37.えがおがいちばん!
最近アルトの元気がない。なんとなくなんだけど、しおれてる。
街道をてくてく移動中の休憩時間。
アルトがひとりでふらっと離れてくのを見て追いかけた。ついてきそうになったメルトをつまみあげて引き取ってくれたとこをみると、レンハルトも薄々気にはしてたみたいだ。
わたしが追いつくと、アルトは主に心配をかけてしまったと恐縮そうにした。
それは流して、率直に「悩みごとですか」って尋ねてみれば、「おれって役に立たないよね」と……。
旅行中はお料理もお掃除もできない。洗濯はお宿の水場とか借りてみんなで適当にやって魔法で乾かしちゃう。やることのないアルトはすっかり落ち込んでいた。自分は世間知らずだし、いざっていうときの戦闘でも活躍なんてできないし、って。
それはどうなんだろう? キレたらやっちゃうタイプだよね?
でも本人は「自分はダメだ」って思ってるらしい。
アルトは言うなれば「平凡キャラ」だもんなー。押し出しのいい仲間に囲まれてコンプレックスが刺激されちゃってるんだろう。わかる、わかるよ。わたしも華のない真面目っこタイプだもん。
あ、うん。外見の話。中身を自分で真面目というほど図々しくはない。華のない性格である、という意味なら、まぁねぇ……。
わたし見た目はほんと真面目に見えるらしい。眼鏡に三つ編みってわけでもないのに。黒髪ストレートではあったが。みんなと撮った写真なんか見ると我ながら納得だった。一部に流行りのファッションを取り入れてるところなんかもう「協調性の権化」としか。
化粧して着飾れば近所のおばちゃんには「かわいらしい」ってお世辞も言ってもらえたけどね。そこがまた「身形に気遣う真面目ちゃん」って感じなんだよねぇ。
そんなだから獣僕さんたちに「主として」好かれてるってのはわかってるよ。その後、愛着とか何とかプラスされてるのもわかる。仲良くしてるうちに地味っこ同士で恋愛に発展した経験もあるしさ。
ひとの気もちが全然読めないほど幼く無邪気だったら、あれこれ悩まずに済むんだけどねぇ。
でも、そんなんじゃあ、みんなを護れないじゃない?
アルトは……ちょっとまっすぐすぎるかなぁ。そういう意味では。
「わたしはアルトを見てるだけで満足ですけどね」
「えっ」
「アルトは可愛いですよ」
「えっ、そんなっ……」
絶句するアルト。人族なら真っ赤になってるとこかな。しばしおたついてから、はっとする。黒いおめめを潤ませ、キッと睨んできて。
ふぅん。かわいいなぁ。にらんでもちっともこわくないよー?
アルトの方が大柄だから見下ろされてるけど、感覚的には見上げられてる気分だし。わんこの上目遣いってちょっとマヌケできゅんきゅんくるよね!
「もうっ。主ったらからかってっ」
「からかってません」
「ひどいよ」
「ええー。本気なのにー」
「お、おれなんか、かわいくなんか……」
「成人男性に可愛いって言い方がおかしいですかね?」
「そ、そう! そうだよ!」
「んん……、でも可愛いと思うんだけどなぁ」
「……どこが?」
「しっぽとお耳。かな。あ、そーだ。ちょっと触ってもいい?」
と、それこそからかうつもりで言ったらば。
アルト、目をまんまるくしてかたまっちゃった。(元から丸い目だけども)
純情青年アルトをからかいすぎたか? うかつな発言を取り消そうとするが、なんだかアルトの態度がおかしい。きょろきょろと周囲をうかがう様子なんて不審すぎる。
どうしたんだと見守ってたら、急に身を乗り出して、こそこそっと耳打ちしてきた。
「い、いいよ!」
……いいんですか? まじで?
むっ、と両手をにぎりしめて身構える姿はなんていじらしいものか!
けどまぁ……それだけに申し訳なさすぎて。わたしのもふもふ欲のエジキになんて到底できません。まるで無垢な少年をだましてるみたいじゃないですか。
「ありがとうございます。じゃあ、ちょっとだけ」
いや、だってさ! アルトが決死の覚悟(?)で申し出てくれたのに何にもしないんじゃかえって悪いでしょ! まるで少年みたいったって、実際にはアルトはテレスと同い年のはずなんだよ!
というわけで、お耳だけもふっとさせてもらいました。
うむうむ。この手触り。この弾力。もにもにすると気もちいいなぁ。お耳のふちの辺りがまた何とも……。
ああ、ちっちゃいときのアルトを抱っこしたかったなあ!
子犬の時のお耳の先がまだ折れてるとこなんかを見てみたかった!
ぽってぽてのあんよとかおなかとか……うううっ、くぁいかったろうなぁああ!
