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魔法が複雑すぎる世界で、俺だけAIを使える件 〜圏外なのにAIが動くので、呪文をプログラム化して無双します〜  作者: 月の位相
特任講師編

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第58話 足りぬなら、門で貸し替えるしかない

 講堂の机の上に、今日は小さな札が山になっていた。


 百枚ほどだろうか。一枚一枚に番号が書いてある。一から始まり、並んでいる。学生たちが席に着きながら、その山を怪訝そうに見ていた。


 リゼも前列に座って首をひねっている。


「また何か始まるの」


「そのうち分かります」


 ルドーが教卓の端に手をかけて言う。


「問いを立てる」


———


「外界とやり取りするには通し印が要る。一つの通し印が一点の場所に対応し、そこへ届くための目印になる」


 学生たちがうなずく。知っているという顔だ。


「では問う。術具が増え、商会が増え、宿屋が増え、案内札が増えた。通し印の空きが尽きた。どうする」


———


 少し間があった。


「もっと作ればいいのでは」


「総数が決まっています。古い通し印の札式は、始めから使える枚数が決まっている。作り出せるものではない」


「では使っていない印を回収する」


「回収しています。それでも足りなくなった。空き印は今や値が付いて売り買いされています」


 別の声。


「外と繋がる者を減らす」


「繋がりたい者は増えています。減らせません」


 三人目。


「高い金を払って空き印を買う」


「買えた者は繋がれます。だが買えない者は繋がれない。しかも、そうして買った印も、使えば使うほど他で使えなくなる。総数は変わりません」


 ルドーが腕を組んで言う。


「問いが変わる。増やせない、回収では足りない。それでも多くの者が外と繋がらなければならない。どうする」


「ユウ」


「はい」


「はいは一回だ」


 講堂が少し笑う。


———


 机の上の札の山を手で示した。


「これが通し印の全部です。一から百まで。これで百箇所が外界と繋がれます」


 学生たちが見ている。


「ここにあるのが、外へ出る者の数です」


 別の袋から、さらに多くの小さな紙切れを出した。三百枚ほどある。一枚一枚に別の番号が書いてある。


「こちらが、外と繋がりたい術具や家や商会の数です。三百を超えています」


「百の印で三百を賄うのですか」


「そのための仕組みを作ります」


———


 板書した。


内印と外印


一、外と直接やり取りするための印を外印と呼ぶ

二、内側だけで使う印を内印と呼ぶ

三、内印は外界に見えない。内側の仕切りの中だけで通じる

四、外へ出るときだけ、継ぎ門で外印を借りる


「外印の数は少なくていいのですか」


「同時に外へ出ているやり取りの数だけあれば足ります。全員が同時に外へ出るわけではないからです」


「宿屋が眠っている間は印が空く」


「そういうことです。商会が外と話していない間も、その外印は他が借りられる」


———


 継ぎ盤の模型を取り出した。小さな木の台で、片側に内印の差し口が並び、反対側に外印の差し口がある。


「継ぎ門がここです」


 内印の差し口へ紙切れを一枚差した。番号は「内127」と書いてある。


「内印が一つ来ました。外へ出たい」


 外印の差し口へ別の紙を差した。「外43」と書いてある。


「継ぎ門が外印を貸します。この差し替えを覚えておきます。内127が外43を使っている、と」


 次の紙切れ。「内214」。外印の差し口に「外43」をそのまま使い回した。


「内127のやり取りが終わりました。では次に内214が外へ出ます。同じ外印43を貸します」


「外から見ると」


「どちらも外印43です。外からは同じ顔に見えます」


———


「どうやって区別するのですか。外から見て」


「枝番を使います」


 板書した。


枝番による区別


一、外印だけでは同じ顔になる

二、そこで枝番を付ける

三、外印43・枝番1001は内127の通信

四、外印43・枝番1002は内214の通信

