淵の呼び声
人は、夢だけでは前へ進めない。
現実は理想よりも残酷で、
努力さえ簡単に踏みにじられる。
それでも手を伸ばすのは、
その夢を諦めたくないから。
希望とは、
傷つく覚悟を決めた者だけが見つけられる光なのかもしれない。
ナイトシェイドの一族の主要な研究室には、冷たい金属の匂いが漂っていた。年老いた紙の匂い、それに古い魔導書を保存するために使われるハーブが混じり合った独特の香り。磨き込まれた長い木のテーブルの前に座り、三基の魔力ランプが青白く安定した光を放つ中、指先が広げた書類の縁をなぞっていた。これはただの紙ではない。ファウスティーヌの研究記録の一部、長年封印されていたページだ。アザエルのおかげで、再び手元に戻ってきた。アザエルのおかげで、変身魔術装置の開発がついに再開できる。
円形の図形、古代語マジクスで書かれた注釈、公式。それらを何度も頭に叩き込んだはずなのに、今改めて見ると、以前とは違って見える。もっと、明瞭に。空白の七年間が、かつてただ処理するだけだったものを理解する能力を研ぎ澄ませたかのように。
「魔術陣とは」
と、図形の縁を指でなぞりながら呟いた。
「魔力のコーディング構造です。意図を魔術言語に変換し、魔術言語を実際の現象に変換する。単なる絵ではありません。論理回路です」
円陣の各部位には固有の機能がある。中心にある核は術式の目的であり、魔力が収束する点。その周囲の第一環が魔術のカテゴリを定義する、元素・召喚・状態・時間。ルーンとグリフは装飾ではない。オリジナルのマジクスの言語で書かれた精密な命令だ。「展開」、「凝縮」、「解放」、「結合」。どれも円陣が疑問を持たずに実行する指令だ。流れ線がシステム全体を繋ぎ、一本でも断ち切れれば術式は失敗する。安定環が魔力の分散や自己崩壊を防ぎ、最後に発現点、術式が具現化する場所がある。
「ナイトシェイドの一族の変身魔術装置は」
次のページに移りながら静かに言った。
「カプセル化された魔術陣です。変容装置は、永続的にプログラムされた魔術陣を内包した触媒に他なりません」
手順は紙の上では単純だ。まず結合、装置は身体的接触、魔力のサイン、または強い感情によって使用者に繋がれる。次に発動、使用者が言葉を口にするか、単純に意志を示す。それからの展開、装置が体全体に完全な魔術陣を投影する。そして肝心の部分、使用者の身体の一時的な書き換え。幻影でも衣服でもない、単純な変身でもない。魔力によって媒介された物理的構造の本物の再構成だ。筋肉強化、魔術鎧、能力の増幅。使用者は「魔力同調」状態に入り、効率が上がり、術式がより速く発動し、精神的負荷が軽減される。
「しかしファウスティーヌはさらに先へ進みました」
赤インクで下線が引かれた節で止まりながら呟いた。
「変身は力だけではありません。個性、欲望、感情を反映しなければならない。円陣は意図に応えるからです。力任せでは不十分。使用者が何になりたいかを理解する必要がある」
そこに問題がある。ナイトシェイドの変身魔術装置の限界は技術的なものではなく、概念的なものだ。人狼の首輪は機能する、しかし変身は粗暴で、原始的で、繊細さに欠ける。使用者を野獣に変えるのは、その背後にある意図が動物的だからだ、力、凶暴さ、生存。ファウスティーヌが目指したのはその先だった。意識的な意志を反映し、使用者が自らの形を選択できる変容を。
しかしすべての変身魔術装置には根本的な限界がある、魔力を常時消費し、変容時間は限られ、破損すれば変容が止まり、過負荷をかければ使用者が物理的ダメージを受ける。さらに、各使用者の思考は異なるという限界が多くの変数を生む。