柴わんこの親近感あふれる顔って成長過程を想像させるよね。小さいときからおじいちゃんまで。うん。オッサンっぽくなってもこのもっふり感なら「まんま」だろうし悪くないと思うんだ。
んんんーっ! 両手であごをつかんでもっふもふしてやりたい!
でもアルトは獣人さんだから! ニンゲンだから! それってセクハラですから!
「あるじ?」
「あ、いえっ。ありがとうございましたっ」
慌てて耳から手をはなした。ふう。いけない、いけない。
「……しっぽは?」
サービス満点ですね! およしなさい!
まったく。案外、天然ちゃんが一番積極的だったりするんだよねぇ。わけもわからず。結果的に。相手がよろこんでくれるならって惜しみなく与えようとしちゃって。
もっと自分を大事にしろってどこのイケメンのセリフだ言えるかぁあああっ!
ふしぎそうにするアルトの肩をぽんぽんと叩いて「まぁまぁ」と日本人的なセリフでうやむやにした。なにが「まぁまぁ」なんだかわからなくってアルトは混乱してたけどね! こっちの「まぁまぁ」ってちょっとニュアンスがちがうんだよな……。
少しは浮上した様子のアルトと一緒にみんなのところへ戻ると、テレスがすすすっと寄ってきて「ボクの耳もさわっていいよ(はぁと)」とチェシャスマイルでやらかし。
それを聞いたメルトが自分のも!と主張し。(まねっこしたいお年頃か)
耳???とリーフェ先輩のとこの獣僕3人衆は首を傾げていた。
レンハルトとテオドールは、理解してくれなくても構わないわたしの嗜好を理解してくれちゃってるので、ああ……と生温い反応。
リーフェ先輩はツンデレーションを発揮してドMなら悶え悦びそうな蔑みの視線を投げつけてくださいました。でもわたしはドMじゃないんで非常にいたたまれなかったです。
しかも、テレスがよこやりするから、アルトが不機嫌になっちゃった。
落ち込んでるよりかはいいのかな?
一匹ヤマネコなテレスさんが他のひとにからむのもめずらしい気がするし……同い年なせいか、いつも一緒に家にいるせいか、アルトとはわりと喋ったりしてるけど。
こういうからみ方はどうかと思いますよ、テレスさん。
えっちらおっちら、たまに魔物を撃退したりしながら、王都へ向かうこと12日目。
へい! おおよそ予定通り到着だーい!
手前の丘陵から眺めた時点でわくわくしてました。
思ったよりずっとかわいい街並み。パッチワークのような農耕地帯。街の向こうに広がる――青い海!
ひゃっほーーーい!
王都は海に面したステキな港町でした。
魚介が食えるぞーーーーーーー!!!
「うっへへへ」
「気もち悪いよ、主」
「うへ?」
「もうじき王都につくからって浮かれすぎ。田舎者丸出しじゃない」
「だって、港だよ、港。海だよ、海。美味しい魚とか貝とかいっぱい採れるにちがいないよ!」
「あ、そう」
難癖(正当な文句?)つけてきてたテレスさん、わたしの言葉に納得したらしい。どうして浮かれてるのかに関しては。冷やかな目つきは変わりません。
あれ? ネコさんって魚好きじゃなかったっけ? あ、そういえば、肉の方が好きなんだっけ。日本のネコが魚好きなのは魚食文化だったからだとか?
それ以前にテレスはヤマネコだしね!
「むふふふふ……」
「ちょっと! 主! ボクを見つめながらヘンな笑い方するのやめてよ!」
なんだよーう。このところ自分からうざうざしくからんできてたくせにぃ。ふっひっひっひっひっ。今ならわたしからからんで進ぜ様ほどに。こりゃ。待たぬか。ふひひひひ。
……にーげらーれちゃったー。
「ん? なに?」
「いや……、やはり主は強いな、と」
あそ? レンさんがたのしそーで何よりですよ。
「買い食いは少なくとも明日以降にしろ」
え゛え゛っ!? なんでですかリーフェせんぱいっ!!
「着いたらすぐにギルドへ顔を出さねばならん。忙しいのだ。日程等の割り振りが決まるまでは大人しくしていろ」
えええ……。まったくもってご尤もですが、途中で屋台とかあったら買うぐらいなら……。
「食い物のにおいを撒き散らしながら手続きに向かうつもりか? この国、否、それだけではない。諸外国からやってきた猛者が集っておるかも知れんというのに」
「ひゃー……それってまじっすか」
「まじに決まっておろう」
「うえぇ」
「即位式だぞ?」
「……ねえ、先輩」
「何だ」
「どうしてそんな一大行事の催し物の面子に、記憶も経歴もあやしいわたしなんかを押し込んだんでしょうかね?」
「む……」
「もしかして、もしかしなくても、うちの街って人材不足――」
「――言うな! その様なこと軽々しく口にするでない」
二人して向かい合ってどんよりしてしまった。
……ふふふ。冗談ですよ。まさかそんな。
人材不足なんてバカなこと……きっとフリーのおかしな魔術師に首輪をつける意味とかそんな裏の理由があるに違いませんよね? ねっ?
