8 冷たい空間
拓はアリアにじーっと見つめられる。
(え、かっこよすぎない?ネネさんとかイリスさんはかわいい系じゃん?カゼア様もかわいいけど!まあカッコいいよりだし?いや、アリア様は美しいクール系と言えばいいのか?うーん……大変だ!よくわかんないけど!かっこいい!美人!最高!うわぁ、てかこれ一人で想像して俺キモくないかなぁ…?)
拓が心の中で悶えている間、アリアはじーっと見つめてくる。拓は段々冷や汗をかいてきた。何されてるのかわからないからだ。
アリアはゲームではあまり出てこなかったキャラクターである。ヒロインの一人ではあるが、登場回数が少ないため、攻略は難しいと言われている。
「……自己紹介は?」
「は、はい?」
「聞き返さないで。はい、自己紹介」
「えっと……野々瀬拓でふっ!」
噛んだ。アリアは噛んだことについては無反応で、くるりと拓に背を向けて興味がないかのように医務室のドアのドアノブを回し、立ち去ろうとした。
「アリアさん、新しい候補だからさ、面倒見てくれないかな?」
「ヒズメル先生がやればいいじゃないですか」
「年が離れた人よりも近いほうがいいでしょ?」
「嫌ですね、私は向いておりません」
アリアは足を止めて、こっちを見ずに言った。
「そもそも、カゼアさんに頼めばいいじゃないですか。昨日戦ったんでしょう?私は新入りと異性ですし、同性を組ませたほうがいいかと思うんですけど?」
「カゼアくんが面倒見ると思うかな?カゼアくんが同じレベルの人を世話すると思う?」
「思わないですね。ですが、ランクが下の者に任せても教えることなどない。あいつレベルなら世話なんて必要ないんじゃないですかね?」
アリアは振り返って、自嘲気味に笑った。笑ってるのも綺麗なのだが、瞳の奥が驚くほど真っ黒だった気がした。推しに対して寒気がするのは失礼だが、寒気がした。
というより、アリアは氷魔法系統の家系である。冷気が出るのは当然だろう。
「……アリアさん、制御できてないよ?」
「ああ、すみません……感情が昂ってしまったようですね、失礼。寒かったでしょうから、布団でもかぶっておいてください……〈レビテーション〉」
〈レビテーション〉ーーそれは、浮遊魔法の技である。この塾、リスペクトで一番最初に覚える魔法である。対象を浮かせて移動をさせることができる便利な魔法である。
アリアは杖を出さずに、魔法で拓の隣の布団を浮かせてセズラに思いっきり掛けた。アカリは再び拓を見ると、先ほどと同じように、拓の方へ布団を浮かせてかけてきた。
(うんうん……やっぱ基礎魔法もいいよなぁ……カゼア様の神秘的なのもいいけど、こういうシンプルのもいいんだよぉ!というか、俺にむけてやってるの最高すぎない?だって推しが俺を認知して布団をかけてくれるんだよ?やば、グッズあったら買お、全部買いたい!もう俺この世界で一生を過ご…「ゴフッ!?」
「ああ、失礼失礼……間違えてその平和ボケしている顔面に思いっきり布団を被せてしまいました。ちょっとムカつい……いえ、私の弟子になるとこうなるので」
「え、な、なら、こ、これがいいと思えた俺は……あ、あぁ、アリア様ので、弟子になっていいんですかっ!?」
「お〜、ヒロくんがどんな思考回路してるかわからないけど、アリアさん、どうかな?」
アリアは拓を蔑めるような表情で見下ろした後、考えるように腕を組んだ。先ほどだったらダメだっただろうが、今では悩むほどになっている。この数分数秒で一体彼女にどんな影響を与えたのだろうか…?、と拓は考えていた。
「……そうですね……やはり……」
(お願いします神様!俺を……弟子にすると言ってください!神様!)
アリアは期待に満ちた拓の顔を見てフッと鼻で笑って悪役令嬢が悪巧みをする時のように笑った。
「クスッ…お断りしますね」
「ガーン!!」
「相性は良くも悪くもないでしょうからカゼアさんに任せておいてください。では、私はここでお暇させていただきま「アリアさん、卒業式は?」
セズラがニコニコしながらアリアを見ている。そうだ、今日は卒業式であると、ネネとカゼアが言っていた。二人とも今は、三年生の先輩の卒業を祝っている頃だろう……そして、アリアはカゼアと同じで『シャル・イースト校』である。卒業式に出れないのが不思議なのだりう。
「あー……そういえばそんな行事もありましたね。大丈夫です、休みの連絡入れてるので」
「理由は何かな?」
「祖父の葬式です私が東洋出身なのは有名な話ですので、教師も理解してくれました。おかげで卒業式前の二週間は休めるんですよ?東洋って遠いから行くのが大変なので」
「で、今はいるけどそれはなんで?」
「今回は早かったんですよね、飛行魔法上達したかと思います」
(え、魔法で飛んで行ってるの!?!?)
この時代、船はオンボロのやつしかないため、アリアは船に乗って東洋に行かないようにしている。そして、東洋に行くためにいろんな魔法を覚え、一瞬で移動する方法も考えようとしているが、まだなので、仕方なく飛行魔法で約3日ほどかけていく。悪天候の場合は、防水魔法もかけるため、少し早めにでているだとか。
「まあそんなわけですので、とりあえず帰りますね〜」
アリアは今度こそ出て行った。部屋にいるのはセズラと拓。二人ともアカリの発言を聞き固まっている。
バスコ・ダ・ガマは、ポルトガルからインドまで、一年弱かけていったのだ。しかし、アリアはその約二倍の距離を三日でいった。行き方がわかるからかどうかは知らないが、昔の人がこの話を聞いたら魔法ずるい!だとか言いそうだ。
「……まあ、リスペクトには、こう言う子もいるから……よろしくね…?」
神ゲーに転生したのに少し心配になってきた拓であった。