その考えが、蓮次郎の機械に関する報告を思い出させた。今や黒木と陰陽師たちの手中にある、あの無限の魔力発生装置。もしその技術を複製できれば、あるいは入手できれば、この変身装置に限界はなくなる。魔術陣を無期限に維持でき、使用時間は制約ではなくなる。
書類を置き、椅子に背をもたせかけた。もう一つの変数が、何年もの間頭から離れない。マジクス・テラとマジクス純粋の生物学だ。対象者を理解しなければ、装置は設計できない。
純粋なマジクスとテラは、人間が持たない共通の特性を持っている。追加の静脈、体全体を走る実際の魔術器官。孤立した静脈ではなく、心臓、脳、脊椎、腕、手、脚、胴体を経由する人間のものと並行した循環系だ。魔術は局所的ではない。全身的だ。体全体がそれを支えるように設計されている。
魔力は無から現れない。食事、霊薬、感情、睡眠、意識状態によって生成・回復される。一つの方法に依存せず、それが異なる回復スタイルを可能にする。睡眠は六から八時間で魔力を再生する。霊薬は即効性がある。そして術師が力を乱用すれば、魔力過剰になる恐れがある。
「魔力静脈が損傷すれば」
病理の節を読み進めながら思い出した。
「魔術師は魔力を常時失い、弱まり、脆弱になる。それでもなお、身体的には人間のまま。どんな人間と同じくらいか弱い」
最も恐れられる病は「マジクス・ゾンビ」だった。過剰使用、禁呪、または汚染によって引き起こされる魔術的腐敗の状態。以前はこの病に別の名前があったが、魔術師たちの間でこう呼ばれることが広まり、最終的に名称が変わった。症状は灰色や白い肌、意識の喪失、意志の抑圧、そして腐敗前の最も強い欲求の絶対的な支配。個人は唯一その欲求を満たすために行動し、代償なく禁呪を使用し、進行的に自壊する。この病は不可逆的だ。完全に発現すれば、そのマジクスは機能的に死んだも同然だ。
「純粋なマジクスは人間の病を患いません。魔法的なものだけです。一方、マジクス・テラである私たちは、両方を罹患します」
そこに根本的な差がある。純粋なマジクスには追加の能力がある、環境から自然エネルギーを吸収すること。しかしその吸収はマジクスの世界で特に効率的だ、なぜならその世界は彼らの生物学と同期しているからだ。そこでは純粋なマジクスはただ存在するだけで魔力を回復できる。地球では、テラのマジクスは環境エネルギーを効率よく吸収できない。ほぼ完全に内部的方法に依存する。吸収は最小か、ゼロに等しい。だからこそ、純粋なマジクスが真の魔法を使える真の魔法使いである一方、テラは技術的な魔術しか使えない。文化的な問題ではない。生理学的なものだ。
書類を閉じ、椅子の背に頭を乗せた。研究室の天井は高く、木製の梁と、様々な機器に魔力を送る銅の管が走っている。時間が必要だ。処理する時間、実験する時間、構築する時間。だが時間こそが最も乏しいリソースだ。
研究室の扉が滑る音で目を開けた。暗い髪と緊張した表情の若い研究者が頭を覗かせた。
「春花様、お電話が入っております。すぐに出られた方がよいとのことです」
「……誰ですか」
「一族の長でございます。ナイトシェイドの長ご本人です」
心臓が跳ね上がった。何を考えればよいかわからなかった。長が直接連絡を取ってきたのがいつが最後か、そもそもあったかどうかすら記憶にない。自分の立場が要求する落ち着きを装い、通信室へと向かい、僅かに震えている手で受話器を取った。
「春花・ナイトシェイドです」
「春花さん」
と、返ってきたのは年老いた男の声、重く、緩やかで、何十年も命令を下してきた者だけが持つ抑揚があった。
「ようやくお話しできて嬉しいです。あなたの仕事をずっと見守ってきました。かつてあなたを批判した者たち全員を代表して、謝罪したい。彼らはあなたが見ていたものが見えなかった。あなたのプロジェクトの可能性を理解しなかった。今はアザエル様と現在の状況のおかげで、全ての一族があなたが行っていることの重要性を理解しています。成果を見ることを切望しています」
