観測者の優位、冷徹なる分析
同じ出来事でも、
見る者が変われば、その意味は大きく変わる。
感情ではなく、知識を求める者。
目の前の悲劇さえ、一つの情報として積み重ねる者。
散らばった手掛かりは、
やがて新たな仮説となり、
誰も気づいていない真実へと繋がっていく。
静かなる観測者の視点から、
物語は新たな局面を迎える。
魔術は変数であり、人類は定数だ。変換による方程式の解決――それが私の唯一の最適解であり、ナイトシェイドの一族が導き出した答えでもある。
瓦礫の粉塵と焦げた魔力、それから血の匂いがする。
鼻腔を刺すその混合物を静かに受け止めながら、ワイルドソウルのハンターたちが即席の担架にマーカス・ワイルドソウルの意識のない身体を乗せていくのを眺めていた。
あの男の顔からは、いつもの温かみが完全に失われていた。かつて白かった制服は背中に赤く染まり、濡れた布切れのように肩から垂れ下がっている。
その傍らでは、別のハンターたちが緊迫した状況とは対照的な繊細さで、若いダミラ・アッシュフォードの身体を二台目の担架に横たえていた。エンディミオンのアカデミーの廊下で誰もが噂にしていたあの内部捜査官が、腕をだらりと落とし、むき出しの木板の上に髪を広げて、まるで眠っているかのように目を閉じている。けれど、胸元に広がる暗い染みと唇の蒼白さが、診断の魔術など必要としない真実を無言のうちに語っていた。
私、崩落した玄関ホールの境界から、腹の高さで手を組み、背筋を会議室にでも立っているかのように真っすぐ伸ばしたまま、その光景を観察した。表情は何も語らない。周囲のハンターたちにとっては、濃紺の服を纏った権威ある人物の一人に過ぎないだろう――遅すぎた増援の、また一人に。
けれど内側で、何かが動いていた。
感情ではない。確認だ。
ハンターのマーカスは仲間を失った――ダミラの担架が装甲車両へと運ばれていくのを目で追いながら、そう思った。その喪失は彼を壊すか、あるいは作り直すか。どちらが現実になるかは、時間が答えを出すだろう。
憐憫など、そこにはない。あるのは分析だ。変数の冷静な評価。マーカス・ワイルドソウルはワイルドソウル一族にとって貴重な戦力であり、彼の世代で最も優秀なハンターの一人だ。戦闘力が落ちれば捜査に支障が出る。逆に、より危険になるのであれば、それはむしろ利点になりうる。全ては、彼がどのように喪失を処理するかにかかっている。
「――春花様」
と、ハンターの一人が会釈しながら近づいてきた。
「周辺は制圧済みです。逃走した者の痕跡は発見できませんでした」
「捜索を継続してください」
と答えた。反論を許さない声で。
「黒木・ワイルドソウルはそう遠くには行っていないはずです。彼の逃走パターンから見て、追手がいないと確信するまで圏外には出ません。半径二キロメートル以内の廃墟を確認してください」
「――了解しました」
ハンターが離れていき、しばしの沈黙に身を委ねた。
数時間前まで秘密と不可解な機械装置の牙城だった蓮次郎の屋敷は、今や煙る瓦礫の山に成り果てていた。煙が夜明けの灰色の空へ立ち昇り、焼けた金属と血の匂いが夜明け前の湿気と混ざり合う。
遅れて来た、と思った。だが偶然ではない。マーカスが先に到着する必要があったから。彼がどう反応するかを見届ける必要があったから。距離を置いて観察しながら、彼に真実の衝撃を吸収させる必要があったから。
残酷さではない。方法論だ。
踵を返し、目印のない黒いセダンに向かって歩いた――二人の守護クラスの魔術師を傍らに従えたまま。ドアを開けられ、古いグリモワールの頁をめくるような自然さで後部座席に滑り込む。車が発進し、屋敷から遠ざかっていく間、額を窓ガラスに当てた。
ガラスの向こうで、反射した自分の顔が視線を返してくる。
同じ灰色の目。同じ低いまとめ髪。同じ銀色の髪。
何も変わっていない。変わることはないだろう。
けれど意識はすでに、別の場所にあった。
♢ ♢ ♢
アッシュフォードとグリムストーンの一族間の極秘計画について初めて耳にしたのは、エンディミオンの図書室での秋の午後のことだ。
周囲には尊敬と恐れを同時に含んだ視線を向けてくる学生たちがいた。新しい触媒のプランを確認していると、テーブルの上に影が落ちた。
ヴィクター・グリムストーン。
