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魔法が複雑すぎる世界で、俺だけAIを使える件 〜圏外なのにAIが動くので、呪文をプログラム化して無双します〜  作者: 月の位相
特任講師編

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第52話 全部を全部に繋ぐな

 講堂の前机に、赤い小札が五枚と青い小札が四枚、並べて置いてあった。


 ルドーが腕を組んで立っている。今日は模型も板書もない。ただ、小さな札と、それを囲む学生たちがいる。


「問いを立てる」


 ルドーが言う。


「王宮には五つの部署がある。学校には四つの部署がある。それぞれが互いに札をやり取りしたいとする。各部署は少しずつ異なる札式を使っている。さてどうする」


———


 しばらく間があった。


 前列から答えが来る。


「必要な組み合わせだけ繋ぎます。全部繋ぐ必要はないでしょう」


「よく使う組と、あまり使わない組を分けて、必要なところだけ橋を作る」


「王宮の大きな部署の札式に全部合わせる。一種類にしてしまえば楽だ」


「毎回、通訳のように誰かが直せばいい」


 四つ出たところで、ルドーが私を見た。


「ユウ」


「はい」


「はいは一回だ」


 講堂が少し和む。


———


 前へ立った。


 机に置いてある赤い小札を手に取った。


「これが王宮の部署です」


 五枚を横に並べた。


「保管局、許可局、記録局、施術局、配給局」


 青い小札を四枚並べた。


「こちらが学校の部署です。術務室、図札係、実習棟管理、薬湯庫」


 九枚の札が机の上に並んでいる。


「さて、全部が全部と直接やり取りするとします。その場合、繋ぎはいくつになるか」


———


 学生が少し考える。


「九部署が全部と繋がるなら……四十近くになるのでは」


 細い糸を取り出した。赤の保管局の札から、他の全ての札へ。一本、二本、三本……八本。


「一部署が他の全部署と繋がるには、八本の橋が要ります」


 許可局からも同様に引いた。保管局との橋はすでにある。七本新たに引く。


 記録局から六本。


 続けた。


 机の上は、やがて糸で埋まった。どの札がどこに繋がっているか、見た目では追えない。


「これが直結継ぎです」


———


「橋の数は、九部署なら三十六になります」


 学生が口を開く。


「三十六もあるのですか」


「それだけではありません」


 手を止めた。


「それぞれの橋には、専用の変換が要ります。保管局の札式を許可局の札式へ直す変換。保管局の札式を術務室の札式へ直す変換。組み合わせの数だけ変換の作法が必要になる」


「三十六種類の変換……」


「そして保管局が札式を少し変えたら」


 学生が少し顔を動かした。


「保管局と繋がっている全ての橋が、影響を受けます」


 私はうなずいた。


「直結継ぎは、増えるほど人の手を食います」


———


 糸を全部外した。


 机の上が静かになる。


 今度は別のものを取り出した。少し大きな木片を一つ、机の中央に置いた。


「ここに中継所を置きます」


 赤の五枚を左側に並べた。青の四枚を右側に並べた。木片が中央にある。


「各部署は、中継所だけに繋ぎます」


 赤の保管局から中央へ。一本。


 許可局から中央へ。一本。


 記録局、施術局、配給局。それぞれ一本。


 青の術務室から中央へ。一本。図札係、実習棟管理、薬湯庫。それぞれ一本。


 机の上の糸は、九本になった。


———


「九部署で、橋が九本です」


 さっき三十六だった数が、九になった。学生たちが静かになる。


「各部署は中継所へだけ繋げばいい。相手の部署の数だけ橋を作らなくていい」


 リゼが腕を組んで言った。


「みんなが広場に一度集まって、そこから配るってことね。全員がお互いの家まで走らなくていい」


「そうです」


「でも、広場の書き方が合わないとどうするの。王宮の書き方と学校の書き方が違ったら、広場で混乱するんじゃ……」


———


「そこが共通札式です」


 別の小さな札を一枚、中継所の木片の上に置いた。


「中継所には、共通の書き方を決めます。各部署は、自分の札式を中継所用の共通札式に直してから送る。受け取る部署は、共通札式から自分の札式に戻す」


「変換は必要じゃないの」


「必要です。ただし、変換の種類が変わります」


 板書した。


直結継ぎ

 変換の数:部署の組み合わせ分(三十六種類)


中継所+共通札式

 変換の数:部署の数分(自分の札式↔共通札式 九種類)


「九部署なら、九種類の変換だけで済む。三十六ではなく、九です」


———


「もし保管局が札式を変えても」


「変更するのは、保管局と共通札式の間の変換だけです。他の部署との橋は変えなくていい」


 学生が言う。


「変えた部署の担当だけが動けばいい……」


「そうです。複雑さが中央へ畳まれます」


 ルドーが言う。


「組み合わせを増やすな。中継点を置け」


———


 板書した。


直結継ぎの問題

一、繋ぎの数が組み合わせで増える

二、変換の作法が組み合わせ分必要になる

三、一部署が変わると大量の橋が死ぬ

四、増えるほど保守できなくなる


中継所と共通札式の利点

一、繋ぎの数は部署の数で抑えられる

二、変換は自分と中継所の間だけ

三、一部署が変わっても影響が局所で済む

四、複雑さが中央に畳まれる


———


「ただし」


 学生たちが少し顔を上げた。


「中継所は便利です。だが、便利なぶん、中央だということも忘れないでください」


「中央だと……?」


「全部の札が通る場所になる、ということです」


 それ以上は言わなかった。


 ルドーがそれを引き取った。


「橋を減らせば、今度は広場を守れ」


———


 授業が終わって、廊下を歩きながらリゼが言った。


「王宮が最近そういう中継所を作ったんでしょ」


「先月ね」


「便利なの?」


「便利らしい」


「らしい、ってことは」


「最近、少し詰まりがちだと聞いた」


 リゼが少し顔を向ける。


「詰まると?」


「全部が通る場所が詰まると、全部に影響する」


———


 夜、台所でリゼが根菜を炒めながら言った。


「今日の授業、分かりやすかったわ。糸が三十六本から九本になる絵が頭に残った」


「目で見ると分かりやすいね」


「ただ、最後の『広場を守れ』ってところが引っかかった」


「何が」


「広場に集めた後、広場がこけたらどうするの。広場が一か所しかないなら、そこが壊れると全部止まるじゃない」


 私は少し間を置いた。


「そう」


「あれ、さらっと答えた」


「答えは出てたから」


「……明日もどこかへ呼ばれる?」


「たぶん」


 根菜は少し焦げていたが、香ばしかった。


 橋を全部の組み合わせで作るより、広場へ一度集めて配る方が、数は確実に減る。九部署が九本の橋を持てばいい。三十六本ではなく。


 ただし、広場はその分だけ忙しい。


 全ての荷物が通る広場は、一か所で詰まれば全体が止まる。便利な構造は、便利なぶん、壊れたときに影響が大きい。


 明日、それを王宮で見ることになりそうだった。

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