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魔法が複雑すぎる世界で、俺だけAIを使える件 〜圏外なのにAIが動くので、呪文をプログラム化して無双します〜  作者: 月の位相
はじまり

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第11話 文字は魔法より厄介

 郵便局の地獄を鎮火させた翌日、私は魔法学校の教室に戻っていた。


 戻ってきたくて戻ったわけじゃない。

 ルドーが「授業は出ろ。逃げるな」と言うから戻っただけだ。


 教室の空気は、いつもより落ち着かない。

 生徒たちが小声でざわついている。珍しい。


「なあ、今日の授業、何が来るんだ?」

「噂だと“新しい端末”だって」

「端末? 魔具?」

「郵便局のやつじゃないの?」


 私の方を見る視線が混じる。やめろ。


 リゼが当然の顔で言った。


「ユウ、今日の授業は多分ユウのせい」


「俺が何した」


「郵便局を助けた」


「助けたせいで授業が増えるの、理不尽だな」


「世の中そんなもん」


 世の中そんなもん、で片付くことが多すぎる。


———

 ルドーは黒板の前に立っていた。

 相変わらず目つきが悪い。学校に向いてない。


 今日は机の上に、見慣れない箱が置いてあった。

 木箱でも魔導具でもない。金属の枠に、薄い板。そこに小さな窓。


 窓の奥が、うっすら光っている。


「座れ」


 全員が黙って座る。

 この人の声、魔法より強い。


 ルドーは、その箱を軽く叩いた。


「これが今日の主役だ。王国端末」


 生徒がざわめく。


「王国端末……?」

「それ、役所に置いてあるやつ?」

「宿屋にもあるって聞いた」

「文字が出るやつだ!」


 ルドーは淡々と続ける。


「全国の役所、郵便局、商会、宿屋に順次配備される。

 遠くの情報が“文字だけ”で届く。遅いが、届く。――届けば運がいい郵便よりは、たぶんマシだ」


 私が郵便局を思い出して顔をしかめると、ルドーが一瞬だけ笑った。


「その顔をするな。今日はお前の好きな話だ」


「好きじゃないです」


「慣れてるだけ、か?」


 リゼが横で小さく吹き出した。

 最悪だ。教師が生徒をいじるな。


———

 ルドーは端末の窓を指した。


 窓の中に、緑っぽい光で文字が浮かぶ。


『ようこそ おうこくたんまつへ』

『めにゅー:1 しらせ 2 つうしん 3 けんさく』


 生徒たちが前のめりになる。

 こういう新しい玩具には素直だ。


「この端末は“文字”しか送れない。画像も音もない。

 だからこそ、重要だ。――文字が壊れたら、何も残らない」


 ルドーは黒板に書いた。


『文字は、見た目ではない』


 生徒が「?」という顔をする。


 ルドーは続けた。


「お前らは、文字を“形”だと思っている。

 だが端末が扱うのは形ではない。――番号だ」


 黒板に、さらに書く。


『文字=番号』


 教室がしんとする。

 わざと間を取るのが上手い。腹立つ。


「ルールを言う。今日の授業は簡単だ」

 ルドーは端末の側面の小さな板を開け、薄い札束を取り出した。

 札束には、細かい記号が並んでいる。


「この札束が“符丁表”だ。番号と文字の対応表。

 端末は番号を送る。受け取った側は、この表で文字に戻す」


 リゼが小さく言う。


「……暗号みたい」


「暗号ではない。暗号より地味で厄介だ」


 ルドーが言った。


「暗号は“意図して”変える。

 符丁表の違いは“勝手に”変わる。だから地獄になる」


 私は思わず心の中で頷いた。

 勝手に変わるのは本当に地獄だ。


———

 ルドーは生徒を一人、前に呼んだ。

 気の強そうな男子だ。手を挙げたのが早かった。


「お前、端末に『リゼ』と打て」


「はい!」


 男子が端末の小さな板をぽちぽち叩く。

 端末は遅い。押してから一拍置いて文字が出る。


『り』

『ぜ』


 生徒が「おお」と声を漏らす。

 リゼが顔をしかめた。


「……なんで私の名前」


「例だ」


 ルドーが淡々と言う。例なら他にしろ。


 ルドーは次に私を見た。


「ユウ。お前も打て。『リゼ』」


 最悪だ。公開処刑の香りがする。


 私は渋々前に出て、板を叩いた。


『り』

『ぜ』


 同じだ。普通に見える。


 ルドーは、端末の側面から別の符丁表を取り出した。

 さっきの札束とは色が違う。


「では符丁表を変える」


 ルドーは私の目の前で札束を差し替えた。

 端末の画面が一瞬だけちらつく。


「もう一度、『リゼ』と打て」


 私は同じように入力した。


『り』

『※』


 最後の文字が、変な記号になった。


 教室がざわつく。


「え?」

「同じの打ったのに?」

「なんで?」

「壊れてる?」


 ルドーが冷たく言った。


「壊れていない。正しく動いている。

 番号は同じだ。だが、戻す表が違う。だから形が違う」