五、外印と枝番のペアで、それぞれを区別する


「外印と枝番の組み合わせが、それぞれのやり取りを識別するわけですね」


「そうです。継ぎ門がその対応を覚えています。外から届いた応答に枝番が付いていれば、継ぎ門がそれを正しい内印へ届けます」


———


 リゼが手を上げた。


「家の中ではそれぞれ名札があるけど、外へ出るときだけ玄関で同じ外套を着せられるのね」


「そういうことです」


「外から見たら全員同じ外套だから、誰が誰か分からない」


「外からは分かりません。中から出た者か、中のどの者かは、継ぎ門しか知りません」


「それでも、少ない外套で多人数が外に出られる」


「延命はできます」


 はっきり言った。


———


 最後に板書した。


印の貸し替えの代償


一、外からは内側の個々が見えにくい

二、外から直接一人を呼びかけにくい

三、誰がどのやり取りをしたか追いにくい

四、障害が起きたとき切り分けが難しい

五、継ぎ門の記録が雑だと、後から何も追えなくなる


「代償がありますね」


「あります。ただし今は代償を取ってでも、外印が足りないという問題を当面しのぐ必要があります」


 ルドーが静かに言う。


「足りぬものは貸し替える。だが貸し替えは窮屈だ」


———


「これで根本は解決しますか」


 学生の問いに、少し間を置いた。


「しません」


「では」


「もっと広い枚数を持てる新式の通し印の札式が、別に作られています。数の桁が違う。当面の不足を根から解くには、そちらへ移るしかない」


「なぜ移らないのですか」


「古い術具が対応していません。古い継ぎ門も。切り替えには手間と費用がかかります。そして、今の貸し替えでとりあえず回っているので、急いで移ろうとする者が少ない」


「延命が効いているせいで、解決が後回しになる」


「そういうことです」


———


 講堂の後、観光局の担当者が廊下で待っていた。


 顔に疲れがある。先日の痕跡帳の件で顔見知りになった職員だった。


「実は今、宿屋の予約術具が外からうまく届かないという話が出ていまして」


「貸し替えの問題ですか」


「恐らくそうではないかと。あとは……商会の記録で、誰のやり取りか追えなくなった件も出ていて」


「他には」


「不正を調べようとしたら、共有の外印から出ていたので、誰が何をしたか見えなくなっていました」


 私はルドーを見た。ルドーは担当者を見ていた。


「明日行く」


———


 夜、リゼの家に戻った。台所から煮物の匂いがした。


「今日の話、なんか現実的だったね」


 椅子に座りながら答えた。


「そうだね。通し印が足りなくなる話だから」


「貸し替えで延命するしかない、っていう」


「今は貸し替えが広く使われてる。少ない外印で多くの者が外と繋がっている」


 リゼが皿を置きながら言う。


「でも個別性が削れる。外から誰か分からなくなる」


「そう。その代償が実際に噴いてる。宿屋の予約が届かない、記録が追えない」


「明日それを直しに行くのね」


「直せるものと、直せないものがある」


「どういうこと」


「今の問題は、延命策に乗りすぎた結果だ。延命策の運用を整えることはできる。ただ根本は、もっと広い通し印の仕組みに移らなければ解けない」


「でも移行は重い」


「重い」


———


 煮物は少し薄味だったが、温かかった。


 通し印は有限だ。最初から枚数が決まっている。昔の規模には足りていたが、今の術具と接続点の数には足りない。だから印を回収し、値が付いて売り買いされ、それでも足りないので継ぎ門で貸し替える。


 貸し替えは延命になる。少ない外印で多くの者が外と繋がれる。ただし外から見た個別性は落ちる。外から直接一人を呼びにくくなる。記録が雑だと誰が何をしたか追えなくなる。


 そして貸し替えがそれなりに回るので、根本解決である新式広印への移行が遅れる。


 延命と解決は別の顔をしている。だが回っているうちは、その顔が同じに見えやすい。


 明日はそのずれを、実際に噴いた問題の前で整理する仕事だった。

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