平静な表情を保つよう努めたが、内側では何かが揺れていた。何年もの拒絶、封印されたプロジェクト、見下すような視線、それなのに今、一族の長が謝罪している。十分ではない、でも何かではある。
「プロジェクトには時間が必要です。結果を損なわずに加速させることはできません。七年の遅れがあります。ファウスティーヌの研究は中断され、理論は構築してきましたが、まだ検証できていません。数ヶ月、あるいは一年が……」
「一年はないのです、春花さん」
声が冷たくなり、切れ味が増した。
「戦争は待ちません。陰陽師たちも待ちません。黒木も待ちません。一族の評議会は、機能する装置を提示する期限を一ヶ月と決定しました。一ヶ月ですよ、春花さん」
肺から空気が抜けるのを感じた。一ヶ月。不可能だ。馬鹿げている。論理への侮辱だ。
「それは……できません……」
「評議会は発言しました。あなたの役割を果たしてください、さもなければ結果が伴います。これ以上明確にする必要はないでしょう」
脅威が毒ガスのように回線を漂った。抗議したかった、議論したかった、懇願したかった、しかし言葉が喉で詰まった。長は交渉していない。命令を下している。
「……三ヶ月です」
震える声で言った。
「一年は求めません。ただ三ヶ月を。どうか……」
「一ヶ月です。そして一人でできないなら、いつでも助けを求める選択肢があります」
「……助け。誰に。誰に助けを求めるというのですか」
回線の向こうの沈黙が長引いた。長が再び話し始めた時、声は柔らかく、ほとんど父性的だった。しかしその柔らかさは信用できなかった。
「ファウスティーヌに。プロジェクトの真の創造者に。誰よりもそれを理解している人物に。監視付き追放から解放し、研究室に戻してもらい、あなたと共に取り組んでもらえる。二人なら、一ヶ月で大きな進展があるでしょう」
世界が止まった。ファウスティーヌ。記憶の最も深い場所に埋めていた名前。かつて姉のように、師匠のように、ただ一人同じ視点を共有していた女性。裁かれ、追放され、記録から消された女性。本当に、彼女を連れ戻せるというのか。
「それは……七賢人の判決を破ることになります」
辛うじて声が出た、自分のものとは思えない声で。
「自らの規則を曲げるつもりですか」
「公の戦争は特例の措置を要求します。時には、本当に重要なものを守るために、いくつかの規則を曲げなければならない」
「……ファウスティーヌは承諾するでしょうか。彼女に対して行われたことの後で……」
「それはあなたが直接聞くべきことです。決断するための時間が三日あります。三日ですよ、春花さん。無駄にしないことを勧めます」
回線が切れた。受話器を手に持ったまま、通信が終了したことを示す単調な音を聴いていた。いつ電話を置いたか、覚えていない。
* * *
続く三日間は、苦行と呼ぶしかない日々だった。研究室に閉じこもり、目が燃えて指が震えるまで働いた。ファウスティーヌの文書を一つ残らず分析し、公式を書き直し、床に白墨で円陣を描いて、一つ一つ効率を確認するため起動させた。しかし目を閉じるたび、ファウスティーヌの顔が見えた。彼女の笑顔。彼女の確信。手放してしまったあの瞬間。
一日目は、断ることを考えた。今はこれは自分のプロジェクトだ。七年間、それを生き続けさせてきた。ファウスティーヌを連れ戻せば、全ての功績が彼女のものになる。また補佐の立場に戻り、副指揮に、指示に従う側に戻るだけだ。
二日目は、受け入れることを考えた。ファウスティーヌだけが、期限に間に合うよう完成させる手助けができる。二人一緒なら、達成できるかもしれない。それに……彼女が恋しかった。自分でも認めたくないような形で、恋しかった。
