第56話 速さは一つではない
講堂の長机に、四つの小模型が並んでいた。
どれも小さな木の台だ。台ごとに紙が貼ってある。台A、台B、台C、台D。
ルドーが前に立った。
「問いを立てる」
机に並んだ小模型を手で示す。
「王宮に新しい術台を入れる。候補が四台ある。どれが最も良い台か、どう決める」
———
学生から答えが来る。
「働き試しをして、一番点の高い台を選ぶ」
「一番速い台でいい」
「今ある台より性能がよければ、どれでも」
「王宮の仕事に一番近い術を流して試す」
「値段も見て、総合で決める」
五つ出たところで、ルドーが私を見た。
「ユウ」
「はい」
「はいは一回だ」
———
前へ立った。
四台の紙を裏返した。それぞれに違う特性が書いてある。
「台Aは初動が速い。呼べばすぐ返る。ただし、重い仕事を長く続けると弱くなります」
「台Bは初動は遅い。最初の返りは鈍い。ただし、重い仕事を長く続けるのが得意です」
「台Cは軽い仕事を大量に反復するのが得意です。捌き量が高い。ただし、一つの仕事が重いとすぐ詰まります」
「台Dは特に突出した点はないが、どの仕事でも平均的にこなします」
———
次に、小さな札束を取り出した。仕事札だ。
「では、これを流してみます」
一枚目の仕事札。
「問い合わせ一件。すぐ返せ」
台ごとの応答を書いた。
台A:速い
台B:遅い
台C:速い
台D:普通
「この仕事なら、台Aと台Cが向いています」
———
二枚目の仕事札。
「長い集計を一つ。時間がかかってよい」
台A:途中でへたる
台B:最後まで安定
台C:重さで詰まる
台D:普通
「この仕事は台Bが向いています」
三枚目の仕事札。
「軽い問い合わせを千件、続けて流す」
台A:最初は速いが疲れる
台B:遅いが安定する
台C:得意
台D:普通
「台Cが向いています」
———
四枚目の仕事札。
「重い術と軽い術が混ざって来る。順番は読めない」
台A:軽いものは速いが、重いものが来ると乱れる
台B:全体が遅め、でも崩れない
台C:軽いものを優先して重いものを後回しにする
台D:どれも普通に対応する
「この仕事では、台Dが一番無難です」
———
板書した。
仕事の種類と向く台
問い合わせ一件:台A、台C
長い集計:台B
軽い反復大量:台C
混在する仕事:台D
「仕事の種類を変えると、一番良い台が変わります」
学生が言う。
「ということは、どれか一台が最強、ではないのですか」
「そうです」
「でも、どれが良いか選ばないといけない……」
「何の仕事に使うかを先に決めないと、良い台は選べません」
———
リゼが腕を組んで言った。
「つまり、『足が速い』と『重い荷を運べる』と『休まず働ける』を、一枚の点数で比べようとしてるようなものね」
「そう」
「別の能力を一つの点数に押し込めば、何かが隠れる」
「必ず隠れる」
ルドーが続けた。
「速さを聞く前に、仕事を言え」
———
「では、総合点はどうなのですか」
別の学生が聞いた。
「総合点は便利です。一つの数字で概算できる。ただし、総合点を作るときに何を重く見たかで順位が変わります」
「重み次第で、一位が変わる?」
「変わります」
板書した。
総合点の問題
一、何を重く見るかで点が変わる
二、重みが仕事の実態と合っていなければ、点も合わない
三、一つの点数は、何かを捨てて作られている
「一つの点数に全部の真を押し込むな、とルドーが言いましたね」
「言った」
———
「ではどうすれば」
「用途を先に決めます」
言いながら机に戻った。
「王宮がその術台で何をさせるのか。記録術か、連絡術か、集計術か。それによって、良い台の定義が変わります。定義が変われば、測り方も変わります」
「仕事ごとに別の台を選ぶ、ということですか」
「そうすることもあります。あるいは、用途に合った仕事だけで試す。一つの試験で全部決めようとしない」
ルドーが言う。
「一つの働き試しで、全部の優劣を決めるな」
———
授業が終わって廊下を歩きながらリゼが言った。
「今日の話、王宮でちょうど今やってるやつと関係あるの?」
「ある」
「術台の採用試験、やってるんでしょう」
「先月から始まってる」
「どの工房が勝ってるの」
「一か所だけ、公式の働き試しで異様に高い点を出している工房がある」
「異様に、ね」
「綺麗すぎる勝ち方だ」
———
夜、台所でリゼが麦を煮ながら言った。
「綺麗すぎる勝ち方って、何が引っかかるの」
「今日の授業を思い出して。仕事の種類によって良い台は変わる」
「うん」
「なのに、あらゆる項目で他より高い台がある」
リゼが手を止めた。
「それはおかしいの?」
「おかしいかどうか、まだ分からない。ただ」
「ただ?」
「公式の働き試しは、毎回同じ仕事札を同じ順番で流す」
リゼが少し考えてから言った。
「……なるほど」
「まだ確認してない」
「でも、気になってる」
「気になってる」
麦は少し硬かったが、腹はふくれた。
速さは一つではない。何を流すかで、良い台は変わる。そして、測り方が固定されると、固定された部分だけ強くなるように寄ってくることがある。
それが本当の強さなのか、それとも試し方に寄っただけなのか。
明日確かめることになりそうだった。