いつも疲労の色が刻まれているあの顔が、いつにも増して憔悴していた。目の下の隈が頬まで落ちており、外科医のような精度で杖を握るはずの指が、微かに震えている。
「春花さん」
と、前置きもなく言った。
「プロジェクトに参加してほしい。極秘だ。アッシュフォードとグリムストーン。蓮次郎さんが指揮を執っている」
プランの手帳をきっぱりとした動作で閉じた。
「極秘プロジェクトに興味はありません、ヴィクターさん。私の一族の長の承認がなければ、参加しません」
「官僚的な承認を待っていられないほど重要な話なんだ。これは全てを変えうる。魔力の使い方、生き方そのものを……」
「であれば、一族評議会に提案してください。それほど革命的なものであれば、承認されるでしょう」
ヴィクターはその時、私が解読できない表情で見つめてきた。後になって、あの出来事の全貌を理解した時に初めて分かった――あの目は苛立ちではなかった。恐怖だった。
「春花さん、頼む。君だけが……」
「――答えはノーです」
彼は去った。そして一ヶ月の間、戻り続けた。毎週、数日ごとに、図書室に、廊下に、研究者の食堂にまで現れ、懇願し、請い続けた。
一歩も引かなかった。折れる気はなかった。
そしてある日、彼はただ来なくなった。
♢ ♢ ♢
それが気になった、と思う――車が人気のない街路を滑っていく中で。
彼の執拗さではない。彼の沈黙だ。
ヴィクター・グリムストーンが何かへの執着を止めるとしたら、それは希望を失ったか、もはや気にならなくなったかのどちらかだ。そして、そのいずれもが良い兆候ではない。
窓の外で街が流れていく。人々が行き交う。そして意識は、過去へと引き戻された。
♢ ♢ ♢
独自に調査しようとした。
情報提供者に当たった。報告書を調べた。何も出なかった。プロジェクトはまるで最初から存在しなかったかのように、影も形もなくなっていた。
そして、しばらく後、ある若者が図書室に現れた。アッシュフォード一族の学生だった。名前は覚えていない。カイト先生の生徒の一人だった。
尊敬と恐れの混じった目で近づいてくる学生たちとは違った。ナイトシェイドの天才ならば自分の問題を解決してくれると期待して、くだらない理論を持ち込んでくる者たちとも違った。あの日、その少年が告げたことは、くだらなくはなかった。
……不穏だった。
石だ、とその若者は目を輝かせて語った。東方で発見された石。魔力ではない、何か別のエネルギーを持つ石。アッシュフォードが隠している石を。
必要以上に長く、その学生を見つめていた。驚きではない。処理だ。
未知のエネルギーを持つ石。アッシュフォードとグリムストーンの極秘計画。私への協力を懇願したヴィクター。ピースは完全には噛み合わない――けれど、パズルの輪郭が見え始めていた。
縦二十センチ、横八センチの石。特定の人間と共鳴する能力を持つとされるもの。
その時初めて、長い間感じていなかった種類の好奇心の刺さりを覚えた。学術的な好奇心ではない――報告書を埋め、助成金を正当化する類のものではない。もっと内臓的で、もっと原始的なもの。七歳の時、初めて魔法装置を分解して、誰も試したことのない構成で組み直した、あの感覚と同じものだ。
その好奇心が調査へと駆り立てた。
まず、ザイル・アッシュフォードだ。あの石を発見した張本人。全大陸の探検で陽に刻まれた顔を持つ、八十歳近い老人。表向きの経歴は完璧だった――アッシュフォード一族の探検家――遺物回収者として数十年の奉仕。だが、彼の発見物が他の一族と共有されることが決してなかった点、特定の報告書が公文書館から消えていた点が、どうにも腑に落ちなかった。
特筆すべき発見物の中には、目的が専門家でさえ謎のままの奇妙な天秤型器具があった。そして最近では、あの石だ。噂によれば、ザイルはその石を秘密の場所に保管し、少人数の協力者と共に研究しているという。何を望んでいるのか、何を見つけようとしているのか、誰も知らない。
答えが必要だった。だからヴィクター・グリムストーンを探した。
容易ではなかった。ヴィクターは幽霊になっていた。会議を断り、メッセージを無視し、誰かが彼を見つけたとしても、その姿は何週間も眠れていない男のそれだった。ナイトシェイドの開発者としての影響力と、積み重ねてきた相当量の貸しを使って、ようやく面会を取り付けた。
出会ったヴィクターは、記憶の中の人物とは似ても似つかなかった。