三日目、本家の屋敷に電話をかけた。
「今夜伺います。ファウスティーヌに会いたい。話したい」
「お待ちしております」
* * *
車が屋敷の前に来た時、夜は街を覆っていた。黒いセダン、以前と同じだが運転手が違う。街の灯りが車内を照らす中、車は進んでいた。窓の外を眺めながら、これは現実なのか、夢を見ていないか、そう考えていた。七年ぶりにファウスティーヌと再会しようとしている……
車内の静寂が重く感じられた。目が前方に滑り、ルームミラー越しに新しい運転手がこちらを見ているのに気づいた、しかし彼はすぐに視線を外した。後部座席から、何かがおかしいと感じた。目を少し逸らしながら考えた。この新しい運転手には何か場違いなものがある。
数分が過ぎた後、再び前を見ると、男の視線がルームミラーに固定されていることに気づいた。敬意の視線でも、仕える者の視線でもなかった。評価の視線だ。体重を、価値を、危険性を測っているかのような。
「どれくらいこの家に仕えているのですか」沈黙を破ろうと試みた。
「十分な時間です」男は答えた、ハスキーでも低くもない、ただ空虚な声で。
「……名前は?」
「必要ありません」
沈黙。車はナイトシェイドの本家屋敷への道として記憶にない方向に曲がった。窓の外を見た。建物が木に変わり、木が両側に影の壁のように伸びる森に変わった。
「ここは屋敷への道ではありません」できるだけ確固とした声で言ったが、震えて出た。
「わかっています」
「なぜ止まったのですか」
「降りてください」
血が凍る感覚がした。運転手がこちらを向いた。もうルームミラーではなく、助手席越しに直接見ている。手には陰陽師の御札、あの漢字が青白い光で輝いている。
「降りてください、春花・ナイトシェイド。車内を汚したくありません」
足が動くことを拒んでいた。しかしそこに留まることはできないとわかっていた。震える手でドアを開け、無人のアスファルトに出た。道路は両方向とも人影がない。森が周囲でざわめき、冷たい風がジャケットの下に露出した肌を逆立てた。
遠くで、一つの人影がこちらに向かって歩いてきた。走らない。急がない。逃げることはできないという絶対的な確信から来る、逃げ場のない歩みで。陰陽師の装いを纏っているが、より丁寧に、より豪奢だ。手首に金の刺繍、植物繊維で作られた高い帽子が目の上に長い影を投じている。十分近づいて顔が見えた時、その男は微笑んだ。
優しい微笑みではなかった。おもちゃを壊す寸前にその苦しみを楽しんでいる者の微笑みだ。
「やや、これはこれは。あなたが名高い春花さんでございますか」
「……誰ですか。陰陽師が私に何の用でしょう」
男は微笑み、私は彼の視線が上から下まで休むことなく滑っているのを感じた。まるで一つ一つの細部を分析しているかのように。
「ご紹介に与りましょう、私は土御門源次でございます」
一つの揖をしながら自己紹介した、それ自体が嘲弄だった。
「春花・ナイトシェイド殿にお目にかかれて光栄でございます。黒木様があなたのことを語られた。脅威である、と。変身魔術装置を完成させる前に排除すべき精神である、と」
返答できなかった。何を言えばよいかわからなかった。
「何も申される必要はありませんぞ、春花さん」
と源次は続けた、もう一歩近づきながら。
「あなたが何者か存じている。何を求めているか。何を恐れているか。黒木様は報告書において大変に緻密でございます」
私の前で立ち止まり、上から下まで視線で辿った。
「しかし認めざるを得ません、報告書はあなたの美しさを正確に伝えていなかった。これほど美しき女性を殺さなければならぬとは、なんと惜しいことか」
