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魔法が複雑すぎる世界で、俺だけAIを使える件 〜圏外なのにAIが動くので、呪文をプログラム化して無双します〜  作者: 月の位相
特任講師編

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第53話 一か所で直せる。一か所で壊れる。

 王宮の部署間中継所は、廊下の角を曲がった先にあった。


 入る前から、人の声が聞こえた。建物の中に入ると、急ぎ足の術師が三人、すれ違った。全員が手に包を抱えている。台の前に人が集まっていた。


 中継所の担当者が私たちを見て、少し安堵したような顔をする。


「来てくださいましたか。実は……」


「見ればわかります」


 ルドーが前を歩いて入っていく。


———


 中継所の構造はこうだった。


 各部署から届いた札は、受け口に入る。中継所内で共通札式に直されて、振り分け台へ置かれる。振り分け台が宛先を見て、該当部署の出口へ押し込む。


 仕組みは単純だ。


 ただ今、受け口から振り分け台の間が詰まっていた。受け口に届いた札が、列をなして待っている。振り分け台の前にも積み上がっている。


「どのくらい待っていますか」


「早いもので三刻。遅いものは……確認できておりません」


———


「誤配はありますか」


 担当者が顔を歪めた。


「それも出ています。昨日、許可局向けの札が配給局へ届きました。先週は施術局向けが術務室へ」


「宛先が違う」


「はい。どこで間違えているか……まだ追えておらず」


「共通札式の宛先欄を見せてください」


 担当者が一枚の雛形を持ってきた。


 宛先の欄を見ると、「おおよその部署名で可」と書いてあった。


「だいたいで書いてよい、としているのですね」


「運用の初期は各部署の書き方が揺れていて……だいたい分かれば通るからと」


 ルドーが短く言う。


「中央で雑にすると、全体が雑になる」


———


「急ぎの札はどれですか」


「こちらへ来てください」


 担当者が一角へ案内した。


 積み上がった包の山がある。上の方に、急ぎと書いた赤い縁の包が二つ、埋まっていた。


「急ぎ札が下の方に……」


「一列で受けているので、届いた順に並んでおります」


「急ぎと平常が同じ列に」


「はい。以前は部署が直接やり取りしていたので、急ぎはそのまま走らせていました。中継所を通すようになってから、全部が一列に入るようになりました」


———


 次に、変換室を見た。


 共通札式へ直す作業をする場所だ。数名の術師が机に向かっている。皆、手を止めずに何かを書き続けている。


「変換が詰まっているのはどの種類ですか」


「複写術の包が最近多くなりまして。複写術の変換は……」


「重い」


「はい。一包あたりかなり時間がかかります。それが来るたびに、列全体が待ちになります」


「軽い包も一緒に待つ」


「そうなります。分けておりませんので」


———


 一度廊下へ出た。


 問題を整理した。


問題一 共通札式の宛先が曖昧

 「だいたい分かるだろ」で書かれた宛先が誤配を生んでいる。中央で揺れを許せば、振り分けが狂う。


問題二 急ぎ札と平常札が同列

 届いた順に一列で処理している。急ぎが後から来ても、前の平常札の後ろへ並ぶ。便利さが緊急度を潰した。


問題三 重い変換が全体を塞ぐ

 複写術などの重い変換が中継所に集中し、軽い包まで足止めにする。変換の重さを分けていない。


問題四 全部を一か所に通している

 中継所が詰まれば、全部署間のやり取りが鈍る。迂回路がない。


———


「まず宛先を厳密にします」


 担当者に言った。


「共通札式の宛先欄は、部署名の正式名称で書くことを必須にします。略称も揺れも許しません。書けなかった包は受け付けない」


「現場が面倒だと言うかもしれません」


「中継所が解読する方が面倒です。解読を誤れば誤配になる。誤配の手戻りの方がずっと重い」


 ルドーが続けた。


「共通を作ったなら、共通を守れ。共通が揺れると、全体が揺れる」