かつて丁寧に整えられていた髪が、脂っぽい束になって額に垂れ下がっている。かつて刃のように鋭かった目が、今や彼にしか見えない何かを探しながら虚空をさまよっている。言葉は断片的で、手が震え続けていた。
「石には触れたことがない」と、ヴィクターは震えた声で言った。
「見たこともない。けど……知ってはいる。ザイルさんが……ザイルさんが手紙をくれた。助けを求めてきた。石の中に何かがあると言った。魔力じゃないと。もし開くことができたら、中のものを解放できたら……俺たちが積み上げてきた全てを超えるものになると。触媒より、魔法付与の遺物より。マジクス・テラであることの意味を変えるものになると」
黙って聞いていた。一語一語を処理しながら。ザイルの野心は途方もなく幻想的だと思った――現時点で、そのようなものを実現することは私にとっても、ヴィクターにとっても、全ての魔術師にとっても不可能だ。
「だが……こうも言っていた」
とヴィクターは続けた。
「確信が持てないとも。石の中に何かがある。気に入らない何かが。何かが……恐ろしい、と」
ヴィクターは視線を上げ、会話が始まって初めて、真っすぐに目を見た。
「もし誰かがあの石を開いたら、後悔することになる。中に何があるか分からない。鉱物なのか、生命体なのか、この惑星に存在すべきでない何かの残骸なのか。どんなにしても、だが、開くべきではない」
その情報を頭の片隅に収め、「要検証」のラベルを貼った。
パズルを組み立てていた。しかしそれはもはやパズルではなくなっていた。その真の姿を現し始めていた――視界の届かない場所へと広がり続ける、無限のモザイク。
カイト先生があのアッシュフォードの学生を連れてきた後のある日、廊下でカイト先生と再び会った。
エンディミオンの廊下だった。カイト先生が偶然を装ったそのすれ違いが、偶然ではないと即座に分かった。いつも外さないサングラスをかけ、誰よりも一歩先にいるような微笑みを浮かべたカイト先生は、共謀者の一人を捕らえたと明かした。
「どうやったか聞かないで」
とカイト先生は、告白をゲームに変えるような口調で言った。
「まあ……協力するだけの、ね。理由があったとだけ言っておくよ」
聞かなかった。礼儀からではない――カイト先生が語らないことの答えは、語ることよりも危険であることが多いと知っているからだ。
しかし情報は価値があった。二十名の魔術師が関与しており、アッシュフォードとグリムストーンの一族に分散している。勧誘の手法は分散型だ――ここで一言、あそこで一つの示唆、気づけばある魔術師が、盟約を結ぶことも忠誠を誓うことも経ずして、より大きな何かの一部になっている。
目に見えるリーダーはいない。切り落とすべき頭もない。命令は池の波紋のように広がっていく――誰も指し示せない中心から。
魔力の略奪も、エネルギーを吸い取られた学生たちも、魔術師の失踪も、全てが繋がっているという疑念も確認された。
「なぜ私にこの話を?」と聞いた。
カイト先生は肩をすくめた。「その方が面白いから、かな」
その瞬間、何年もなかった感覚が生まれた。
恐怖だ。
カイト先生は陰謀と戦っているのではない。調査して止めようとしているのでもない。観察しているのだ。最も高価な桟敷席から舞台を眺めるように、結末を既に知っている者の遠い興味を持って。
「あなたは怪物です、カイト先生」と言った。
彼は微笑んだ。「うん、そうだね。でもそれは、嘘をついているということにはならないよ」
♢ ♢ ♢
車が止まった。
まばたきをして、現在に戻った。
ナイトシェイドの屋敷の入口がそびえている。石造りの灯籠が砂利の小道に薄い光を投げかけ、その奥に庭が広がっている。守護魔術師たちがドアを開け、案内を待たずに中へ歩いた。
影のように現れた使用人たちが、長いジャケットを脱がせて玄関の衣装棚に収める。一言も向けなかった。
階段を上り、部屋に入り、ドアを閉めた。しばし部屋の中央に立ち、書き物机の小さな鏡に映るぼんやりとした自分の顔を眺めた。
低いまとめ髪の銀色の髪がランプの光に輝いている。旅の疲れを一切見せない白く完璧な肌。前を見つめる灰色の目は、いつもと同じ表情を持っていた――何かを計算しており、その公式を知っているのは自分だけだと言わんばかりの目。
浴室へ向かった。
湯船のお湯は完璧な温度だった。実験を準備するのと同じ丁寧さで準備したものだ。熱いが熱すぎない湯。上質なミネラル塩。縁に畳まれたパイル地の白いタオル。必要はないが、習慣で頼んでいたアロマキャンドル。