嫌悪感で胃が裏返った。褒め言葉ではない。所有だ。破壊する前に物体に貶める方法だ。
「……あなたの遊びに付き合う時間はありません」と言いながら、ジャケットの特別なポケットから杖を探った。
「遊びですと」
源次は前を向き、私の偽りの運転手だった男に承認を求めるかのように笑った。
「聞きましたか?自分を賢いと思っているのに、新しい運転手が実は陰陽師だと気づかなかった。では賢明さは仮面に過ぎないということでございましょうな」
男は頷いて源次の言葉を肯定した。
「もし賢明さが表面的ならば、残るのは美しさだけでございます。そして美しさは遊びではありません、春花さん。それは資質でございます。そのお顔、その御姿、女王のように見えるあの立ち振る舞い……あなたのすべては賛美されるために設計されているかのよう。しかし私は賛美しに来たのではございません。排除しに来たのでございます」
手中の御札が輝いた。攻撃が終わるのを待たなかった。杖はすでに手の中にあり、土の術式が頭で完全に形成される前に噴き出た。石の壁が自分と源次の間に立ち上がり、それが止まるか見届けることなく走り出した。
「――! そう簡単に逃げられるとは思わないことです!」
壁が背後で砕け落ちた。源次は一瞬で壁を粉砕する火の御札を投じていた。もう一つの土の術式を、今度は足元に、追跡を困難にするための不規則な地面を作ろうとして放った。しかし源次は伝統的な衣装に似合わない敏捷性で、亀裂と盛り上がりの上を跳んだ。
「あなたの魔術は脆弱でございますな」
と言いながら近づいてきた。
「報告書で多く読んだ天才にはもっと多くを期待しておりました」
また一枚の御札。氷の光線が脇腹を掠め、ジャケットの一部を引き裂いた。布が地面に落ち、冷たさが皮膚に刺さるように感じた。永遠に走り続けることはできない。力の戦いでは勝てない。唯一の選択肢は騙すこと、驚かせること、知性を彼に対して使うことだ。しかし源次は速かった。術式を準備しようとするたびに、もうそこに迫っていた。
風の御札が左袖を切り裂いた。火の御札がスカートの裾を焦がした。衣服が引き裂かれ、落ち、細切れになっていき、一枚失うごとにより無防備になっていくと感じた。寒さが恐ろしいのではなかった。露出が怖かった。源次がただ殺したいだけでなく、完璧さの仮面を一枚ずつ剥ぎながら辱めたいのだという感覚が。
私にとってこれは、陰陽師相手に戦う二度目の屈辱だった。しかし最初の時と違い、今は下着姿だった。露出した肌に冷たい空気が刺さる。何も身を隠すものがなく、この男の前で完全に辱められていた、正面から勝てる相手でもなかった。
「ご存知ですか」
と源次は言いながら、片手で覆えるだけ隠そうとする私を見ていた。
「近くで見ると一層美しい。その肌、その脚……血で汚すのは惜しいことでございます」
「……黙りなさい!」
と叫び、今度は元素術式を放たなかった。それでは意味がない。代わりに、すべての魔力を杖の先端に集中させ、かつてほとんど知らなかった、一度も使ったことがなく、制御できるかどうかわからない呪文の言葉を囁いた。
「『穿て、冥縁、 奈落同道、 共滅』」
小さな声で、割れた声で言った。
杖の先から小さな黒い光線が噴き出し、足元の地面が開いた。亀裂ではない。底の見えない穴だ。調子外れたオルガンのような重い音を発し、そして……動いていた。動いている。
源次は微笑むのをやめた。穴が蛇のように影の中を彼の方へ滑り、彼は後退しながら御札を投げつけてそれを止めようとした。しかし穴はそれらを吸収した。その全てを、想像できるいかなるものよりもはるかに大きな口を持つ生き物のように飲み込んだ。
「! やめなさい! 何をしたのですか!」
と源次は叫び、影が届かないよう走り回った。