———


「次に列を分けます」


 新しい受け口の仕切りを作り始めた。


急ぎ列

平常列

重変換列


「急ぎ札は急ぎ列へ。複写術など変換に時間のかかる包は重変換列へ別に入れる。急ぎ列は常に平常列より先に処理する」


「重変換列はどう処理するのですか」


「別の変換術師が担当します。重変換で全体が止まらないようにする」


 担当者が列の仕切りを手伝い始めた。


「さっきの急ぎ包、先に出せます」


「出してください」


———


「もう一つ」


 担当者が顔を向ける。


「変換の重さは、できるなら各部署側で済ませてください」


「各部署側で……」


「中継所は振り分けに集中する場所です。重い変換を全部中継所でやろうとするから詰まる。各部署が自分の包を共通札式に近い形で送れば、中継所の変換が軽くなります」


「各部署に頼めるかどうか……」


「お願いではなく、決め事にしてください。中継所へ送る前に共通札式に整えること。そこまでが各部署の作業です。中継所は受け取って振り分けるだけ」


———


「最後に」


「はい」


「緊急の経路を一本作ります」


 担当者が少し驚いた顔をする。


「中継所を通さない経路ですか」


「全てを中継所に依存させてはいけません。中継所が詰まったとき、急ぎ札だけは直接動かせる別経路が要ります。中継所に集める、と中継所しか許さない、は違います」


———


 午後には、急ぎ列が動き始めた。


 さっき埋まっていた赤縁の包が二つ、先に出て行った。


 宛先を書き直した包が、整然と受け口へ届き始めた。


 重変換列は詰まったままだったが、他の列は流れるようになった。


「詰まりの見た目が変わりましたね」


 担当者が少し表情を緩めた。


「どこが止まっているか、分かるようになりました。さっきまでは全部が止まっているように見えていた」


「見えなかった待ちが、見えるようになった。次に何を直すかが出ます」


———


 帰り際にルドーが言った。


「一か所で直せる。一か所で壊れる」


 それだけだった。


———


 夜、リゼの家に戻ると、台所に豆の汁物が待っていた。


「おかえり。中継所は?」


「詰まってた」


「やっぱり」


 椅子に座る。


「急ぎ札が平常札の後ろに埋まっていた。宛先の書き方が揺れていて誤配が起きていた。重い変換が軽い包まで足止めにしていた」


 リゼが言う。


「橋を減らすために広場へ集めたのに、今度はその広場が市場みたいに詰まっていたのね」


「そう」


「真ん中に集めるのは賢いけど、真ん中で全部まとめてさばこうとすると、今度は真ん中が悲鳴を上げるのか」


「集めるのは正しかった。だが、集めた後の守り方が足りなかった」


———


「列を分けたの?」


「急ぎ列、平常列、重変換列に分けた。共通の書き方を厳密にした。変換を各部署側へ戻した。緊急用の別経路も作った」


「全部治ったわけじゃないよね」


「重変換の詰まりはまだ残ってる」


「でも見えるようになったのね、どこが詰まっているか」


「そう」


 リゼがゆっくり椀を置いた。


「中継所を置いてよかった、ということでいいの?」


「よかったよ。直結継ぎに戻すより、はるかにましだ」


「でも中継所が詰まると、全部が遅くなる」


「そう」


「一か所で直せる。一か所で壊れる、か」


———


 豆は柔らかかった。


 中継所は複雑さを一か所へ集める構造だ。接続数を減らし、変換作法を整え、保守先を絞る。これは正しい。直結継ぎが組み合わせ爆発を起こすことと比べれば、中継所は明らかに前進だ。


 だが、集めた先が弱ければ、集めた分だけ壊れたときに大きい。


 中央ができると、中央の守り方が問題になる。列を設計する。書き方を厳密にする。重さを前段で処理する。迂回路を残す。それは直結継ぎを捨てた後で、新しく払う代償だ。


 技術は問題を消さない。問題の形を変えて、扱いやすい場所へ集める。集まった先を守るのは、別の仕事だ。


 真ん中を作るなら、真ん中を設計しろ。

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