第十八話 「助け」
いま、私たちは「荒ぶる森」といわれる魔境を進んでいる。魔法師曰く、この森には異形の魔力がこもっているらしい。そして森にはなんともいえない濛気が漂っている。数十歩先の木々さえ見えない。
我々の目的は二つ。この森に住まうと昔から伝えられる賢者に会い...そして...
「それにしても、森の賢者なんてホントにいるんすか~?」
若い騎士が言った。
「うーん、さっきの村じゃもう、何年も見てないって言ってたけどな。」
先輩の騎士が返す。
「いや、賢者様は必ずいるよ、この霧が証拠さ。通常、こんな深い霧なんてそうそうでるはずがない。」
と魔法師。
「まあダメ元できたんだ、会えなくても仕方ない。」
「今は武闘派の七聖は北部の奥地、剣聖は国外。これ以上彼らの帰りを待っていたら、国が滅んでしまう...。」
「だからといってねえ...ランド。」
「そんな何年も前の噂を本気にするのはねえ...」
「いや..きっといるはずだ。きっと...」
若い騎士が何か言いかけた。
そのとき、濛気が一瞬にして晴れ、視界があらわになる。白んでいた木々がその一本一本の姿をあらわにする。
どこからともなく、
「何者であるか?私はこの森を守護する者...」
威風ある老人の声がした。姿は見えないが...。身震いをする。いいや、きっと武者震いだ...そう言い聞かせるんだ。
「私はランド=フォールズ!王国の代表として、あなた、『森の賢者』殿に助けを乞いに来た。」
沈黙が両者に走る。
「...断る。王国に力を貸すような義理はない。」
(そりゃそうだ。彼にそんな義理はない。だが...)
「そこをなんとか!このままでは国は滅んでしまいます!」
(国が滅ぶような羽目になったのは完全に国の油断にすぎない。だけど...)
「東の山地に魔獣王『地霊』が現れました。やつを倒せるのはあなたしかいない。」
ですから... そこから先は声にもでなかった。
「......断る。」
依然返事は変わらない...。
「では...しかたありません...」
「せめて...デアフリンガーの死に場所に案内をしてもらえませんか?」
「...デアフリンガー?」
(反問してきた?)
(彼はまさか王国の英雄を知らないのか?あれはもう80年は前の、歴史の教科書に載るような人物だぞ。彼がいくつかは知らないけれど...エドゥアルド=デアフリンガーを知らない人間がまだ王国にいたのか...。いや、いかん。人をそんなことで判断しては...。)
ランドは問うた。
「赤髪の騎士です...ご存じないですか?」
彼は何も言わない。
しばらく、考え込んでいたのか...
「...思い出した。分かった、案内しよう。」
そして、「とうっ!」と自前の効果音をひっさげて。
何者かが頭上から飛び降りてきた。
「ふーん。お前らあ、墓参りに来たのか?...感心ものだなあ。」
いきなり高い声がする。さっきのじいさんとはまるで違う。
可愛らしい少女の声だった。
そして目の前に立っているのは容姿端麗な少女だった。古ぼけたフード付きのローブに、杖を大事そーうに抱えている。
「え!あなたが...『森の賢者』!?」
全員一斉に驚嘆の声をあげた。
え~?
みんなポカーンっと呆けた顔をしている。
「え、え?じゃあ...さっきのじいさんの声って君が出してたのか?」
若い騎士が尋ねた。
「あ~そうだよ。『変声魔法』っていってね。」
...なんだかめんどくさそうな態度だな...。
「それより、デアフリンガーの死に場所?あんな辺鄙なところへ行きたがるなんて、よほどの死にたがりだね。」
「そんなに危険なんですか?」
「うん。あんたの取り巻きが百人いても敵わないかな。」
「そりゃあ、まずいですね。」
「まあ、あんたらに死なれて、夜しか眠れなくなっても、かまわないけど...案内する以上は私が護衛しよう。」
「じゃあ、よろしくお願いします...」
ん、手をつきだされた。なんだ?
「握手だよ。短い時間だけど、仲良くできるようにね。」
彼女の故郷の習慣なのかなぁ?
不思議ながらも、その小さい手と、握手を交わした。
その人肌は、少し、温かかった。