答えなかった。時間がなかった。車を見張っていた陰陽師がこちらの注意散漫を利用し、御札を投じた。数センチの差でかわしたが、このままでは続かないとわかっていた。再びあの暗黒の魔術を、内側から脈を焼くように感じる淵の魔術を呼んだ。
「『開け、深淵の扉』」
陰陽師の背後の地面が裂け、扉が大地から姿を現し始めた。巨大な、見知らぬ符号が刻まれた暗黒の金属でできた扉。傷ついた生き物のような呻き声とともに開いた。陰陽師は逃げようとしたが、すでに遅かった。扉が巨大な掃除機のように彼を吸い込み、金属的な音とともに閉じた。地面がその上で閉じ、陰陽師は消えた。
行く先の扉に対処していた源次は、その光景を見て表情が変わった。侮蔑が恐怖に変わった。
「その魔術は何でございます!? それは魔術ではありません! それは……!」
何と呼ぶべきか、彼自身にもわからなかった。
「『爆ぜろ、深淵の煙』」
と、終わらせる前に言った。
黒い煙の音のない爆発が、私と源次を隔てた。視界はゼロになる。彼がそれを抜け出せるかどうかを見届けることなく、私は走った。街の灯りに向かって。遠くで、生き延びる約束のように輝いているあちらへ。
足はかろうじてアスファルトを捉えている。肺が燃えるように熱い。衣服がほとんど残っていないせいで、裸に近い肌に冷たい風が突き刺さるのを感じていた。
こんな姿を誰かに見られたら、私だとは気づかれないだろう。あの偽りの完璧さを纏っていた研究者の面影は、今の私にはどこにもない。
全力で走り続け、源次から遠ざかる、それだけが今できることだった。しかし……
「捕まえましたぞ!」
源次の声が背後で響いた、近すぎる。一瞬頭を振り返ると、自分に引けを取らない速さで走る彼が見えた。手の御札が薄暗い光で輝いている。
「ケケケ!」
その笑い声が最後に聞こえた音だった、地面が自分に向かって倒れてくる前の。うつ伏せに倒れ、大地が顔を引っ掻き、額から熱い血が流れ出て鼻へと伝わり、金属の味が口いっぱいに広がるのを感じた。ゆっくりと、震える腕で体を向けると、御札を手に持ち、罠にかかったネズミを追い詰めた猫のように微笑む源次が目の前に立っていた。
「このようにしなければならぬことをお詫び申し上げます」
と言いながら手を上げた。
「本当に。何と惜しいことか」
ここで死ぬ、と感じた。カスよりも最低な男の手によって。無力だと感じた。目から涙が溢れ始め、懇願するという束の間の考えが頭を横切った。
今の私を救える方程式はない。隠れた変数もない。常に鎧であった技術的な言葉にしがみつこうとしたが、論理はもう呼びかけに応じなかった。代わりに、混乱した純粋に人間的な思考の津波が、抑制のダムを崩して押し寄せてきた。
死にたくない。ファウスティーヌ……装置……未完成。
開発サイクルが……四十二パーセントで止まる。誰も完成方法を知らない。
全ては無駄になる。ファウスティーヌは追放のまま、そして私は……消去される。
源次が私の耳に届かない言葉を唱え始めた時、脊椎に絶対的なパニックが走った。
……父……アザエル……
病院で彼が約束してくれた逃げ場を求めて、私の心が叫んだ。しかし、アザエルはここにいなかった。誰もいなかった。暗い場所でひとりきり、邪魔な動物のように処分されようとしている。
死への本物の、原始的な恐怖が、私の全ての尊厳を剥ぎ取った。叫びたかった。前に這いつくばりながら源次の靴をつかんで、懇願したかった。《お願いです、殺さないでください。望むことなら何でもします。設計図を渡します。ナイトシェイドの秘密を渡します。あなたの召使いになります、だから生かしてください……お願いです、生かしてください》という言葉が喉に詰まっていたが、パニックで声帯が麻痺していた。
