終わってないわ」


息が上がりながら言う。


源次が何か返そうとした。でも、その前に風が一筋、横から飛んで来て彼の顔を逸らした。


「エレノアさん!!」


アキラの声。入り口に立っていて、杖を構えて、顔に汗をかいていた。隣でアリズが連続して術式を放っている。二人が来た。


一対三になった途端、源次の体が守勢に変わる。数が上回っているからじゃない。三人の動きが噛み合っていて、どこを攻めても別の角度からカバーが来る――そこが効いた。前に出る。圧力をかける。じりじりと下がらせる。


「アキラ、石を!!」


叫びながら床を凍らせる。


「持っていって!!」


アキラがうなずいて、砕けたケースへ走る。瓦礫の中に、石があった。あの青い光を放つ、石が。手に取った瞬間、源次が氷を割って前に出た。


「渡さぬ!!」


アキラと源次の手が、石を挟んで重なる。


固いはずの石が……軋んだ。


――パン!


乾いた音がして、石が真っ二つになった。欠片が四方に飛び散る。アキラが後ろに倒れる。源次が手にした方を見て、眉を寄せる。


「……なんたる」


低く吐き捨てて、源次は踵を返した。残りの欠片を握ったまま、煙の中に消えていく。残像みたいに、いなくなった。


アキラのそばに駆け寄る。


「大丈夫? どこか痛い?」


「……大丈夫だよ、僕は」


ゆっくり身を起こして、手の中を見る。欠片が、まだ青く光っていた。


「石が……割れた、ね」


二人でそれを見つめる。割れたはずなのに、光は消えていない。まるで心臓みたいに、脈打っている。


おかしい。石が割れるだけなら分かる。でも、あの割れ方は……それに、なぜまだ光っているの。あの光は一体――。


「今は考えなくていいわ」


自分に言い聞かせるみたいに言う。


「半分でも手元にある。今はそれで十分よ」


足音が近づいてくる。怒鳴り声。アシュフォードの魔術師たちが来る。


「隠れて」


アキラとアリズを倒れたデスクの影に押し込む。


「私が対応するわ」


魔術師たちが雪崩れ込んで来て、割れた保管ケースを見て、石が消えているのを見て、様々な表情を浮かべた。


「石が! 陰陽師に奪われたんだ!!」


叫ぶ。精一杯、絶望の滲んだ声で。


「間に合わなかった……止めようとしたけど、逃げてしまったわ」


魔術師たちが顔を見合わせる。何人かが出口へ走る。残った人たちが捜索の陣を組み始める。


隙を縫ってデスクに近づいて、低く囁く。


「非常口から出て。後で合流するわ」


その時、別の魔術師が駆け込んできた。顔が青ざめていた。声が震えていた。


「エンディミオンが! アカデミーが――ベアトリクス・クロスという魔法使いが、仲間たちを……!!」


世界が止まった気がした。


血が、冷えていく。


ベアトリクス。やっぱり、始めた。


「行くわ」


自分の声が聞こえた。誰のものかと思うくらい、静かな声だった。


「エレノア様、それは――」


「行くわよ!!」


自分でも驚くくらいの声が出た。


「このタイトルの名において、命の魔術師として、あなた方に命じるわ。私についてきなさい。あの人を止めるのよ!!」


一瞬、静寂。


それから、みんながうなずいた。


振り返ることができなかった。リリウムを見たら、あの紫の瞳に見つめられたら、連れて行ってと言われなくても、置いていけなくなる。


「あの子を……リリウムを、お願い」


アキラに、見ずに言う。


「守ってあげて」


それだけ言って、飛んだ。


* * *


アカデミー・エンディミオンは、地獄だった。


炎が空を舐めていた。悲鳴が絶え間なく続いていた。中庭に横たわる人たちを、見ないようにして飛んだ。見たら、足が止まる。


「エレノア!!」


着地した瞬間、その声が空から降ってきた。


「来てくれると思っていたわ!! 絶対に来ると!!」


上を見る。ベアトリクスが浮いていた。両腕を広げて、恍惚とした笑みを浮かべながら。


答えずに、杖を振る。氷の連弾が飛んでいく。ベアトリクスがくるりとかわして、笑い声が降ってくる。ガラスが割れるみたいな、甲高い笑い声。


「なぜなの、ベアトリクス。なぜこんなことを!!」


「なぜ?」


彼女が空中で止まる。笑みが、少し変わる。


「必要だからですわ、エレノア。魔術師は脆くて、無常で、儚い存在。わたくしはその子たちに、永遠の命を与えたいのですわ。素晴らしいことでしょう? 神聖なことでしょう?」