 私は画面を見ながら、嫌な納得をしていた。

 これ、完全に事故の匂いだ。


 リゼが小声で言う。


「ユウ、私の名前が変な記号になった」


「……うん。社会が崩壊するやつだね」


「軽く言うな」


 ルドーが聞き取ったらしく、こちらを見た。


「崩壊する」


 ルドーが同意した。最悪。


———

 ルドーは端末を叩く。


「では実演する。

 この端末から、郵便局の端末に“短い指示”を送る」


 生徒が一斉に顔を上げる。


 ルドーが入力した。


『しゅうけい:ひがしく ゆのまち ゆうびんきょく せいり』


 つまり「集計:東区・湯の町・郵便局・整理」みたいな指示だろう。

 意味はさておき、文字が読めれば業務連絡っぽい。


 端末が「送信中」を示すようにちかちか光る。

 そして数秒後、画面に返事が出た。


『????:ひがしく ゆのまち ゆうびんきょく ???』


 読めない。

 重要そうな部分だけ、記号になっている。


 教室がざわざわする。

 さっきの記号が、もっと増えている。


 ルドーは言った。


「これが現場で起きるとどうなる?」


 生徒が口々に言う。


「読めない!」

「止まります!」

「誤解します!」

「勝手に判断します!」


 ルドーが頷いた。


「そうだ。止まる。誤解する。勝手に判断する。

 ――現場はだいたい勝手に判断して事故る」


 私は郵便局の叫び声を思い出して胃が痛くなった。


 ルドーが黒板に書く。


『届く ≠ 読める』


 その下に、さらに書いた。


『読めない通信は、騒音と同じ』


 教室が静かになった。

 誰でも分かる言い方は強い。


———

 ルドーは符丁表を元に戻した。


「つまり、お前らが覚えるべきことは一つだけだ」


 黒板に大きく書く。


『符丁表を揃えろ』


「揃えてない端末は、話しかけるな。

 揃えてない文は、送るな。

 揃えられないなら、揃えられる形に変換しろ」


 生徒が首を傾げる。


「変換……って、どうやって?」


 ルドーが即答する。


「知らん。考えろ。だから宿題だ」


 ルドーは黒板の端に宿題を書いた。


『宿題:王国端末で通じる文を作れ』

『条件:別の符丁表でも読めるように工夫せよ』


 教室がざわついた。

 全員が「え、無理では?」という顔をする。


 ルドーは平然としている。


「紙で提出。明日まで。

 工夫の中身は問わん。――ただし、現場で通じることを優先しろ」


 現場で通じる。

 その言い方、嫌な予感しかしない。


 そして案の定、ルドーは一拍置いて私を見た。


「……ユウ」


 やめてくれ。

 心の中で先に言った。もちろん無駄だ。


「前へ」


 教室がざわつく。

 最近この流れ、嫌いだ。


 私は前に出た。

 ルドーは声を落として言った。


「お前は紙で出すな」


「……また?」


「まただ」


 ルドーは容赦がない。


「お前の宿題は“通じない文”を直すことだ。

 現場でな」


 私は眉をひそめた。


「どこの現場ですか」


 ルドーは、笑っていないのに笑っているみたいな目をした。


「郵便局」


 リゼが横で「またか」という顔をする。

 私も同じ顔をした。


「郵便局が端末で業務を始めた。

 ……始めたのはいいが、文字が崩れたら終わる」


 ルドーが続ける。


「お前は“届ける”を直した。次は“読める”を直せ」


 私は息を吐いた。


「……先生、俺を便利屋にする気ですか」


「便利屋にする気はない。

 お前が勝手に便利だから呼ばれるだけだ」


 最悪の論理だが否定できない。


 ルドーは最後に言った。


「ちなみに、この宿題をまともに解けるのは――たぶんお前だけだ」


 声は小さいのに、教室の空気が変わった。

 リゼが目を見開く。生徒たちの視線がこちらに刺さる。


 私は思わず言った。


「……言わなくていいです、それ」


「必要だ。現場は不公平だからな」


 ルドーは平然としている。


「そして不公平を埋めるのが“仕組み”だ。

 仕組みを作れ。――それが、お前の仕事だ」


 嫌なほど筋が通っている。


———

 授業が終わり、生徒たちがぞろぞろ出ていく。

 その背中は、さっきより少しだけ重い。符丁表は地味だが、地味な地獄ほど逃げ場がない。


 教室の隅でリゼが私の袖を掴んだ。


「ユウ」


「うん」


「……また郵便局?」


「また郵便局」


 リゼがため息をつく。


「郵便局、嫌いになりそう」


「まだ嫌いになってないの偉い」


「嫌いになる前に、終わらせよう」


 その言い方が、少しだけ嬉しかった。


 教室の外に出ると、廊下の連絡札がちかちか光っていた。

 誰かが伝令を探して走っている。


 私は嫌な予感を抱えたまま、歩き出した。


 たぶん、明日は“読めない”で燃える。

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