浴室の鏡の前で服を脱いだ。指が不良品の試作品を解体するのと同じ効率でドレスの端をなぞる。布が音もなく床に落ちた。ドレスが、下着が、全て小さな山をなしてドアの脇に積み重なる。
鏡を見た。
整った均整のとれた肢体。染み一つない白い肌。露骨ではないが定義された筋肉。
完璧を模倣することは、それを持つこととは違う、と思った。けれど、他の者たちがそう信じている限り、優位性は私のものだ。
湯の中に滑り込んだ。押し殺したため息をつく。熱さが全身を包み込み、一瞬だけ、首の後ろの筋肉が緩んだ。目を閉じる。
頭は常に働いている。それが私の恵みでもあり、呪いでもある。休息を演じることはできる、眠りを演じることもできる――けれど内なる歯車は一度たりとも止まらない。
♢ ♢ ♢
エンディミオンであの夜のことを思い出す。
数夜連続して、アカデミーの外れの空が奇妙な青い光に染まっていた。最初は時間を持て余した学生の仕業かと思った。けれど現象の規則性が好奇心を刺激し、ある夜、魔術で強化された拡大望遠鏡を持って時計塔に陣取った。
目にしたものが理解できなかった。
人物だった。少なくとも人型の形をしていた。この時代にもこの国にも属さない服を着ている――広い上衣、ゆったりとした下衣、植物繊維の円錐形の帽子。手には同じ青い光に輝く紙を持ち、踊りか儀式のような動作を行っている。パターンが分からなかった。魔術ではない。魔力でもない。私の書物が、数十年の研究が、分類を許してくれない何かだ。
翌夕、あの少年――アッシュフォードの学生――と赤い髪の若い女性が中庭から観察しているのを見かけた。同じ現象を調べているのだろう、おそらく自分たちでも気づかずに。そして翌夜、青い光が再び現れた時、彼らではなくハンターが現場に向かった。
すぐに分かった――マーカス・ワイルドソウルだ。
隠れ場所から、その対峙を観察した。あの人物が陰陽師だと知れた。
――陰陽師!?
予想していなかった衝撃に、身体が止まった。
長く、本当に長く感じたことのなかった種類のものだった。研究の範囲を遥かに超えた何かが、目の前に実在していた。陰陽師は何世紀も前に消えたとされていた――あるいは、人類の歴史の中で名前だけが語られた、実際には存在しなかった何かとされていた。なのに今、目の前にいる。人間たちが独自に成し遂げた、魔術師とは異なる力の体系。「魔法使い」の人間版とでも言うべきもの。
陰陽師は判別できない種類のエネルギーで御札を飛ばしていた。マーカスは光弾で応じていた。効率的だが、あれほど異質な力に対しては効果が薄い。
そしてもう一人現れた。
長身で細身で、杖を手に持ち、目に宿った冷酷さは――報告書が「黒木」と呼ぶ男のものだった。
会話の断片が聞こえた。魔術師を排除すること。陰陽師との同盟。
その時はまだ知らなかったが、頭の中でピースが時計の歯車のように噛み合い始めていた。アッシュフォードとグリムストーンの陰謀は進化を求めていた。黒木と陰陽師たちは抹殺を求めていた。二つの対立する勢力、二つの相反する目的、そしてその狭間で、マーカス、ダミラ、あのアッシュフォードの少年のような者たちが、地図も戦略もなく、緊迫感と義務感だけを羅針盤として動いていた。
その時、ワイルドソウル一族に赴くことを決めた。
第九師団の上司は執務室で迎えてくれた。何度もの戦いを経てきた者特有の、今更何も驚かないという空気を纏って。分析結果を技術報告書の精度で提示した――青い光、陰陽師、黒木、魔術師と人間の間で衝突が開かれる可能性。
上司は遮らずに聞いた。それから意図的な緩慢さで机の引き出しを開け、ファイルを取り出した。
「我々も同じ情報を数週間追っています。エンディミオンの我々のエージェントが異常な動きを察知しています。ただ、全担当者に共有していない情報が一つあります」
「何ですか」
上司はファイルを開け、数枚の写真をテーブルに滑らせた。三人の若い女性の肖像だった。一人は黒い髪に鋭い目、一人は明るい髪に穏やかな表情、一人は桃色の髪に目元まで届かない微笑み。
レイナ・アッシュフォード。
アイリ・ウィンターフォール。
リディア・ナイトシェイド。
「この三人の魔術師が」
と上司は言った。