「狂ってるわ!!」


術式を重ね撃ちする。氷柱、風壁、霜の連撃。ベアトリクスはそれを全部羽みたいに払いながら、同じ笑顔のまま。


「見てご覧なさいな」


腰のフラスコを指差す。中に、光が揺れている。青白い、命のような光。


「魂ですわ。魔術師たちの魂。集めてきましたの。これで、わたくしの子供たちに命を――本物の命を、与えますの」


「渡さない!!」


だめだった。速い。どの術式も届かない。攻撃を受けるたびに体が軋んで、魔力が削られていく。それでも止まらない。止まれない。


「ほら、ご覧になって」


ベアトリクスが腰のフラスコを指差した。中で、光が揺れていた。魂の光だと、直感した。


「集めてまいりましたの。魔術師たちの魂を。そしてこれが、わたくしの子どもたちの素材になりますわ」


魔法陣が展開された。その中から、人形たちが現れた。顔のない、木を磨いたような質感の体。その数を見て、胃の底が沈んだ。


ベアトリクスがフラスコを傾けた。


光が流れ出した。魂が流れ出した。


人形たちが、それを吸い込んだ。


そして……変わっていった。


肌のような質感に。顔が生まれた。表情が生まれた。その表情に、見覚えがあった。


さっきまで生きていた、誰かの顔だった。


魂だけじゃない。存在のすべてを奪っているのよ……!!


立ち上がった。膝が震えていた。魔力の底が見えていた。でも、膝をつくわけにはいかなかった。


「あそこを御覧なさいな」


ベアトリクスが空を指した。


見上げると、魔術師たちがいた。Aランクの精鋭たち。先生方。大魔導師のストロンまで。全員が空に展開して、杖を向けたまま――動かない。


「彼らならわたくしを止められるはずよ。でも動かないでしょう?」


ベアトリクスが歌うように言う。


「露見を恐れているのですわ。人間に知られることを。大切な黄金の鉄則を。……あなたはどうかしら、エレノア? 怖い?」


「怖いわ」


即答した。


「でも、あなたが勝つことの方が、ずっと怖い」


最後の力を込めた。光の奔流が走った。三体の人形を貫いて、ベアトリクスの肩に届いた。


「きゃっ……!!」


驚きの声を上げた。怒りに変わった。


「よくも……!!」


杖が上がる。もう避ける力が残っていない。


受け入れるしかなかった。


その時。


赤い花びらが降ってきた。


何千枚、何万枚、空から雨みたいに。花びらがベアトリクスを包んで、視界を奪って、足を乱して。


それが晴れた時、一つの小さな影が、宙に浮いていた。


両腕を広げて。紫の瞳を輝かせて。緋色の魔法陣を、胸元で跳動させながら。


「リリウム!!」


「……戦いますわ」


静かな声が、でも、確かに届いた。


「なんで……ここに……!?」


「エレノアを、守りますの」


涙が出た。止められなかった。何の涙なのか、自分でも分からなかった。誇りなのか、安堵なのか、それとも怖かったのか。たぶん、全部だったと思う。


あの子は、誰にも教わっていない。どこにも書いていない。それなのに魔法陣を描いている。あの子の中に、ずっとあったものが、今ここで、咲いている。


ベアトリクスが後退した。人形たちが崩れていった。フラスコが震えた。


「そんな……!! そんなことが……!! ありえない!! そんな存在など、わたくしには理解できませんわ!!」


「できるわよ」


別の声が、地面から来た。


荒削りな声。飾らない、直球の声。


マーカスが、床から湧くみたいに現れた。右手に光る魔力込めの篭手。その拳に、魔術陣が、眩い。


「でも、理解できなくていい」


一撃だった。


迷いのない、一撃。


彼女は声も上げずに落ちた。フラスコが、床を転がった。


静寂が降りた。


残っていた人形たちが、砂が崩れるみたいに消えていった。


エリートたちが、ゆっくりと降りてきた。でも、その視線はベアトリクスに向いていなかった。


リリウムを見ていた。


みんな、見ていた。


……わかってる。これは変わった。元に戻せない。


また天才って言われるのね、と思う。あの怖くてまっすぐな目で見られるのよ、と思う。でも今は、そんなことを気にしている場所が、胸のどこにもなかった。


「リリウム」


呼ぶと、あの子が降りてきた。腕の中に収まる。冷たい、小さな体。大切な、命。


そのまま、しばらく動けなかった。


泣いていた。


涙の理由が一つじゃないことはわかっていた。でも今はそれでいい。全部まとめて、泣けばいい。


マーカスが視界の端にいた。どんな顔をしているのか読み取れなかったし、今は読み取れなくてもよかった。


リリウムを抱いたまま、歩き出す。アキラとアリズを探さなきゃ。石の欠片が無事かどうか確かめなきゃ。考えなきゃいけないことが山ほどある。


でも、それは少し後でいい。


今はただ、この重さを抱いていたかった。

――奇跡は、偶然だけでは終わらない。


理解できない力。


説明できない才能。


そして、

自分自身すら知らない本当の価値。


次回――


「才能という名の答え」


運命は、

静かに一人の少女へ問いかけ始める。

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