第十九話 「墓」
少女はまず、彼女の家に行くという。デアフリンガーの墓まではそこそこ距離があるので、明日にしよう、とのことだった。
墓、と言ったということは、彼女がデアフリンガーの遺体を埋葬してやってくれたのだろうか。
そんなこんなで、小一時間で、木の根っこの上に絡み付くように建てられた家に到着した。
もちろん、家には入れてくれなかった。いきなり、訪ねてきたよくわからん人間を入れてくれるほど、あまちゃんではないよね。
というわけで、私たちは全員テントを張って、中で雑魚寝です。
たまに、誰のかわからない、イビキとか、汗の臭いがするせいか...あまり眠れなかった。
朝になり、起きると、まずは顔を拭い、朝食をとる。携帯用のパンに、炙ったベーコン、ミックスナッツ。エネルギー補給だけは完璧だけど...
いかんせん、味が悪い。まあ保存を優先している以上、味は二の次になるのは致し方ないが...
あとで、担当者に要望しなければ...。
昨日起きたことを振りかえる。
それより、あの少女が本当に『森の賢者』なのか?しかし、さっき見せてきた、「変声魔法」...だったか?
あれは本当に魔法だった。少女の声があんなしわがれた声になるとは...
魔術師はあんな魔法聞いたことがないらしいが、地方には、民間で伝承される魔法がいくつか存在するらしいから、それかもしれない。
少女が家から出てきた頃には、全員の準備が終了していた。
「全員準備できた?」
「ええ。」
「じゃ、いこう。」
なかなか素っ気ないな。
歩き始めた。森のなか獣道を通って行く。王都の舗装された道なら、いくらでも歩けるが、この荒れた道ではどうしようもない。慣れた人間じゃないと、素早く移動するのは難しいだろうな。
行程の最中、マッドボアが群れで襲ってきたが、少女が杖を振るまでもなく、魔法で粉砕してしまった。文字通り、粉砕だ。マッドボアたちは頭をやられ、四肢を砕かれ、見るも無惨な姿で巣穴へ帰っていった。
恐ろしく強い...。
彼女が手伝ってくれれば、地霊も倒せるかもしてないが...。
どうも頑固らしいな。
そういえば、さっき彼女は詠唱して、魔法を行使していた。普通、魔法は杖で自動化されて発動されるものだと聞くが...。彼女のこだわりかな。あまり深く考えるようなことでもあるまい。
半日ほどで、目的地についたらしい。
大きな泉がある。真ん中へ向かって突き出た場所があり、その上に何かしら置かれているように見えたが、霧が濃くて、みえない。
なぜだか、少女から怒気を感じる。いくらか質問したかったが、それもはばかられた。
「ここだよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
少女は黙って見ている。
よし、ここなら...
バックパックから、人間の頭くらいの大きさの鏡を取り出し、地面に設置。
「なにそれ?」
少女は首をかしげる。
「『追憶の鏡』対象の人間の魂を呼び出し、一定の時間だけ、会話が出来ます。」
少女の目の色が変わった気がしたが無視して、規定の準備をすすめる。
火葬草の葉を鏡の周りに円のように撒き、灰を六芒星のカタチに撒き散らし、準備は完了した。
「ここからは、他言無用です。」
いまさっき描いた、魔方陣に手をのせ、使い方を習ったばかりの魔力を流し込む。今回私がこの任務に選ばれた理由の一つ。私は魔力がそこそこ多い。
この魔方陣は魔力を結構吸うらしい。魔法師もいるけれど、魔力は極力温存したい。
「...そろそろかな。皆さん、五歩ほど後ろへ。」
次第に鏡が怪しげな光を発しはじめて、ガタガタ揺れた。
話ではこれが収まったら死者との会話が可能らしいが...
ちょっとこれ...やばくない?
ガタガタッ!ガタッ!
ガタガタガタガタ!!!!
冷や汗が背筋を伝う。
次の瞬間、妙齢の騎士が
「全員!退避ー!!!」
ドッドドドン!!
そして、爆ぜた。
「おいおいおいおい!?」
...やっと煙が収まってきた...
「皆さん、ご無事ですか?」
「ああ!」
「大丈夫ですう!」
どうも全員無事らしい。よかった、誰か一人でも怪我をしたら今の装備では命取りになるかもしれないし。
少女は防御の魔法をかけていたらしい。土埃の一つもない。
魔法師が話かけてきた。
「どうやら、失敗らしいですね。」
「なんでだろう...?君の上司にもらった手順書の通りにやったはずだから...」
「うーん。...もしかしたら、デアフリンガーの魂の残滓はここにはなかったのかも。」
「あのー。ここにデアフリンガーが埋まっているので間違いないですよね?」
「ああ、間違いない。」
少女の確認もとれた。ではどうして?
「だとすると、デアフリンガーの魂は放置された期間が長すぎて、朽ちてしまったのかも。それなら、あの鏡の反応も納得がゆく。」
成る程。
「ねえ、その鏡貸してくれない?」
少女が話かけてきた。
「あー。この鏡は使うのは前準備が必要なんだよ。それに、これは王室の国宝だから、おいそれと一般人に貸すわけにはいかないんだよ。」
「本当に...だめなの?」
上目遣いで聞かれてしまった。...これを断るのは...罪悪感が...
「じゃあ、地霊討伐に手を貸してくれないですか?そうしてくれたら、上司に掛け合って、その鏡の貸与を認めさせます。」魔法師が口を開いた。
「...わかった。ゆこう。」
え、いいの?
ていうか、
(そんな約束独断で結んでいいのかい?)小声で話す。
(大丈夫ですよ、それに、鏡一つで国を救えるならいいじゃないですか。)
(でも君は、森の賢者を一番に疑ってたじゃないか?)
(会う前はそうでしたけど...実際会ってみると、あれはとんでもない魔法師ですよ。七聖にも匹敵する魔力量ですし、魔力制御も達人の域です。)
(...君がそういうなら...)
おっと、いかんいかん。あまり話し込むとあの少女にあらぬ疑念を持たれてしまう。
「皆さん、森の賢者殿に救援を求む。それでいいですか?」
異議なし。 もとからそういう話だったしね~。 いいじゃない。
異議はなさそうだ。
「分かった、では地霊討伐の協力、よろしくお願いします。」
「...よろしく。」
右手を差し出された。こちらもそれを握る。やはり慣れないけれど、握手とは面白い習慣だな。




