第十三話 「決闘 ①」
ザッザッ...
荒ぶる森に六人の男の足音が響いている。
大柄な騎士が言った。
「しかしサードル侯の魔法には助けられましたな。」
サードル侯と呼ばれた、三十代半ばといった風の深い帽子をかぶった男が返す。
「ありがとう。あの魔術には苦労しました。事前に準備しておいた対抗魔法が役にたったよ。」
ヴァンはスズカに言っていなかったが、この森には来る者を拒む霧に似た魔法の結界が張られている。
彼らはそれを破って、森に侵入したのだった。
「それに、この灯りに魔法も凄い。近衛騎士団の連中に聞かせてやったら悔しむだろうな。」
「その魔法は使い捨てだから貴重なんだ...」
「しかし、相手に気付かれた可能性もある、結界は森の広域に展開していたから...」
赤い髪色の四十男が言った。
「必ずしも戦闘する必要はない。我々は聖杯さえ手にはいればそれでいい。対話で解決出来るのならいいじゃないか。」
「エドゥアルド様、村で聞いてきましたが、どうもこの森にはデュラハンがいるらしいですよ。聖杯もデュラハンが守護しているらしい。」
「デュラハンか...対話の目は消えそうだな...。」
本来、デュラハンは言葉を解さない。死霊が死体を乗っ取って変化したとされるからだ。
「せめて、いいやつだったらいい..ん..です...」
ザッザッ...ピタ
全員の足が止まった。
「デュラハン...!」
彼らの前に闇に染め上げられた鎧が現れた。
「何者だ?ここでなにをしている?ここから先は私が守護騎士である聖域である。部外者には退くように要求している。」
「それでも、退かぬというなら...」
ヴァンは大剣を抜いて、中段に構える。多少、短絡的かとも思ったが、先手をとったほうが、都合がいい。
小柄な騎士がエドゥアルドに囁く。
(普通に喋れるじゃあないですか。)
(そのようだな。)
「私は、シエラ王国、国軍中将、エドゥアルド=デアフリンガー。」
「貴殿の言う聖域に、飲んだ者に長寿を与えるという聖杯を得にきた。」
「聖杯は...呪われている...去れ。」
「それは出来ぬ約束だ。」
と、なればだ...
「貴殿に決闘を申し込む!!」
「貴殿が勝てば、部下には退かせよう。だが私が勝てば、聖杯はもらい受ける。」
決闘、それは騎士の間で交わされる名誉ある闘い。実力の下に相手を黙らせる最も原始的で強力な手段。
......。
ヴァンは考えた。この男は強い。
おそらく自分を遥かにこえた高みにいる。だが...魔法を使えば、勝ちはこちらにある。
揺れ動いた。騎士の決闘には魔法を使ってはいけないという、不文律があるからだ。
しかし、デアフリンガーはいった。
「もし!貴殿が真の騎士であるなら!この決闘を迷わず受けられよ!」
決まった。
「私は...紛うことなき騎士である。」
「その決闘...受けよう。」
「創造神に...誓うか?」
「...誓う。」
一瞬、脳裏にスズカの姿が浮かんでは消える。
デアフリンガーは腰に差した細身の剣を抜き、上段に構えた。
(舐められている...)
ヴァンは思考する。勝つ方法を。スズカに会う方法を...
後悔しない最期を。




