9 次の試験
「まあ、一旦アリアさんや学校のことは置いといてね」
置いていいの?と疑問に思った拓だが、言っても意味ないと思ったので一応スルーしておいた。
「次の試験について説明するよ」
「はい……!」
「次の試験は……『薬学』だよ」
『薬学』ーー簡単に言えば医療系に行きたい人やサポートの人に必須となる科目。魔法に関するたくさんの草花を材料として、薬を作るのだ。今の『シャデーラ王国』には『薬学』が一番必須とも言われている。
「『薬学』ですか…」
「じゃ、早速行こっか!」
「え、あ、はい!」
拓はニコニコでセリフを言うセズラを見て、ベッドから降りた。
ちゃんと、ゲームと同じセリフなのだ。もちろん、いいことかもしれない。
でも、拓にはそれが、感情がないように聞こえて……本当にそれを望んでいるのか、それ以前に、彼らに意識、自我というものがあるのか、気になってしまった。
こんなことを言うのは変だろうか?でも、どうしても気になってしまったのだ。
もし、そうだったら……聞かない方がいいのかもしれない。その方が、楽に生活できるから。
◇◇◇
ここは『実験室』。『リスペクト』にいる生徒が『薬学』を学ぶ時にここをよく使う。今、この教室には拓とセズラだけ。セズラはこの世界独特の文字を黒板に書いている。だが、当然読めない。
「ヒロくんには今から、『薬学』の試験をしてもらうよ!僕がそれ飲むから変なものつくらないでね」
「え、せ、セズラ先生が飲むんですか!?」
「当たり前でしょ?これで失敗したら君は僕を殺したことになる……決死の覚悟で参るんだよ」
と、ニコニコしながら言ってきたセズラに拓は恐怖を覚えた。
ずっと、ニコニコしているのだ。なんだか、その皮を剥ぎたくなってしまうのは……気のせいだろうか?
拓はそんなことを考えながら、セズラの実験の説明を聞く。
「ーー。だから、簡単に言うと、この『ナキナキソウ』、『カイフクスルヨン』、『カンペキン』の三つを大釜に入ってる『ナゾエキ』に混ぜることで、回復の液体が作れるんだよ」
(……ゲームではここが出てきていなかったなぁ…ただただスティックを一定の速さで回してクリアっていうつまんないのだったけど……意外とっていうか普通にワクワクしてきたかも!てか、名前壊滅的すぎないか?)
拓は三つの草花を取りにいき、そして混ぜるようの専用のお玉も、もらった。
「じゃあ、僕が先にお手本見せるから、よ〜く見とくんだよ?一回しかやらないからね」
そう言い、セズラは大釜の下にある薪に火をつけて、『ナゾエキ』が二〇L近く入ってそうな大釜に『ナキナキソウ』を入れた。
そして、一周二秒近くかけて、一定のリズムで混ぜる。すると、だんだんと『ナキナキソウ』の水色が映ったのか、『ナゾエキ』は水色になった。
しばらくして、セズラは右手で持ってるお玉で混ぜながら、左手『カイフクスルヨン』を掴んで大釜へ入れた。
「絶対に途中で止めたらダメなんだよ?あと、一個一個混ぜていかないと毒になるから気をつけてね」
「は、はい!」
思ったよりも難しそうだったので、拓は手汗をかいてきた。昨日の『魔法戦』の試験とは違う緊張があったのだ。
あの時は「推しと戦う」という緊張、今回は「失敗して殺す可能性もある」という緊張。
プレッシャーで、手が、足が、声が、震えてしまうのだ。見ようとしてもなんだか、震えていて……
(怖い……)
本能がそう言っている気がした。
「あ、怖い?もしかしてだけど」
セズラはクツクツ笑いながら、だんだんと紫色になっている『ナゾエキ』をかき混ぜながら問いかけてくる。見ているのは大釜なのに、言葉は拓に向けて放っていた。
「大丈夫。僕、毒は効かない体質だから」
そんなこと、公式ファンブックには書いてなかった!……とは言えなかった。拓がここでいうと余計に怪しまれてしまう。割といい感じに進めれていたこの神ゲー世界のシナリオが変わってしまうのだ。たった一つのくだらない言葉で世界は変わってしまうのだ。
……そう思って、反論することはできなかった。
『let's respect』公式ファンブックには、セズラの苦手なもの欄には「毒」と書かれていたのだ。失敗は一〇〇%できない。でも、それを口に出した瞬間、さっき想像した通りになってしまう。
「……そ、そうですか…でも、毒は絶対に作りません!ぜ、絶対に…回復薬を作ります!」
セズラは一瞬驚いたような表情をしたが、また微笑んで、『ナゾエキ』に『カンペキン』を入れた。
「じゃあ、楽しみにしておくね。ヒロくんがしっかりとした『回復薬』を作ることを」
(ちゃっかり倒置法を使うセズラ先生もかっこいい!俺、絶対これで殺したら……恨まれるやつじゃん!?いや、その前に俺が殺されるのかな!?どっちだろ!?まあ、セズラ先生に殺されるなら嬉しいかも…?って、気持ち悪いじゃん俺ぇ!!!!)
段々、『ナゾエキ』は『カンペキン』の黄色が混じって赤色になっていく。
セズラのずっと混ぜている右手は全く痛そうにしていないのを見て、拓は今更だが、ここがすごい場所ということを改めて感じた。
数秒後、『ナゾエキ』綺麗な赤色になってきて、火は自然と消えた。大釜には約二〇Lの『回復液』があった。
「〈レビテーション〉」
セズラは棚から四〇本の瓶を取り出して、魔法を使い、浮かせて大釜の近くに置いた。それから、大釜の中にある液が均等に四〇本の瓶に入っていき、自然と蓋が閉まった一本五〇〇mLほどの『回復液』の入った『回復瓶』。
セズラはまた魔法を使い、一本残して、三九本の『回復瓶』をカゴに丁寧に入れた。
そして、残した一本と別の瓶を一つ持ってきて均等に分けた。セズラは拓にその片方を渡した。
「え、せ、先生…?こ、これは一体…?」
「ゴクッ…ゴクッ……」
「えぇ!?」
そのもう片方をセズラは飲んだ。セズラの下に緑の回復の魔法陣が出てセズラは気力を戻していくように……いや、元から元気だったけど、回復した。
「ほらほら、ヒロくんも」
「は、はい!」
ゴクッ……ゴクッ……と拓は『回復液』飲む音が『実験室』に響き渡る。
『回復液』はチョコのように甘く、水のように滑らかで、美味しかった。
全部飲み終わると、拓の下にもさっきと同じ魔法陣が出た。段々、心が暖かくなって、気力が戻ってきて、自信がついて、心なしか緊張がほぐれた気がした。
「じゃあヒロくん、いけるね?」
「はい!」
拓はこれ以上はないという笑顔で答えた。