「おなかすきました」
「腹ペコか?」
「ペコペコです。お腹と背中がくっつきそうです」
「む……仕方ない。ギルドまでの行きすがらに屋台があったら買ってもよかろう。但し、ひとつだけだぞ?」
やったああああああああ!!
今までの経験からしても、ギルド周辺にちょっとした屋台やらが無かったためしがないもんね。王都ったって基本は一緒だろう。
いえーーーい!
甘いのにしようかな? しょっぱいのにしようかな? いっそ両方せめちゃおうかな? あ、一個だけなんだっけ。どうしようかな。
夢と希望がふくらむわぁあ……。
って、あ、っと。
「ギルドに行くんでしたっけ」
「ああ」
「行く前にどこか身支度できるとこってありますかね?」
「うん? いくら諸国の者が出入りしているからといって、そこまで身形に気をつかう必要はないだろう」
「いえ、そうじゃなくて。わたし大会は顔出しNGですから」
「は? ……あぁ、そういえばカザムが何やら言っておったが……本気か?」
「あったりまえじゃないですか!」
着ぐるみ、という案もあった。わたしのなかで。しかし体力的に無理と判断した。で、無難に「フードを目深にかぶった黒マントと仮面」で行くことにしたのだ。
それが、この仮面! じゃじゃーん! と出して見せたいところだが、きっちり荷物ん中にしまってあるもんで。あとでね、あとで。
アルトが彫ってくれた力作なんですよ、先輩!
それというのも、わたしの苦心さんたんたる有り様に手伝いを買って出てくれて。結局アルト作に。ほら。アルトすごい役に立ってるのにね?
「普通は……顔を売るために出るものなのだがな……」
リーフェ先輩から漂う疲労感。疲労ってか、徒労ってか。こいつに言ってもムダだろーなー感がひしひしと感じられる呟きだった。この旅路で新たなサトリの境地に達してしまったのだろうか。だとしたら申し訳ない気もちでいっぱいです。わたしには何もできませんが。
「何にせよ、そのままでよかろう。大会出場について放言せねばよいのだ」
「出場の手続きに行くんですよね?」
「所定の書類を提出するだけだ。大勢にそれと知れて出場者に妨害等あっても困る。受付で騒がれるようなことはない筈だ」
出立の日に「これを出せばわかる」って書類を預かってきた。カザムさんに渡されたとき、先輩も居たとはいえ、ひとのことなのによくおぼえてんなぁ。あれ出せばさらっと受付してもらえるってこと?
「しかし隠し遂せるものでもないと思え。街のギルドの代表として出るのだ。どこから誰が来ているのかは知れるもの。どんなに巧みに変装したところで情報をつきあわせれば自ずと判る。そも、アスノイスの街にて尋ねれば」
「ああー……」
顔出ししない許可はもらったけど、ナナシノゴンベで出場するわけじゃないもんね。わたしの名まえは独特だし、興味をもって正体をさぐろうとすれば簡単に見つかっちゃうだろう。
そこまで「さぐろう」とするひとに隠すことはできない。
ただそこいらで「あ! あのひと~」みたいなのは避けられるんじゃないかと思うから、やっぱり仮装はしよう。ん。変装か。マントに仮面とか気分的には仮装だけども。
「見物人から顔を隠せればよしという程度に考えておけ」
「そうですねー」
「先例が無いでもない。我々魔術師の場合、戦士達のように立ち回ることは出来ぬからな。身を守る意味で敢えて顔を晒さないことを選ぶ者もいる」
「そうなんですか!(知らんかった。カザムさん黙ってたな?)」
「お前は一応女であるし、通らぬ理由でもなかろう。獣僕どもの顔が立たぬくらいだ」
「えっ……?」
「獣僕がいても危ういと、主はそう思っていると……、揶揄する口実にはなろうよ」
「あぁ、そっかぁ」
ならやめる、とは言わなかった。それとこれとは別問題だ。
それにポケ○ン式戦闘じゃないし。仮装もとい武闘大会中は獣僕さんたちには離れててもらうようにすればいい。というか、そうしないとバレバレだし。どう考えても目立つし。
リーフェ先輩は少し間をとってから、笑った。うっすらと。おそらく深い意味はないんだろうに、凄味のある美形の薄笑いは迫力。ふつーに「にこっ」としたってだけなんだろうになぁ。
「何処かで厭味のひとつも言われるとは覚悟しておけ」
「了解です!」
こんな忠告までしてくれるなんてリーフェ先輩も意外と甘いよね!
いい意味で。




