12 ミカエル・セレヴィー
数分が経ち、一人『面談室』で待っていると、扉がノックされた。防音だからここでどうぞ、と言っても意味ないかと思い、拓はただ座って扉を見た。
ーーガチャ。
扉を開けて入ってきたのは、紺色のボブの薄紫のメッシュ髪を後ろで結び、薄紫の瞳をしている。
「あ、アリアの言ってた新人だ」
ミカエル・セレヴィーであった。身長一五六cm、体重四九kg、誕生日一二月一五日。血液型A型、好きなものはハンバーグ、嫌いなものは特にない。一匹狼のような存在で、話しかけられたら端的に応えるだけ。人との関わりは、狭く浅い。『シャデーラ・ミドル院』所属の『リスペクト』順位八位。
「み、みみみ、みみみみみみ、みみ」
「私、ミカエル。新人がどうしてここにいるの?あと、どこから名前聞いた?」
ミカエルは笑わずに真顔で問い詰めてくる。そして、ミカエルは音が漏れないように扉をゆっくり閉じた。つまり、拓の逃げ道は塞がれたのだ。
「え、えっと……せ、セズラ先生に、が、学校の、ぃ、行くとこを決めるって、話になって…」
「ここ、私の部屋だから使わないで」
「えぇ!?」
嘘である。ミカエルは、息をするように嘘をつく。ミカエルはわざわざセズラに全然使わない部屋を聞いて、出た回答の『面談室』をまるで、自分の秘密基地かのように使っていた。そして、それを平然と使っている拓が気に入らなかったのだ。
「で、でも、セズラ先生が……」
「それはあとでいいでしょ?」
「いいんですかねぇ!?」
ミカエルは拓を睨んで、一番遠い席、先ほどセズラが座っていた席の隣の席に座った。
ミカエルは好き嫌いがはっきりしていて、相手との線引きが上手な人間だ。人間は嫌い、魔獣は好き。それがこの女、ミカエルなのである!
「まあ、セズラ先生が言うなら仕方ないか……ミスト先生とかタイラー先生だったら追い出してたけどね」
ミカエルは、はぁ……とため息をついて背もたれにもたれかかった。そんな姿を見て拓は目を輝かせた。
(あー!ミカエル様の名物!呆れスタイルだ!ため息をついてから壁や背もたれにもたれかかって呆れた目……ドブを見るかのようで相手を見るスタイル!一時期ファンの中でめちゃくちゃ流行ってたんだよな〜!おかげでミカエル様ファンめっちゃ増えてたし!まじで、真似するのすごい大変なんだよなぁ……)
ミカエルは拓がなぜか目を輝かせていることに気づき、若干恐怖を覚えた。
(え、何こいつ……怖…人間じゃないでしょ……アリアに文句言っとこ……)
と、さりげなくアリアに責任を押し付けた。そして、ミカエルは沈黙に耐えきれず、自分から話しかける。
「新人、どこからきた?」
「と、と…東洋です!」
「へぇ……アリアとコルセリオン達の故郷らへんか」
ミカエルはよいしょっと小さな声で言って姿勢を正した。そして、机に肘をつけて、手の甲の上に顎を乗せた。ニヤリと微笑むと艶やかで少しドキッとした。
「名前は?」
「ひ、拓です!」
「苗字は?」
「の、の、野々瀬です!」
「ノノセね、覚えた覚えた」
ミカエルは目を逸らし、考え込むような仕草をしてすぐにこっちを向き、さらに質問してきた。
「ツクモ家は知ってる?」
「し、知らないですね……あ、アリアさんのミドルネームでしたっけ……?」
「そう、アリアのミドルネームなんだけどね……」
ミカエルは顔を顰めて、言いづらそうに言った。
「九十九でツクモって読むらしいんだけど……ミドルネームかっこよくてずるくない?」
「思ったよりもどうでもいいことで驚きました」
拓は率直に思ったことを伝えると、ミカエルはムッと頬を膨らませた。無自覚かわざとかはわからなかったが、拓は可愛いな〜と思いながら、その様子を見てた。
だが、それと同時にまた二つの疑問が湧いてきた。それは、「どうしてミカエルがここにいるのか」、ということと、「こんな会話、シナリオには無かった」ということだ。
一つ目の、「どうしてミカエルがここにいるのか」。今日は卒業式と言っていた。少なくとも日本の文化では全部終わる日は同じなはず……多分だけど。アリアのような親戚のどうたらこうたらって訳ではなさそうだし、エリートな方だから休むとは到底思えなかった。だから、拓にとっては、少し不思議であった。
二つ目は、その名の通り「こんな会話、シナリオには無かった」。ここにきて色々思うが、シナリオに無い会話がたくさんなのだ。当然、ゲームで全てを出せるわけがないとは思うが、どうも不思議で不思議で仕方がなかった。
「今、内心笑った?」
「わ、笑ってないです…!」
ミカエルは勘が鋭い。これはゲーム内での設定だ。ゲームでの設定はしっかりしているからゲームっぽいけど、ゲームにはない要素もある。だから、ここがゲーム内の世界なのか、否、ゲームとほぼ同じの内容ってだけの別世界なのか、そこら辺はよくわからなかった。
そうやって拓が考え込んでいると、またまた、コンコン、とノック音が響いた。ミカエルはすぐに姿勢を正して、どこから出したのかはわからないが、紙を手に考え込むような素振りを見せた。
ーーガチャ。
「あれ、ミカエルさん?どうして、『面談室』にいるの?」
「うっ……セズラ先生……」
と、扉が開き、入ってきたのは大量の紙束を持ちながら顔を顰めているセズラであった。