言葉にならない、情けない呻き声しか出ない。それは、エンディミオン・アカデミーの冷静な研究者であった私の姿とは、似ても似つかないものだった。
源次の御札が目を眩ませる光で輝き始めた。終わりは間近だった。その絶対的な絶望の一瞬、打撃が下りてきてすべてが暗黒になると悟った時、私の身体は最後のコントロールの砦を裏切った。
突然の制御不能な熱が両脚の間に広がる。心理的ショックの重さに、筋肉が完全に弛緩していく。すでにボロボロの下着の布地が素早く濡れ、冷たい石の上に水たまりを広げていった。
――失禁してしまった。
基本的な身体機能でさえ応答しないほどに、恐怖が私を打ち砕いていた。
攻撃を放つ寸前だった源次が、ぴたりと止まった。冷静で神秘的な優越感に満ちた目が、わずかに見開かれる。液体が床を叩く音と微かな匂いが、彼が作り上げた儀式的な空気を完全に打ち破っていた。
源次はゆっくりと御札を下げ、私を上から見下ろした。深い軽蔑、嫌悪、そして奇妙な他者への羞恥心が混じり合った表情が、その洗練された顔を横切る。処刑の優雅さが、場面の下品さによって汚されていた。
「……なんと嘆かわしいことか」
源次の声が響く。それは氷のような皮肉を帯びていた。
「ナイトシェイドの者が、少なくとも貴族的な誇りの一かけらを持っていると思っておりましたが。しかし、この一族の最も輝かしき精神の一人が……これほどまでに成り下がるとは。完全な不浄でございます。この地を汚す俗悪さです」
源次は短く乾いた笑い声を漏らし、まるで見ることが不快であるかのように一瞬目を逸らした。
「これが、浄化の前に一族の魔術が提示できるすべてでございますか。なんと醜悪な光景。命の危機を前にして、己の不浄の制御すら叶わぬ者に私の力を使わなければならぬとは、ある意味で恥ずかしいことでございます」
答えられなかった。弁護する論理もなく、守るべき誇りもない。激しく震えながら、地面に目を固定し、涙が汚れと混じり合い、沈黙した嗚咽に体が揺れていた。恐怖に完全に飲み込まれていた私は、源次の侮辱さえ脳に届かなかった。すべてが暗黒になるその瞬間を、精神的な完全な苦悶の中で待ちながら、ただ御札の輝きだけを見つめていた。
その時、氷の一撃が空気を裂き、外科的精度で源次の手を撃ち抜いた。御札が地面に落ち、源次は手首を押さえながら、信じられないという表情で後退する。
「誰でございます!?」
もう一撃。さらに一撃。源次がそれらをかわしながら跳び退く中、私は顔を上げた。
一人の人影が、満月に照らされながら空から降りてきていた。暗褐色の髪が風に舞い、その瞳には冷たさではなく、現実の向コー側の何かを見ているような、遠い質が宿っている。袖に銀の刺繍が施された濃紺のローブを纏い、手には今まさに氷から煙を上げている杖を持っていた。
エレノア・ウィンターフォールだった。
信じられなかった。なぜ彼女がそこにいるのか、どうやって来たのか、これが現実かどうかさえわからない。限界を超えた圧力に、相矛盾する感情の洪水に、私の精神は崩れ始めていた。エレノアと源次が対峙するのを見た。御札が氷の術式に衝突するのを。陰陽師が悪態をつきながら後退し、最終的に森の闇の中へ消えていくのを。
そして、暗黒が訪れた。
意識を失う直前、こちらに身を屈めているエレノアの顔が見えた。私はもう一度目覚めるだろうか。これは夢だったのだろうか。再び安全だと感じる時が来るのだろうか……そんな問いを心の中で繰り返しながら。
――傷ついた心は、すぐには癒えない。
優しさは、ときに言葉ではなく、
そっと寄り添う沈黙の中に宿る。
誰かを救う理由は、
正義でも義務でもない。
ただ、「放っておけなかった」。
次回――
新たな視点。
静かだった少女の物語が、
今、幕を開ける。




