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10 薬学試験開始


 その数分後、セズラは大釜に大量の『ナゾエキ』を入れて、三つの草花を近くに置いた。

「試験を始めるよ。さっき見せた通り、ヒロくんには『回復液』を作ってもらうよ。いい感じだったら合格だよ」

 セズラは大釜の下にある薪に手を近づけて、魔法を唱えた。

「〈フレイム〉」

 〈フレイム〉ーーそれは、炎魔法の中の基礎中の基礎と言われる魔法だ。全魔法で一番最初に覚えると言っても過言ではないだろう。対象を一定時間燃やす。その一定時間は使用者の魔力量で変わる。

 薪についた炎はゴウゴウと燃えて、薪から薪へ移動していく。近距離なのに熱く感じない……暖かいという表現が正しいと思う。

「ヒロくん、準備はいい?」

「……は、はい!」

 セズラは拓の返事を聞いて、ニコリと笑ってから真剣な表情になった。そして、手を高く振り上げる。

「よーい……」

 拓はゴクリを息を飲んでお玉と『ナキナキソウ』を手にする。

「はじめ!」

 試験開始すぐに、拓は『ナキナキソウ』を大釜の中へ入れて一周二秒を意識して混ぜるーーが、『ナゾエキ』は二〇Lもあるのだ。水が重くて混ぜにくいのは当然だ。

「ふぐっ……くっぅ……!」

 力をいっぱいに入れてかき混ぜる。しっかり一周混ぜる速度をあまり変えずにやっているので『ナゾエキ』はだんだんと『ナキナキソウ』の水色になってきた。ボコボコと沸騰しているが、拓に取っては全く熱くなかった。

「うん、初めてにしては上出来だね。まあ、あと数分は頑張ってもらうけどね」

「ひえ……」

 セズラは二コーッと有無言わせないような圧をかけながら言ってくる。

 拓は初めて推しのセズラが鬼だと思った。セズラはゲーム内では、優しくて、温厚で、怖さゼロで、なんでもできるスパダリなのだが、この世界にきて、そのイメージがだんだんと崩れていった。

 そして、大釜に入っている大量の『ナゾエキ』が綺麗な水色になっていたので、拓は右手でお玉を持ち混ぜながら、左手で『カイフクスルヨン』を手にして大釜の中へドバッと入れた。

 右手がだんだんと疲れてきたので、左手に持ち替える。右手はシュッシュッと振って疲れを吹き飛ばそうとした。

 拓は右利きだ。左手を使用するととてつもなく効率が悪くなるのだ。だから、右手が回復した瞬間、急いで持ち替える予定だった。

 少しずつ『カイフクスルヨン』の赤色が映って、『ナゾエキ』が紫色になってきた。

 毒々しくて、禍々しいが、この後、『カンペキン』を入れることで鮮やかな赤色になる。なので、今はチカチカと痛いが目を瞑らずに大釜と向き合った。

「ぐぃ……あーっ、きついぃ…!」

「がんばれがんばれヒロくん!がんばれがんばれヒロくん!」

 応援するなら手伝ってくださいと思った拓だが、当然口には出せないので心の中でことを収めておいた。

 禍々しい紫色の感完成となり、拓は回復してきた右手にお玉を持ち替えて、左手で『カンペキン』を大釜の中へ入れ込んだ。

 すると、だんだんと沸騰がおさまってきた。ふと気になり、混ぜる手を止めずに下を見ると、薪についていた炎が消えかかっていた。

「!?!?」

「あ〜、急がないと『カンペキン』が中途半端な量になっちゃうから急げー!」

「この……っ、……ぜぇ…ぜっ、絶対成功させますから!」

 息切れしながら言う拓は、本当に大丈夫か?と疑問を持つほどになっていた。でも、その声は本当に自信に満ちていて、セズラは一瞬呆気に取られた。

「ふぐっ……ふんっ……」

 痛くて腕を動かすのやめようと言っている脳の意見を無視して、拓は大量の『ナゾエキ』を混ぜ続ける。

 すると、ピンクになってきた。後ちょっとで鮮やかな赤になるーー

 と思ったが、火が消えて、「試験終了」となった。

「あ……まだ、その、つ、作れてないんですけど…?」

「制限時間はあるからね。仕方ないよ。じゃあ、早速飲んで行こっか。〈レビテーション〉」

 セズラは魔法を唱えて棚から二つの瓶を持ってきた。そして、瓶の中に拓が作った『回復液』を入れていく。拓はそれを見ながら、青ざめていった。

(お、俺……まだ中途半端で未完成なんだけど……セズラ先生が……なんかの中毒で死んだら……はぁっ!…ど、どどど、どどどどど、どどどどどどどど、どうしよう!?!?!?)

 セズラは注ぐと、その後、俺に渡してきて、乾杯のポーズを取る。

「はい、かんぱーい!」

「か、かんぱーい……です…」

 笑顔で飲むのが楽しみそうなセズラと、セズラを殺してしまわないか、自分は死なないか大変で『回復瓶』に怯えている拓。

 拓はセズラよりも先に飲まないといけないと思い、一気飲みする。すると、セズラは驚いた顔をしていた。信じられない、とでも言うかのように。

「ゴクッ……ゴクッ…………プはぁっ!」

 すると、拓の足元に魔法陣が出た。

(これ……若干さっきのと違う……?)

 先ほどは緑の回復の魔法陣だったが、今はーー

「まあ、空色だけど、回復の魔法陣だから、合格にします!」

 その言葉を聞いて、拓は思わず頬が緩んでしまった。

「お、俺……二次試験合格ですか…?」

「うん、合格だよ」

 セズラも拓も、満面の笑みで向かい合った。セズラは向かい合ってる間にも〈レビテーション〉で、瓶を取り出して、中に『回復液』を入れている。

 そうして、拓の試験は残り五つとなった。

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