第十話 「宝」
私が転生してから一年がたった。この身体は13歳くらいだろうか。
魔法の訓練は続いている。
「風流!」
風が身体に吹き付け、身につけている灰色のローブがブワッと広がる。
「うん。まあまあだな。」
「はい、師匠。」
私はヴァンのことを師匠と呼ぶようにした。こちらは教わっている側なのだ。それくらいの敬意を示さないと。
もっとも、ヴァンはそれが気恥ずかしいらしく、師匠と呼ぶと、少し声を小さくして話す。かわいいな。
ヴァン曰く。
「スズカは、まだ子どもだ。だから魔力が少ない。となれば、持久戦となると勝機は薄い。だから、短期戦に持ち込むんだ。」
「風魔法は、機動力に秀でている。前に言った通り、魔法師の多くは、中、遠距離からの攻撃が仕事だ。だから、そのまま、相手の懐に飛び込み、全力をもって相手が反応せぬ内に倒す。」
「これが、いまのスズカに合った一番の対魔法師のやり方だな。」
「とはいえ、剣士相手では、よほど、相手が油断していないと、通用しない。剣士には、剣士をぶつけるのが戦いの常だ。だから、それはあまり気にしないでいい。」
この人は、13歳の娘に何を教えているのだろう...
ふと、思いだした。
はじめて会ったとき、彼は
「聖域に宝を守っている。」
と、言った。
聖域とはなんのことだろう。
「師匠。」
「ん、なんだ。」
「聖域とは何ですか?そして...宝っていうのは?」
数秒間の沈黙が走る。
「そうだな...いつかは伝えようと思ったが...そろそろか...」
「よし...ついてきなさい。」
私は、はじめて、あんな剣幕をしたヴァンを見たかもしれない。
私はそのまま、大きな背中についてゆく。
しばらく濛気の中を進むと、エメラルドグリーンの泉が現れた。キレイだ。南米にこんな洞窟湖があったことを思いだした。
「これは...生命の泉。」
「呪われた...泉...。」
「...いいか。ここで見たこと...聞いたこと...何も、誰にも、言うんじゃないぞ...」
「あれが...聖杯だ。」
ヴァンが指差した方向を見る。すると、確かに杯のような物が泉の中心に向かって突きだしている岸の岩のうえに乗っていた。
「聖杯って?」
「この泉の周囲に根っこが張り巡らされているのが分かるか?」
確かに、ケヤキの根のようなものが、そこらじゅうに巡っている。それは、泉の真上にまで伸びきって、木漏れ日が泉の中心に差し込んでいた。
「あの根が泉の本体...この、「荒ぶる森」の全域に伸びきり、人知れず、動植物の生命を啜っている。」
「そして、奪われた生命はあの聖杯へと注ぎ込まれ...。」
「くれぐれも、聖杯の血を啜ってはならない。あれは...聖なるものでも何でもない。
「呪いだ」
分かるな と問いかけるような気配を肌がビリビリ感じる。
「はい...」
私は、飲み込めないまま...頷いた。
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