「何かを準備しています。具体的な内容は不明です。ただ我々の情報源によれば、資源を集め、同盟を形成しており、全ての情報は彼女たちの目標が戦争の準備に向いていることを示しています。陰陽師との戦争です」
脈が速くなるのを感じた。恐怖からではない。予感だ。
「なぜ担当エージェントに伝えないのですか」
と、好奇心を冷静さで包みながら聞いた。
「上からの命令です。名前は言えませんが、ある人物が……この情報を秘密にしておくことが戦略的に好ましいと判断しています」
追求しなかった。行き止まりは見分けられる。
♢ ♢ ♢
お湯が冷め始めた。
湯船から流れるように出て、バスローブに包まり、ベッドへ向かった。天井を向いて身を横たえ。
進めば進むほど、理解が遠のく。魔術師たちは自分たちで自分たちを踏みにじり、情報を隠し合い、単純であるべきことを複雑にする――自分たち自身が最大の障害だ。蓮次郎の陰謀、黒木の陰陽師、戦争の準備をする三人の魔術師……全てが絡み合い、私でさえ完全には解けない混乱を作り上げている。
それでも、何かが前へと駆り立てる。
石だ。
ザイルの石は、どのパズルの盤にも収まらない唯一のピースだった。進化の陰謀にも属さない。陰陽師にも属さない。より古く、より深く、より……意味のある何かの断片だ。
あのエネルギーの本質を解き明かすことができれば、と思った。その性質を理解できれば……使えるかもしれない。いかなる魔術師も、いかなる工匠も、何世紀もの間達成できなかったものを作り上げられるかもしれない。
ナイトシェイド一族が歴史に残した唯一の偉大な遺産は、使用者に変身能力を与えるチョーカーだった。当時は革命的な技術的進歩だったが、実用的な応用方法がないまま廃れた。戦うべき戦争もなく、使うべき真の敵もなかった。歴史的な珍品として、記録の中の逸話として残るだけになった。
もっと望んでいた。本当に重要な「変身」を生み出したかった。先祖のチョーカーとは違い、明確な目的と疑いようのない有用性を持つものを。
あの石が鍵だ、と思い、感情が筋肉を緊張させるのを感じた。
身を起こしてデスクの鏡の前に立った。
反射した自分の顔が返してくる目は、冷静な科学者のものでも、全員が知っている研究に憑かれた研究者のものでもなかった。可能な未来を見て、それを不確実性の霧から自らの手で掴み取ることを決意した者の目だ。
「完璧を模倣することは、それを持つことに最も近い」
と、指がフレームの縁をなぞりながら囁いた。
「でも私は模倣したくない。創り出したい」
明日はカイト先生と話す。次の動きに彼の力が必要だ。陰謀のためでも、黒木のためでも、陰陽師のためでもない。石のためだ。
それから、マーカスを探す。回復したら。
地の利、人脈、私が幼稚と考える正義への頑固な信念――そういったものを持つ彼は、役に立てるかもしれない。同盟者としてではない。
道具として。
全員より二十歩先にいる、と思いながら、ベッドに伸び、目を閉じた。陰謀については知っている。陰陽師については知っている。黒木については知っている。三人の魔術師については知っている。彼らは断片しか見えていない――私には地図が見えている。
眠りは遅れずにやってきた。深い疲労の眠りではなく、身体を休めながら意識が策を巡らせ続ける、宙吊りの半覚醒だった。
マーカスは数週間は戦列を離れる。ダミラは死んだ。若者たちは不器用な見習いに過ぎない。蓮次郎は死んだ。ヴィクターは恐怖に囚われている。そして黒木は……黒木は自分が勝ったと思っている。
けれど私はまだここにいる。
私がここにいる限り、何も終わっていない。
呼吸が遅く、規則的に、計算されたものになっていった。眠りが静かな波のように訪れ、崩れた屋敷の光景を、ダミラの身体を、黒木の空虚な視線を、共に遠ざけていった。
夢の中では、研究室にいた。どこにでもある研究室ではない。私の研究室だ。全てが終わった後に建てる、あの研究室。そして陳列棚の中、割れないガラスに守られて、あの謎の石が静かに安置されていた。
あなたの秘密は私のものになる、と夢の中で思った。そしてそれが叶った時、世界を変えてみせる。
――知識だけでは、世界は変えられない。
真実を知る者。
行動を選ぶ者。
そして、その力を秘めた一人の魔術師。
動き出した計画は、
静かに、しかし確実に世界を揺るがしていく。
次回――
共犯者。
交わされた約束は、新たな戦いの幕開けとなる。




